衛宮士郎の投影魔術は不完全な代物である。
オリジナルのコピーを自己と同一の時間軸に物質化するのが本来の投影魔術であるのに対して、
士郎の投影はその一行程前で止まってしまう。
現実世界に映し出す事ができない、魔術とは呼べない出来損ないなのだ。
だから今も、
セイバーを守るために投影しようとした<ロー・アイアス>は士郎の内的宇宙に漂うだけ。
唸りを上げて襲い来るバーサーカーの斧剣を防ぐことなど不可能であり、
士郎の肉体はボロクズのように破壊されるのみ。
無様な死を晒すでけである。
だからそう、
銀の少女が息を呑むことなどありえないし、
黄金の髪の騎士が戦いを忘れて呆然としてしまうこともありえず、
ましてや狂える巨人戦士が退くなぞありえるハズがないのだ。
士郎が未熟な魔術使いであるかぎりは・・・
「・・・なんで」
イリヤの呟きを遠くに聞きながら士郎は意識を内へと向ける。
先のバーサーカーの猛攻でズタズタに引き裂かれた<ロー・アイアス>の七枚の花弁を突貫工事で修復する。
「シロウ。・・・貴方は・・・」
セイバーの声は全身が発する絶叫に掻き消される。
超人的な身体運動を強制された結果、引き千切れ、砕け散り、抉り取れ、弾け飛んで徹底的に壊れた五体の叫びであり、
同化しているセイバーの鞘が問答無用で欠損部分を復元しているために生じる激痛であがる叫び声。
バーサーカーは何も語らない。
ただ士郎を倒すべき相手と認め、全身に鉄の気を満たす。
そう、
士郎の投影魔術は使えない。
だから使えるように工夫するだけ。
修復を終えた<ロー・アイアス>
空想上の産物にしか過ぎないソレに自分の全てを同調させる。
物質化できないそのかわりに、自分の肉体を用いて物質世界に現出させる。
解析した全てを武術(偽)として再現する。
「・・・さあ、続きをしようぜヘラクレス」
幻想・神秘の体現者。
「殺し合いをさ」
衛宮士郎はしずかに嘲笑う。
正義の味方を目指しながら、
力を振るうことしかできぬ己にむけて。