君と一緒に歩いて行きたい (セイバールートネタバレ有り)
春になった。
淡雪のような冬の気配は、いつの間にか身を潜め
全てを包み込むかのような暖かな空気が辺りに満ちた頃
彼女は戻ってきた。
この、冬木の街に。
「あ・・・・」
声が出ない。
何を言っていいかわからない。
夢か現か。
混乱した頭ではそれすらも判別不可能。
「・・・あ・・・た・・ただいま。」
いろいろ言いたい事はあったのだが・・・
出てきた第一声は、かなり情けないものだった。
「お帰りなさい、シロウ。」
彼女が微笑む。
心臓が蒸発してしまいそうなほどに鼓動を速める。
「あの・・・ちょっ・・」
「シロウ。」
言いかけた言葉を、彼女の言葉が遮る。
「まずは居間に行きましょう。いろいろと言いたい事はあるでしょうが、話は
落ち着いてできるところでする物です。」
「あ、うん。」
足は居間へとむかっているが、頭のほうはいまだ宇宙を彷徨っている。
戻ってこれるんだろうか、オレ。
座布団に腰を落ち着け、目の前の少女に目をやる。
それだけで、ようやく収まりかけていた鼓動が、再び尋常でなく高まる。
「あのさ・・・いろいろ言いたい事はあるんだけど・・・どうして此処にいるんだ?」
何とか口を開き、ストレートに疑問を口にする。
「む。シロウは、私がここにいるのは不満なのですか?」
まさか、そんな事ありえない。
自分と言う器の中に
自分の空洞の中に
自分の空洞を満たしてくれる少女が目の前にいる。
満たされこそすれ、不満などあるわけないじゃないか。
「まさか・・・そんなこと・・・ない。ただ・・・どうやって此処に戻ってきたのかが
不思議なだけだ・・・」
「シロウ。」
彼女が、柔らかな笑みを浮かべる。
「私は、私の理想郷に。収まるべき鞘の元へと帰ってきただけです。」
それだけです。
と、彼女は付け足した。
「ああ・・・そうか。そうなんだよな・・・」
「ええ。私は貴方の剣で。貴方は私の鞘。戦の後、剣が鞘に納められた。それだけです。」
「ん。わかった。そんな事よりさ、腹減ったろ?」
そう。それは当然の事。なら、気にする必要などない。
「はい。とても。」
「わかった。さて、藤ねぇに続いて大食漢が『また』増えたから、食事の用意も
大変だな。」
「し・・・シロウ!私はタイガほどは食べない!たしかに、よくは食べるとは
思いますが、炊飯ジャーを一人で空にするほどは食べない!」
彼女が、顔を真っ赤にしてガァーッ!!と吼える。
しかし、腹筋に力を入れたためか、腹の虫が可愛らしく『クゥー』と鳴いたのはご愛嬌。
他愛もない会話。
何気ない会話。
だが
世界で最も貴重な時。
「そうだ、大切な事言い忘れてた。」
「なんですか?」
「・・・お帰り、アルトリア。」
「ただいま、シロウ。」
この後、虎が吼えたりあかいあくまや白いあくまたちが一騒動おこしたりといろいろあったが、
それはまた別の話。
あとがき
始めまして。くぅと言う者です。
初投稿ゆえ、オーソドックスなものを書かせていただきました。
つたない文ですが、読んでいただければ幸いです。