セイバーの決意3  傾:ほのぼの


メッセージ一覧

1: トッティ (2004/02/27 21:49:00)[wordcard6 at hotmail.com]


「今日は藤ねえ遅いな」
「でもそろそろ来るんじゃない?待っててもいいけど、私としては早く食べてほしいのよね。中華は熱いうちに食べないと犯罪的にまずくなるから」
「そうですね、先に食べていてもいいのではないですか、シロウ。タイガはそのくらいで気を悪くするような人ではないでしょう」
「果たしてそうかな」
とかなんとか言いながら最初に箸をつけ始めたのは士郎だった。今日の当番は凛だ。実は凛の料理を士郎は食べたくてしかたなかったのだった。

「相変わらずうまいなあ。なあ遠坂、今度作り方教えてくれよ。中華モノも覚えたいんだ」
「ええ、いいわよ…」
言いかけて凛はニヤっと笑う。
「と思ったけどどうしよっかなあ。士郎の得意分野でアドバンテージ保持しておきたいのよね。ほら、常に自分より上だって思わせておくのが上手な犬のしつけ方だって言うじゃない?」
「まあまあ、いいではないですか、凛。強敵と書いて友と読むのです。ライバルがいる方が、自分の鍛錬にもなるのではないですか?」
「ま、まあそう言われればそうなんだけど」
なにかに影響されたとした思えないセイバーの発言にたじろぐ凛。

「そういえば、パートのまきこが今度の町議会選に出馬するそうですよ」
いきなり話題が変わった。
「へえ、まきこって田中まきこさん?あの人政治家になるんだ?じゃあ俺知り合いのよしみで入れようかな」
何気なく相槌をうつ士郎に、
「シロウ、知っている人だからと言って何も考えずに投票するのは良くありません。その人の政策や主張をよく知った上で投票しなければ。民主主義国家は国民達が主人であることを忘れてはいけません。そのような一種の人気投票化した選挙はプレビシットと呼ばれる民主主義衰退の一形態です」
と、食事する手を一切休めていないにも関わらずセイバーは演説した。食うとしゃべるは両立しないと思うのだが。
「そうよね、そもそもナチス台頭もそういう経路を辿っていたと言えるわ。議会制民主主義においては…」
何故か凛がその話題に乗ってしまった。熱く政治を語る凛とセイバーを尻目に一人考え事に走る士郎。

最近セイバーはよく話すようになった。以前は食事中もどちらかというと黙々と食べていたのだが。バイトを始めてもう大分たった。セイバーは試食販売をよく担当しているようだが、なんだか楽しそうだ。少しずつ変わっていくセイバーが、士郎は嬉しかった。
(俺がセイバーに伝えたいことは、アイツが伝えたかったこととは違って来ているかもしれない。でもそれでもいいんだ。こういう平穏な日々だって、王としての日々に負けないくらい光輝くものなはずだ、きっと)

と、士郎は何かいいことを考えていたのだが、その思考は当然居間に飛び込んできたうっさいタイガーに中断されてしまった。
「ねえねえねえねえ、これ見た〜〜!?セイバーちゃんすごいよぅ!」
うっさいタイガーが手に持っているのは冬木市のタウン情報誌「モト冬木」だ。
「このページ見てよ、セイバーちゃんが載ってるの!」
開いているのは「町の有名人」というページだ。
そこにはまるまる1ページ使って、セイバーが大きく取り上げれらていた。そこには、

「カリスマ店員現る!」
「美少女試食販売員!」
などといったテロップがでかでかと付いている。ふきだしもついており、
「あなたの心にエクスカリバー はぁと」
などと書かれている。まるで証明書写真のようなクソ真面目な顔をしたセイバーの写真にそのセリフは全然あっていない。

「ね〜〜〜、すごいでしょう!!」
はしゃぐ藤ねえに対し、慌てる士郎とセイバー。
「な、セイバー、おま、いつの間にこんな!?」
「そ、そう言えばこの間、『雑誌に載せるから、写真を撮らせてほしい』と言ってきた男達がいました。何のことかよく分からなかったのですが、大した手間はとらせないとのことでしたから引き受けてしまったのです。まさかこんなことになるとは…」
凛と難しい話してたわりにはくだらないことを知らなかったようだ。悔しそうに、くっ、と唇をかむ。

一人凛だけは慌てず、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。
「それにしてもセイバー、なかなか扇情的なセリフじゃない?大胆ね」
なっ、とセイバーは思わず絶句する。
「ち、違います。私はこんなことを言ってはいません!本当です、信じてください!シロウ!」
何故か士郎に向かって力説するセイバー。いつになくテンパっている。
「え、あ、その、もちろん。もちろん信じてるよ。セイバーは他のやつにこんなこと言ったりしない…」
付け加えるなら士郎にも言ったりしない。キャラじゃないし。
だがテンパりセイバーにつっこむ余裕はなかったようだ。
「あ、そうですか…。シロウが信じてくれてよかった…」
頬を染めてうつむく。士郎は顔が熱くなってくるのを感じていた。
「セイバー…」
場の空気がピンク色になりかけたが…

「やめてぇぇぇぇぇ!爪のすきまに針差し込むのはマジ、マジ、拷問だから!あああ!もう痛すぎて逆に気持ちいい…」
士郎の悲鳴で元に戻った。
今日も凛は墓穴をほってしまったのだった。





セイバーが「モト冬木」に載って以来、セイバーを指名する客(セイバーのレジに並ぶ客)はますます増えた。
さすがのセイバーも辟易気味だ。いくらなんでも疲れがたまる。
「セイバーちゃん、がんばってな」
「ハァハァ…セイバータン」
「セイバーちゃん、また来るよ」
「ハァハァ…セイバータン」
「セイバーちゃん、今日もキレイだね」
「ハァハァ…セイバータン」
ハァハァいう客もなんか増えた。

もう正直全ての客の顔は覚えられていないのだが、その中で一人だけ、印象に残っている客がいた。
髪をアッシュに染めていて、日に焼けていて精悍だが、どこか少年らしいあどけなさも残した顔立ち。
とても普通に人には着こなせないと思われる赤いコートを見事に着こなした青年だ。
いつも同じ時間に来て、いつも乾燥わかめしか買わない。
彼は一度もセイバーに声をかけてきたことはない。
しかし、よく知っている人物に似ている気がして、セイバーの印象に残っていたのだ。
彼は今日もやってきた。んで、乾燥わかめ買った。
「ありがとうございました」
「……………」

店を出た青年は、さっそく買った乾燥わかめにかぶりつく。
「まいったな、私は自分で思っていたより奥手だったらしい」
そう一人ごちる。
と、そばにいたもう一人の青年が彼のそばに寄ってきた。どうやら彼を待っていたらしい。
その青年は青系の色でコーディネイトをまとめ、大きめのピアスをしている。彼も精悍な顔立ちで、猛獣のような鋭さを感じるがどこか人好きのする笑みを浮かべていた。
「おい、阿地谷。少し待っててくれっていうからなんだと思えば、お前、そういうことかよ」
ニヤニヤ笑いながら話かける。青年は少し言葉につまったようだが、
「なんだと乱崎、お前に言われたくはないな。お前だって坂の上の屋敷のお嬢さんにお熱だろう?」
「まあな、否定はしねえよ。最近見ないんで、少し気落ちしてんだけどな。それはともかく急がないとやばいんじゃないのか?遅れるだろ」
「そうだな、すまない。先を急ごう。もうグーチョキパーはやらないで普通に歩いたほうがいいな」
そう言うと二人は歩きだした。
「というか、俺達ロリコンなんじゃねえのか?」
「…………」
答える声はなかった。

名前の読み方はアチヤとランサキです。




いつものバイトの帰り道。セイバーは一人でてくてく歩く。家に帰ればおいしい夕食があるはずだ。早く家に帰りたかった。
(しかし妙です。バイト中、試食品をあれだけ試食していたにも関わらずこの空腹とは。やはりいくら凛が卓越した魔術師とはいえ、サーヴァントが聖杯の力無しに現界するというのは、なんらかの弊害があるのですね)
聖杯戦争の頃と燃費の悪さは特に変わっていないことはすっかり忘れてしまったようだ。
腹減りセイバーは衛宮家に続くわき道に入った。この辺りは街頭が少なく、夜になるとかなり暗くなる。とはいえ、サーヴァントたるセイバーには何の障害にもならないのだが。
ふと、セイバーは暗がりに何かが落ちていることに気づいた。セイバーの直感能力は強力であり、未来予知に近いレベルに達している。セイバーにはその何かが食べ物であることがすぐに分かった。もうピンときた。
駆け寄りたくなる気持ちをおさえ、優雅さを保ったままその何かのところまで歩く。

「こ、これは!!」

カニだった。
カニは甲羅にヒモがからまっている。どうやらお歳暮かなんかで贈られてきたカニが、どこかの家から逃げ出してきてここで力尽きたのだろう。
セイバーはカニを手に取ると、目をつぶり、黙祷を捧げた。

そして早速食いながら家に向かってまた歩き始めた。





その日の夜、士郎がそろそろ寝ようと思っていると隣のセイバーが寝ている部屋から苦しそうな声が聞こえてくる。
「ど、どうしたんだ、セイバー!」
以前、エクスカリバー(調理じゃなくて勝利の剣の方)を使い、魔力を失いかけていたセイバーの様子を思い出した士郎は不安になった。
士郎は急いで隣の部屋に向かう。まさか!セイバーは消えてしまうのか!?士郎の不安は一気にふくれあがった。もともとサーヴァントを聖杯の力無しで現世にとどめることに無理があったのかと。
部屋に入り、布団の中で苦しそうにしているセイバーに駆け寄ると、額に手を当てる。
「あ…、シロウ…」
「あ、熱い!あの時と同じだ!一体どうしたんだ、セイバー!さっきまであんなに元気だったのに」
「だ、大丈夫です…。なんでもありません…」
そういうセイバーは苦しそうだ。
「大丈夫なわけあるか!待ってろ、今遠坂を呼んでくるからな!」

呼んできた。

「どうなんだ!遠坂、セイバーはどうしちまったんだ!?」
セイバーを診ていた凛は、ふぅと息をつくと士郎の方に振り返り、
「…セイバーから感じる魔力が少なくなってるわ。どうしてかしら、理論的にはサーヴァント維持に問題はなかったはずなのに」
士郎は思わず取り乱す。
「なんとかしてやってくれ!このまま消えるなんてあんまりだ!」
「私だってなんとかしたいわよ!セイバーがいなくなるなんてイヤだから。でもどうしたら…。原因が分からないんだもの!」

二人とも原因を必死になって考える。そして同時にはっ、と何かに気づいたように顔をあげた。
単純に、凛の魔力量が足りなくなったでは?そして何故足りなくなったかと言えば…
「ちょっと士郎、最近あなたすぐ寝ちゃうからダメなんじゃないの?」
「え、あ、いや、どうも疲れ気味でさあ…」
「そーゆう問題!?」
「そ、そうだよ!そりゃあ遠坂は楽でいいよな、どっちかって言うと疲れるのは俺だし…」
「何言ってんのよ!!こっちはこっちでいろいろ苦労があるんだからね!」
「だって、おま…」

その時セイバーがうう、と苦しげに呻いた。
二人ははっとして、自分を恥じた。病人の枕元でケンカ(しかも微妙な内容の)をするなど。
「あ、ごめん、セイバー…」
「う、原因は…」
二人は顔を見合わせた。
「心辺りがあるの!?」
「あるのか!?」
「う、原因は…。カニ…」

食あたりだった。
サーヴァントでも食あたりにはなるのだ。食事もするし、体の中身は霊的な存在であるとはいえ、人間と同じ。そうそう病気になったりはしないが、たまにはなる。魔力量が少なくなっていたのは食あたりの治療のため、胃に魔力が集まっていたので外に放出する分が少なくなっていたのだった。



このカニの呪いは相当強く、セイバーが復調するまで一週間近くかかった。
(もう生モノの拾い食いはしない…)



                  続く


記事一覧へ戻る(I)