※あらすじ
聖杯戦争終結から約半年。気高く、美しく、ただ王であろうとし、王であった彼女。
彼女は己の人生への誇りを胸に宿し、己が終着の地へと還った。
衛宮士郎はそんな彼女との別れを胸に養父のような正義の味方を目指し鍛錬を続けていた。
そんなある日の朝、自分を起こしに来た銀髪の少女イリヤスフィールは彼に問いかけた・・・。
「キリツグの墓参りに行こうと思っているの。シロウも来る?」
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目の前のイリヤは紅い瞳を向けながら、俺にそう問いかけた。
土蔵の中の時が止まる。
突然のイリヤの表情に、イリヤの問いかけに心臓が揺さぶられた。
いつもの朝、いつもの衛宮邸。その中でイリヤが発した言葉は突然の物だった。
いや、違う。突然なんかじゃなかった。
知っていた。聞かされていたんだ。
俺は知っていた。切嗣が前回の聖杯戦争で彼女のマスターだったという事を。
俺は知っていたんだ。切嗣が前回の聖杯戦争でアインツベルンを裏切った事も。
・・・親父が自分の望みよりも、アインツベルンよりも、聖杯を破壊する事を選び、
あの焼け焦げた廃墟で、自分以外の命全てが死んでいく様を見続けていた俺を救いに来てくれた事を知っていた。
一を捨て九を救う。
そんな自身の生き方を捨て、アインツベルンを裏切り、聖杯を破壊した切嗣。
その親父を殺しにきたアインツベルンの少女。千年の願いを受け継ぐ少女。
何より彼女は、切嗣の本当の子供のはずだ。
・・・そして、本来、彼女が居るはずだった場所で生き続けた衛宮士郎。
だから。いつかイリヤには言わなきゃいけない事が、聞かなきゃいけない事があるのは
分かっていた。
でも、イリヤが無邪気に、純粋に俺を慕ってくれるから。今の関係のままで居てくれようとしているから自分からはイリヤに聞こうとはしなかった・・・。
イリヤは何故まだ衛宮士郎の傍にいるのか?・・・・と。
イリヤがここに残った理由。衛宮士郎に関わっている理由を。
聞かなくてはいけない。聞いてやらなくてはいけない。
それが切嗣の息子の、親父の跡を継ぐと誓った俺の責任であると思うのならば。
親父が果たせなかった事を、目の前の少女が果たせなかった事をほんの少しでも叶えてやりたいと思うなら、イリヤの幸せを望むなら俺がすべき事は決まっていた。
決まっていたのに・・・。自分からは動けず、イリヤを先に動かせてしまった。
これで何が、兄貴分だ! 自分を情けなく思う。
だから、せめて目の前のイリヤからの問いに対する答えだけは、
俺が言う言葉は、一つしかありえなかった。
「ああ、俺も行く。イリヤ、一緒に親父の墓参りに行こう。」
イリヤの紅い瞳を真っ直ぐ見つめながら、俺はそう告げた。
「そう・・・。うん、シロウならそう言ってくれると思ってた、ありがとう。」
そっと微笑むイリヤ。
「・・・でもねシロウ、本当はシロウには断って欲しかった。そうしないと私は今日、・・・」
何を言われるかは分かっている。その言葉に嘘がないのも分かっている。
あの戦いの間にも何度も経験した事。
イリヤの俺への好意が一点の曇りもない純粋なモノなら。
俺への殺意もまた純粋なモノなのだから。 それでも俺は・・・。
イリヤは冷酷な貌の中に僅かな不安を秘め、静かに告げた。
「シロウを殺しちゃうかもしれないから。」
イリヤと墓参りに行くんだ。
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居間ではイリヤと藤ねえがくつろいでいた。
たまの日曜という事で衛宮家の虎はこれでもかってくらい居間を占拠している。
・・・藤ねえ、休みの日ぐらい自分の家で休まないのかと思ったり、
・・・藤ねえ、桜が部活に行ったのにアンタはいかなくていいのかと思ったりもするが、
別に虎の子が欲しい訳でもないので虎の穴に近づく必要はなかった。
ゴロゴロしている藤ねえに構っている暇があったら、
弁当を作ってしまおうと思い、せっせとおにぎりを握る。
俺とイリヤの二人なら5つもあれば充分かな。
ぎゅ。ぎゅぎゅ。ぎゅ。適量のご飯に塩を振り、三角形に握っていく。
よし、完成。おかずは弁当箱に詰めたし、後はおにぎりに海苔を巻こうと戸棚に手を伸ばす。
すると、居間の方から
「シロウー。日曜なのにお弁当なんか作って、どこかに出掛けるのー?それとも、それは今日のお昼?」
なんて藤ねえが聞いてきた。
いや、確かにたまに昼食を弁当にした時もあるが普通はわざわざおにぎりまで作らないだろ。
・・・と、そういえば、イリヤと墓参りに行くといっても肝心の親父の墓の場所を知らない事に気が付いた。
まだ子供だった俺は親父が死んだ時、葬儀だのなんだのは全部藤ねえの親父さんにやってもらった。
その上、俺はこの5年の間、一度も親父の墓参りをした事がなかった。
何度か藤ねえに誘われた事もあったが、
親父のような正義の味方になるのにのんびりしている暇はないと日頃から思っていたし、
親父の墓に参る事があるとすれば、
それは俺が正義の味方になった時だろうと、何故か考えていたような気がする。それまでは別段、墓参りをしようとは思わなかったのだが、
イリヤと一緒に行く事にしたのだから親父の墓の場所を聞かなくちゃな。
そんな事を考えていると、いつの間にか藤ねえが台所に来ていて、
おいしそうだねーなんて言いながら、弁当箱を覗いていた。
「いや、藤ねえ。これは昼食じゃない。今日、これからイリヤと出掛けるんだ。で、藤ねえに聞きたい事があるんだけど・・・。」
俺が続きを言おうとしたその時、
「タイガ、そのお弁当は食べないでね。私とシロウは今日、デートに行くんだから。」
「そっかー。シロウとイリヤちゃんは今日、デートなんだ。」
ごく自然にイリヤがそう言い、藤ねえは弁当箱を閉じて居間に戻っていく。
ちょっと待て。親父の墓参りに行くんじゃなかったのか。
いや、墓参りもある意味デートなのか?
・・・そんな事よりイリヤ、藤ねえにそんな事を言ったら、
居間に戻り、さっきまでと同じ様にくつろぎ始める藤ねえ。
「・・・ん、シロウとイリヤちゃんがデート?」
その頭には次々と?マークを浮かんでいた。
こちらが穴に入らなくても、虎が穴から走り出してくるのは時間の問題のようだった。
俺は素早くおにぎりを海苔で包み、弁当箱とおにぎりをバッグにしまうと、イリヤの手を引き、急いで家を出る事にした。全速全霊で靴を履き、家の門をくぐる。
衛宮の家の居間では一匹の虎が、
「うわーん、シロウがロリ○ンになっちゃったーーー!」
人聞きの悪い事を叫んで暴れていた。
続く
あとがき
まずは前回のSSを読んでくれた人、御免なさいm(_ _)m
前回のあとがきで『次回は墓参りに行きます。』なんて書きましたが・・・
墓 参 り に 行 っ て ねぇぇぇぇーーー(エコー
うう、完全に力量不足です。一応このSSの主旨はタイガー道場で
イリヤが言っていたセイバーED後の士郎とイリヤを切嗣の墓参りを通して書く事なんですが、2話まで終わって墓参りに行けないとは・・・_| ̄|○
じ、次回こそは墓参りに行きたいと思います。そこで士郎はイリヤに何を言うのか、イリヤは士郎に何を言うのか。とりあえず、精一杯頑張ろうと思いますので、このあとがきまで読んでくださった方。
次回も読んで頂ければ嬉しく思います。このSSを読んで下さりありがとう御座いました。
では、そんなこんなで失礼します〜m(_ _)m