凛の話 - バレンタインの日/1


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1: ukk (2004/02/24 17:48:00)


晴れ渡った冬空。学園の昼休み。いつもより少し騒がしい教室。
喧騒に背を向けて、私は廊下からの会話に耳を澄ませている。
「遠坂」
「なによ、綾子」
「眉間にシワ」
あわてて指でほぐす。
「いやー、遠坂のこんな表情が見られるとは、仮面優等生と同じクラスっていうのもまんざらじゃないね」
腕を組んでにやにやする綾子を一瞥する。
「おお、怖い怖い」
そう言いながらも綾子はそのにやにや笑いを消そうともしない。
私は、廊下から聞こえてきた声にあわてて意識を戻す。

すぐ後ろでは、綾子と柳桐くんと慎二が話を続けている。
「いやはや、衛宮がこれほどまでにモテるとは知らなかった」
「彼奴の人間的魅力が全く正当に評価されているということだ。友人として溜飲が下がる」
「名の知れたお人好しだからさ。しかし、貰うたびにいちいち赤面するなんてね。小学生のほうがまだマシだ」
「それが衛宮のいいところさ。ところで、そういうアンタはどうなんだい。今年はずいぶん少ないじゃないか」
「ふむ、確かに間桐は去年はずいぶん貰っていた記憶があるが」
「朝、靴箱でずいぶん貰ったし、僕は衛宮と違ってふらふらしていないからね。放課後どこに居るか分かっているのに、わざわざ休み時間を使う必要はないだろう。去年くれたみんなには、放課後にしてくれるようお願いしてある」
「残念なことにアンタ目当ての部員が多いのは事実だからな。しかし、あいつがイイ男だってことに昔っから気が付いていたのは、アタシと桜くらいだったんだがなー」
「ぬかせ、美綴。貴様に衛宮はもったいない。いうまでもなく、そこの女狐にはとても釣り合わん」
「ま、衛宮みたいなお気楽の相手が務まるのは桜くらいなもんだろ。かりかりした女にはまず無理だね」
「うるっさい、三人とも。黙ってなさい」
廊下の会話がよく聞こえないでしょうが!

「おーい、仮面を付け忘れているぞー」
「八つ当たりするくらいしか出来ることがないのさ」
「ふん、本性を隠す余裕もないということか」
連中は続けて失礼なことを言ってくる。
が、今はそれどころじゃない。
こっそりと魔力で聴覚を増幅。
廊下で行われている会話の続きを、盗み聞きする。


綾子のセリフじゃないが、士郎がこれほどモテるとは思っていなかった。
油断はしなかったつもりなのだが、よもやこのようなことになるとは。
私の自惚れというか、侮りというか、おそらくその両方が原因なのだろう。
肝心の、今日という日にこういう状態ということは、つまりそういうことなのだから。
おまけに、私の武器は遠坂家の厨房に置きっぱなし。
戦場に立つこともできず、朝からずっと不戦敗を続けている。


聖杯戦争が終わって、士郎は大きな成長をした、らしい。
一緒に登校した二月の朝。
校門で会った柳桐くんは、惚けたように士郎を見た後、真面目な顔で「親父の推薦で本山まで修行に行ってみないか」と言い、朝錬から教室に戻ってきた綾子は、士郎を見るなり、上から下まで視線で検分すると「衛宮、アタシと真面目に付き合ってみる気はない?」とせまってきた。
そのとき私は士郎の隣で、二人の反応を見ていた。
しかし、正直にいって、彼らがなぜそんな反応をするのか分からなかった。


聖杯戦争で士郎は英霊エミヤを乗り越えた。
その結果として身に付けたものが、事情を知らない二人に衝撃ともいえるほどの印象を与えたらしい。
でも、聖杯戦争中そばにいた私にしてみれば、それほどの変化とは考えられなかった。

確かに芯の通った人間になったが、危うい性格は以前と変わらず。
魔術も相変わらず半端。
頼みの固有結界だって、私からのバックアップがなければ起動すら難しい。
だから、彼らの反応を訝しく思っていた。


士郎の学校での立ち振る舞いは、以前同様。
放課後になると、校内の備品を修理に赴き、困っている人が居れば手助けをする。
二人の異様ともいえる反応があったにもかかわらず、終業式まで、とくに評判になることはなかった。
だから、私はそのことを次第に忘れていった。


柳桐くんは生徒会長であり、教員からの信望も厚い。また実家の関係で様々な人物と接している。
綾子は周囲から推されて弓道部部長になり、それ以前も下級生や同級生の相談役をよくやっていた。

二人とも、私よりもはるかに多くの人物と、それなりの時間、接してきたのだ。
つまり、二人の人物観が私よりも劣るということは、まず、ない。
私はそれをちゃんと考えてみるべきだった。
しかし、私はそれを怠った。その理由は簡単。
まあ有体にいって、私は、油断しきっていたのだ。
士郎との関係に。


衛宮士郎という人物は、ずっと以前から学園内でそれなりに知られていた。
度外れて朴訥な、尋常でなく人の好い人物として。
どんな依頼でも、受諾さえすれば必ず解決してくれる万能トラブルバスターとして。
生徒会、各部活動のみならず、学園全体の備品代を半減させたという物品修理のエキスパートとして。
音に聞こえた料理上手として。


春休みを終える頃。
士郎の外見はずいぶんと変貌を遂げていた。
聖杯戦争を経験して精悍さを増した顔付き。
どんどん伸びていって、私が見上げるほどになった身長。
卒業後のために毎日英語と魔術を叩き込まれていたせいか、知的な光を放つ真っ直ぐな瞳。
欠かさない自身の鍛錬とセイバーと毎日行う訓練の成果で、鋼のように引き締まった筋肉質の身体。


これだけ揃っていて、人気の出ないはずがなかった。


春休み中のアルバイトかあるいは学校での備品修理のときか。
日々絶えず研鑽を積んでいた士郎を見かけた生徒がいたのだろう。
噂になっていたらしく、休み時間になると、他のクラスの生徒や下級生が教室を覗き込んでいた。
そのときは気にもしなかった。なにせ綾子や柳桐くん、慎二、加えて薪寺に私という面子が揃っているクラスなのだ。

はっきりいって、私はモテる。よくモテる。とてもモテる。男女を問わず、人気がある。
誰もが憧れる優等生足らんとして、時間を丁寧に積み重ねてきた。それは伊達じゃない。
綾子も、その面倒見の良さやさっぱりした性格からか、私ほどじゃないが人気がある。
慎二は聖杯戦争後、性格の優しい部分がよく見えるようになって以前よりも好かれていたし、柳桐くんと薪寺も、本人達が自覚していないだけで、それなりに羨望の的だ。

このクラスが人を集める要因は、これでもか、というくらい揃っている。
だからそのときは、まさか士郎が目当てとは思いもしなかった。
今年は女の子がずいぶん多いな、とか、士郎が声をかけられているのをみても、誰を呼んでくれと頼まれているのやら、くらいしか考えなかった。


今にして思えば、士郎が声をかけられたとき、誰かを呼ぶために教室に戻ってくる回数よりも、戻ってこない回数のほうが多かったというのに。


三年生になっても衛宮士郎は、相変わらず。
休み時間や放課後になると、学校の備品を片っ端から直してまわり、困っている人を見付けては手助けしていた。
以前と違っているのは、衛宮士郎が格段に格好良くなったということ。
ただそれだけ。


士郎の人気に一計を案じた春を過ぎ。
藤村先生たちと大騒ぎした夏が終わり。
セイバーや桜と旅行にいった秋を越えて。
やがて冬が訪れ。


私と士郎にとって、学園生活最後のバレンタインの日が来た。


冬晴れの朝。空には雲ひとつない。
いつものように士郎と一緒に登校する。

校門で柳桐くんを見付けた。他校の女子生徒と話をしている。制服から、新都にある高校だとわかった。
柳桐くんは私たちを見つけると、
「衛宮、こっちにきてくれ」
士郎を手招きしてそういった。
「俺?」
士郎が不思議そうな顔で私の隣を離れた。
柳桐くんは私の方をちらりと見る。挑発するような顔をしている。
なぜか、私が朝にやった致命的失敗を見抜かれているような気がした。カチンとくる。
柳桐くんは「ま、頑張れ」と言ってやってきた士郎の肩を叩くと、嬉しそうに昇降口へ消えていった。

十分後。
真っ赤な顔で私の横に帰ってきた士郎の手にあったもの。
それは、いわゆるバレンタイン・チョコだった。


「見ろよ、遠坂の顔。朝からずっとあれだぜ。ふふん、いい気味だ」
「薪、遠坂嬢も女だ。嫉妬に身を焦がすこともあろう」
「え、遠坂さん、嫉妬してるの?誰に?」

今度はこっちの三人組か。
「薪、遠坂嬢に聞こえたみたいだが」
「いいんだよ、聞こえるようにいったんだから」
「ねえ、誰に嫉妬してるの?」
「薪は以前、遠坂嬢を危険人物扱いしていなかったかな?
「腹を立てるほど笑顔になるってのは、どう考えても危険人物だろ」
「ねえ、誰に嫉妬してるのー?」
「ふむ。だというのにその発言。薪が既知外に刃物を持たせたがる人間だとは知らなかった」
氷室さん、その表現はちょっと。
「まああいつは、必要だから私のために死んでね、くらいは言うからな。そういうのに嫉妬される方は大変だ」
「ねえ、遠坂さんは、誰に嫉妬してるのー?」

こっちは忙しいのだが、放って置くといつまでも止まりそうにない。
席を立ち、薪寺のところまで歩いていく。
「わ、嫉妬に狂った女が来た」
「三の字、ちょっと向こうに行こう」
「えー、私、遠坂さんに聞きたいことがあるのー」
三枝さんが氷室さんに引きずられて教室から出ていく。それを横目に笑顔を作って口を開く。
「薪寺さん、さっきから、ずいぶんなお言葉ね。ちょっと相談があるのだけれど、今、よろしいかしら?」
「は、相談ですか。へえへえ、相談ね。ふーん、相談かー」
こいつ、私を昼食の肴にするつもりか。ますます笑顔を素敵にする。
「ええ、相談です。それで、どう?今、よろしくて?」
にっこり。
「私はよろしいけど、果たしてそっちはどうなのかなー」
「どういうことかしら?」
「誰かさんが席に戻ってきたようだけど。昼休みは始まってまだ十分。あと何回呼ばれるのやら」

視線を士郎の席に移す。
また貰ってきたのか、あいつめ。
照れた顔をしている。
私以外から貰って喜んでいる。ムカつく。
もらってきたチョコを袋にしまっている。
たくさん貰ったので、購買の袋に入れないとしまう場所がないのだ。ムカつく。

薪寺を見逃す気は無いが、ここは向こうが優先だ。
「そうね、相談はまた今度にしましょう。そのときには必ずお願いしますね」
「はいはい、とっとと行った行った」
薪寺は、にやにや笑いを浮かべながら、手をひらひらと追っ払うように振る。
「おーい、二人とも。終わったぞから早く戻ってこい。でないと見逃すぞー」
薪寺はにやにや顔でこっちを見たまま、廊下に向かって声をかける。
見てろ。後で必ずとっちめてやる。


「衛宮くん、よかったわね。それ、何個目かしら」
笑顔で話しかける。
「と、遠坂。え、ええと、これはだな」
「朝、校門で他校の生徒から一個と靴箱に二個の計三個」
柳桐くんが割り込んでくる。
「HR前に桜から一個と、一時間目の休み時間に一個」
続いて綾子。
「二時間目は二個。三時間目は一個。ま、衛宮だからそんなもんだろう」
これは慎二。
「そして昼休み現在、二個を受け取ってさらに記録を更新中というわけだ。校門では告白もされていたはずだし、友人として鼻が高い」
こいつ、余計なことを!

「なんと、やるじゃないか衛宮」
「へえ、衛宮もようやくそういう経験が出来たのか」
と、ちょっと待った。
「柳桐くん、あなたその場にいなかったのに何で知っているのかしら」
「愚かな。他校の生徒が校門にいるなら、生徒会長が相手をするほかあるまい。そのときに大体のことは聞いた」

「お、それじゃ、どこで衛宮を知ったのかも聞いた?」
これは美綴。私もそれは知っておきたい。
「うむ、当然。春休み、帰宅中に自転車のチェーンが外れたそうだ。夜も遅く、家は遠い。不安になっていたときに、通りかかったアルバイト帰りの衛宮が、指を油で黒くしながらも直してくれた。以来一途に心に想っていたが、もうすぐ卒業ということを知り、勇気を振り絞って来たそうだ。誰かと違って健気なことこの上ない」
腕組みをして、うんうん、と頷く。
「うひゃー、まるで少女漫画だね」
「なんだ、お人好しがたまたま通っただけの話か。ま、衛宮だしな」

なんだそれは。そんなことで――――――
「衛宮。おなごが呼んでおるぞ」
――――――またか!


そうなのだ。士郎にチョコを渡す連中がずいぶんといる。
一学期の試験休み。
私はセイバーと一緒に策を講じて、士郎はお気に入りであることを周囲に知らしめた。
その結果、士郎にアプローチしてくる連中は大人しくなり、表面上はいなくなった。
以来、たしかに私はそれらしいことを表立ってしてこなかった。

それでも登下校は一緒だし、衛宮士郎と遠坂凛は仲が良い、ということを私は否定しなかった。
だから卒業までは乗り切れると思っていた。

ところが、もうすぐ卒業するとか、私が卒業後にロンドンに行くとか、士郎の進路はいまだ不定ということになっているとか、いわゆる状況の後押しというやつが予想以上に効果を発揮したらしい。
士郎は朝から、呼び出されてはチョコを手に戻ってくる、という行動を繰り返している。


チョコ袋に今貰ってきたばかりのものを入れている。ムカツク。
そんな士郎を見下ろして、私は特上の笑顔を作る。
「衛宮くん、そうやっていちいち受け取りに行っていたら、ご飯を食べる時間がなくなってしまうでしょう。幸い、衛宮くんはお弁当なんだから、後は柳桐くんや美綴さんに任せて、屋上とか人がこない場所でお弁当を食べたほうがいいと思うわよ?」
にっこり。もちろんこれは「屋上に来い」という意味だ。
……なんか今日はこんなことばかりしているような気がする。

二月の屋上なんて寒いだけ。
だが、私たちは、寒さから逃れられる場所を知っている。今の私はそんなものがなくても全然問題ないだろうけど。
とにかく、士郎をここに置いておくわけにはいけない。話も出来ないし。

「う、うん、そうだな。わかった。そうする」
士郎はかくかく頷くと、お弁当を鞄から取り出して立ち上がった。
「それじゃ、一成、美綴。すまないけど、後、頼む」
「あんまり衛宮をいじめるなよ、遠坂」
「おのれ女狐、いつまでも衛宮を拘束できると思うなよ」
「やれやれ、なんで衛宮が弁当って知っているかは聞かないでおくよ。僕って優しいねえ」
なんで三人が三人とも士郎に返事しないで私に言うのだ。私は士郎とちょっとした話をしたいだけ。それだけだってば。


空には雲ひとつない。きっと今夜は星が綺麗に見えることだろう。
屋上の聖杯戦争以来なじみになった場所で身体を寄せ合って、昼ごはんを広げる。
士郎はお弁当、私は購買で買ってきたパン。
いつもなら士郎に買ってきてもらうところだけど、今日は、士郎を買いに行かせたら余計なものまで持ち帰ってきそうなので、自分で買いに行った。
廊下ではなぜか皆が道を譲ってくれて、混雑していた購買では、どういうわけか待たずに買えた。
…………ふん。


士郎のお弁当をつまみながら、パンをかじる。
「まったく、呼び出されてはほいほいと出て行っちゃってさ」
「なんだよ。呼ばれたんだから行かないと悪いだろ」
「そうなんだけど。別に渡すのは柳桐くんや綾子でもいいじゃない」
「本人がいるのに他人に任せる方がおかしいだろう。それに、ほとんどは一成や美綴に渡してくれって頼まれたんだぞ。あとは慎二か。相変わらず、あいつモテるんだな」

こいつ、建前とか駆け引きっていうものを知らないのか。……知らないわね。
「ふーん。一緒に貰っていたアンタの分、あれはなんだったのかしら?」
「あ、あれは助けたお礼だっていうから。せっかく持ってきてくれたのに、突っ返すのもなんだし」
「そうね。お礼よね。この間は助けてくれてありがとうございました、とか言ってたしね」
「そうだって。特に深い意味なんてないよ」
「じゃあその後の、私とお付き合いしてください、っていうのもお礼のうちなんだ」
「き、聞いていたのか、遠坂!」
「別に。勝手に聴こえてきただけよ。すぐそこの廊下なんだもの」
嘘。本当は魔術で聴覚を増幅して聞いていた。
「良かったじゃない、人助けの成果が目に見えてさ」
「い、いや、俺はそういうつもりでやっていたわけじゃなくて」
「ふーん。そうなんだ」
そんなことは知っている。士郎が悪いわけではないことも、頭では理解している。でも、止まらない。
「そういえば、チョコ貰ったときに、ずいぶん告白されてたわね」
「い、いきなりなに言い出すんだ、おまえ」

「ずっと前から見てましたー、助けてもらって嬉しかったんですー、部の備品を修理してくれたときから憧れていたんですー」
そのときの相手の口調を真似して言ってやる。
「な」
「これ読んでください私の気持ちですー」
「な、な」
「携帯番号です連絡くださいねー、とかもあったわね」
「なんでそこまで知ってるんだ、遠坂!」
「別に。勝手に聴こえてきただけよ」
違う。必死に聞き取ろうとしていた。いったい何時から、遠坂凛はこんな狭量で厭味な女になったのだろう。自己嫌悪する。

「で、モテモテの衛宮くんは、どうするのかな?選り取り見取りよね。うらやましいこと」
「そんな、選り取り見取りもないだろ」
「あら、もう決めたの?選択肢は多ければ多いほどいいのよ?」
「だって俺は、遠坂がいれば、それでいいから」
「――――――。そ、そう」

今の言葉で、他人の好意に気が付かない士郎の朴訥さも私の気持ちに気が付かない鈍感さも、全部許す気になった。
まったく、私は惚れた相手にはこんなに甘い人間だったのか。
隣を盗み見ると、自分の言葉で赤くなっている士郎と目が合った。
あわてて目をそらす。きっと私も同じくらい赤くなってる。こんなにも頬が熱い。
「…………」
「…………」
二人して、無言で昼食をつつく。


空のお弁当箱をしまいながら、士郎が言った。
「遠坂が嫌なら、断るよ」
「受け取りなさいよ。気持ちなんだから」
「遠坂はそれでいいのか?」
「……別にいいけど。」
よくないけど。でも、士郎が評価されているのだから、と納得する。した。したってば。
……誰に言っているんだろう、私は。


屋上から教室に戻る。教室は暖房が効いていて暖かい。
士郎の机には、荷物があった。
綾子の字で書かれた「記録更新!」というメモと、三個のチョコ。
屋上では許そうと思ったが、実物を見て気が変わった。
やっぱり許さないことにしよう。


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