Interlude 7-1 儀式の鍵
「別に、私は君に造ってもらわなくても構わなかったのだがね」
男はそういって不敵な笑みを浮かべた。
「よく言う。
俺が作らなければ、三女である妹を襲うと言い出したのは貴様のほうだろうが」
「いや、何。君がどうしても嫌というならのお話だよ。
強請して作らせたところで、まがい物が出来上がっては困るのでね。
言っただろう?本気になって作らなくとも良いと、
それは裏返しにも取れるのだよ。まぁ、君は解っていた様でなによりだ。
それと、私は最初、君には期待していなかったんだがね。
途中で逃げ出した愚か者などに、
あの者達が自らの秘を授けているわけはないと思っていた」
家では代々生まれたところでその事実を子供に教える。
だが、奴の言っている事は間違いだ。
「それは残念だったな。
だが、お前の言っていることは間違いだ。
家ではそいつに授けるなんて真似はしない、それでは遠回りだからだ。
家では魂にその秘伝を刻む。
だから、教えるなんてことは無意味だ。生まれたときから知っているんだよ」
「ほう、そうだったか、魔術師の真似事のようなことをお前らもやっていた、
というわけか。いや、それなら納得がいく。
お前の造った物はそれに違わぬ力を持っていた。あれだけの儀式用短剣。
お前たちの家系以外では似せることすら適わないだろうよ。
まぁ、おかげで儀式は成された。後は、お前は自由、と言いたい所なんだが、
どうも、物騒でね。予想外のものが引き寄せられてしまったらしい。
それに知られては厄介だ。お前はしばらくここに居てもらうことになる」
男は少し表情を歪めた。この一片の光すら入り込まない暗い檻の前で。
だが、どうしてだろうか、それが笑っているようにも見えてしまっていたのは。
「それは良い。俺は精々此処でお前の失敗を願うさ」
「_____どうせ願うのなら成功を願って欲しいものだな」
「そんなことできるか。
……なぁ一つ聞かせろよ。
お前、なんでこんなことをする。それなりに理由があるんだろう?」
「……お前には知る必要も無いことだ。
_______が、お前が失くした物への賞賛も込めて一つだけ教えてやろう。
……家族愛、というやつさ」
男はそう言った。この冷徹そうな男から家族愛なんて言葉が出てくるとは思わなかった。
それでは男の理由は自分と同じ。
「不服か?……どうやら私からそんな言葉が出てくるのは予想外、といった様子だな。
なに……私だってお前とそう理由は違わん。
一応はここまで上り詰めた身だ、そこまで悪というわけではないさ。
_______だが私には君に驚かされるばかりだよ。
あの温厚だった君が。あれを造りだしたときから別人のように変わってしまった。
今では自分を表す言葉も変わってしまったというわけか?」
「ふん、俺は人を選ぶんでね。お前のような外道に、本来の人格で向き合う必要も無い」
「私の前だから……というわけか。外道、そう言われるのもあっているのかも知れんな。
実に結構。恨め、恨め。怒れ、怒れ。その気持ちがあれの餌になる……
さて、私はそろそろ失礼させてもらうよ。あまりこんなところに入り浸っていては
怪しまれるだろうからね」
男はそう言って、牢を去っていった。
闇に残されたのは自分ひとり。
そこにある闇が、今までの自分のあり方を否定するようにせせら笑っている。
「最後までやり通す。か……
こんな形でそれをやり抜かねばならないとは思っていなかったな。
……今頃彼女も、僕のことを怒っているのかな……」
本来の自分に戻った男はただ、そう呟いた。
Interlude 7-2 籠の鳥
「どうやら始まったようだ」
大柄の老人はそういって夜の街に響く鐘の音を聞いていた。
老人という表現は当たっている、しかし彼にはそれすら感じさせぬ威圧感があった。
ただ、身なりが大きいからというわけではない、それは人間を超えたからなのか。
それとも一つの奇跡に行き着いたものだからなのか。
「だれだか知らないが、物騒なことを始めたの、
まさかとは思っていたが、条件を揃えてやるだけでこうも簡単に食いついてくるとは
思わなんだ。何、食いついた獲物は逃がしはせんよ」
老人はただ時計台を見つめてそう言った。
今始まったことが、さも予想道理、そんな言葉を残しながら。
「だが、ちとやりすぎたか。自分で呼びかけたとはいえ、アレがこの国にきたとなると、厄介なことになるだろう。何、教会のやつらも利用しておるのだ、そこは目を瞑って貰うことにしよう。彼奴を釣るのには些か苦労した。なんといっても、彼奴は宝に目が無い。
とはいえ、あれ程の物をくれてやるとは、協会もこのことで開きたいと思っているのか。
だが、それすら防がれることになるとは思っていないだろう。
何、全て私の手のひらだということが解っておるのは、宝欲しさに寄って来た、彼奴だけだろうて」
そう、老人は一人呟く。
このことが全て自分の手のひらで踊ることだと、ただ闇に告げる。
「協会も、内部にいるであろう裏切り者の処罰を私に頼んだのが運の尽きだったな。
何、ことを鎮めるのは私ではない。あの子達が全て終わらせてくれるだろう。
いま事を動かしていると思っているのが、奴ならば。
あの子達に幕を降ろさせるのが道理だろう。
奴が今まで静観していたのは、まだあの代行者が生きておったからだ。
あやつがいなくなった今、過去を思えば事を起こすのは、奴しかおらん。
だが、勿体無いの。
あれ程の地位に就きながら、それさえ捨てて、あやつのやってきたことを引き継ぐというのか。兄が妹を想う心というのは果てしなく虚しいものだ」
そう言いながら、老人は闇に溶ける。
後はあの子達に任せればよい。
そう思いながら、事が終わるまで、別の世界へと旅立っていった。
「作者の駄文 その6」
凛達が、放たれた咆哮への対応を考えるさなか
闇で蠢く二人の男。はたまた、お宝好きなあの人まで!?
これまで丁寧に読んでいた方は先が見えてきたのではないかと思います。
最近はオリジナルキャラを出したらhit数が少なくなった事に悩んでます。
オリキャラはそこまで人気無いのか(汗
クロスオーバーもそこまでダメなのか!
さては自分の文章力のなさに愛想を尽かしたのか。
悩みは多いですが頑張りたいです。
かなり書きたかったところをはしょってますが。
それは勘弁してください!
次号、バトル満載!……の予定。
以上、失礼しました!