温泉に行こう(1) M:凛 傾:らぶらぶ H


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1: sylpeed (2004/02/28 15:21:02)

■凛ちゃんと一緒 エピソード1 温泉に行こう。(1/3)

聖杯戦争は終わった。

俺は固有結界を使い、黄金の騎士を倒し、
セイバーはエスクカリバーで聖杯を破壊すると、俺に何も言わずに消えてしまった。

間桐慎二は何とか助かり、憑き物が落ちたかのように大人しくなった。
無論、桜に暴力を振るう事もなくなり、以前のように俺とも接してくるようになった。

新都の原因不明のガス漏れ事件も原因不明のまま沈静化し、関係者は首を捻っているようだ。

まるで聖杯戦争など無かったかのように、世の中は平穏になり、
全ては元通りになったかのように見えた…

だがしかし、俺の身の回りでは、世の中の平穏をあざ笑うかのような大変化があったりしたのだ。

―――――遠坂凛。

眉目秀麗、才色兼備、名家の令嬢、学園のアイドル、それらの評判とは裏腹に、
ヤツは猫かぶりNo.1、人のかたちをした厄災、赤いあくまだったのだ。

そして俺は、あろう事か、彼女に弱みを握られて、衛宮家への侵入を許してしまったのだ。

かの赤いあくまにはとんでもない野望があり、その野望を果たすためには俺の存在が不可欠で、それを果たすまでは絶対に俺から離れる事はないだろう。

その野望とは、

―――――衛宮士郎を、最高にハッピーにすること

つまりは、これは、そういうことである。

衛宮士郎には、恋人が出来た。
問題は、その恋人が、赤いあくまで、超一流の魔術師で、なおかつ俺がどうにもならないほど彼女に惚れてしまっているという事なのだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
7月某日

試験休み期間に入ったので、俺は日中、雷画爺さんの道場で、剣道などを習っている。
この道場は、冬木の虎こと藤ねぇを始め、多数の段位資格保持者を擁するレベルの高い道場だ。
セイバーとの稽古には及びもつかないが、それでも剣の扱いに慣れるという意味では効果がある。

「士郎〜? 居る?」

道場の入り口からひょっこり顔を出す遠坂。時刻はきっかり午後四時半。

「衛宮〜、カノジョが来たぞ。」
「相変わらずラブラブか〜。」

遠坂はここのところ毎日、この時刻に俺を迎えに来る。
そんな訳で、ここのところ毎日、この時刻に冷やかされる。

着替えを済ませ、シャワーを浴びるので迎えは五時で良いって言ってるのに何故かいつも四時半に迎えに来る。
士郎の胴着姿を見たいから、なんて可愛い事を言ってくれるが、
胴着は臭いし、別に見たからといっていいことはないとおもうぞ。

「いらっしゃい、凛ちゃん。座敷に上がって待ってるといい。」

と、雷画爺さん。
雷画爺さんはどうやらいたく遠坂がお気に入りのようで、俺が着替えて来るまでの三十分、遠坂を座敷に上げてなにやら茶飲み話でもしているようだ。

「遠坂、お待たせ。」
「あ、うん。 では、雷画おじさま、きょうはこの辺でお暇しますね。」
「おう、いつでも来なさい。凛ちゃんならいつでも大歓迎だ。」

雷画爺さんに二人でお辞儀をして、藤村道場をあとにする。
このまま商店街に向かい、食材を買ってから衛宮邸に帰るというのが最近の日課だ。

「遠坂、いつも雷画爺さんとなに話してるのさ?」
「ん、ふふ〜。気になる? わたしが雷画おじさまに取られるんじゃないか心配?」

勝ち誇ったような極上の笑みを浮かべる赤いあくま。
いい加減慣れてるはずなのにこんな顔をみせられると自然と顔が紅潮してしまう。

「べ、べつにそんな心配してるわけじゃないけど。」
「じゃないけど?」
「だ、だから俺が上がる五時にくればいいじゃないか。爺さんの相手なんて退屈だろ?」
「そんなことないわよ。人生の先輩に教わることは多いわ。…それに私、十年前に父を失ってるから、お父さんってこんなかんじかな〜なんて思いながら雷画おじさまとお話してるわ。」
「………そうか………」

ちょっとだけ声のトーンが下がる。
俺だけじゃなく、遠坂も前々回の聖杯戦争で肉親を失っているのだ。いつもは明るい遠坂なのでこのことをつい失念してしまう。

「やだ、そこで暗くならないでよ。……えっとね、主に昔の士郎の話を聞いてるのよ、雷画おじさまに。」

頬を紅潮させながら微笑む遠坂。つられて俺もまたもや顔が赤くなる。

「い、いったいなんの話だよ。俺遠坂に隠し事なんかしてないぞ。」
「ふーん。正義の味方とか。女の子を守るのはナイトの勤めとか?」

…う、墓穴だったらしい。たしかに雷画爺さんの前でも全然気にしないでそんなこと口走ってたかも……。
いま思うと赤面してしまいそうなことを子供の頃は素直に口にしていたような気がする。

藤ねぇに箝口令はしいていたのだが、まさか雷画爺さんから露見するとは、誤算だった。
別に隠す程のことではないが、やっぱり恥ずかしいじゃないか。
特に、惚れた女の子に昔の恥ずかしい言動を知られてしまうっていうのは。

「……とするとあそこの公園で、虐めても虐めてもしつこく食いさかってきたあの子供が士郎だったのかも……」

ん、今なんて言った遠坂。なにか非常に不穏な発言をしていたような…。

「遠坂、それって?」
「え、いやなんでもないわよ、衛宮くん、今日の晩ご飯何にする? 今日は私の当番だから、腕によりをかけるわよ。今日こそ私と士郎には超えられない決定的な壁があるって証明してやるんだから。」

があーと吠える遠坂。ちょっとかわいいかも。
最近はホントに、遠坂のこんな何気ない仕草ひとつひとつが愛しくてたまらない。
慣れるどころか前よりさらに赤面の回数が増えてる気がする。

「とすると和食か〜。士郎好き嫌いないもんね。嫌いなものが無いのはいいことだけど、特に好きなものが無いっていうのも考え物よね〜。張り合いがないったら。」
「そんなことないぞ、肉魚の焼きものは好きだし、野菜の煮物も好きだ。」
「だから、それ範囲広すぎ。それじゃ和食全般好きっていってるのとかわらないでしょ?」
「まあいいわ、今日も藤村先生と桜、来るんでしょ? 四人前でいいのよね?」
「あー、それはそうだか明日は出掛けるから今日の買い物は明日の食事の分もだ」
「そか、じゃあ今日は大量に買い込むとしますか。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「うわ、買いすぎじゃないか? コレ」
「だって、士郎が店に入るたびにアレが切れてるコレが切れてるって言うんだもん。小分けで買うよりお徳用で買った方がいいでしょ?ウチは食べ盛りが3人も居るんだし。」

俺を含めて四人だと思うが、自分の事は棚にあげておきたいらしい。

「ひい、ふう、みい、よう…福引き券、十枚貯まったぞ。今日の買い物だけで。」
「はは、ちょっと買いすぎたかもね。折角だから福引きやっていきましょ?」

髪に手をあてて笑ってごまかす遠坂。ちょっとか、これが。
こういうときも負けず嫌いで困ってしまう。まったく、素直じゃない。
まあ、反省してると分かるから深くは突っ込まないけど、
世間じゃ誤解を招きかねない言動は早めに直してやったほうが本人の為だろうか?

「う、士郎怒ってる?」

物思いにふけって黙っていたら遠坂が気にしてそんなことを言ってきた。
う、上目づかいに見つめるの反則。
ここが商店街だというのに抱きしめて頬ずりしたくなるじゃないか。

「い、いや、なんでもない。福引きは駅前の方だ、荷物持ってるから行ってきなよ。」

福引き券を渡して買い物袋を受け取ろうとすると、遠坂は袋を渡さずに福引き券だけ受け取り、

「だめよ。これは士郎の買い物なんだから、士郎もついてこなくちゃ。」

と言った。
でも福引きはやる気まんまんの遠坂嬢。なら、俺が引くべきなんじゃと、突っ込むべきだろうか。
仕方なく二人で買い物袋を大量に持ったまま駅前広場の特設福引きコーナーに歩いてゆく。

「一等は海辺の温泉旅館家族一組ご招待か。よし、金色ね。」

なにか自信満々というか、なにを事前に確認して「よし」とか言ってるんだろう?
福引きなんかただの運じゃないか。

「甘いわね、士郎。こういうモノは気合いが大事なのよ。あと、自分を信じる事。絶対に引くんだっていう気迫が運を呼び寄せるのよ」
「そうそう、おねぇちゃんいいこと言うねぇ。そう、福引きは気迫が大事なんだよ」

遠坂の発言にうれしそうに答える商店街の若い衆。
遠坂は右手を腕まくりして、手をニギニギ、手首をグルグルまわしている。
本気だ、この娘、もの凄く本気だ。

「さあ、いくわよ…」

一瞬、空気が凍り付く。
なにか違うような気がしつつも、固唾を飲んで見守る。
遠坂の熱が商店街に居る皆に感染したかのように静まりかえる商店街。

福引きって、こんなイベントだったっけ?

遠坂は真剣な表情で、大きくガラガラを3周回し、4周目に止める。

中から…

「いゃったぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「うそ…」

俺に抱きつく遠坂。ちょっとまて、ここは商店街のド真ん中だぞ。
顔を真っ赤にしながら買い物袋を落とさないように気を配る。
当然遠坂から離れることも引き離すこともできない。
身動き取れないのでまともに遠坂の胸の膨らみとか、シャンプーの香りとか、
甘い息づかいとか、五感全てに過激な刺激が、俺の脳髄を直撃してくらくらした。
味覚は無かったから厳密には四感だが。

「と、遠坂、落ち着け。ここは不味い。」
「あ。」

やっと自分が今どこでなにをやってしまったか把握する遠坂。
遠坂も俺に負けず劣らず顔を紅潮させる。

「ヒューヒュー。熱いね〜。」
「ごちそうさま。」

今度は商店街の皆さんにまで冷やかされた。
明日以降どんな顔をして商店街に出向いたものか…全く、恥ずかしいったら。

遠坂凛は宣言通り、福引き一等賞を勝ち取ったのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あ〜。嬉しい。嬉しいんだけどご家族ご招待ってのがやっぱアレよね…」
「ん? なんでさ。俺と遠坂と藤ねぇと桜でぴったりじゃん。」
「そうよね、そこで藤村先生と桜が当然のように入ってくるのよね、衛宮くんの頭には。」

ジト目で俺をにらむ遠坂。
う、これは俺が悪かったのか? 遠坂は四人で旅行というのが嫌なのだろうか?

「朴念仁。」
「?」
「……二人っきりで旅行するチャンスなのに(小声)」

遠坂がぼそりを言った。
小声だったけど、確かに聞こえた。

「あ…」

おもわず少女の様に絶句してしまった。
顔が知らず知らず紅潮していく。多分ニヤけてもいるだろう。
ちょっと情けない。

ちら、と遠坂の方を覗き見てみた。
顔を赤くしながら、両手を前に組んでもじもじしている。

「ば、ば、ば、ば、ば、ばか。俺たち未成年じゃないか。父兄同伴じゃないときっと泊まれないぞ。」
「そっか、そうよね。きっと。」

押し黙ったまま夕暮れの街を歩く二人。
お互いにチラチラと相手の方を見ながら、一言も発しない。
なんか、会話する以上に照れる。

遠坂のツインテールにした綺麗な長い髪とか、サマーセーター越しに分かる体の曲線とか、
きめ細やかな肌でほんのり紅潮している頬とか。
ずっと見つめていたいのに、照れてしまってすぐに目を伏せてしまう。
なんだかすごく照れくさい。

とくん、とくん、とくん、とくん。

遠坂の胸の鼓動ど俺の胸の鼓動がシンクロする。
以前繋いで貰った魔力回線越しに、二人の五感がシンクロしていくのが分かる。
やべ、あの夜のことを思い出してしまった…

あの夜、黄金王に勝つために、俺の固有結界を発動出来るように、
魔力の提供と魔力回線の接続の為に、その身を捧げてくれた少女。

初めてなのに、なにも経験が無いのに。
それでも凛と胸をはって、微笑みながら俺を受け入れてくれた少女に、
俺は何をもって報いる事が出来るのだろうか…。

多分、俺は、この借りというには余りにも純粋なその思いに、
一生かけて報いて行かなければならないんだと思う。

そんな幸せなもの思いは、冬木の虎の傍若無人なまでに日常的な声によって跡形もなく破壊されてしまうのであった。

「あ〜、士郎おかえり〜。おそいよ〜。もうお腹ぺこぺこなんだけど〜?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

遠坂の手になる本格和食の夕食を済ませ、夜の授業、といっても単に魔術師としての授業なのだが、を終わらせ、遠坂が陣どっている客間で紅茶など飲んでくつろいでいると、遠坂が不意に、

「あのさ、士郎ってなんで私の事を遠坂って呼ぶの?」

何気なく素朴に聞いている様でいて、その実とんでもなく用意周到に、詰め将棋のように確実に俺を陥れようという魂胆アリアリの声で遠坂が訊いてきた。

遠坂の真意を測りかねた俺は、ちょうどその時妄想していた遠坂との結婚後の想像そのままに尋ね返してしまったのだ。

「そ、それは、アレか? 遠坂じゃなくて衛宮になりたいとか、そういう遠回しな意味でのプロポーズとかなんとか……」

いたずらっ子の目から唐突にきょとんとする遠坂。
明らかに意図した方向と全然別の方向に振られて吃驚していた。

「あ、え? なんで……?」
「………………」
「……………… ………………」

「あ、ごめん、なんでプロポーズなのか俺も意味不明だ。」
「あ、ううん、じゃなくて、ああ、もう。」

照れまくったあげく頭が混乱して、なんで話がプロポーズまですっ飛んでくのよ。
と、がぁーと吠える遠坂。

「そうじゃなくて、なんで名前じゃなくて苗字で呼ぶのかって訊いてるんだけど。」
「ほぇ?」

え、そんなこと、考えたこともなかった。

「だって俺にとって遠坂は遠坂だし、他に遠坂なる人物が居て混乱する事もないし。
藤ねぇのことだって大河ねぇとは呼ばないし。」
「ふーん、そう? 私のコトなんでどう呼んでもどうでもいいんだ〜。識別するためのただの記号なんだ?」

割と意地悪っぽく、なんだか非が一方的にあるような気分にさせる一言を、
腹にイチモツありますよ〜とばかりの例のあの笑顔で発する遠坂。
うわ、それは勘弁してほしい、単に意識していなかっただけなんだから。
この話の展開では一方的に俺だけ悪者にされてしまう。
まずい、それだけは避けねば…
俺が無意識に遠坂に不義理にしていることと同様に、
遠坂が無意識に俺に不義理にしていることを探すんだ。
なにかあった気がする。それもつい最近ふと、不満に思ったことだ。
おれは照れ屋だけれども、遠坂も負けず劣らず照れ屋だってことは幾ら鈍感な俺だって把握している。
そりゃあ、伊達に半年つき合って、遠坂だけを見ていたわけではない。
そのあたりから、何か突破口はないだろうか。

ようやく遠坂の考えるシナリオ通りになって安心した遠坂は、次の一手とばかり
声を掛けてくる。

「私、悲しいな〜。衛宮くんは私のことなんかどうでも良いって思ってるんでしょ?
さもなきゃ他の人が私を呼ぶのと同じ遠坂なんて呼ばないわよね。」

くっそ〜、このまま俺が悪者か〜!?
そういうことにして謝るのも一つの手だが、漢としてやられっぱなしというのは気にくわないのだ。
コレは、男の沽券にかかわる事態ですよ?
たとえ見習いでも正義の味方が彼女を泣かすなんてコトはあってはならぬのだ。

考えろ、考えるんだ。

「…………あった。」
「なにがあったのかしら、衛宮くん。さっきから私の言葉がきこえないのかしら?
もしかして、私のこと嫌いになっちゃったのかな?」

見つけたは見つけたんだが、俺この技使えるのか?
正直今の俺にはウルトラC難度っぽい技だが、巧いコト遠坂を動揺させることが出来れば勝機はある。

「あのな、遠坂。」
「うん、なに?」

にっこりと極上の笑みで答える遠坂。
勝ち誇ったような笑顔に、もうこのまま負けてしまっても良いんじゃないかという考えが脳裏をかすめる。
しかしこのまま終わってしまっては一生尻に敷かれっぱなしのような気がするのであえて反撃に出た。

「確かに俺は遠坂を苗字で呼んでる。でもな、それが遠坂がどうでもいいとかそんな理由じゃなくてな、決めてたというか願かけみたいになっていて、それでまだ凛って呼んでないだけなんだ。」
「ふーん。で、その願ってなんなのよ?」
「名前ってさ、苗字とは違って真名みたいなもんだろ。それはしかるべき段階を経てからじゃないと呼んじゃいけないと思ってるんだ。」
「で、その段階って?」
「うむ、それは、恋人同士じゃなきゃしないことだな。俺はずっとそれを待ってるんだが、いい雰囲気になっても遠坂は絶対ゆるしてくれないだろ。戦いに勝つためとかそういう理由とかじゃなくてだな。本当に結ばれた証が立ったときに俺は遠坂を名前で呼ぼうと誓っているんだ。」

言った。うわ、顔から火が出そうな位恥ずかしいぞ、これ。
普段の俺では考えられない強気発言。
でもこういう不意打ちには遠坂は弱い筈。
さて、どくどく言ってる心臓を無理矢理落ち着かせてちらと遠坂の方を見る。
真っ赤になってる筈だ。

あれ、なんか、顔青いですか? 遠坂凛嬢?
なんかうつむいてプルプル震えてるように見えますが?

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

うわ、びっくり。
おもわず遠坂がバーサーカーになっちゃったのかと思った。

「しっっ…………んじらんない!! 貴方、乙女の純血と名前を呼んであげることを等価交換で取引するつもりなの。だいたい、あのとき乱暴にしてか弱い乙女の心に消えないトラウマを残したのは貴方なのよ? そんなことを言う口はこの口かぁ〜?」

俺の方に踊りかかって指を俺の口に差し込み、ぐいぐいと横に引っ張る遠坂。

「ひたひはいっては、とおさか、こへひゃははへはいっへ」
(痛、痛いってば、遠坂、コレじゃ話せないって)

いや、照れるのかとおもいきや、逆ギレされるとは思わなかった。
さすが遠坂凛、まだまだ俺には予測できない領域があったんだなぁと感心してしまった。

しばらく遠坂のするがままになって耐えているしかないだろう。遠坂が落ち着くまでは。

「ん、ごめん。やりすぎた。でもまだ許してないからね。」

三十秒もしないウチに我にかえったらしく、遠坂は俺の口につっこんでぐいぐい引っ張ってた指を外してくれた。
やっぱり、顔は照れくさげに紅潮していて部分的には俺の予測通りの反応であったことを確認できてよかった。

「だからさ、あの時は遠坂が可愛くて可愛くて仕方なくなっちゃったんだよ。乱暴してゴメン。いまさら謝っても仕方ないことだけど。……でもさ、もう半年経ってるんだ、そろそろ次の機会とか有ってもいいんじゃないか? 遠坂まさかあの夜言ったこと一生守るつもりじゃないだろうな? 二度とさせてあげないとかなんとか。 それって男にとって拷問に等しいんだぞ? そういうことで浮気に走ったり、破局に向かうカップルだって引きも切らないんだぞ。目の前にエサを置いて、ずっとお預けってやってるのと一緒なんだぞ。苦しいんだぞ。」

あ、やばい、話してるうちに段々熱が籠もってきて、最後には怒鳴りつけるように話してた。
いままで全然そんなコト無かったのに、なんでこんなに怒ってしまったんだろう…

「う、だって、あのときほんとに怖かったんだから、士郎って時々なに考えてるんだか分からない時があるのよ?
もっとゆっくりしてって言ってるのに止めてくれないんだもん。今だって、別人かと思うくらいの剣幕だったし。」

しゅんとなる遠坂、目はちょっと涙ぐんでいるように見える。
遠坂の意外な反応に、俺はすぐに後悔した。
ゴメン、俺こんな風に責めるつもりなんて無かったんだ。

「いやすまん、謝る、いまのはちょっと言い過ぎた。今の言葉にウソはないけどちょっと冷静さを欠いてた、ゴメン。」
「…………」

うつむいたまま上目使いでこちらを覗きこむ遠坂。
だからそれ俺には反則だってば。我慢できなくなってしまう。
あれ、なんで我慢する必要があるんだ? ええいもうどうにでもなれって言うんだ。

――――――俺は、遠坂を抱き寄せていた。

「あ。」
「あ。」

二人で息をのむ。
遠坂は俺の不意打ちとも言える行動に。
俺は自分でも意図していなかった自分の行動に。

「伝えたいことは伝えた。でも遠坂を悲しませるつもりであんなこと言ったんじゃない。責めるつもりもなかったんだ。ごめん。」
「ううん。私のほうこそ、ごめん。士郎がそんなに辛い思いをしてるのに気づかないフリをしてた…」

そして、俺と遠坂は、抱き合ったまま、お互いの唇をついばむように、何度も口づけをした……

「……なに喧嘩してるんですか、遠坂先輩、衛宮先輩!!」

しかしその直後、客間での騒ぎに何事かと現れた桜によってそれ以上の行動は阻止されたのであった。

翌日、遠坂は「また男の子に泣かされた〜、責任とれ〜。」と、くらくらしそうな位可愛い台詞を俺に聞かせてくれた。


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