「あの」アーチャー最終章 前編 傾:シリアス ギャグ


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1: (2004/02/27 02:16:00)

注:これは「あの」アーチャーシリーズ最終章です
  全てお読みしてから読んだようがよいです
  綺麗にまとめるためギャグは少ないです
  登場している人物はいたって真面目にやっております(問題)
  ねたばれありなのでご注意ください

「つぁ…!」

繰り出されるオタマを弾く。
展開された獄熱の料理は十を越え、その全てが衛宮士郎に襲い掛かる。

「く、っ…!!!!」

砕け散ったレンゲを投げ捨てて、次に備える。

「は、はあ、は―――」

乱れた呼吸を一息で正常に戻す。
息吹が乱れれば投影は出来ず、食器がなければ、この体はアイツ好みに味付けされるだろう。

「はっ、づ―――!」

この戦いは、ヤツとの戦いじゃない。
自分の限界との戦い、
辛味に我慢ができず、投影の速度と精度が落ちた時こそ、衛宮士郎が消える時だ。

「は―――そら、食休みには早すぎるアルよ!」
「っ…!」

ヤツの声に応じ、見たこともない"真赤"が降りかかる。
グツグツ、と音をたてて現れたそれは、そのまま必殺の速度をもって―――

「投影―――ぐっ―――!」

相殺しきれず、左手に少々掛かる。
咄嗟に横に転がり、地面にこすりつける。

「どうした、質が落ちているぞ。そのような辛さでは複製とは言えんな…言えないアルな」
…嘲笑う声。
ヤツは明らかに楽しんでいる。
それは客が全然入らず、いままで振るう事ができなかった料理を思う存分だしているのだ。
背後にゆらめく料理を一斉に放てば、俺に防ぐ術などない。
だというのに一品づつ、こちらの限界を試すように手を抜いている。

「は―――はぁ、は―――」
…だが、今はそれが幸いしている。
いくら遠坂にバックアップして貰っているからといって、相手の料理を見てからの投影は困難すぎた。

似せられるのは辛さだけ。
その内面にある材料までは設計できず、こうして一撃防ぐ度にだめになる。
というか、何故こんな風に戦っている俺はと今は必要ない理性が脳の奥でささやく。
だがそれに耳を傾けたら、負けてしまう。

「く――あの、ヤロウ、こんなんで、どうやって―――」

アイツに勝てるのは俺だけだとヤツは言った。
だが実際はこの始末だ。

二つ。最低でも二つの武器が必要だ。
一つは同時に投影する事。
もう一つは自分が今まで培っていた常識を捨てること。

「どうした。歯ごたえがあるのは和食だけアルかフェイカー」

転がりまわる俺の姿が気に入ったのか、ヤツはあくまで愉しげだ。

「―――投影、開始」
…視認できるヤツの料理は十七品。

その外見から内部構造を読み取り、創作理念を引き出し構成材料を選び出す―――

「うっぷ―――!!」

それだけで吐きそうになる。
投影をはじめてから神経は傷つき、体は内側から崩壊している。
胃には嫌なものが溜まり、食堂はポンプのように、胃液を外に吐き出そうとする。

「―――憑依経験、共感終了あ…」

憑依経験のせいか語尾にアルが付きそうになる。
それを飲み込んで、工程を推し進める。
和食ではヤツの料理は防げない。
もちろん宝具を投影したところで防げない。
アーチャーほどの麻婆豆腐があれば防げるだろうが、
俺にそこまで自分の味覚を捨てる度胸はない。

俺が相手の攻撃を防ぐ方法はただ一つ。
放たれる料理とまったく同じ料理をぶつける事で、単純に相殺するしかない―――!

「ほう。今度は多いな。十、十五、十七・・・そうか、目に見える我の料理を全て複製した訳アルか」
「だまれ似非中国人、アルなんて今時つける奴はいない」
というか、元々つけない。
「舐めるなアル。本場の修業を体験したわけでもなく何が似非か。お前にアルの素晴らしさはわからないアルよ」
「―――」
その台詞に、不意をつかれた。
千の財宝と料理を所有する英雄王は、本気でそんな事を言っているのか、と。

「では、採点アルよ。もっとも―――いかに精巧であろうと、一品たりと世には残さんが…アルが」

ギルガメッシュの腕があがる。

「く―――!お前結構無理矢理言っているだろう!」

反応が遅れた。
ヤツの言葉に気をとられた隙が、絶望的なまでに後手―――!

放たれる十七の料理。
"紅州宴歳館の料理"。その一部が、遊びは終わりだとばかりに雪崩れこむ…!

「っ―――停止解凍、全投影連続層写―――!!!」


ぶつかり合う真っ赤な物。
「は―――ぐ―――!」

体がブレる。
ぶつかり合う料理とも言えぬ料理の異臭と。
それでも勿体無いお化けがでるんじゃないかと、意外と小心者の自分が居た事の発見で、
衝撃で身を震わせる。

「はは、即席料理にしてはよく持つが、それもあと数撃アルか。そら、急いで真似ねば火傷じゃすまないぞ」

「っ―――アル付け忘れているぞ!」

「はは、即席料理にしてはよく持つが、それもあと数撃アルか。そら、急いで真似ねば火傷じゃすまないアルよ」
何事もなかったように言い直しやがった。
「つ――――!」
前面に突き出した指先が焼ける。
自ら放出する料理と、その寸前で衝突し、弾け合う料理の熱が、容赦なく指を妬いていく。

残る料理はあと三品。
それを防ぎきるまで体は保つのか。
いや、そうじゃなくて、考えるべき事は俺の料理とアーチャーの料理、
その違いはなんなのかと―――

「―――――え?」

瞬間、あらゆる感覚が停止した。
迫り来る残り三品の料理させ眼に入らない。
黄金のサーヴァントは、一つの皿を取り出していた。

奇怪な料理。
どす黒いソレを見た時点で、思考が白熱したと言ってもいい。

「女を救うと言ったアルな、小僧」

料理の匂いにのって、嘲笑う声が響く。
回路に残る3つの魔術を全て破棄し、全速でヤツの料理を解読する。

だが。

"―――読め、ない…?"

今まで、それが料理であるならどんな物だって読み取れたというのに。
あの料理だけは、その構造さえ読み取れ、ない。

「ならば食ってみろ。我が真の料理を前に、何が救えるのかを!」

―――匂いが、空間の断層を作り上げる。
ギルガメッシュの器から放たれた異臭は、自らの料理さえ腐らせて衛宮士郎に襲い掛かる。

「―――――」

思考は白いまま。
対抗策など何も考えられずに、ただ、残った魔力を叩きつけた―――




瞬間。ここまで見てきた内、最硬の物を前面に展開した。
だが、そんなものは盾にもならない。
ヤツの手にした正体不明な料理は、ソレを融かし、俺の体に襲い掛かった。

消えていく。
回線は断線していき、遠坂から貰った魔力は行き場をなくして戻っていく。

「く――――そ」

不甲斐なさを呪う。
自分が未熟なのは判っていた。それでも今まで一度も思わなかった事を、
心の底から罵倒した。

なぜ、ここにきてこんな物を投影したのかと。
この世界で辛味に対抗できるのは辛味だけだと。
もう少し多く、あの非常識の先に手が伸ばせたのなら、
もう少し多く、自分の常識を捨てれたのなら、
アイツのように戦って―――

―――地面に落ちる。

衝撃を殺しきれず、何十メートルと吹き飛んで、背中から地面に落ちた。
たかが料理の放つ異臭で。

落下による痛みはない。
そんな感覚はもう残っていない。
この意識さえ、白く戦場されていく。

…死に行く直前。
最後に思ったことは、よく鼻がひん曲がってないな、という驚きだった。

「そこまでアルか。やはり偽者は偽者だったアルね。おまえでは何も救えない」

・・・鼓動が小さくなっていく。
肺はうこがず、呼吸をする為の器官は、そのどれもが固まっていた。

「これならばアーチャーが残った方が楽しめた。
ヤツも贋作者だったが、その味覚は俗物ではなかったからな」

もう料理人の自分は終わりとばかりに、普通のしゃべり方にもどる英雄王。
このまま放っておけば、簡単に死ぬことが―――

「―――ああ。そういえばヤツも言っていたな。お前の理念は借り物だと。
自身から生み出した料理が一つとしてない男が何かを成そうななど、
よくも思い上がれたものだ」

―――それは、できない。
このまま正気に戻れば臭みだけで発狂するとしても、意識を取り戻して立て、と。
深い所に根付いた自分が、あの場所を指して言っている。

「料理の味方?誰も餓えない世界だと?
おかしな事を。誰も餓えず幸福を保つ世界などない。
人間とは犠牲が無くては生を謳歌できぬ獣の名だ。
甘味辛味平等という綺麗事は、真の料理を理解できぬ弱者の戯言にすぎぬ。
―――雑種。おまえの理想とやらは、醜さを覆い隠すだけの言い訳にすぎん」

「――――」
…動かない筈の腕を、上げた。
倒れた体と、死に至る直前の意識。
何かを掴むようにあげられた片腕は、あの日の、灰色の空と同じだった。

…なにがおかしいのか、誰かが笑っている。
耳を覆う高笑いは、世界中の人間の、笑い声のようでもあった。

偽物の願い。
借り物の料理。
そのユメは叶わないと蔑む誰か。

…そう、その通りだ。
この思いは借り物。
誰かを助けたいという願いが、キレイだったから憧れただけ。

だから偽物。
そんな偽善は結局何も救えない。
もとより、何を救うべきかも定まらない。

だが。

”・・・これを食べるといい、急がないでゆっくり食べなさい”

だが、それでも美しいと感じたんだ。

これは自分から生じたものじゃない。
誰かを食で救う誰かの姿をみて真似ただけの飾り物だ。

あのとき、自分のなかは空っぽだった。

誰もが平等に餓えて、死んで、自分では誰一人救えなかった。
人間なんてそんなものだと諦めるしか、目の前の恐怖を抑えられなかった。

死ぬのが当然だと思い知らされて、心には何もなかった。
その時に、助けられた。

”・・・おいしいかい?よかった”

俺を助けた男は、目に涙をためて微笑んでいた。

――だから。

だからこそ、その理想に憧れた。


続く







あとがきのようなもの

いままで壊れたアーチャーと壊れてない人物だったからこそギャグとして成り立つのだなと
おもいっきり執筆中に納得しました(涙
笑えない;
後半はセイバー かつ エンディングにそる予定なのです


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