あぁ、またあの夢か、
と、アルトリアは思った
それは、一人の騎士の夢だ
騎士は、剣を取って王様となり、
王様となって国を護り、国に裏切られて、国を滅ぼした
「自分よりいい王様だったら、きっと、モット良い国だったんじゃないか」
そう思った、
だから探した、
探して、探して、見つからなくて、だから、世界に
「自分より、王様にふさわしい人を見つけてくれるもの」
と引き換えに、自分を差し出した
それは、「自分が死ぬ前に見つかるものだ」と、
世界は、死にそうな彼女を連れまわした
昨日に行った、明日に行った
きっと見つかるのだと、
そう信じて、彼女は、その剣で、探し続けた
でも、今日の夢は違うらしい
「セイバー、俺、頑張ってるヤツが報われないのってイヤなんだ」
あれ? とアルトリアは思った
少年は、自分の考えが間違ってると言った
国のために良いコトをしようと思ったのに
それは間違いだと言う
「自分は騎士だ」
と何度言っても
少年は自分を女の子として扱った
その剣を信じて、命を預けても、
少年は、アルトリアを女の子として扱った
彼を護らないといけないのに
彼は、何度も身を挺して、自分を護った
痛かった、怖かった、
自分が傷つくより、彼が傷つくのが怖かった
負けることより、彼が自分のことで傷つくのが怖かった
何度も何度も、訴えた
「そんなことはしなくて良い」
頼むから傷つかないで、
何度願っても彼は首を縦に振らなかった
彼には何もなかった
あったのは、借り物の夢と、たくさんの剣と、少女の剣の鞘だけ、
「なくす前に戻りたくないか?
自分や、皆が、なにもなくさなかったことにしたくはないか?」
誰かが言った
頷くと彼女は思った
だって彼には何もない
何もないのに自分の手に溢れそうなほどのモノをくれた
頑張ってる人が報われないとイヤなら
彼が報われないのは一番嫌だ
彼が救われないのは一番嫌だ
だって彼は空っぽじゃないか
頷けば報われるじゃないか
だというのに、彼は、頷かなかった
空っぽの体で、だからこそ、借り物の夢に命を懸けてきた
「亡くしたから、亡くしたものを背負っていかなきゃいけないんだ」
と彼は言った
戻ってしまったら、なくしたものは何処へ行くんだろう
どこへ帰っていくのだろう
だから彼は頷かなかった、
誰よりも救われて欲しい人は、誰の救いも必要としていなかった
誰よりも救われないと解っていても、彼は誰かを救いたかった
報われないのは嫌なのに、誰よりも報われない生き方しかない
彼は壊れていた、だから自分は「頑張ってる人」には入っていないのだ
「報われるほど頑張ったほかの人」が報われないのが彼は嫌なのだ
だから彼女が頷くことにした
だから彼に頷くことにした
王様は見つからない、王様を見つけるものも見つからない
だってそんなもの無かったのだから
たくさんもらった、空っぽのはずなのに彼はたくさんのものをくれた
だから、彼に返せるたった一つのものを最後に彼女は彼に渡した
それは、たくさんもらった自分のたった一つだけ出来ること
胸を張っていえるたった一つの彼に出来ること
「シロウ、愛しています」
静かに言って彼女たちは分かれた
ひと時の夢だから、届かない願いだから、
そして、アルトリアは静かに目を覚ました