数分後、そこにいた数多くの魔は跡形もなく消え去っていた。
「ふぅ、終わった。」
辺りを見回すと庭は所々穴が開いている。
秋葉に見せたら卒倒しそうなぐらい派手に散らかっていた。
「まっ、これは置いといて、・・・・・・志由。 一つ聞いてもいいか?」
「私も聞きたい事があります。」
「なんですか?」
「さっき俺が液体になったヤツに襲われた時何もしてないのに突然灰になっただろ? アレはお前がやったのか?」
「はい。」
「一体何をしたんだ?」
「話さなければなりませんか?」
「言えない理由でもあるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「わかった。 このことはもう聞かない。 助かったんだからそれでいい。 助けてくれてありがとな、志由。」
「いえ、気にしないでください。」
「よし、それなら戻ろう。 そういえば雪之の奴結局来なかったな。 どうしたんだろう。」
「それは後で本人に聞いて見ましょう。 今後の事も話さなければならなくなりましたし。」
「そうね、それには同感だわ。」
「じゃあ戻ろうか。」
「はい。」
屋敷に戻る志由はどこか元気がなかった。
さて、どうしたものか。
如何にして遠野秋葉を連れ出すか。
以外にも周囲にはかなりの手慣れが揃っている。
これでは如何に暗夜といえども簡単には手を出せない。
たかが分家の分際で暗夜に刃向かうとは。
だが、これはこれでおもしろい。
分家から手綱を離してもう三百年近くになる。
その間にどれほど成長したか見せてもらおう。
だが、少々厄介なことに変わりはない。
ならばこちらにも考えがある。
しかし向こうの見回りは町に出て来るのは良いが二人一組というのが気に食わない。
二人に分かれればいいものを常に二人一組で行動している。
なるほど、こちらを警戒してのことだろうが街中で手をだすほど愚かではない。
それでは協会と教会に自分の位置を知らせているような物だ。
協会と教会にはもう少し黙っていてもらわなければならない。
次の満月まであと四日。
それまでは・・・・・・
屋敷の何処を探しても志由の姿は見あたらない。
雪之が志由の所在を聞いてきた時にはじめて気付いた。
もしやと思い外に出てみた。
外は雨が降っている。
傘を差して中庭に向かって歩き出す。
暫くして開けた場所に出た。
そこは自分が死んだ場所。
そこに志由がいた。
何をするでもなくただ立ち尽くしている。
それは今にも消えてしまいそうなほど儚く見えた。
「志由、ここにいたのか。」
「何か用ですか?」
振り返った志由はやはり目を閉じている。
それは実際に閉じているのもそうだが心の目も閉じているようだった。
それは拒絶。
なにもかも見ないようにと目を閉じているように見えた。
「志由、こんな雨の中そんなところにいたら風邪引くぞ。」
「風邪、・・・ですか。 そうですね、・・・・・・・・・戻りましょうか。」
「ああ。」
志由は歩き出す。
ふと、
「志由、いつからそこにいたんだ?」
「覚えていません。」
「覚えてないって・・・」
そう言って体に触ってみる。
「 ! 志由。 お前ものすごく冷たいぞ。 すぐに風呂に入らないとほんとに風邪引くぞ。」
その冷たさは異常だった。
それはまるで死人の冷たさ。
通常なら寒気で震えだしそうなほど冷たい。
「僕なら平気ですから。 ですから気にしないで下さい。 見回りの交代の時間になったらちゃんと行きますから。」
「馬鹿! そんな状態で何言ってんだ! いいから来い。」
腕を掴んで半ば強引に引っ張って行く。
掴んだ腕はそれ以上触れていれば手が凍傷を起してしまいそうな程冷たい。
それでも離さない。
まるで消えてしまいそうな程の儚さ。
いや、消えてしまいそうなんじゃない。
それを望んでいるんだ。
それに似た体験をしたことがある。
七夜の血を抑えきれずにアルクェイドを殺してしまった時。
今にして思えばあれは自分の意思で抑え込むことはできなかっただろう。
だがあの時はそんな事を知るはずもなく、自分が社会から外れた存在だと思っていた。
あの時、いっそこの世から消えてしまいたいと思った。
自分みたいな存在がいたら他の人に迷惑がかかる。
だから、消えてなくなりたい。
そう望んでいた。
あの時ずっと一人ならあのまま死んでいただろう。
でも救われた。
他人に触れることで救われた。
だから、この手は離さない。
屋敷の中に入ると迷わず居間に行く。
居間に入ると秋葉と雪之が対談していた。
そしてその後ろには翡翠と琥珀さんが立っている。
「兄さん、志由見つかったんですね。」
「ああ。 それより琥珀さん。 風呂の用意してもらえますか。」
「お風呂ですか? !? 志由さん、何でそんなにずぶ濡れなんですか。」
「こいつ今まで外にいたらしくて、とにかく風呂の用意お願いします。」
「分かりました。 では少々お待ちください。 翡翠ちゃん、手伝ってくれる。」
「はい、姉さん。」
そう言って翡翠と琥珀さんは小走り気味に居間を出て行った。
「さて、志由。 なんであんなになるまで外にいたんだ?」
できるだけ優しく聞いてみる。
だが、
「志由! あなた何考えてるの! こんなになるまで外にいるなんて。 風邪でも引いたらどうするの。 今はただでさえ余計なことに人手を割いている余裕がないって言うのに。」
「別に迷惑をかけたつもりはありません。 風邪を引いてもそれは自分の責任ですし皆さんに迷惑をかけるつもりもありません。」
「何言ってるの。 風邪なんか引いたらまともに動けるわけないでしょう。 それだけでも命取りになるのよ。」
「それも結局自分の責任でしょう。」
「っ! いい加減にしなさい! 貴方自分で名に言ってるか判ってるの!」
「ちょっと、落ち着けよ雪之。 そんな事今聞く必要ないだろ。」
何とか雪之を志由から引き離す。
「ちょ、秋葉からも何とかいってくれよ。」
「そうですね。 私は雪之と同意見です。 こんな時に風邪でも引いたら他の人に多大な迷惑をかけると理解できないの?」
・・・・・・・・・琥珀さん、早く戻ってきてください。
ここに俺の見方はいないようです。
秋葉に振ったのはどうやら間違いだったようだ。
と、
「志貴さ〜ん。 お風呂のご用意できましたよ〜。」
助かった。
「それじゃあ志由、しっかりあったまって来るんだぞ。」
志由を浴場に連れて行くとした時。
「待ってください、兄さん。」
雪之に呼び止められた。
「なんだ、雪之。」
「外回りの交代の時間です。」
「今はそんな事いってる場合じゃないだろ。」
「自業自得です。 それに志由だってそれを承知で雨の中に居たんでしょう?」
「兄さん、心配しなくても平気ですから。 見回りに行きます。」
そう言って志由は玄関に向かおうとする。
「ちょっと待てって。 見回りは俺が変わってやるから志由は体を温めて休んでろ。」
「いえ、そういうわけにはいきません。 本当に平気ですから。」
「馬鹿! 何が平気なんだ。 そんな体の奴を見回りに行かせられるわけないだろ。 もし見回りの最中に倒れでもしたらどうするつもりだ。」
「ですが・・・・・・」
「はあ、兄さんって本当にお人よしね。 いいわ、志由貴方は残りなさい。 見回りは私と兄さんで行くから。」
「えっ、でも志由と一緒に行くはずだったのは草薙さんじゃ・・・」
「いいから、ほら行きますよ。 秋葉さん、すいませんが草薙に事情を説明して置いてください。」
「判りました。」
「ほら、兄さん。 ぐずぐずしない。」
「あ、ああ。 それじゃあ秋葉、行ってくる。」
「お気をつけて。」
そうして秋葉と志由に見送られて屋敷を後にした。