夢を継ぐ一人の男 第6話 二人の男の砦  M:衛宮士郎 傾:シリアス&ほのぼの


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1: Hyperion (2004/02/26 16:24:00)

夢を継ぐ一人の男     第6話 二人の男の砦  MainHero:衛宮士郎
                         傾向:シリアス&ほのぼの

ここにやってきた。
川の流れを逆行し、その神秘を追い続ける、それはここにいる全ての者たちが行っている。
しかし、いくら時を遡ったところにある神秘に辿り着こうとも、
実際に彼らの肉体のあるこの場所では、それは水の流れと同じだった。
神秘に辿り着くことでそれを、変えられたものもいたというが、それは稀なことであり
全ての者達がそうなれるはずもない。
ただ、時を遡る、それは彼らが自分自身を追い求める故であり、
それが彼らの望みを叶える事になるか、それとも絶望を飲み込ませることになるか。
そんなことも解らないまま、ただ時を遡り続ける。




ある男は、自分がおかしいのだと信じて、ただ、自らの意思とは逆を追い求めたが
その先にあったものは、それが真実だったということ。
彼を愛していると言ってくれた女には到底顔向けできない事実だった。
ならば何故女は彼を愛していると言ったのか。
女は馬鹿ではなかった。
彼がやっていることは、周囲から見れば満たされたものであったのに
彼の心は満たされることは無く、常に独りであったと知っていただろう。
それを知った上で女は何の迷いも見せずに愛していると言った。
あれが間違ったことを言った事は知らなかったし、
それが事実なんだろうと思っていた。

昔に尋ねられて、それが専門分野だったからとはいえ、
それを助言したのは私だったのだし、女の言ったことが何故だったのか知りたかった。
彼は最後までそれを追い求めて死んだらしい。
女が愛していると言った男が最後まで追い求めたモノ。

ならそれがなんであったのか、私がその最後を見届けようと誓った。
幸い、あれと似たようなことをすることは、私にとって容易だったし。
男は辿り着くことが出来なかったが、私がそれを継ごうと。
それが、私に遺された、固い、固い最後の砦だった。




人が生きることと、魔術師が追い求めることは、方向は違っても、
結局最後には同じ結末を迎える。
それがどういう結末を迎えるかは、どちらも分からぬまま。




それでも、走り続けようと誓った。
あの赤い外套の騎士の背中を、
本当に自分自身の力で乗り越えてやろうと思ったそのときから、
あの騎士の胸に、無念と悲しみの詰まった塊を落としたときから、
あの男に、自らの想いを偽り無くぶつけたそのときから。
あの赤い外套の騎士の背中は、何も語らなかったけれど、
何故、俺に自分の腕を預けたのか。
あの騎士は顔には出さなかったけれど、
何故、自分が敗れた事を笑顔に変えることができたのか。
あの男は、自分の想いを受けて辿り着くことが出来たのか、
それとも最後までそれができなかったのか。

だから、それを追い求めるために走り続けようと誓った。
あの時はそれがわからなかったけれど、いつかわかる日を迎えようと。
それが、俺に遺された、硬い、硬い最初の砦だった。




あれから二週間がたつ。
桜が早く行こうと促すのを受け入れて、
遠坂が往復でとっておいたチケットには悪かったが。
藤村の爺さんに特別に貰った小遣いで、4人分の片道のチケットを取った。
行き先は時計塔。帰る先はまだ見ぬ場所か、見慣れた場所か。
遠坂は無駄遣いをしたことに憤慨するだろうと思っていたのだが

「別にいいわよ、そんなこと。それよりも早く私への借りを返してよね」

と、複雑そうに言ったことが以外だった。

着いてみると、そこは予想した場所とは全然違っていた。
魔術学校というよりは鍵のかけられた宝物庫。
特別教えるということはなく、ただ鍵をあけてそれを盗み取るための場所。
着いてからいきなり。

「まだ、始まるまでには一ヶ月くらいの猶予があるし。
桜と士郎には、これから戦力となりうるべく、訓練をしてもらうわ」

遠坂が言い放った一言に掻き回されて、俺と桜は休みのない日々を過ごしていた。
ある日には、

「士郎がいきなり魔力量を増やすのには限度があるから、
私と波長を合わせてもらう事になるけれど……」

と、鬼の錯乱かのようなことを恥ずかしそうにいう遠坂を押しのけて。

「っ!……俺はもう桜から供給を受けてるから必要ないぞ」

と、つい口を滑らせてしまい、そんなこと知ってるわよ。
といった顔でニヤニヤとこちらを観察する遠坂がいて、
やってしまった、からかわれていたんだと思う自分がいたり。

その次の日には、
ライダーが現役の使い魔だと知って、
泡を吹いて倒れた魔術師を介抱することがあって、
降霊科の部門長から感謝の言葉を授けられることがあったり。

またある日には、
遠坂に似たお嬢様と会って、
彼女と遠坂が一緒にいるところには行かないことにしよう。
と心に決める自分がいたり。

同じ日、その考えを共有する仲間にも出会った。
どこか抜けている、此処にいることが不相応かのように思われる二人。
遠坂に聞いてみると、彼らの家はもちろん日本では数少ない名門と謳われるものだったが、
彼らはいまだに、その自らのポテンシャルを生かしきれていないらしい。
二人は後田(ごだ)君と高藤(たかとう)君という、この二人とは
仲良くやっていけそうだな、と思っている。
いつの間にか俺の両隣にいた。二人の第一声は同時であり、

「あぁ、あんな遠坂さんも可愛すぎる、君もそう思わないか?」
と、
「あぁ、あんなエーデルフェルト様も美しすぎる、君もそう思わないか?」

という、ハモっているけど微妙に内容の違うものだった。
学校のやつらを思い出したりした。
あいつらは今頃何やってんのかな。

何故、戦地に赴いたはずがこんな生活を送っているかというと、
遠坂が言うには、

「招待状に開催日が書かれていなかったから」
だそうだ。

「けど、それは既に始まっているという風にも取れるんじゃないか?」
と、なんとなく思いついたことを問うと、

「あら、衛宮君は、たまたま勘が冴えるから分かっちゃった?」

なんて、思ってもいない答えを返してきた。

遠坂が言うには既に予選と呼ばれるものが始まっているらしい。
俺たちは戦闘部門のみの出場で、招待出場だから関係がないのだそうだが。
綺麗に後は消されているけれど、この近辺で、微妙に魔力が濃くなっている場所が
いくつかあるのだという。


まず俺たちが参加する戦闘部門、
そして妙に参加者が多く、熱い戦いを繰り広げているらしいユニーク部門。
静かに、しなやかに行われているという芸術部門。
遠坂が知る限りではこの三つ。
その他にもいくつかの部門の予選が行われているという。

「あれ、士郎?もう始まってるって知ってたんじゃなかったわけ?」

なんて、顔を顰めて聞いてくる。
知っていたわけが無い、そりゃぁなんとなくおかしいとは思っていたけれど、
さっきだって冗談ついでに言ってみただけだった。

「ふーん。まぁ私達には関係の無いことだからいいけど。
そうそう、あなたのお友達もでているみたいよ」

と、なんだかまたとんでもないことを言っている。
最初はもの凄く驚いていたのだけれど聞いているうちに納得した。

彼らが出場しているという部門は無論___________ユニーク部門だった。
どんなネタを披露しているのかは知らないが、ちょっと応援している自分がいた。

この様子だと本戦までにはまだまだ時間があるらしい。
それまでに、ライダーと遠坂で俺と桜の力を引き出すのだという。
今やっている訓練は中々に厳しいものだった。
それに増して、気を抜けば石化の魔眼、背後には赤い悪魔。
俺と桜はそうやって魔術の腕を上げていっていた。
無論、俺より桜のほうが、上達がはやいことは言うまでも無いだろう。
一応、遠坂の家の娘なんだし。
しかし、それはどうでもいい。
俺にとって大切な事はこうやって魔術の腕があがっているということ。
それにつれて、心の鍛錬にもなっているということ。
それが俺にとって何よりも嬉しい事だった。
最初の砦を突破するためには、もってこいの修行だったのだから




「作者の駄文 その5」
刀崎を出した後に気付いたのですが、なんかtetsuさんの名門の魔術師と
被ってる!?ですがパクったわけじゃないのでどうぞお許し下さい。
冒頭の二人の男の砦、片方は士郎。もう一人は……?
既に物語の前半にでているので誰だが推理してみてください。
それと、途中でてきた、後田君と高藤くん。
知る人は見抜いているかもしれませんが
月姫の高田君とFateの後藤くん。二人を足して2で割って。
ぽん、と出来てしまった、汚れ担当のちょい役のオリジナルキャラです。

尚、今回から投稿するときのタイトルは「夢を継ぐ一人の男」
とさせていただきます。
SSLinks推薦文にて分かりづらい、との一文があったからです。
それと、誰か感想くださぃぃぃぃ。
オリジナルキャラうぜぇ。とか、ここの表現が適切でないとか。
どんなことでも結構ですのでお願いします。
意見がないとネタが……尽きます(笑


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