士郎の裏側(3) M:凛 傾:真剣


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1: sylpeed (2004/03/01 04:59:38)

■凛ちゃんと一緒 エピソード2 士郎の裏側(3/3)


>凛

結局、例の二年前と同じ展開になってしまった。
今回は桜の代わりに私が人質。

敵の数は五十人といった所か、よくもこんなに集めたもんだわ。

なんかあちこちでかがり火を炊いていたり、天幕を張っていたり、さながら戦場。
一乗寺下り松といった趣だ。
ただ、宮本武蔵と衛宮士郎の立場の違いは、敵の総大将が子供では無い、という事。

六時ジャスト。陣屋が色めき立つ。士郎が来たようだ。

「遠坂嬢、衛宮が来たようだぞ。」

ご親切にも柿崎が私に話しかけてくる。

九月上旬の夕方六時はまだまだ明るいが、士郎までの距離は三百メートル。
視線を魔力で増幅しないと表情までは見て取れない。

「え、うそ、なんで慎二まで来てるのよ。」
「あ? 何言ってるんだ遠坂嬢、衛宮と間桐は元々コンビじゃないのか?」
「え、そうなの? そういえば慎二とつるんでたって聞いたけど…」

……驚いた、間桐慎二、まさかあの優男が士郎と一緒にこんな所に来るなんて、アイツ喧嘩強いのか…。

穂群原学園の学ランは普通、茶色だが、二人の学ランは違っていた。
衛宮士郎は赤い学ラン、間桐慎二は白の学ラン。
揃いも揃って派手好きだ。

「ああ、あの二人を見るのも二年ぶりだ。あの学ランの色が二人の戦い方を象徴している。
 衛宮は相手が何人居ようと突っ込んで血まみれになって戦うパワーファイター。
 間桐の方は素早さが信条で士郎が崩した陣形からはぐれた奴を確実に葬っていく。
 随分二人で修羅場を潜ったのだろうな、息はぴったりだ。」

柿崎が上機嫌で解説してくれる。
聞きもしない事を訥々と語ってくれるコイツはきっと言峰体質だ。

>士郎

午後六時、俺と間桐は昼間来た河原にもう一度立った。
昼間に罠を解除して回ったあと、新たに罠が仕掛けられた形跡はない。

俺はあらかじめ自分の学ランと竹刀、慎二の学ランとメリケンサックに強化の呪文を掛けてある。
俺の学ランは赤。返り血を浴びても目立たない色だ。
慎二の学ランは白、慎二は怪我もしないし、返り血も浴びないという絶対の自信があっての白だ。

「慎二、いつものように頼む。」
「ああ、衛宮がフォワード、僕がフォローに回るよ、衛宮の後ろは取らせない。」
「たのむ。」

前方に十人ほど、その左右にまた十人づつ、絶えず移動していなければあっという間に取り囲まれてしまう。
しかし、集団戦に慣れてる奴なんかいやしないし、気合いで突っ込めば瞬く間に四散するさ。
俺は、叫び声を上げて真ん中の一番前の奴に躍りかかった。

「うおおおおおおーーーー!!」

まず右手の竹刀で腹部に突きを入れる。
顔面じゃないのは助走距離があるので頭蓋骨を割る危険性があるからだ。
その左に居る奴の顔面に左の竹刀で突きを入れる。
鼻の軟骨がひしゃげると痛みで大抵の奴は戦意を喪失するからだ。
右から二人、自転車のチェーンを振り回してくる、チェーンは受けることができない厄介な武器だ。
だが、密集できないので回りを突破しやすくなる。
横薙ぎの一撃目はしゃがんで避けた、縦の一撃は右の竹刀で受けた。竹刀で受けたのは避けるためじゃない、
チェーンによる二撃目を受けないためだ。左の竹刀で横薙ぎの一撃をしてきた奴の頭部に面を見舞う。
面といっても額ではなく頭頂部を狙う。そうすれば脳震盪を狙える。次に左の竹刀を手放して左拳で肝臓を打つ。
これも危険な技だが気絶が狙える。

瞬く間に四人を倒すと、回りの六人は遠巻きに尻込みする、いや、慎二が二人倒して四人か。
さっき捨てた竹刀を再び拾うと、慎二に目配せして今度は右側にいる二人とその後ろの十人を狙う。

右に、左に、突出部を叩くように飛び込んでは急所を打つ。
相手がひるむ瞬間を狙って次々に打ち倒していく。


>凛

「早いわねー。人ってあんなに簡単に倒れるもんだったっけ?
 十分も立たずに半分しか残ってないわよ。」
「それだけ奴らが的確に人体の急所を破壊している、ということだ。
 …それにしても竹刀の一撃で倒れて起きて来ないってのはどういう了見だ。」

柿崎は呆れている。無理もない。通常、竹刀どんなに強く叩かれても痛いだけで怪我などしない。
しかし、士郎が"強化"した物ならそれは木刀並の打撃力のはずだ。
急所に食らえば起きあがる事などできまい。

椅子に座って無言の藤堂。たしかに巨漢で身長も2m程度はあるだろう。

やや喋りすぎるきらいのある柿崎とは対照的に、一声も発しない。
まあ、番長って、こんな感じのほうが威厳はあるなと、ふと思った。

「行ってくる」

一言だけ発すると、陣屋から出て行ってしまった。


>士郎

戦いが始まって十五分少々、あらかたの敵は倒した。残っているのは戦意の無い奴らばかりだ。
しかし、この場に居残っている以上例外は無く倒す。いやなら河原から立ち去ればいい。簡単なことだ。

本陣らしき所から背の丈2m程の巨漢が歩いてきた。
雑魚は慎二に任せ、俺は巨漢と対峙する。

「藤堂一馬だな。」
「衛宮士郎、悪いが人質を取らせて貰った。」

陣屋の方を見る。陣屋にはもう人気がないが二人の人間が椅子に座っていた。
一人は、柿崎和泉。
もう一人は、遠坂凛。

かあっと頭に血が昇る。
怒りで頭が真っ白になる。

「人質を取っての要求は何だ。」
「簡単だ、武器を捨てろ、そこの男にも手出しさせるな、素手での一対一の勝負が望みだ。」
「おやすいご用だ。」

俺は竹刀を捨てた。もとより竹刀など、相手を殺さないために手加減する以上のものではない。
そんなものを捨てた所で何の痛痒も感じない。

「いくぞ……!」

一馬がその巨漢では考えられないようなスピードで飛び込んでくる。
だが、そんな速度では止まって見える。
バーサーカーに比べれば、体格は小さい上に武器を持っていないのだ。
こんな奴に負けるはずがない。

奴は右、左と拳を繰り出す。顔面を狙ってきたので単に左右に頭を振って避した。
リーチは奴のほうが長いので、懐に潜り込んで肝臓と腎臓の辺りを殴ろうとした。
同時にから膝が飛んでくる。
それを右手で受け止め、左手で腎臓の辺りを渾身の力で殴る。
よろめく藤堂。だがまだ一撃だ。こんなもんで倒れられては困る。
腎臓の辺りを右手で押さえているのであごががら空きだ。
俺は両手で藤堂の頭をつかみかかり顎に膝蹴りを食らわした。

ごき。

これで顎の骨を粉砕したはずだ。すぐに飛び退かなければ今度は俺の脇腹がやられる。
そのまま藤堂の胸部を力一杯蹴り、後に飛び退く。
藤堂は口から血を流しながら、更に殴りかかって来る。
今度は俺の腹を狙ってきたので腕で払う。払ったあともう一回下顎に右拳を見舞う。

「………!」

右拳が藤堂の顎をヒットする寸前、俺は悪い予感がして後ろに飛びずさった。

シュッ

藤堂の右手には暗器。その約10cmの銛状の切っ先で左脇腹を切られた。
いや、正確には刺される所を飛びずさったために切っ先で切られたのだ。
血が飛沫く。だがこんな物は致命傷に成り得ない。

「ふん、そんなことだろうと思ったよ。なにせ罠を仕掛けたあげく人質まで取る下衆野郎だからな。」
「貴様!」

更に飛びかかる奴の右腹に全力の左回し蹴りを見舞った。


>凛

「……あっけないわね。」
「ま、こんなモンだろう。あの衛宮が相手ではな。」
「じゃあこれで私は解放してもらえるのかしら?」
「残念だがまだだ。さっき言ったろ、俺が奴と決着を付けたいって。
 聞けば衛宮士郎という男、魔術使いだそうだな。……勝てない訳だ。
 奴は通常の人間以上の力を行使しているのだからな。」
「……なにを言ってるの、今ならともかく、二年前の士郎は碌に魔術は使えなかったはずよ。」
「では聞くが、普通の人間が、体を剣で構成するなどということが出来るのか?
 そして体を剣化した時の異常とも言える回復力。アレを魔人と呼ばずなんと呼ぶ?」

コイツは何を言っているのだろう、士郎にそのような能力が有るのであれば、
聖杯戦争ももっと楽に戦えただろう。

「まさか知らなかったのか? 奴は"混血"、しかも"先祖返り"だぞ。」

―――――混血。

遙かな昔、人ではないモノ達と人が交わって生まれた特殊な家系。
この家系の出にはしばし「先祖返り」と呼ばれる、人外のモノの能力を強く引き継いだ子供が生まれるという。


確かに、衛宮士郎は聖杯戦争時にもいろいろと人間とは思えない能力を時折発揮していた。
これは全て固有結界によるモノとばかり思っていたが、そもそもなぜ士郎は碌に訓練もせず、
固有結界を構成するに足るモノをもっていたのか?
これが、"先祖返り"であったというのであれば全て納得がいく。
衛宮士郎の"衛宮"は本来の士郎の氏ではなく、あくまで天涯孤独となった士郎を引き取った切嗣の氏に過ぎない。
とすると、士郎の本来の氏はなんだったのだろうか……?

「まあいい、奴の正体の詮索など意味が無い、重要なのは人外の能力を持っているという一点のみだ。
――――だから、俺も、人間を捨てたのだ。キュマイラスの依り代となることによってな!!」


柿崎の表情が崩れる、いや、顔そのものが崩れつつあるのだ。
柿崎の背中が膨らみ、ぎちぎちと肉が盛り上がって行く。

こんな光景、見た事がある。
たしか、柳洞寺、間桐慎二を依り代とする聖杯。

まずい、コイツは危険だ。

「Anfang……」

出来るだけ強力な防御結界を張らねば、あぁ、家に十番を置いてきたのが悔やまれる。
うしろにあとずさりながら呪文を構成。

柿崎は肉が膨張し、身長3m程にもなろうかという獣に成長する。
顔は鼬、胴体は熊、足は無く、ただスパッと切られたかのように不自然に消えている。

肉体の生成は完全に終わったのだろう、赤い鼬の目あ私の方を見、舌なめずりをする。

―――――伏せろ!

「Broken Fantasm! trace on fake GALADVOLK.  偽・螺旋剣!!」

閃光が走る。
私の防御結界は、メリメリと悲鳴を上げながらも、なんとかその宝具の爆発に耐えきった。

それだけの凶悪な破壊力を秘めた一撃をまともに食らっても、奴はまだぴんぴんしていた。

「凛、大丈夫か!!」

士郎が慌てて駆け込んでくる。

「ばか。あんな至近距離であんなモンつかうなぁ。」
「仕方ないだろ生半可な攻撃じゃ防がれて凛がやられてたんだから。」

両手には干将・莫耶。士郎はもう完全に戦闘モードだ。

「逃げろ、凛、距離を取ってくれ。」
「わかったわ」

私は士郎を背にして走り出す。


>士郎

ふー。なんとか偽螺旋剣が間に合った。こんなに早く投影と射を連続でやったのは始めてだ。
両足を強化、疾駆するように凛の元に急ぐ。

「凛、大丈夫か!!」
「ばか。あんな至近距離であんなモンつかうなぁ。」

凛が涙ぐんでる、可愛いなあ。戦闘中じゃなかったら辛抱しないんだけどなあ。

「仕方ないだろ生半可な攻撃じゃ防がれて凛がやられてたんだから。」

しゃべりながら干将莫耶を投影。

「逃げろ、凛、距離を取ってくれ。」
「わかったわ」

まあ、どのみち凛の手伝いは要らないはずだ。俺は奴より強い。
全身の魔力回路に魔力が漲る。一瞬で奴の動きの十五手順先まで視る。
問題は、どうやって柿崎を魔獣から分離して助けるかだ。

「グガァァァァァァァァァーーーー!!」

完全に実体化し、こちらを目がけて疾走するキュマイラス。
疾い。動きは単純。だがひたすらの疾さに、当てられる攻撃などほとんど無い。
かろうじてサイドステップで避わす。

しかし、やるしかない、柿崎から分離するまで傷つけないといけない。一撃で殺すなんて論外だ。

「鶴翼欠落不ズ」

干将と莫耶を投擲。これは絶対に命中する。さっき八手順先に軌道が交わるのを予測済みだ。
そして、カリバーンを投影。
あと、七手順。

七、奴からの鎌鼬をカリバーンで受け止め、

六、反転する奴を目で追い、

五、接近する奴を切り伏せ、

四、奴の顎から辛うじて逃れ、

三、奴の鎌を切り返し、

二、返す刀で赤い目を突き、

一、大地を蹴って奴を追い、

零、干将と莫耶が奴の左右に突き刺さる。そして一瞬止まるキュマイラス。

そこに、

「勝利すべき―――――」


閃光が辺りを支配する。


「―――――黄金の剣!」


カリバーンの力を解放する。



血煙を上げてのたうち回るキュマイラス。
そして、柿崎と分離する瞬間。

「死ね」

再びカリバーンを一閃。

そこには、鼬のような生き物の死体と、
全身血まみれで息をしているかどうかさえ怪しい柿崎が居た。

「凛、柿崎の傷を看てくれ。」
「ん、わかった。」

柿崎に駆け寄る凛。

「だめ、血と魔力の残滓で上手く観えない。」
「分かった、観るのはおれがする。凛は組織の縫合を頼む。」
「って、どうするの?」
「考えがある」

―――――透視、開始

血液や魔力の流れを透過して、柿崎の体組織が観えてくる。
透視は俺が使える魔術の中で馬鹿みたいに上手くできるほぼ唯一の術だ。
なにせ毎日日常で使っている。

映像を魔力に再変換、変換した魔力をレイラインを経由して、凛に送る。

「……観えた」
「映像を送り続けるから、そのまま続けてくれ…」

…消耗する。先ほどの戦いよりもずっと。
ただでさえ戦ったあとで魔力を消費しているというのに、
さらに透視と魔力送出を同時にずっと続けるというのは、辛い。

……焼き切れそうだ。

そして、地獄のような十分間が過ぎ、柿崎の体に血液が流れる様になり、心臓が鼓動する様になった。

「終わり。再生したわ。士郎。」
「あ……さんきゅ、凛」
「ストックしてある魔力、ほとんど使っちゃったじゃない。」
「すまん。」
「しかも私の魔力勝手に使ってカリバーンなんか投影しちゃって。」
「ほんとごめん、あのときはアレしか無かったんだ。」
「魔術の基本は等価交換よね、代わりに何貰おうかな〜?」
「たのむ、お手柔らかにしてくれ。」

疲労困憊してその場で倒れ込む俺と凛の背後から、

「お二人さん、おつかれ〜。」

慎二が来ていた。

「二人とも、随分消耗してるみたいだけど、歩けるかい?
 急いで逃げないと、もうすぐ救急車とパトカーが来るとおもうんだけどさ。」
「無理」
「絶対無理」
「しょうがない、タクシー呼ぶか。ああ、今日は良いモン見せて貰ったから僕のおごりでいいよ。」

にっこりと笑う慎二。

そして、俺たちの長いようで短い一日が、終わった。

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いんたーみっしょん

凛の客間

「んふふ、士郎の、濃くっておいしい」
「うわばかやめろ凛、もう何もでねぇって。」
「うふ、照れちゃって、可愛い。」
「いやだから照れてるとか全然関係なくて、だっでっでるでる、赤い玉がでるー」
「魔術の基本は等価交換、私から持ってった分、今晩中に全部かえしてもらうからね〜」

遠坂先生の趣味は、士郎いじり、だとかなんとか。(笑)

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エピソード1 0678、0679,0680参照


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