あれはいつのことだっただろう。
いつものように蟲倉に押し込められて、全身を蟲にまさぐられているとき、いかな気紛れか、お爺さまがわたしに妙なコトを教えてくれた。
────おまえはマキリの娘ではない────
その言葉を聞いても大したショックはなかった。そう云った予感めいたモノはいつも感じていたことだったから。
お爺さまは矢継ぎ早に言葉を重ねていく。
わたしは魔術師の娘であること。
わたしには姉がいるということ。
マキリは魔術師ではなくなってしまったこと。
魔術師は一子相伝だからわたしはマキリに遣られたということ。
わたしの両親はわたしなんか要らないのだと云うこと。
お爺さまもわたしにはなんの期待もしていないこと。
わたしは誰にとっても必要とされないこと。
恨め怨め憎め、と。
望むように、願うように、怨むように、呪うように、お爺さまは繰り返した。
わたしはマキリの娘ではないこと。
わたしは魔術師の娘であること。
わたしには姉がいるということ。
マキリは魔術師ではなくなってしまったこと。
魔術師は一子相伝だからわたしはマキリに遣られたということ。
わたしの両親はわたしなんか要らないのだと云うこと。
お爺さまもわたしにはなんの期待もしていないこと。
わたしは誰にとっても必要とされないこと。
恨め怨め憎め、と。
望むように、願うように、怨むように、呪うように。
繰り返される言葉は、しかし殆どわたしには届いていなかった。固い液体のような蟲が蠢く空間に置いて、わたしには全く我というものが残されていなかったから。
体中を這い回る蟲は痛みのような快感をわたしに押し付けてきて、その度に頭の中ががりがりと音を立てて削られていく。
びくん、と身体が痙攣する。蟲が詰まった空間では跳ねるどころか微動だに出来なかった。
膣といわず肛門といわず尿道といわず汗腺といわず毛穴といわず鼻孔といわず口といわず眼窩といわず耳といわず、穴という穴から微細に分裂した蟲が入り込んではわたしという存在を犯していく。身体の表面だけではない。内蔵までもを舐め尽くす。
体験したことのないモノには想像も出来まい。心臓の表面を虫が這い回る感覚など。
だけどわたしは悲鳴一つあげない。あげれない、ということもあるけれど、悲鳴をあげればお爺さまが喜々としてもっと酷いことをしようとするのは経験で知っていた。
にゅるん、とまた蟲が緩んだ肛門から一匹入り込んでくる。わたしの身体はいちいちそれに反応しては鈍い快感で脳を灼いた。
そんな脳味噌に思考する余分は全くと言っていいほど残されていなかった。だから、お爺さまの声は聞こえても理解の外にある。
そんな中で唯一わたしに届いた言葉は、「姉」だった。
わたしには、姉がいるらしい。
内臓を蟲が蠢く。いま、わたしの身体はどうなっているんだろう。
姉。お姉さん。
マキリの兄さんじゃなくて、わたしの本当のお姉さん。
血の繋がった、お姉さん
眼球を蟲が舐める。それに併せてくるくると眼窩が撫でられた。
わたしには、お姉さんがいるんだ。
そうか。
そうか。
そっか。
神経の一本一本ですら蟲になってしまったかのよう。指はまだわたしの思い通りに動くだろうか。
なら、わたしは頑張らないといけない。
こんな地獄で死ぬ訳にはいかない。
恨め怨め憎めとお爺さまは云う。
だってそうだろう。
わたしにはお姉さんがいるんだから。
でも、なにを怨めばいいんだろう。なにを憎めばいいんだろう。
いつか、わたしに会いに来てくれたお姉さんに、わたしは笑顔で挨拶しないといけないだろうから。
まるでわたしは風船のよう。穴を開ければ蟲が溢れて止まらない。
初めまして姉さん、と挨拶をしなければいけないんだ。
だから、わたしは耐えないと。
こんな地獄で耐えないと。
死ぬまでは生きているから、死ぬまで耐え抜かないと。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。自分自身が、マトウサクラが気持ち悪い。
笑顔で。
身体中はもうとっくに犯され尽くして穢れ尽くして汚れ尽くしているけれど。
そんなことは悟られないように、笑顔で。
姉さん、と。
呼びたい、と。
────だけど、もし。
姉さんがこんな汚れたわたしを拒絶したら。
わたしは、どうすればいいんだろう────
それは考えてはいけない疑念だ。
姉さんは、わたしを拒絶したりなんかしない。
ねえさんは、ねえさんは、ねえさんは、ねえさんは、ねえさんは、ねえさんは、ねえさんは、
身体は勝手に絶頂を迎え、
自分が汚らしいイキモノであると悟ってなお望みに縋りたいだなんて思っているのか、と。
身の程を知れ、と。
お爺さまの声が聞こえた。
誰を恨めばよかったんだろう。誰を憎めばよかったんだろう。なにを怨めばよかったんだろう。なにを憎めばよかったんだろう。
どうすれば、わたしはキレイに生きられたのか────────
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感想をもらおう。
なにを寝言云ってやがるのか、と思いつつ、今回はそれを目標に。一つでももらえたら御の字ですが。
他の人が感想もらってるのが羨ましくてしょうがないとか、感想がないのは自分に実力がないからだーと現実を直視すること暫しです。
こんにちは。intoです。
桜ルートのEDファム・ファスタール後のお話。
シリアスなのかダークなのか。
はたまた誰がメインなのか、表記しませんでしたが、一応理由はあるのです。
という訳で、その節はお許しいただけますよう。
中編的な長さになる予定なので、つたない文章ながら、最後まで読んで頂ければ幸いです。
ではでは。