セイバーの決意


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1: トッティ (2004/02/26 03:54:00)[wordcard6 at hotmail.com]


セイバーは居間で一人、ぼーっとバラエティー番組を見ていた。
外はすっかり日も落ちて夜になっている。今日は曇りなので月も星もでていない。
ちゃぶ台に頬杖をついてテレビを眺めているとふいに腹の虫がぐーっと鳴った。
「そろそろお腹が減ってきましたね。…シロウはまだですか」
このところ、一人でいることが多いのですっかり一人言をいう癖がついてしまったようだ。

聖杯戦争が終わってから三ヶ月、新しい生活のパターンももう定着している。
あれから凛はすっかり衛宮家に居ついてしまった。
自宅に戻ることはほとんどない。必要な物はもうほとんど離れの客間に運び込んだ。

士郎は学校へ行き、新都でアルバイトをこなしてから家に戻ってくる。
以前より少しバイトの量を減らしたらしく、帰ってくる時間は早くなったし日数自体も減らしたので
家にいる日も多くはなったが。
とはいえ、家族が増えたので家事も大分増えた。家にいてもやることは山のようにある。
朝の鍛錬もおこたっていない。

凛も毎日学校へ行き、戻ってきては魔術の鍛錬にいそしみ、今まで通り遠坂の魔術師のしての仕事をこなしている。
その傍らで、夜には士郎に魔術を教授しているのだ。
もちろん食事の当番制も今だに続行中だ。

学生ながら、二人の毎日は非常に忙しい。二人にしてみればこの一ヶ月はあっという間だった。
しかしセイバーにしてみれば長い一ヶ月といえた。
何せセイバーはほとんどやることがないのだ。やっていることと言えば週末や、士郎の時間の空いた時に剣の鍛錬をしているだけだ。
特に平日の昼間など特にヒマだ。誰も家にいないのでテレビを見るか、本を読むかしかない。
最初の頃はそれでも何かと新鮮で、飽きることはなかったのだが今ではすっかり飽きてしまった。
今もすっかり手持ちぶさただ。どうやら今日の「学校へ行こう」はあまり面白くないようだった。


セイバーがふあぁ〜、とあくびをしていると玄関があく音がした。
「「ただいま〜」」
どうやら士郎と凛が一緒に帰ってきたようだ。今日は士郎はバイトに行ったはずだし、凛は魔術協会の

支部に出向いていたはずだから、帰り道にでも出くわして一緒に帰ってきたのだろう。
セイバーはあわててあくびをひっこめ、ちゃぶ台の上に山積みになっていたミカンの皮をゴミ箱に放り込んで背筋を正した。
ちょうどその時居間の襖が開いて二人が入ってきた。
「おかえりなさい、シロウ、凛」
「ただいま、セイバー。ごめん、遅くなって。腹減ったんじゃないか?」
「ただいま。士郎、私もお腹減ってるのよね、今日は忙しかったし。私も手伝うから、早く夕飯の準備してよ。」
「はいはい、わかったよ。冷蔵庫に昨日かってきたいいモモ肉があるんだ。今日はそれをソテーにしよう。藤ねえもそろそろ来るだろうし、早く作らないとな」

いつもの風景。こうして今日も過ぎていった。


次の日の昼間、いつものようにセイバーは居間でテレビを見ていた。
士郎が買ってきたドラ焼きをパクつきながら、ぼーっとテレビを眺める。
番組に電話をかけてくる主婦の悩みに司会者が答えている。

「うちの夫は仕事もしないで一日中家でゴロゴロしてるんです。
せめて家事でもしてくれたらいいのにそれすらもしようとしません。
私はパートしながら家のことをやっていて毎日疲れ果ててます。だからいっそのこともう離婚したいと思っているんです…」
「お嬢さん、それは大変ですね。しかし離婚となると…」

セイバーは稲妻のような衝撃を受けていた。ちょっと人事ではなかった。
絶えずドラ焼きを口に運んでいた手も止まっている。
「わ、私はもしやダメ人間なのでは…」
今まで深く考えずに暮らしてきたが、自分の生活の仕方では
士郎や凛に迷惑をかけているのではないかと思うとセイバーはいたたまれなくなってしまった。

「このままではいけない。何か手を打たなければ」
じっと考え込むような表情をすると、セイバーはテレビを消し、漫画が山積みなっている自分の部屋に戻っていった。
ちゃんとドラ焼きの包みはゴミ箱に捨てた。


その日の夕食後。
「ごちそうさまでした。相変わらずシロウのつくるものはおいしい。」
「それはよかった。そう言ってもらえるとつくりがいがあるよ」
「そうね、悔しいけど洋食はかなりのもんね。まあ中華ができないのはどうかと思うけど」
そう言って凛はニヤっと小悪魔スマイルを見せた。
「お前なー、もっと素直にほめろよ。成人までにそういうとこ矯正した方がいいぞ」
「な、なによ!アイツみたいなこと言わないでよね!」
「それは仕方ないと思うが…」
二人がじゃれあっている中、セイバーは真剣な顔をしてうつむいている。
そして何かを決意したかのようにキッと顔をあげると、
「凛、私に戸籍をください」

その瞬間、二人はぴたっと活動を停止した。こころなしか姿が灰色に見える。
「「はあああ!!??」」


「ちょ、ちょっとセイバー!いきなり何言い出すのよ。どうしたわけ?」
「そ、そうだぞ、何かあったのか?」
凛も士郎もセイバーの発言が意外だったらしく、わたわたしている。
「私なりに考え、どうしても必要と判断したのです。お願いします、凛」

(ど、どういうことよ?なんでセイバーに戸籍が必要なわけ?そりゃあまあ確かにセイバーは霊体化できないし、
これから社会生活をしてくにあたって何かとあった方が便利だけど。別に普通に生活してく分にはどうしても必要ってことはないわよね。
戸籍がないとできないことでセイバーがしたがりそうなことと言えば…。!!も、もしかして結婚!?
あ、相手はやっぱり士郎しかいないわよね。で、でも士郎は私の恋人…、ち、違うわ、使い魔なんだから私のものよね。
いくら相手がセイバーでも勝手に結婚なんて許さないんだから。でもセイバーがそこまで思いつめてたなんて。
ど、どうしよう!なんとかして諦めさせないと)

凛はそう考えると激しくわたわたしてしまった。予想外の展開?に動揺してしまってちっとも考えがまとまらない。
士郎は今度は一人で赤くなったり苦悶の表情を浮かべ始めた凛をみて、事態についていけずぽかんとしてしまった。

「せ、セイバー、いくらなんでもそれはダメよ。別に私が士郎のこと好きだとかそういうことじゃないけど。
やっぱりいろいろと問題が…」
「と、遠坂、おま、急に何言い出すんだよ!」
今度はセイバーがぽかんとしてしまった。

「凛、どうしてそこで士郎がでてくるのです?私は戸籍の話をしているのですが」
「え、いや、だって、セイバーは…」
赤くなりながらうつむいてだまってしまった凛を見て、セイバーは話を先に進めることにしたようだ。
「凛、私は就職したいのです。今のままでは士郎や凛に負担をかけてばかりです。その、私は人より少し多めに食べますし、
食費も馬鹿にならないと思います。働いて、少しでも二人の助けになりたいのです。」
セイバーは硬い決意をこめた目で凛を見つめてそういった。

「あ、ああ、なんだ、そんなことだったの。それなら、ってええええ〜〜〜!!」
再びかたまってしまった。横で士郎もやっぱりええ〜〜!!とか言って固まっている。

いち早くアストロンが解けた士郎が口を開いた。
「セイバー、お前は十分頑張ってきた。もう自分のためだけに生きていいんだ。
いつもみたいにゴロゴロしながらテレビみて、漫画読んでていいんだぞ。」

「シロウ…。あなたなら分かってくれると思っていたのに…」
凛を説得するための援護射撃を期待していたセイバーはがっかりしてしまった。

「そっか。セイバーの気持ちは分かったわ。それっていいことだと思う。」
凛いきなりしゃべりだした。固まっていた間に頭を整理したようだ。別に結婚したかったわけではないことが分かって、
気持ちも落ち着いていた。何より遠坂の魔術は金がかかる。魔術は基本的に等価交換だ。
何かを成せば、その分何かが失われる。遠坂家ではそれが金だった。凛が魔術を使うと勝手に預金残高が減ってしまうのだ。
実は万年金ケツ気味な凛には、セイバーの申し出はありがたかった。

「でも、いきなり就職までしなくてもいいんじゃない?バイトくらいなら履歴書にテキトーなこと書いてゴマかせばいいんだし。
冬木市は外人が多し、当然バイトしてる人も多いわ。就職するとなるとすぐには難しいけど、バイト先ならすぐ見つかると思うわよ」
いくら遠坂の魔術師でも、戸籍を用意するのはなかなか大変だ。それもあってこう提案してみた。
妥当な線だし、セイバーも納得するだろうと思ったが、凛の予想に反してセイバーの顔は意外に渋い。

「バイト、ですか…」
「どうしたの?なんか不満?」
「私は王だ…」

「いきなり社長でもやる気かよ!!??」
士郎のツッコミが入った。

「ま、まあセイバーはこの世界に馴染みきってるわけじゃないし、いきなり会社勤めだととまどいも多いでしょ?
とりあえずはバイトからはじめたらどう?」
「そうですか。分かりました。サーヴァントである以上、マスターの言うことには従わなければなりませんね。」
まだ社長に未練があるようだったが、セイバーは納得したようだ。
こうしてセイバーがバイトすることが決まった。


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