5、メドゥーサという英霊 M:ライダー 傾:回想


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1: Hyperion (2004/02/24 23:40:00)

5、メドゥーサという英霊

新都に着いた。しかし、此処に来るまでに掛かった時間はそう長いものではない。
彼女の足を持ってすればこの程度の距離など容易い。

「着きましたね。さて、今日は何をしているのでしょう、あの人は」

彼女が行き着いた場所、そこは深山町よりにある小さな新都の交番。
ここへ来るのは2週間ぶりくらいだろうか。
ここへ来るときの彼女は、衛宮士郎と一緒にいるときの間桐桜に似た顔をしていた。
来ることに慣れたこの交番に足を向ける。

「おはようございます」

「おぉーあんたか、いやいやよく来た。来てくれたのはいいが、
今日は、あいつは来てないぞ」

彼女は中年の警察官の言うことに耳を疑った。

「来ていない?彼が交番に出勤していないのですか?」

「あぁ、やっぱりあんたもそう思うか?不思議だろ?
あいつはここに派遣されてきてから今まで一度だって欠勤したことなんて
なかったからな。まぁ、大方風邪でも拗らせたんだろうよ。
なぁに、心配することは無い、事情はいえないらしいが
今まで溜まっていた休暇を取らせてくれって連絡もあったしな
あいつは今まで一年半頑張ってくれてたんだ。
これも褒美と思って黙ってやることにしたんだ。
だが、あんたにも連絡なしとは妙だな。
俺はてっきりあんたとどっかに旅行に行っているもんかと思ってたよ」

はっはっは、と警察官は笑う。

「そうですか、それでは失礼します」

「なんでぇー、もう行っちまうのかい?いくらあいつがいないからってよぉー?
まぁ座って茶でも飲んでいけや。
何も出さずに返したとあっちゃぁ、この俺の名が廃るってもんよぉ」

中年の警察官はまぁまぁ、座れよ。と促してくる。
だけど今日は元々顔を見にちょっとよろうと思っただけだ。
それに彼がいないとあってはそれにもあまり意味が無い。
この中年の警察官は私もいい人だと思うし、気を許しているけれど
今は本当にちょっと寄るつもりで来ただけだった。

「いえ、お心遣いはありがたいのですが、本当に少し顔を出しただけですので
どうぞ、お構いなく」

「そうかい?そんなら引きとめはしねぇさ。
今度はあいつがいるときに来れるといいなぁ。
あんたが来るとあいつはいつも喜ぶしな。
あんたが来たことは巡査が来たら伝えておくから安心しな」

「はい、ありがとうございます。ではそのように。お邪魔いたしました」

そう言って交番を出る。

「______なんだ、こんな簡単に破れる物だったのか、彼の信念は」

彼女は小声で呟く様にそういって、深山町へと体を向けた。
ものの数分、帰った頃には考えを決めたサクラがいて、
そして、リンの部屋へと向かうことになった。


それは今から半年前のことだった。
その日は晴れていて、士郎とサクラと私と二人で新都に遊びに出かけた。
何故二人かって?私は使い魔、数に数えるまでも無い。
少なくともあの時はまだそう思っていた。
二人はファンシーショップに入っていった。
私は外で待つことにした。ちょうど近くに公園があったからだ。
何もわざわざ二人の邪魔をすることも無い。
ベンチに座る。
彼女はただ、考えを廻らせていた。
私は何故この時代に留まったのか、聖杯戦争は終わったのではないのか、
私の願いはなんだったのか……
英霊、メドゥーサ。神霊、メドゥーサ。
どちらが正しいのかはわからない。
三姉妹の末女。海神ポセイドンに愛されることにより
神々の不評をかい、魔物に堕とされてしまった姉妹の一番下の女性。
彼女達は愛されただけ、それだけで何故このような身にならねばならないのか。
そして最後にも、彼女達は神々の身勝手でその生を終えた。
あの時に誓ったこと、それは復讐だったのか、生への執着だったのか……
昼下がりの静かな公園。子供の姿もちらほらとしか見かけない。
それが彼女の世界をより一層深いものへと変えていった。
そんなことを思っているうち、突然の乱暴な声に彼女の世界は見事に崩れ去った。

「おい、ガキ。なにやってんだよ、お前ら。
この俺たちにボールをぶつけておいてすみません、で済むと思ってんのかぁ?ぁあ?!」

「ご…ご、ごめんなさい……」

士郎たちよりもずっと幼い子供達は、士郎ぐらいの男達に囲まれて
なにやら、揉めている様だった。
否、それは間違っている。子供達は男達に一方的にやられていると見たほうが正しい。
これは助けるべきなのだろうか。サクラなら和やかに止めに入るだろう。
士郎なら有無を言わさぬ勢いで飛び込んでいくに違いない。
あぁ、だめだ。私も彼らに毒されてきたのだろうか。
それともかつて女神と呼ばれていた頃の名残か。
止めに入れ、と頭のなかで命令がよぎった。

「やめなさい。子供達が怖がっていますよ。
年上ともあろうものが、何故こんな醜い真似をするのですか。
さぁ、もう大丈夫よ。あなた達ははやく行きなさい、後は私に任せていいわ。」

やってしまった。まぁ後悔はしていない。こいつらの始末なんて容易いものだからだ。

「さて、あなた達も死にたくないのなら、さっさと消えなさい。」

「へへへ。強気な女だな、あいつらを助けたってことは、
俺たちにその贖いをするってことだって、分かってるんだよなぁ?
それに、死にたくないのならだと?
おい、お前。自分が女だって事を分かって俺らにもの言ってんのか?」

「はい、無論、私が外見上は女性だということは承知していますが、
それが何になるというのです?それに贖う?全く、格下の分際でよくそんなことが
言えるものですね。おとなしく引き下がっていれば許そうと思っていたのですが」

「______ハッハハハハハハ!!」

男達はちょっとの間の後に声を揃えて笑い声を上げた。

「おい、聞いたかよ?こいつイカれてるぜ!!
まぁ、顔はいいから申し分ない、おい、連れてくぞ」

「言っても分からないようですね、ええ、手加減はするつもりですが、
一生そのままでも文句は言えませんからお願いします」
彼女はそういって魔眼殺しの眼鏡に手をかけた……


と、そのとき


「こっぉおおら〜〜〜〜!ま〜たお前らか!いったい何度注意したら分かるんだ!
子供達を虐めるなんておまえら本当に警察なめてんのか!?」

警察官らしき男は、この男達に怒声をあげながら走りこんでくる。
その後ろには先ほどの子供達の姿があった。
どうやら私の為にあの警察官を呼んできてくれたようだった。

「や、やばい。またあいつかよ、ホント俺あいつ苦手なんだよな」

男達は一目散に逃げ出した。
そして、それから遅れて警察官は私の元に辿り着いた。

「そこのあなた、怪我はありませんでしたか?あいつらに何かされませんでした!?」

男は心配そうな声色で私にそう聞いてくる。
この人は私がどんなモノなのか知らないからこの態度は納得できる。
この人は、仕事熱心な良い警官なのだと瞬時に判断した。
遅れて、後ろから走ってきた子供達が到着する。
子供達は息を切らせていた、余程必死になってこの人を呼んできてくれたのだろう。

「はい、大丈夫です。ご心配頂き有り難うございます。……ところで、君達」

そう言って彼女は子供達に顔を向け屈んだ。
そして、真剣な趣で子供達を見据え、

「私のところに警官を連れてきたことには感謝します。ありがとう。
でも、今度からは自分達の安全を第一に考えなさい。
それが、助けたも者への礼儀ということもあるのよ。覚えておきなさいね」

そういって彼女は子供達に笑顔を向ける。

「_____うん、分かったよ。おねえちゃん。助けてくれてありがとう。
僕らも大っきくなったら、おねえちゃんみたいに人を助けられる
正義の味方になれるようにがんばるよ」

子供達はそういって、彼女と警察官のもとから走り出した。

「ありがとう、おねえちゃん。
でも、その警察官のにいちゃんも、もう少しは相手にしてあげたほうがいいと思うよー」

そう言われて少しの間固まる。
私は確かに的確にまとめた言葉を言ったものの、後ろに立つ警察官はなお
心配そうな顔でこちらを見つめ、かつ、ちょっと拗ねてそうだった。
きっと、自分は手短に済まされて、子供たちの相手をされた事に対してだろう。

「すみません。子供たちに早く今のことを言いたかったものですから」

「ははは。優しいんですねあなたは。
それよりなによりご協力ありがとうございました。
あいつら、最近この辺の子供たちに突っかかっては悪さをしている連中なんですよ
あなたが、止めに入ってくれなかった子供達がどうなっていたか」

「いえ、私も普段はこんな人のいい事はするほうでもないのですが、
最近はちょっと別でして、人の影響です。どうぞ御気になさらずに。
では、そろそろ連れが戻ってきてしまう頃だと思いますので」

「そうですか、ではまた今度ここらに来たらあそこの交番に
寄ってくださいね。いつでもいると思いますから。
今回のことで何かお礼をしなきゃならないし」

そういって警察官の男は、私が入ってきた入り口とは
反対側の入り口の先にある交番を指差した。

「いいえ、この程度のことでそんなことは。先程もいったように単なる気紛れですから。」

そうだ、そんなことでお礼をされるというのも気が引ける、
それに、そう毎日のようにこちらの町にくることもない。

「そんなこと言わずに、お礼といってもお茶を出すくらいのことしかできませんけどね」




それから、一週間ほどの間があった。
新都に行くこともなかったし、用も無いのに行くわけにも行かないし。
それに、そもそもあの交番に寄る気もなかった。
しかし、またこの前のように私は新都でひとりになる機会があり、
私はまた公園で一人物思いに耽ることにしたのだが。

「あれー、あなたこの間の」

言葉が聞こえるとともに、ベンチの傍らにはこの間の警察官が立っていた。
時は夕暮れ時、そんなときに逢ったこの警察官はこの間とは違い、
ひどく、私よりも年上かのような雰囲気を漂わせていた。

そうして、話をした。
この間のこと、私のこと、この警察官のこと。
彼の家が少し特殊な家柄で、それが嫌で家を出て警察官になったこと。
私になにか特別な印象を持っていたということ。
ほとんどは彼が喋っていて、私が頷いている。というもの。
他にも他愛も無い世間話をしたけれど、その内容はよく覚えていない。
しかし、彼が言った、彼の唯一つの信念だけは心に残っていた。


「僕は、自分を信じてやり始めたことは最後までやり通すんだ」


その一つが、仕事を一度も休まないこととか、警官として地域の住民を
守るということに繋がっているんだ。と彼は語った。
彼は芯の通った男だった。自分の信じる道をゆく。
それは、どこかエミヤ士郎にも通じるものが感じ取れた。

それから私は機会があればその交番に通うことが多くなった。
ただすることは、本当に他愛も無い数分の世間話。
だからお互い、名前の交換もしていない。
ただ数分話して帰る。そんなことの繰り返し。
それに名前の交換など、特に意味をなさなかった。
彼は聞きたかったようだったが、私の様子を察して
わざと聞こうとしなかったのだろう。
私も彼も呼ぶときは、あなたとか君とか、そういう代名詞を使っていた。
けれど私は、彼の上司が彼を呼ぶのを何度か聞いていたから
それだけは知っていた。


彼はこう呼ばれていた。________刀崎巡査_______


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