注:作者はシリアスのつもりで書いています(ぉ)
中編です 前編みようね☆
食べ物を粗末にするのはやめましょう真似しちゃダメですよ(何
偽物の願い。
借り物の料理。
そのユメは叶わないと蔑む誰か。
…そう、その通りだ。
この思いは借り物。
誰かを助けたいという願いが、キレイだったから憧れただけ。
だから偽物。
そんな偽善は結局何も救えない。
もとより、何を救うべきかも定まらない。
だが。
”・・・これを食べるといい、急がないでゆっくり食べなさい”
だが、それでも美しいと感じたんだ。
これは自分から生じたものじゃない。
誰かを食で救う誰かの姿をみて真似ただけの飾り物だ。
あのとき、自分のなかは空っぽだった。
誰もが平等に餓えて、死んで、自分では誰一人救えなかった。
人間なんてそんなものだと諦めるしか、目の前の恐怖を抑えられなかった。
死ぬのが当然だと思い知らされて、心には何もなかった。
その時に、助けられた。
”・・・おいしいかい?よかった”
俺を助けた男は、目に涙をためて微笑んでいた。
――だから。
だからこそ、その理想に憧れた。
「あの」アーチャー最終章・中篇
だからこそ、その理想に憧れた。
自分では持ち得ないから、その美味さに涙した。
いけないのか。
自分の料理ではないから、それは偽物なのか。
偽物だから、届いてはいけないのか。
―――違う。それはきっと、違うと思う。
偽物でもいい。
叶えられない理想でも叶えるだけ。
もとより届かないユメ、はや辿り着けぬ領域。
―――なら、衛宮士郎が偽物だとしても。
そこにある物だけは、紛れなく本物だろう。
「―――そうだ。そんなこと、とっくに」
全てを救う事はできないと。
誰かが犠牲にならなければ救いはないと、解っている。
餓えてる人がいるからこそ、食にめぐまれてる人がいる。
大人になったから、それが現実なのだと理解してる。
その上で、そんなものが理想にすぎないと知った上で、
なお理想を求め続けた。
作って終わり、ではなく。
多くを救うために料理して、それが最善であっても、それでも―――誰も餓えない幸福を求め続ける。
正義などこの世にはない、と。
現実とは無価値に人が餓え続けるものだと。
そんな悟ったような諦めが、正しいとは思わない!
その果てに、ヤツはここに辿り着いた。
おまえが信じるもの。
おまえが信じたもの。
その正体が偽善だと男は言った。
それでも、そう言った男こそが、最後までその偽善を貫きとおしたのだ。
餓えを救うため、人が食えないような辛味を食いつくし。
店を救うため、借金してでも通いつくし。
最後まで貫き通したのだ。
…ならやっていける。
借り物のまま、偽物のままでも構わない。
だいたい、そんな事を気にするほど複雑な味覚はもっちゃいない。
そう、麻婆豆腐の丘で独り思った。
自分に見える世界だけでも救えるのなら、その為に作ろうと、その為に食いつくそうと。
こんなこと、考えるまでもなかったんだ。
窮歪な自分の世界。
もとより自分が生み出せるのは、この小さな"世界"だけなんだから―――
――――そう。
この体は、辛味で出来ている。
…ああ、だから多少の辛味には耐えていける。
衛宮士郎は、最後までこのユメを張り続けられる。
…磨耗しきる長い年月。
たとえその先に。
求めたものが、何一つないとしても。
「―――なんだ、それだけの事じゃないか!」
「っ―――――!?」
体を起こす。
意識が戻った途端、手足は言う事を聞いてくれた。
勢いよく起きあがった体はまだ動く。
あの料理の異臭を受け、生きているばかりか立ち上がれる事が不可思議だが、そんな事はどうでもいい。
助かったというのなら、何か助かる理由があったのだ。
単にそれが、俺の預かり知らぬ物であっただけ。
「直前に器を敷いたのか…?出し惜しんだとは言え、致命傷だった筈だが。
――――存外にしぶといな…しぶといアルな小僧」
「出し惜しみ・・・・?は、そんだけ山ほど持っておいて、今更なにを惜しむってんだ」
呼吸を整えながら距離を保つ。
やり方は解った。
遠坂のバックアップがあるんなら、きっと出来る。
問題は詠唱時間だ。
一応暗記したとは言え、どれだけ速く自身に働きかけられるかは、やってみないと判らない―――
「――――ふん。今のは我が英雄時代、生まれて初めて作った料理アル。興が乗った故見せてやったアルが、
本来雑種などに食わすモノではないアルよ。
エアを食っていい権利を持つ者はセイバーだけだ。
おまえのような偽物に食わしては、セイバーに合わせる顔がないアルね」
――――つまり、要約すると。
あれはギルガメッシュが生きている時初めて作ったモノで、
味覚がオカシイあいつが作ったモノの上。
いったい何千年たっているんだ…。
トレースできなくて、よかったと心底おもってしまった。
無数の料理が出現する。
が、それは全て三流ではなく一流だ。
先ほどの料理(?)を見た後だと、格の違いは明白すぎる。
かといって楽観できるものではない。
本来、衛宮士郎を殺すにはそれで十分すぎるほどやばい。
―――実力差は変わらない。
「ほう、真似事はおしまいアルか。ようやく無駄だと判ったアルね。―――ならば潔く消えるがいい。
偽物を造るその頭蓋、一片たりとも残しはせん―――アル!」
中空に浮かぶ料理が繰り出される。
それを、
「シロウ…!」
俺たちの間に割って入った、青い突風が食い尽くした。
「セイバーか・・・!」
咄嗟に後方に飛ぶギルガメッシュ。
いかにヤツとて、セイバーだけは警戒している。
こと剣技からっきしのヤツにすれば、辛味が効かないセイバーとの白兵戦は避けたいのだろう。
「―――良かった。無事ですか、シロウ。
お腹すきました――――いえ、遅くなりました。後は私が受け持ちます。シロウは離れて―――」
「いや。ギルガメッシュは俺一人でなんとかできる。離れるのはそっちだ、セイバー」
「な――――」
「―――に?」
「な、なにを言うのですシロウ…!その体で彼の相手をすると?いえ、そもそも魔術師
ではサーヴァントには太刀打ちできない。それは貴方も良く知っているでしょう…!」
「ああ。けど俺とアイツだけは例外だ。信じろ。
俺は、きっとあいつに勝てる」
意外と大食いだったのですね…と息を呑むセイバー。
セイバーは俺の言葉を信じてるからこそ、その事実に目を点にしている。
……かなりの勘違いだが今は正す時間さえ惜しい。
「セイバーは境内の裏に急いでくれ。遠坂が一人で聖杯を止めてる。けど、アレを壊せるのはセイバーだけだ」
「―――――」
数秒…いや、実際は一秒もなかっただろう。
彼女は一度だけ深く目蓋を閉じたあと、
「ご武運を。―――凛は、私が必ず」
一番言って欲しい事を口にして、ギルガメッシュから身を退いた。
銀の甲冑が背を向ける。
「セイバー」
その背中を、一度だけ呼び止めた。
「―――おまえを救う事が、オレにはできなかった」
そうして言った。
俺が彼女と過ごした時間、ヤツが彼女を思っていた時間を、せめて代弁できるように。
「あの聖杯はおまえが望んでいる物じゃないと思う」
「・・・では食べれますか?」
「それもないと思う。…だからよく見極めておくんだ。次は、決して間違わないように」
「―――シロウ?」
「…ごめん。うまく言えない。俺はおまえのマスターには相応しくなかったんだろう。だから――」
おまえの本当の望みを、見つけてやる事さえ出来なかった。
「そんな事はない。シロウの料理はとてもおいしかった」
「―――セイバー」
会話が繋がってないぞ。
「サーヴァントとしての義務を果たしてきます。伝えたい事は、その後に」
振り返らず走っていく。
セイバーは去っていった。
疑いなど微塵もなく、ヤツに勝つと言った俺の言葉を信じて、遠坂を救いにいった。
―――さあ、行こう。
ここから先に迷いなどない。
あとはただ、目前の敵を倒すだけ。
「ふ―――――はは、ははははははははは!!!」
よほどおかしいのか、語尾にアルをつけるのも忘れて奴は笑いだした。
「正気か貴様?ただ一つの勝機を逃し、あの小娘を助けさせるだと?
―――たわけめ、自らを犠牲にする行為など全て偽りにすぎぬ。それを未だ悟れぬとは、筋金の入った偽善者だ。
ああ、それだけは讃えてアルよ、小僧」
料理が展開される。
―――数にして三十弱。
防ぎきるには、もはや作り上げるしかない。
「…贋作、偽善者か。ああ、別にそういうのも悪くない。たしかに俺は偽物だからな」
片手を中空に差し出す。
片目を瞑り、内面に心を飛ばす。
「ぬ―――?」
「…勘違いしてた。俺の料理製っていうのは、メシを作る事じゃないんだ。
そもそも俺には、そんな味覚や器用さはない」
そう。
遠坂は言っていた。もともと俺の魔術はその一つだけ。
味付けも投影も、その途中で出来ている副産物に過ぎないと。
「…そうだ。俺に出来る事は唯一つ。自分の心を、形にする事だけだった」
ゆらり、と
前に伸ばした右腕を左手で握り締め、ギルガメッシュを凝視する。
「――――I am the bone of spice」
その呪文を口にする。
詠唱とは自己を変革させる暗示にすぎない。
この言葉は、当然のように在った、衛宮士郎を繋げるモノ。
「そうアルか。世迷い言はそこまでアルよ」
放たれる無数の料理。
―――造る。
片目を開けているのはこの為だ。
向かってくる料理を防ぐ為だけに、丘から器を引きずり上げる―――!
「ぐーーー!」
舞い降りる辛味の群。
盾は衛宮士郎自身だ。
七枚皿の盾がひび割れ、砕かれるたびに味覚が欠けていく。
塩味,酸味,甘味,苦味、嗅覚,触覚
そして痛覚といわれている辛味。
「―――Toufu is my body, and spice is my blood」
導く先は一点のみ。
堰を切って溢れ出す辛味は、瞬時に衛宮士郎の限度を満たす。
「な――――に?」
驚愕は何に対してか。
たった一枚の器をも突破できない自らの料理に対してか、
それとも―――眼前に迸る魔力の流れにか。
「―――I have created over a thousand spicy but groce.
Unknown to Order.
Nor known to finish」
溢れる。
溢れ出す魔力は、もはや抑えが効かない。
「―――突破できぬ、アル―――?」
胃液が逆流する。
盾はもう所々虫食いだらけだ。
今までヤツの料理が届かなかったにせよ、その時点で衛宮士郎の味覚は欠けている。
それでも―――
「――――Withstood pain to move chinese spoon.
waiting for one's can eat it」
魔力は猛り狂う。
だが構わない。
もとよりこの身は『ある魔術』を成し得る為だけの回路。
ならば先がある筈だ。
この回路で造れないなら、その先は必ずある。
…いや、今だってそれはある。
ただ認めてないだけ。
味覚の限度など、初めからなかったのだ。
せき止めるものが壁ではなく闇ならば。
開き直ったその先に、この身体の限度がある―――
「―――I have no regrets about eat. This is the only path.」
一の回路に満ちた十の魔力は、その逃げ場を求めて味覚を壊し―――
百の回路をもって、千の魔力を引き入れる。
「――My whole life was "unlimited spicy works"」
真名を口にする。
瞬間
何もかもが砕け、あらゆる料理が再生した。
―――炎が走る。
燃えさかる火は壁となって境界を造り、世界を一変させる。
後には台所。
無数の辛味が乱列した、料理の丘だけが広がっていた。
「――――」
その光景は、ヤツにはどう見えたのか。
黄金のサーヴァントは鬼気迫る形相で、眼前の敵と対峙する。
「…そうだ。辛味を造るんじゃない。
俺は、無限に辛味を内包した世界を作る。
それだけが、衛宮士郎に許された魔術だった」
禍赤い世界。
食う人のいない、辛味だけが眠る墓場。
直視しただけで料理を複製するこの世界において、存在しない辛味などない。
それが、衛宮士郎の世界だった。
固有結界。
術者の心象世界を具現化する最大の禁呪。
英霊エミヤの宝具であり、この身が持つただ一つの武器。
ここには全てがあり、おそらくは何もない。
故に、その名を”アンリミテッド スパイシー ワークス”
生涯を食として生きたモノが手に入れた、唯一つの確かな答え―――
「―――固有結界。ソレが貴様の能力アルか・・・・!」
一歩踏み出す。
左右には、ヤツの背後に浮かぶ料理が陳列している。
「驚く事はない。これは全て偽物だ。
お前の言う、取るに足らない存在だ」
両手を伸ばす。
地に置かれている料理は、食い手と認めるように容易くもち上がった。
「だがな、偽物が本場に敵わない、なんて通理はない。
お前が本物だというなら、悉くを凌駕して、その存在を叩き堕とそう」
前に出る。
目前には、千の料理を持つサーヴァント。
「いくぞ英雄王――――飲料水の貯蔵は十分か」
続く。
ギル様のエア…想像は身を滅ぼしますのでやめましょう(ぉ
士郎ついに完全に開き直りました(遠い目
次回は今度こそ 決着、そしてエピローグです
ええ 今度こそ(汗