この話は凛ルート、アーチャー戦前の話です。
「シロウ。アーチャーと戦うのならば、腹ごしらえをしてからにしましょう」
アインツベルン城に向かおうとした時にそんなコトを言ったのは、セイバーだった。
「相手は弱っているとはいえ、サーヴァント。少しでも体調を整えねば勝ち目はありません」
口調こそいつものセイバーだったが、その眼は獲物を狙うライオンのソレだ。
(まあ……キャスターに捕まって飲まず食わずだったわけだし)
今までの苦労を思えばそれぐらいは必要だな、と思い台所へ向かったところ、
「ああ、坊主。料理を作るんならコイツも使ってくれや」
青き槍兵がそこに立っていた。
「お前…なんでここに!?」
そこにいたのは紛れも無く槍使いのサーヴァント―――ランサーだった。
青を基調としたボディスーツ。
野生的な相貌。
そしてその手には、
「ビニール袋……」
が握られている。
何故にビニール袋。
しかも冬木商店街のマーク入り。
「どうしたのですかシロ……ランサー!?」
台所に入って来たセイバーが、剣を構える。
「まあ落ち着けセイバー。さっき手を貸すって言っただろう。ここで殺りあったりはしねぇよ」
「どういうことですか、ランサー。あなたは外で待っていると言った筈です」
「ああ、そのつもりだったんだがな………お前らがメシ食うっつうんで、
食材を持ってきたわけだ」
つまりそれは、
「ランサーもメシが食べたいんだな?」
「そういうことだ、坊主」
言って、ランサーはビニール袋を掲げた。
見ると、袋の中には大量の魚がひしめかんばかりに入っている。
「へぇ、全部新鮮な奴じゃないか」
「ああ、近くに穴場があったんでな、ちょいとばかり捕ってきた」
なるほど、クーフーリンの趣味は魚釣りだったな。
しかし、ここの近くに魚の釣れる場所なんてあっただろうか?
「ランサー、お前こんなに大量の魚何処で捕ってきたんだ?」
少し不安になって尋ねたところ、ランサーは笑いながら、
「ん?近くの商店街からだぞ」
そんな、トンデモナイ事を口にした。
「って何やってんだオマエ!」
「魚を捕ってきただけじゃねぇか」
それは盗ってきたの間違いだ!
「ったく……セイバーも何か言ってくれよ」
「肉や野菜もあると嬉しかったのですが……」
「論点そこかよ!」
こいつら本当に英霊か!?
「まあ落ち着け坊主。アーチャーの奴も言っていたぞ。
『そんなプライドはな、そこらの狗にでも喰わせてしまえ』って」
「あんたプライド肯定派じゃなかったんデスカ!?」
最早、俺の語調は滅茶苦茶だ。
英霊に抱いていたイメージがガラガラと崩れるのを感じている。
「何にせよ坊主。今まで三食間食夜食とマーボー豆腐だった俺の食生活を潤してくれ」
「………………」
最早ツッコミもままならない俺は、意識を持続させるのを放棄した。
そして、沈んでいく意識の中―――
パーポーパーポーパーポー!
「何事ですか!?」
「しまった!店主のヤロウ、サツに通報してやがった…!」
「くっ……シロウ、私達が警察を喰い止めますから、その間に食事を作っておいてください!」
―――すっげぇ理不尽な言葉を聞いた気がした。
翌日、アインツベルン城。
「………来ない」
待ちぼうけをくらったアーチャーは、寂しそうに呟いた。