FATE 覗き/NIGHT (前編) 傾:ギャグ


メッセージ一覧

1: 焼き栗 (2004/03/01 02:12:06)





 見上げれば、手の届きそうにない空。
 手を伸ばせば届きそうなっていうか絶対届く湯煙。
 そして、鼻につく硫黄臭。
 
 衛宮士郎は温泉に来ていた――― 

 始まりは何だったのかというと、実に単純。
 藤ねえが温泉旅館の宿泊券を大量に持ってきたのだ。
 「みんなで温泉いこうよー」ってな感じで。
 用意されたチケットは、一言で言うならば、たくさん。優に30枚はあっただろう。
 何でも藤村組の行きつけの温泉だとか何とか。
 ……それがどういう意味なのかは深く考えないでおこう。
 まあそんなわけで、一成や美綴も誘って行くことになった。
 大人数での温泉旅行。
 そう、温泉。
 温泉と言えば露天風呂。
 露天風呂と言えば……となるわけで、この温泉旅行が普通に終わる筈など無かったのだ……




     ☆     ☆     ☆


 峠道を登る貸しきりのバスが、ガタガタと揺れる。
 隣にはセイバーが座っている。
 窓を見れば、満面の雪景色。
 バスで行ける距離でこんな場所どこにあるんだ、なんてツッコミはやめていただきたい。
 このSSはギャグ寄りです。
 
 バスの中はと言うと、騒乱そのものだ。

 「うがーーーー!またババ引いちゃったよう!」
 「藤村先生はすぐ顔に出ちゃうんですよ」
 「うう……そういうことは引く前に言ってよ桜ちゃん……」
 「綾子、次で決着つけるわよ」
 「いい度胸だね遠坂。賭けるのは何にする?」

 ババ抜きをしている穂群原学園女子(約一名を除く)とか、
 
 「先生、なかなかの冬景色ですね」
 「ああ……」
 「ガム食べますか?」
 「ああ……」
 「先生実は適当に返事してませんか?」
 「ああ……」

 会話が成立してるのか微妙な一成とか葛木とか、

 「なんで僕だけ一人で座ってるんだ!」

 お前友達いないし、な慎二とか、

 「キャスター、バスの中でもそのローブは脱がないのですか?」
 「余計なお世話です。貴女は魔眼殺しを取らないようにライダー」

 俺としては二人とも素顔でいて欲しいキャスターとかライダーとか、

 「ふむ…なかなか風流な景色だとは思わんか、中の人」
 「小次郎殿(仮)……その呼び方はやめてくれ」

 外見はともかく、会話はまともなWアサシンとか、 

 「言峰、貴様バスでもマーボー食うのか」
 「ギルガメッシュ、お前も」
 「食わん」

 バスの中ではマーボーやめれ、言峰とか金ピカとか、

 「ランサー、君もおつまみを食うかね?」
 「おっ、いいねえ。ありがたくいただくぜアーチャー」

 意外にウマの合うアーチャーとかランサーとか……って。

 「お前ら何でここにいるんだ!」
 「ツッコむのが遅くねえか、オマエ」
 「全くだ。それで正義の味方になるつもりか、衛宮士郎?」

 実に矛盾したこの状況で、さも当然のようにいるサーヴァント達。
 ああ、そういうことか……
 もう一度だけ言っておくとしよう。
 このSSはギャグ寄りです。本SSは食べられません―――


     ☆     ☆     ☆

  

 「シロウ、アレを見てください」
 「お、鹿だ。珍しいなー」
 「ええ、おいしそうです」
 「………………」

 そんな会話を続けて1時間。時間の流れは驚く程に早い。
 特にセイバーは楽しんでいるらしく、さっきから映る風景ひとつひとつに感嘆している。
 俺はというと、そんな彼女の横顔に見とれているのだが。
 王としての責務を果たす為に、己を殺したアルトリアという少女。
 そんな彼女が望んだ、普通の女の子としてのささやかなユメ。
 だが、俺が彼女を楽しませたいと思うのはそんな同情みたいな理由ではなく、単に好きな女の子の笑顔を見たいからという、手前勝手な理由だ。
 だから、セイバーの笑顔が見れるなら何でもしてあげたい。

 「どうしたのですか、シロウ? 顔が赤いですよ」
 「い、いや、なんでもない」
 
 ……まあ、その笑顔がとても眩しくて、直視するのはちょっと恥ずかしいのだけれども。

 とそんな甘い雰囲気に浸っていたその時。

 「しかし、この席順、我は納得いかん……!」

 そんな雰囲気ブチ壊しの怒声が聞こえてきた。
 はあ、とため息をついて、声の主の元へ向かう。

 「どうしんたんだよ、金ピカ」
 「黙れ雑種! というか何だその壊滅的なセンスの呼び名は!」
 
 ぬうう! とか唸っているヘタレヴィジュアル系。
 名づけ親は、我らがあかいあくま、遠坂凛でございます。
  
 「でも、席順が気に入らないって何でさ?」
 「当たり前だ! よりにもよって言峰の隣だぞ! 言峰の!」

 本気で起こっている金ピカ。その気持ちはわかるが。
 そういう、言峰本人はと言うと、
 
 「む……二人とも、くう」
 「「食わん!!!」」 
 
 既にマーボー10皿目に突入したりしている。

 「そもそも、我は王なのだから一番後ろに座るのが道理だろうに!」

 ああ、いるな。よくバスで一番後ろ座りたがる奴。
 だが、英雄王のささやかな願いはかなわない。
 何故なら――― 

 
 「バーサーカー、絶対大人しくしてなさいよ」
 「………………」


 巌の如き筋肉。鬼神を思わせる容貌。天井にめりこむ頭。
 最多体積をほこるギリシャ最大の英雄、ヘラクレスことバーサーカーがいるからだ。
 身長253センチ体重311キロという、規格外の巨体。
 奴を乗せるには一番後ろしか無かったのだ。
 しかし、それは諸刃の剣でもある。
 何せ奴は狂戦士。ここで暴れようものならこのバスなどあっという間に奈落の底。
 サーヴァントはともかく、只の人間である俺たちはあっさり死んでしまう。
 何回もバッドエンドやデッドエンドを迎えている俺としては、そんな死に方は御免である。
 そんなわけで、マスターであるイリヤに奴の監視役を頼んでいるのだ。

 「シロウー、わたしとても退屈だよー」
 
 ものすごく不満そうな声を上げるイリヤ。
 がんばれイリヤ。みんなの命は君にかかっている。

 「しかしだ、衛宮士郎。イリヤがキレたらどうするつもりだ?」
 「それは禁句だ未来の俺」
 「何でもいいから、このマーボー臭を何とかしろ雑種…!」
 「ふむ、そんなに食べたいのなら分けてやろう」
 「ぐっ…やめろ、それだけはやめ…ぎゃああああああああ!」

 何はともあれ、温泉に着くまでの間、バスの中は平和そのものだった。



     ☆     ☆     ☆


 そうして、俺たちは温泉にたどりついた。
 途中、トイレに行きたくなったバーサーカーが暴れだしそうになったり、マーボーを喰らって悶絶してる金ピカが巻き添えくらったりしていたが、問題なし。
 フロントで受付を終えて、決められた部屋へ向かう。
 今回は人数が多すぎるとの事で、男部屋、女部屋と二つに分けられた。きっと作者の都合だ。
  
 「それじゃあ、私たちこっちの部屋だから。何かあったら連絡してちょーだい」
 「了解」
 「早速お風呂に行きましょう」
 「賛成ー!」

 藤ねえが女性一行を先導していくのを見送って、俺たちも割り振られた部屋に入る。
 
 「へえ……なかなかいい部屋じゃないか」
 
 部屋はかなりの広さで、20人分は十分に入れる大きさだった。
 
 「おい坊主、バーサーカーが扉に挟まって入れないんだが、どーする?」
 「押し込め」
 「■■■■■ーーーー!」

 ランサーに答えつつ、部屋を見回す。
 ……うん、この部屋はとてもいい。セイバー風に言うなら部屋の持ち主の暖かい心境が現れてるってところだろう。

 「先生、なかなかいい部屋ですね」
 「ああ……」

 「ふむ。この部屋も風情がある。そうは思わんか、中の人」
 「ひょっとして、私が誕生した時のことを恨んでいるのか?」
 
 一成や葛木、アサシン×2にも好評らしい。
 各々が自分の場所を確保して、荷物を置いていく。

 「ふむ……衛宮士郎。この荷物は何処に運ぶのかね?」
 「窓から捨てて」
 「何をするかフェイカー! 離せ、いや離してください! いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁ………」
  
 荷物の整理を終えて、みんなに向き直る。
  
 「まあ、連絡事項は夕食が六時半ってことだけだ。他に質問は?」
 「おう」
 
 と、ランサーが手を挙げた。

 「はいランサー」
  
 呼ばれたランサーが皆の前に出てくる。
 その顔つきは、いつもの軽薄そうにしている時とは少し違う。
 例えるならば、獲物を狩るときの肉食獣の顔だ。
 ランサーが口を開く。

 「お前ら、俺たちは今温泉に到着した。温泉と言えば勿論風呂のコトだ」
 
 ランサーの言うことは、いまいちわからない。
 
 「温泉と言えば露天風呂だ。では、露天風呂と言えば……何だ?」
 「……ふむ、そういうことか」

 アーチャー独りが納得している。
 未来の俺に分かって、今の俺がわからないってのはちょっとシャクだ。
 そしてアーチャーがランサーに代わって告げる。

 「要するにだ、露天風呂へ行って、のぞきをしようということだ」

 前言撤回。やっぱわからなくていいです。
 

 続く。







 次回予告


 温泉旅行でのぞきを提案したランサー。戦いに赴くもの。傍観者。
 衛宮士郎はそこで一つの決断を迫られる……

 「…旧男湯だ」
 「何?」
 「そこに、女湯への隠し通路があるらしい。あそこなら誰にもみつからない」
 「よかろう。だが急げよ? マスターが女湯に行った今、オレ達に時間は無い。この劣情は2時間と持たぬだろう。その間にのぞきへ行けないとあらば、腹いせにナニをするかわからんぞ?」

 激突する青赤の騎士…

 「たしかにその道具ならば、のぞきは容易い。そのオマエが手にした道具ならば、せいぜい上手く立ち回るだろう。
 ―――だが、それは王道ではない。貴様のナイトスコープには決定的に誇りが欠けている」
 「のぞきをする者に誇りもクソも無いと思うが」

 久々の見せ場に張り切る英雄王…

 「天の鎖よ!」
 「■■■■■ーーーー!」

 そして、漢たちは最後の決戦へーーー


 スイマセン調子こきました。

 


記事一覧へ戻る(I)