初めまして、ええっと、この話は月姫をやった人間が、妄想を膨らませまくった月姫後日談です。
オリジナルキャラが出てきます。設定について勉強したのですが、都合のいいように相当捻じ曲げてると思います。
という点を理解していただいて読んでいただけるなら、大変光栄です。
それでは、お楽しみください〜。
暗い部屋に一人の男がいる。袴を着た初老の男。小柄な、しかし背の張った男で、後姿を見るだけでも彼の有する力がうかがい知れる。
私は、彼に呼ばれてここに来た。一声「失礼します」とかけると、暗い部屋に入る。
一歩踏み出せば、蜘蛛の糸のような闇が私を侵す。それが、目の前の男の能力なのではないか?とふと思ったが、それを振り払い一礼をする。
「九鬼篤志、拝命を受けて参りました、ツチグモ殿」
「大儀じゃ……」
初老の男、土蜘蛛は振り返る。まさしく蜘蛛のような無機質でいて粘ついた、品定めをするようなその目にひるむことなく私は言う。
「ご用命は?また、山の民の祓いを手伝え、でしょうか?」
山の民、我らが同胞にして、天敵。体制に組せずして、国に仇なす魔を払う組織の名だ。我々、アマテラスノオオミカミを崇める「大祓讃(おおはらえのたたえ)」と違い、スサノオノミコト、体制の反駁者を崇める連中。
しかし、彼らがらみの仕事ではないようだ。老人は目を細めて、鼻を鳴らすように笑った。
「それが、今回はちと特殊でな、西洋の鬼を捕らえよ、というものじゃ」
西洋の鬼、トロールやオウガが見えなくなった昨今、それが意味する言葉は一つしかない。
「というと、吸血鬼ですか?そういえば、カソリックの狂信者がいつぞやの騒ぎを治めたと聞きましたが」
この話は裏社会、則の外に身を置く人間には有名だ。
遠野の管轄地で、吸血鬼が発生し、狂信者、世界の摂理を捻じ曲げる悪名高い教会の「埋葬機関」の鬼娘が現れて、鎮静したという話だ。
我々の組織は、表に出ることをほかの魔術師教会などと比べて、極度に嫌うため、あのような大きくなりすぎた事件には携わらぬようになっているのだが……
「構わん、鬼もまた人害よ」
「しかし、吸血鬼は我々の魔の定義とは少しずれる気がしますが」
我々、神道や密教を基とする魔とは、理をはずれて、顕現した霊を指す。怨霊や地縛霊といった人知れず人に害を為すものを払うのが仕事である。
一方、鬼は元から世界の在り方のために存在する人外であり、この分類にあたるもの、特に吸血鬼はその性質上、唯我の物理主義者、「教会」連中にその採択を委ねている。
「それに、あそこは我々の管轄地から外れているのではないかと……遠野は表向きにも、強大な経済グループです、事を仕損じたときに起こる弊害は……」
「ならば、遠野も根絶やしにするがいい、それに関しても仔細ない、大老院から許可は下りている」
大老院はこの国の外法の組織の頂点を意味する指揮系統のことだ。
その経緯には先の大戦直後のGHQからの情報隠匿に設立されただとか、明治維新の際、西洋主義に反発したかつての幕府実力者によって設立されたなど諸説あるが、有する権力は絶大で、公的機関の多くはこれに支配されている。まして、先代が潰えて以来落ち目の民間企業など歯牙にもかけまい。
まあ、それはさておいて、
「宮内庁、陰陽院のご老人方がそんな許可をよく出しましたね」
「それほど、重要なものだということだよ、障害を数多多くあろう、だからこそ、お前が選ばれたのだ」
老人は、したりとした顔で言う。
「なるほど……」
確かに、私の能力はそういった荒事に対して絶大だ。
「そういうことでしたら、早速……それで、その町の名はなんと言いましたか、それから標的の名は」
ツチグモは目を見開き、歓喜を隠すかのように両目を見開いて、目的の名を告げる。
「場所は三咲町、これに関しては案内をよこそう、それから、標的の名は、アルクェイド・ブリュンスタッド……留意せよ、現存する吸血鬼でも最も強大なものの一人じゃ」
老人の言葉は、真摯そのものである。それゆえに私は、少し微笑んだ。安堵させるのと嘲笑のために。
「問題なく、仔細なく、障害など裂いて散らしてみせましょう」
私の能力で、末尾を心の中で呟いて、くぐもった笑みを浮かべるように口の端を吊り上げ、蜘蛛の闇から抜け出ていく。
そうして、私は目的地に向かった。
後書き、初投稿であるのに、早速連載長編に挑戦しようというこの暴挙。
内心びびってるので、ちょと短めです。
もし、評価してくださるのでしたら、感想、批判などよろしくお願いします。
それでは失礼します。