戦いの雌雄は決した。
敵軍の将は我が王との一騎打ちで破れた。
だが、王も致命傷を受けており―――余命いくばくも無いのは明らかだった。
しかし、私はそんな―――いかに王とて血を流しすぎれば死ぬという―――戦場では当たり前のことを認めたくないがために、
あの湖を目指して馬を走らせていた。
無駄だということは理解していた。
湖に着く前に王は死ぬだろう。
それでも、認めたくなかったのだ。
「もうよい。降ろせ。」
そう王が言ったのは湖からそれほど離れては居ない場所だった。
「あと少しです。お気を確かに。」
「ここでよい。降ろせ、ベディヴィエール。」
仕方なく馬を止め、王を降ろす。
「騎士ベディヴィエールに命ずる。我が腰に有る聖剣エクスカリバーを、湖の婦人の手に戻して参れ。」
「それはっ・・・」
「王の命だ。我が”騎士”ベディヴィエールよ。」
「・・・っ・・・了解しました。」
そうして王の聖剣を預かり、再び馬に跨り湖を目指した。
が、程なくして馬を反し
王の下へ帰った。
―――どうしても王の死を認めたくなかったのだ。
それが分かれ目だったのだろう。
そうして
『契約する。我が死後を捧げよう。代償として、我が命ある内に我が手に聖杯を―――」
聞くべきでないことを聞いた。
「まだ・・・戦われるのですか?」
「ああ、契約した以上死した後も戦わねばならんし、無論聖杯を手に入れるためにも戦う必要があるだろう」
気づかれていたのだろう。王は私がここに居るのを当然の如く扱った。
「もうお休みになられても宜しいのではないですか?」
あれだけ認めたくなかったことが、今はあっさり口から出た。
死んで欲しくないのは今も同じだが、安らかに逝って欲しいとも思っていたのだろう。
「まだ、ならぬ。」
「・・・っ・・・何故ですか!?貴方様は全力で国を守られた!」
「その結果がこれか?」
「ッ・・・」
「もはや世界との契約は成った。今更問答したところで無意味であるぞ。」
「・・・わかりました。しかし貴方様は有名すぎます。
その抜き身の剣を見ただけで、貴方様の正体は看破されるでしょう。そうして弱点も。
しかしながら貴方様は剣を隠すべき鞘をお持ちでない。」
「それがどうしたことだ。お前が仕えた王はそこまで弱いか。」
「いいえ。しかし正体は隠されたほうがよろしいでしょう。
だから―――――私が貴方様の仮初の鞘となる。」
『契約しよう。我が死後を捧げる。我が力の全てを持って、我が主の剣を隠せ』
これは彼女の剣が”風王結界”と呼ばれるようになった時の話。