注:だいたい前回と同じです(手抜き)
後編なので前編からお読みくださいw
「―――我に従え!ならばこの命運、汝が剣に預けよう…!」
赤い檻の隙間から手を伸ばす遠坂。
それに、彼女は最後の力を振り絞って走り余リ、
「セイバーの名に懸け誓いを受ける…!
貴方を我が主として認めよう凛―――!」
本来あるべき契約。
自身に相応しいマスターを、ようやく、彼女は得るに至った。
巻き起こる烈風。
正規のマスターを得、本来の食欲を取り戻したか。←何か違う
アーチャーを見据えるセイバーの姿は、今までの比ではなかった。
「―――――な」
息を飲んだのは自分だけじゃない。
アーチャーですら、その姿に見入っている。
立ち上がる魔力の渦と、傷つく事などあり得ぬ甲冑。
他を圧倒する膨大な魔力は、それこそ底なしだ。
ふだんのセイバーを見ているから言える台詞だが、
魔力以上に食欲が底なしだ。
我が家のエンゲル指数を考えるとちょっと眩暈がした。
―――それが、セイバー。
サーヴァント中最強と謳われた剣の英霊―――!
「―――ち、もとより凛と再契約させるつもりだったが、些か手順が違ってきたか」
もはや俺に構う余裕がないのか、アーチャーはセイバーを見据えたままぼやく。
「それで、どうするセイバー。
凛と契約した以上、君は本当に衛宮士郎とは無関係になった訳だが―――」
「言った筈ですアーチャー。シロウとの誓いはなくならないと」
断言するセイバー。
「…マスターが凛だと衛宮士郎の作る食事が食べにくくなるぞ」
「…………………言った筈ですアーチャー。シロウとの誓いはなくならないと」
同じ台詞のはずなのにえらい間があった気がするのは俺だけだろうか。
不快げに舌打ちし、アーチャーはマーボーを構え直した。
「貴方こそどうするのですアーチャー。貴方がシロウを手にかけるというのなら、
私は全力でそれを防ぐ。考え直すなら今のうちです。今の私を相手にして、勝機があるとは思わないでしょう」
セイバーの忠告は真実だ。
今のセイバーは、バーサーカーと一騎打ちをしたところで負けはしない。
例え紅州宴歳館の麻婆豆腐にも負けはしないはずだ。
それを誰よりも判っていながら、
「―――ふん。たかが食欲が戻った程度で、よくもそこまで強気になる…!」
あの麻婆豆腐を目の前にして食欲が戻っただけでもセイバーはおかしい。
有無を言わせず、アーチャーは突進した。
衝突する二つの影。
アーチャーは赤い弾丸と化してセイバーに踏み込み、レンゲでマーボーを掬い…
それをセイバーの口に含ませた。
「―――――は!」
それを、セイバーは事もなげに食いきった。
体格差はもとより、食べるのに突進による推力は関係ない。
セイバーは一歩も引かずにアーチャーのマーボーを食べる。
後退したのは攻めた筈のアーチャーだ。
「……馬鹿な!!」
――食い尽くされたばかりか、目線で御代わりまで催促されていた。
そういえばキャスターに拘束されてたセイバーは、
その間、何も食べていなかったはずだ…。
「ぬっ―――!」
たまらず引き下がるアーチャー。
そこへ、
烈火怒涛と、セイバーの剣が襲い掛かる―――!
繰り出されるセイバーの剣を、アーチャーはレンゲで捌くことしか出来ない。
マーボーを差し出さなければ、セイバーの剣が額を打つ。
いや、そもそもマーボーを投影する余裕などない。
アーチャーに許された抵抗は、力尽きるまでセイバーの剣を受ける事のみ。
決着は、予想より早くついた。
セイバーの剣舞に耐えられず、片膝をつくアーチャー。
そこへ、セイバーは止めとばかりに剣を振り落とす。
必殺の一撃を、アーチャーは空になった器で受け止めた。
戦いはそれで終わりだ。
セイバーの剣を受け止めたものの、アーチャーは動けない。
「―――ここまでですアーチャー。
万全な貴方ならまだしも、今の貴方の魔力ではこれ以上戦えない」
「ふ―――余計なお世話だセイバー。アーチャーのサーヴァントにはマスターがおらずとも単独で存在する能力がある。それだけあれば、あの小僧を仕留めるには十分だ」
「馬鹿な、まだそんな事を言うのですか・・・! 貴方の望みは聖杯ではなく、シロウを殺す事だとでも…!」
「――――」
アーチャーは答えない。
「…なんと言うことを。アーチャー、貴方の望みは間違っている。
何故、そのような結末を望むのですか。そんな事しても、貴方は」
救われない、と。
そういいかけて、セイバーは唇を噛んだ。
「…ふん。間違えている、か。君こそ、いつまで間違った望みを抱いている」
「―――アーチャー」
セイバーの剣が緩む。
「ふっ――――!」
その隙をついてアーチャーは立ち上がり、自由になった足でセイバーを蹴り飛ばす…!
「っ―――!」
吹き飛ばされつつ、セイバーは華麗に着地する。
「…ふう。判りきっていた事だが、やはり接近戦では及ばぬか」
言って、アーチャーは素手にもどった。
手にした器とレンゲは消え、ヤツは徒手空拳のままセイバーと向かい合う。
「・・・アーチャー。剣を捨てたという事は、戦いを納める気に―――」
セイバーはアレを剣と認めるのか・・・?
「まさか。君こそ思い違いはよせ。オレはアーチャーだぞ?もとより、剣で戦う者ではない」
かといってマーボーで戦うのはどうかとおもう。
そういってやつは。
”I am the bone of spice"
こちらに聞えない声で、そんな呪文を口にした。
「止めろアーチャー! 私は、貴方とは―――」
「セイバー。いつか、オマエを解き放つ者が現れる。
それは今回ではないようだが―――おそらくは次も、オマエと関わるのは私なのだろうよ」
"Unknown to Order. Nor known to finish"
聖堂に響く言葉。
…周囲に変化はない。
あれだけの長い呪文ならば、必ず周囲に影響がでる。
魔術というものは世界に働きかけるもの。
しかし、ヤツの呪文は世界に働きかけず、ただ―――
「今のオレの目的は、衛宮士郎を殺す事だ。
それを拒むならば―――この世界は、オマエが相手でも容赦はせん」
左手が上げられる。
ヤツの呪文は、それで完成するのか。
"■■■■――――unlimited spicy works."
明確に言霊を吐いて、ヤツは世界を変動させた。
―――炎が走る。
地面に走るソレは、白線のようでもあった。
瞬時にして聖堂を囲った炎は境界線なのか。
炎の色が視界を覆い、聖堂を塗りつぶしたあと。
その異界は、聖堂にすりかわっていた。
「――――」
頭痛が、思考を埋め尽くす。
―――解る。
この魔術、この異常がなんであるか、俺には理解できる。
理解などしたくないはずなのに、問答無用で、これがなんであるか読み取れる。
それが―――
何より、脳を沸騰させた。
それは、一言でいうなら台所だった。
燃えさかる炎と、空間に回る中華鍋。
一面の荒野には、食い手のない料理が続いている。
その料理、大地に連なる料理は全て真っ赤。
ヤツの使うマーボーも、もとはこの世界から編み出されたものだろう。
無限とも言える辛さの投影。
夥しいまでの真っ赤な料理は、それだけで地獄じみている。
その辛味の王国の中心に、赤い騎士は君臨していた。
「これ、は―――」
当惑の声はセイバーだ。
彼女はどうみてもヤヴァイ色の料理の中、呆然と赤い騎士をみつめている。
「―――固有結界。
心象世界を具現化して、現実を侵食する大禁呪。
つまり、アンタは剣士でもなければ弓兵でもなくて」
遠坂が続ける。
「料理人」
「違う」
間髪いれずアーチャーのツッコミ。
「生前、英霊となる前は魔術師だったという事だ」
「―――ではアーチャー。貴方の宝具は」
「そんなものはない。
オレが持ちえるのはこの世界だけだ。
辛味物であるならば、オリジナルを見るだけで複製し、貯蔵する。
それがオレの、英霊としての能力だ」
「――――」
息を呑むセイバー。
彼女は唖然と、荒野に連なる料理を見つめる。
そして涎も呑む。
「これが…貴方の、世界だというのか、アーチャー」
「そうだ。食ってみてもかまわんぞセイバー。オマエの限界、確実に超えてみせよう。
聖剣は使わない事だな。聖剣から放出されるエネルギーで場が荒れ風がおき、周りの人間は辛味に見舞われるぞ」
「な―――アーチャー、貴方は…!!」
「そういう事だ。間違っても聖剣は使うなセイバー。使えばオレも抵抗せざるを得ない。その場合、死ぬのは我々ではなく周りの人間だ」
アーチャーの左腕があがる。
ヤツの背後にある料理、なぜかマーボーのみが次々と浮遊していく。
「―――抵抗はするな。
運がよければ即死する事もない。事が済んだ後、オマエのマスターに正露丸でももらえ」
アーチャーの指がセイバーを示す。
無数のマーボーが、セイバーに矛先をむけていく。
そのどれもが必殺の辛さ。
「―――かわすのもいいが。その場合、背後の男は諦めろ」
そうして、ヤツは号令を下した。
「……!」
放たれるマーボー。
セイバーは一歩も動かない。
その全てを、完食しようと、決死の覚悟で迎え撃つ―――
「ふざけ―――」
左腕を突き出す。
疑問などくさるほどある。
「――――投影、開始」
残り一回分の魔術回路。
「ふざけんじゃねぇ、てめぇ……―――!!」
マーボーを受け止める受け皿や器を投影できないはずがない!
…豆腐が舞っていく。
目を開けた時、ヤツの固有結界とやらは消失していた。
有るのは舞い散る豆腐の欠片と、
「は―――あ――――、あ、は―――!」
内臓そのものが喉元までせり上がってきたような、地獄めいた吐き気だけ。
それもそのはず、あの辛味の異臭の立ち込める中にさっきまでいたのだ。
「―――」
ヤツは忌々しげに俺を睨んだあと。
「ちょっ―――アーチャー、アンタ―――!?」
マーボーの檻に囚われた遠坂を連れ出すなり、その体を拘束、しやがった。
…そうして、聖堂を後にする。
遠坂を抱きかかえたまま、アーチャ―は地上へ通じる階段へ跳び上がった。
「…何処に行く気です、アーチャー」
「これ以上邪魔の入らないところだ。オレは今ので魔力切れだしな。オマエに護られた小僧を仕留めるだけの力はない」
「―――凛を連れて行くのは、人質ですか」
「いや、交換条件だ。コレがオレの手元にある限り、そこの小僧はオレを追わざるをえまい」
「――――」
…吐き気を堪える。
気を緩めれば倒れそうな意識を絞って、ヤツの戯言に耳を貸す。
「――――紅州宴歳館、だ」
そうして。
震える喉で、見上げる事もできないまま言い放った。
「なに?」
「―――だから、商店街の紅州宴歳館だ。そこに客なんて絶対はいらない店がある。
あそこなら、誰にも迷惑はかからない」
「シロウ……!?」
店の主人は?と俺に問い掛けるセイバーがいるが、
あんな親父いなくなったほうが商店街のためだ。
「オレに文句があるんだろう。いいぜ、聞いてやる。
言いたい事があるのは、こっちだって同じなんだ」
「商店街の紅州宴歳館…そうか、商店街の巣窟があったな。
確かにあの店ならば邪魔は入るまい。
―――ふん、いい覚悟じゃないか衛宮士郎」
「…うるさい。そんな、事より」
軽口は聞きたくない。
聞けば、耐え切れなくなって、胃の中身をぶちまけてしまう。
「―――それまでに遠坂にマーボーを食わしてみろ。
その時は、セイバーの手を借りてでも、オマエを殺してやる」
「よかろう。場所を指定した見返りだ、一日は安全を保障してやる。
―――だが急げよ。マスターがいない今、オレとて時間がない。この身は二日と保たぬだろう。
その雨にオマエを殺せないとあらば、腹いせに人質に何食わすかわからんぞ」
…癪に触れる笑い声を残して、アーチャーの姿が消える。
「―――――」
その姿を見届ける事もできず、床に膝をついた。
衛宮士郎はまだしらない。
アーチャーの過去を。
「裏切られるたびにマーボーをやけ食いした!
財産もやけ食いで食いつぶされ、皮膚は変色し、頭髪も辛さのショックで白くなった!こんな英雄は居ないほうがよかったんだ」
「そらそうだ」←士郎納得
紅州宴歳館の親父の正体はギルガメッシュだという事を。
「貴様、アーチャー・・・!?」
「十年ぶりだなセイバー」
「どうしてここに」
「我の店だ」
さらなる戦いの幕開けだという事を。
"―――お前がたおせ"と
あの敵を倒しきれと。
その赤い背中は語っていた。
自分の世界を。
「―――固有結界。それが貴様の能力か・・・!」
「偽者が本物に敵わない、なんて道理はない。
お前が本場だというのなら、悉くを凌駕して、その存在を超えて見せよう」
前にでる。
目の前には、神話の時代より1000の料理の歴史を持つサーヴァント。
「いくぞ英雄王――――飲料水の貯蓄は十分か」
―――――――――
終る。というか終ろう。
長かったです。
アーチャーvs士郎
は書くつもりはございませんのであしからずw