士郎の裏側(2) M:凛 傾:真剣


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1: sylpeed (2004/03/01 04:58:37)

■凛ちゃんと一緒 エピソード2 士郎の裏側(2/3)

夕食後、凛の客間

もう何というか、この客間は既に私の別荘、というか別宅となっている。
秘密の相談をする時はこの部屋だし、その、あの、行為をするときもこの部屋が多い。
夏休みに入ってからは、世間体(主に学園関係者の)を気にして一旦遠坂の屋敷に帰る必要性も無くなっているので、
入り浸りに等しい。
まったく、ある意味では嫁入り前の娘がはしたない、ということになるのだろうか。
天国のお父さん、ごめんなさい、凛は悪い子です。

こんこん。

「凛? 士郎だけど。」
「ええ、入って。」

部屋に入ってきて、無言で立つ士郎。
なにか、威圧的だ。気のせいだろうけど。

「と、とにかくなにか飲む? 紅茶で良ければ淹れるけど。」
「あ、ああ、さんきゅ。」

士郎は、私から出された紅茶を、ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ、と一気に飲み干す。

お気に入りの紅茶を、麦茶でも飲むように味わいもせず一気にいかれたのはどうでもいいけど、熱くないのかしら?

「あ、あちー」

そんな、士郎のお馬鹿な行動を見ていて、つい和んでしまった。

「ぷっ。くすくす。」

わたしが吹き出したのが不満なのか、士郎はむー、という顔をしている。
その表情が可笑しくて、私はまた笑ってしまった。
そう、私たちはこんな関係がいい、いつも眉をしかめて深刻な話ばかりしてたら、幸せが逃げてしまうもの。

「ね、士郎、二年前の話って聞かせて。」
「ん、それにはもっと昔から話さないといけないんだけど、いいかな?」
「長くなってもいいわ。士郎の話、全部聞かせて。」


要約するとこうだ。
まず、士郎は正義の味方を中学に入った辺りから学校の内外でも始めたらしい。
当然、正義の味方が最初にぶつかるのが街の不良だ。
大体、年上だろうと何だろうとかまわず突っかかる士郎は、年の割には喧嘩慣れしていた。
そんな感じで、街の不良と喧嘩しても、同じ位の年齢の子には確実に勝てるし、年上にもほぼ互角。
互角の相手に気迫で負ける士郎じゃないから、高校に入学した頃にはこの辺の裏番格になっていた。

そうして、悲劇は起こったのだ。

隣町の悪タレどもが、冬木の方までテリトリーを伸ばしてきたのだ。
その頃には、士郎が冬木の不良共が悪さをしないようにのして回ったあとだから、
冬木市は不良達の勢力図上、空白地帯になっていた。
不良を見かけるたびに片っ端から喧嘩を吹っかける士郎は隣町の悪タレ共にとっては正にゲリラ。
士郎と悪タレ共が正面からぶつかるのにそう日は要らなかった。
間が悪いことは重なるもんで、丁度その時期、間桐桜が士郎の周りに出没するようになっていたのだ。
士郎と慎二は一緒につるんで行動することが多かった関係で、悪タレ共に、桜が狙われたのだ。

そして、桜を人質に取られ、激昂した士郎は、40人からの不良に正面から喧嘩を売って、
自分自身も酷い怪我を負い、不良のうち二人を殺してしまったのだ。
正確には当たり所が悪くて勝手に死んだだけなのだが、士郎にとってはショックだったらしい。

それがきっかけで、桜は衛宮邸で家事を手伝うようになり、慎二と仲が悪くなり、弓道部を退部した、ということだ。


―――――幾たびの戦場を越えて不敗。
―――――彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。

その戦場に、衛宮士郎は二年前に到達していたのだ。

いまなら理解る
。士郎がライダーの結界内で全くの冷静で、人の生き死にを正確に判断出来た訳。
慎二があんなに士郎に怯えた訳。
セイバーを助ける為にバーサーカーの前に飛び込めた訳。

つまり、士郎は、聖杯戦争以前にうんざりするほど修羅場をくぐり抜けてきていたのだ。
人の死をあんなに嫌がったのは、甘ちゃんだからではなく、人命の尊さを誰よりも分かっていたからだ。

―――――ただ一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない。

ああ、やっぱり私がいないと誰にも理解されない生涯を送ってしまうんだ。
衛宮士郎という人は。

ふむ、これは責任重大だぞ、頑張れ私。

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9月4日

二学期が始まり、私たちの生活は微妙に忙しさを増してきた。
本来この時期、学園祭や体育祭など、面白イベント目白押して、明るい学園生活の
最後とばかり、はっちゃけて愉しむものなのだろうが。
3−A教室はあまり明るい雰囲気では無かった。

原因は、衛宮士郎と私の、暗い表情にある。
3−Aは、何故か知らないが、私の知人友人がこれでもかと押し込まれたあげく、
士郎の知人友人もなおこれでもかとばかり詰め込まれたクラスだからだ。

そんな教室で、ムードメーカー、衛宮の沈みっぷりである。
ムードメーカーのくせに、ちっともムード作りに貢献しない、というのは居ないよりも更に質が悪い。
そして、そのムードメーカーに一番影響力を持ち、3−Aの華として君臨するはずの私もまた、暗い。

私の方の理由は、至極単純で、今の士郎に私がして上がられる事は無いだろうか、と悩んでるだけなのだが、
どうも周りは深い事情があるのかと邪推して、私に近づこうとしない。

士郎は、何を考えているのか、ムスっとしたままニコリともしないのだ。
流石に私もこんな状況で士郎いじりを開始するほど心臓に毛が生えちゃいない。

そして、今日に至っては、士郎は欠席。

そして放課後、綾子が本日三回目、同じことを聞いてきた。

「遠坂。衛宮となにかあったのか?」
「別になにもないわよ。」
「そうなのか、衛宮の様子がおかしいのはいつからだ? 二学期にはもうあんなになってたじゃないか。」
「……先週の県大会から」
「あ、まさか、あの時のことで喧嘩か?」

綾子が申し訳なさそうな顔をする。

「ううん、違う。」
「……あたしじゃ相談に乗れないことか?遠坂。」
「………ああもう、躯しかないのか!? わたしにゃ。」

ざわ、と教室内がざわめく。
やば、ちょっと声大きかったかな。

「しかし、何考えてるか何となく分かった。」

綾子がニシシと笑う。
悔しいけどそれどこじゃない。

「そうよ、綾子の想像の通り、で、いい手、無い?」
「ん〜、自分に出来ないコト人に薦めるのもなんなんだけどさ。
 アンタだったらもっとガーっと行って衛宮の内蔵グワーって引き出しちゃって、
 無理矢理グルグルぶん回しちゃえばいいんじゃないの?
 いつもみたいに。」
「ちょっとまて綾子、私がいつ士郎にそんなことしたかー。」

またしても教室内がざわめく。
ダメだ、こんな所で士郎の相談を綾子に持ちかけてはメッキがボロボロ剥がれてしまう。

「いつもやってるじゃん。自覚なかったの? まあその度によく衛宮は本気で怒らないよなーと感心してるんだけどさ。
……なにがあったか知らないけど、恋愛ってつまり傷つけ合いじゃん。相手が傷つくことを恐れるのも、
 自分が傷つくことを恐れるのも、等価じゃん。…これって衛宮と遠坂を見てて悟ったことなんだけどね。」
「なんか悔しいけど綾子の言う通りだわ。じゃ、私これから士郎ひっぱたきに行ってくるから。」

決めたからには行動は疾い。常に優雅にという家訓はあるが、そんなんじゃこの現代やっていけない。
ごめんなさいお父様、今しばらくだけ家訓は返上です。

「あ〜あ、済まぬ衛宮。しかし、マゾに生まれた君の不幸を呪うがいいさ。合掌。」

なぜかこのとき美綴綾子は、柳洞一成のような台詞を漏らすのであった。

「あー、一成の口癖が移ったかな?」

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9月4日 午前・河原

今日のコトを慎二に相談したら、二年前同様、今回も付き合ってやると慎二は申し出てくれた。
で、慎二に今日は学校を休んで罠を調べたほうがいいという事になった。
それで、今罠を調べているのだが……

「おーおー、虎挟み十個目発見だ。えげつないね〜藤堂とやら」
「こっちも投網を発見だ、サンキュー、慎二。
 慎二のひらめきが無ければ速攻終わってたかもしれない。」
「衛宮、そろそろその馬鹿正直な処なんとかしないと、死ぬぞ。
 こんなの、僕が衛宮を倒そうと思ったらどうするかって想像しただけじゃないか。ちったあ頭使え。」
「うん?いや、俺だったら武器工夫する位しか思いつかない。」
「はぁ、まったく、そんなだから衛宮は他のヤツに良いように利用されるんだ。
 分かった、お前は罠とか有っても嗅ぎつけられるように五感を鋭くしろ、考えるのは遠坂にやって貰え。」
「そうだな、慎二の言うとおりにするよ。……ちょっと情けない気もするが。」
「しょうがないだろ、衛宮は来年ロンドンだろ。僕が助けてやれるほど近い場所には居てやれないんだから。
 だから、上手く遠坂を丸めこめな。」
「ああ、それはばっちりだ。」
「はは、ばっちりか、衛宮も言うようになったな。」
「さて、こんなもんか。」
「そうだな、ワイヤー三十に投網が五、虎挟み十かよ。
 この調子だとブロウガン(吹き矢)とかにも注意した方がいいぞ。
 流れ矢避けの呪文は知ってるか?」
「いや。」
「んじゃこの護符をシャツの内側に貼っとけよ。ブロウガン程度には効くから。」
「さんきゅ、慎二。」
「で、この罠どうする? まだ時間あるから逆に相手方に仕掛けることもできるが。」
「いや、そこまでは必要ない。……あの手の手合いには正面からぶん殴ってやらないと効かないからな。」
「正攻法か、衛宮はいつもそれに拘るな。」
「……正義の味方だからな。仕方ない。よし、一旦撤収してメシにしよう、たまにはウチ来いよ。」
「ああ、久しぶりだな衛宮のメシは、楽しみにしてるよ。」


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9月4日、夕刻

私が意気揚々と校門を出ようとしたとき、なにやら怪しい他校生達が校門の前でたむろしていた。
一人は、先週士郎と会話を交わした柿崎という男だ。

「やあ、一週間ぶり」
「私は貴方に親しげに話しかけられる義理はないんだけど。」
「悪いな、そちらになくてもこちらにはあるんだ。アンタ、遠坂凛だろ。ちょっと来てくれないか?」
「……校門の前じゃ目立つから、あそこの公園で話しましょ。」
「仕方ないな、ホントは有無を言わさず連れて行くつもりだったんだが、
他校の校門で騒ぎを起こすのも問題あるからな。」

歩きながら奴らの実力を検分する。やはり柿崎以外は実力的に大したことない。
が、肝心の柿崎の実力がとんと見当がつかない。
魔力は皆無。だが、なにか妖気、のようなモノを纏っている。土着の先祖返りかしら。
先ほどから背中がチリチリと、危険を伝えている。

検分しているうちに公園についた。

「で? 何処に来いっていうのよ。」

思いっきり不機嫌そうに尋ねてみた。ま、答えなんて想像つくけど、一応確認だ。

「ああ、分かっていると思うが、人質だ。もしもの時の為だ。」
「アンタは局外中立じゃなかったの? なぜ藤堂とやらに荷担するのよ。
 先週はおもいっきりどうでも良いって感じだったのに。」
「ん、ああ、状況が変わった、衛宮は来年には外国に立つって言うじゃないか、
 俺もヤツと決着をつけておきたくなったのさ。」
「柿崎さん、ご託は抜きにしてとっとと拉致りやしょうぜ。」

三下その1がそういって私の肩に手を掛けようとする。

「……!」

手を掴み左にサイドバック、ぐいと捻り後ろに投げ飛ばした。
三下は綺麗に一回転して尻餅をつく。

「ぐっ…!」

そのまま頭をつかみ、ベアークロー。

「ストップ、私がこのままこめかみに爪を立てたら、彼、死ぬわよ」

色めき立つ三下共を口で制する。

「はっ、ははは、流石に衛宮の彼女だな。腕は立つし肝も据わっている。
 お前らも止めとけ、手荒にして怪我するのはお前らの方だ。」
「見解の相違ね、私の彼氏を務めるには士郎程度の実力が必要ってトコかしら。」

三下を解放し、立ち上がって膝についた土をはたき落とす。

「さて、そろそろ決断して貰おうか、素直に付いてくるか、
 それとも無理矢理俺に連れて行かれるか、だ。」

ほんとはもっと暴れてやりたいのだが、目の前のコイツの実力が掴めない。
私が全力を出せばなんとかなるかもしれないが、私が全力を出す、
ということは魔術を使うということで、すなわち目撃者であるこの三下共を全員殺る、
ということに繋がる。

さすがにそんなことしたら、士郎が苦しむし。
仕方ないな、ここで人質決定か。

「分かった。ここは素直についていくことにするわ。但し、変な手出しは無用にお願いするわ。」

まあ、惚れた弱みって奴よね。

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エピソード1 0678、0679,0680参照


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