金ピカ様の居る風景―道場― 傾:ほのぼの バトル(ぇ


メッセージ一覧

1: にぎ (2004/03/01 03:03:08)




誰もいない道場で一人心を静める。
もはや日課と化したこの行動、事実これを怠ったことは一日たりともない。
うん、やはりこの静かな凛とした空気は気を引き締めてくれる。

「セイバー、座禅というのは中々疲れるものだな」

……なにやら聞こえてくるものは空耳だろう。
シロウもすでに学校へ言った以上、私に声をかけるものなどいない。
そういない、絶対にいない、いないといったらいない。

「セイバー、我と外にでも行かぬか」

……だからこれは幻聴だ。
ふっ、まだまだ私も精神修養が足りない。
精神統一、心を静めるべし。

「セイバー、いい加減に無視は止めよ」

……落ち着け、心を静めるのだ。
精神統一精神統一。
何も聞こえない何も聞こえない…。

「セイバー、退屈である」

ぶちっ。
もう駄目だ限界だ。

「いい加減に黙りなさい!ギルガメッシュ!!」










金ピカ様の居る風景  ―道場―










「ふん、まったくつれぬなセイバー、わざわざ我がお前の稽古に付き合ってやっているというのに」
「付き合ってくれなど言った覚えは全くありません。あなたが勝手についてきたのでしょう」
「ふん、本当につれぬ」

つまらなそうに言って腰を上げるギルガメッシュ。
だが別に何かしようというわけではないらしく、道場の中をぶらついている。

「大体、暇だと言うのなら何処へとでも行けばいいでしょう、ギルガメッシュ」

ちゃっかりこの家の住民となってしまった彼を忌々しげに見つめながらその名を呼ぶ。
そう、私は彼を名で呼ぶようになった。
一応言っておきたいが、これは家民への義理でもなければ親愛の情などでも全くない。

先日私のマスター(現)が、この家を訪れた際に、
「こいつの事アーチャ―なんてよぶなあああああ!!!」
とタイガばりの暴れっぷりを見せた所為である。
その被害の十割は私のマスター(前)に向かったわけだが。

さすがにシロウを毎回そのような目にあわせるわけにも行かないし、
一応マスターの命でもあるわけだがら、それに従っているだけである、他意はない、まったくない。

「ふん、戯言を。何処へ言った所でお前がおらぬのでは意味などあるまい。
 お前こそいい加減に我のものなってはどうだ」
「それこそ戯言だ、ギルガメッシュ。
 たしかにシロウの食事が更なる質と量を兼ね備えるようになったのは感謝していますが、
 それ以外に関しては、あなたに特別な感情など一切ありません」

きっぱりと言い切る。
だというのにギルガメッシュは全く堪えた様子も無く、むしろ楽しげですらある。

「なにがおかしいのですか」
「おかしいに決まっている、そうだセイバーはそうでなくてはな。簡単に我のものとなったのではつまらぬ」

そう言うと彼はすたすたと、壁に立てかけてある竹刀にに向かいそれを手にとる。
なにを、と言うまもなく彼をそれを私に投げてよこす。

「どうだセイバー、一つ、我と剣を交えて見ぬか」
「―――これは、どうゆうつもりですか。ギルガメッシュ」
「なに、ただの戯れよ。お前をただ座っているだけでは退屈であろう」
「…まあいいでしょう。それを望むのであれば手合わせを受けましょう」

刀を正面に構える。
それに満足そうな笑みをうかべ、ギルガメッシュも構えを取る。

「しかし、ただやるのもつまらぬな。
 どうだセイバー、この勝負、我が勝ったら今日一日は我に付き合うというのは……」


スパアァァァァァァァァァン

そのような戯言聞くいわれも無い。
真心から振り下ろした刀は、油断しきった彼の脳天に吸いこまれる様に入った。

元より弓の引き手たるアーチャ―と、剣の使い手たるセイバー。
彼に勝機など微塵もありはしない。

「ぐっ!や、やるなセイバー!」

だが、それでも気を失わないのはさすがにサーヴァントといった所か。

「ふ、ふん、だがその程度でこの我が……」


ズパアァァァァァァァァァァァァァァン

最後まで言わせるべくもない。
翻す刀で先程以上にもう一撃。
魔力を少し込めてしまったのは内緒だ。

「ぐぶっ!さ、さすがはセイバー……」

むう、意外にしぶとい。
だがすでにその身はボロボロである。

「だがセイバー、この勝負は著しく公平さにかけるような気がしてきたのだが」
「なにをいまさら、あなたが申し出てきた事でしょう」
「うむ、それはそうなのだが、な――――」

と、唐突に後ろに飛んで大きく間合いを開くギルガメッシュ。

「やはり、我らには我らに相応しい戦い方というものがあろう」
「ギルガメッシュ!貴様!」

仁王立つ彼の背景が歪む。
その現象は知っている。
確かにそれは彼の本来の戦い方――――!

「貴様!宝具を!」

私の叫びにギルガメッシュはニッと笑い顔をつくって答える。

「――――っく!」

私も咄嗟に魔力で編み上げられた鎧を纏う。
思わず額に汗が浮かぶ。

そしてついに彼の後ろから、無数の獲物が姿をあらわした。

―――――そう、無数の竹刀が。






「―――――――――――は?」
「ふふふ、驚いておるなセイバー」

何故だか勝ち誇る英雄王。
無数の竹刀を背にして胸をはるその姿は、ただひたすらに滑稽だ。

「ギルガメッシュ…これは一体」
「ふ、これぞ我がこの日のために集めぬいた宝の数々よ」

あくまで偉そうな態度は崩さない。
一体に何が彼をそこまでさせるのか。

「宝……これがですか…?」
「うむ、これをただの竹刀と思わぬことだ。
 すべてがこの国の名のあるものの手による入魂の一刀と知れ」

要は日本中の職人さんに作ってももらったものだと。
ああ、いつだか姿を消していたのはそのためだったのですか。

「って、何を考えているのですか、あなたは!そんな事をしてなんになると!」
「ふん、現に今役立っているではないか、さてセイバーそろそろ始めるとするか」

彼の手がこの戦いの開始を告げる。
それに答えるようにして、我先にと無数の竹刀が飛び掛る。

「――――――――っは!」

―――だが所詮は竹刀。
   この身を止められるはずも無い。

飛び交う竹刀を、
かわし、打ち、払い、いなし、一気に彼の者へと肉薄する――――!

このような茶番劇、一太刀で終わらせてくれる!

その思いを込めて、彼へ一撃を放とうとした、その時。
―――――――言い様の無い不安が体を支配した。

「―――――――――?!」

咄嗟に引く。
私の目の前には、一本の竹刀。
他のものと比べても特に違いも無い、いやなにやら虎を模した人形のついている刀。

ただの竹刀であるはずのそれが、なにかどうしようもなく不吉なものに感じた。

あれはよくない。
あれはよくないものだ。
あれにふれてはならない。

「―――――――――っく!」

思わず手に持つ竹刀に魔力を込めて、全力で”それ”をなぎ払う。
普通なら、たやすく砕けるであろうそれは、なぜか弾き飛ばされただけで傷一つついてはいない―――!

「ふむ、さすがといったところかセイバー。
 ……よもや”あれ”の一撃を防ごうとは――――」
「くっ、ギルガメッシュ!それは一体――――!」

彼の力によるものか、再び浮かび上がるその竹刀、いやあれは竹刀などと呼んでよいものか。

「ふっ、あれこそこの地に封印されていた、正に正真正銘の妖刀よ。
 あれに込められた思いはもはや呪いの域だ。概念武装でいうなら間違いなく一級品であろう」
「なっ…?!馬鹿な!”それ”からはまだ積みかねられた年月を感じない!」
「それだけこれに秘められた思いが強力だという事だ。
 この使い手か、犠牲者か、はたまたその両方か、それは我にも分からぬが」

再び、彼の後ろに無数の竹刀が浮かび上がる。
―――だが、それは全て問題ではない。

問題なのは、ただ一振り。
私を真正面に見据える、まさに猛虎のごとき、その一太刀――――!!

「――――く」

じわり、と竹刀を握る手に汗がにじむ。
もはや油断は許されない。
”あれ”をまともに受ければ私とて無事でいられる保証は無い―――!



…………なんでこんなことでこんな真面目に戦ってるんだろうか。
    なんだか泣きたくなってきた。


「ふ、覚悟を決めるがいいセイバー。さあ、我のものとなれ――――!」
「――――――――――!」

その言葉と共に、いっせいに放たれる竹刀。

――――だが、もはや私に迷いない。

その瞬間、先日シロウとリンの2人がかりによって3時間にもわたって講義された、

「宝具の使用とエンゲル係数の増加の関係 傾向と対策」

が、頭をよぎるがもはやためらっている場合ではない!

「約束された―――――――」

掲げられた私の手に、滝のごとき光の本流が握られる。
狙うはあの妖刀ただ一点――!

”あれ”はこの世に残しておいてはよくない。
”あれ”を残しておくと何故かシロウがひどい目に合うと、私の直感がそう告げている―――――!!

……具体的に言うと撲殺とか。


「―――――――――勝利の剣!!!!!!」

ついでに言うと、一日であろうともギルガメッシュと付き合うなどご免である――――――!!





ちゅごおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!















「で?なんでこうなったんだ?」

差し込む日も眩しい夕暮れ時。
何故か私は、シロウに正座させられていた。

「シロウ、こうとはどうでしょうか」
「セイバー…俺が言いたいのはだな、なんで朝はなんとも無かった家が、
 今じゃ、道場全壊、家半壊になってるのかってことだ」

ああ、そのことですかシロウ。
いえシロウ、むしろ私の宝具を使ってこれで済んだのですから喜ばしい事かと思いますが。

「どっちが原因だ、お前ら」
「はい、当然ギルガメッシュです」

といまなお、だらしなく横たわる黒焦げ姿の英雄王を指差す。

「セイバー…俺が今日見かけた光は、柳洞寺で見た光とそっくりだったんだが…」
「シロウ、結果だけを見るのは良くない。物事には何故そこに至ったのか、を考えなくてはならない。
 今日の事は彼が全ての発端です、故に原因は全て彼にあるといえる」

うん、勝負を挑んできたのは彼なのだから、原因は彼だ、間違いない、だというのに…


シロウ、なぜそのような引きつった笑みで私を見るのですか。
なぜギルガメッシュを慰めてなどいるのです。
お前も大変だな…?、シロウそれはどうゆう意味でしょうか、説明していただきたい。










焼き果てられた荒野の上で。

1人元気なセイバーを背に。

男2人はただ涙を流し続けた。





                  [END]


記事一覧へ戻る(I)