過去のキリツグ、今のシロウ【M:イリヤ傾:シリアス】


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1: ターパン (2004/02/21 05:37:00)[kota948 at circus.ocn.ne.jp]

朝。桜の花も散り、梅雨も過ぎ、時期に季節は本格的な夏を迎えようとしていた、そんな朝。
大きな純和風建築の屋敷の一角。古ぼけた土蔵の中へ一人の少女が入っていった。
土蔵の中では一人の青年が毛布も掛けずに眠っていた。

「・・・ロウ、起きて。シロウ、朝だよ。」
耳元で誰かが俺を呼ぶ声がした。誰だ?
すっと目を開けると、そこには長い銀の髪の少女が俺の顔を覗き込むように立っていた。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
俺の養父である切嗣の実の子供で先の聖杯戦争に参加したマスターの一人。
つい半年ほど前までは命を狙われたりもしたのだが、聖杯戦争が終わった今では
もちろんそんな事はない。

それどころか聖杯戦争が終わるとイリヤは
「国にはまだ帰らないわ。しばらくはシロウの家に住むつもりよ。」
と宣言した。俺としては遠坂もセ、・・・彼女も居なくなった屋敷には部屋の余りも充分すぎるほどあるので構わないと言ったのだが、藤ねえと桜の猛反対にあった。
特に藤ねえなんかは
「シロウとイリヤちゃんが一緒に住むなんて絶対駄目−−−。そんな事してシロウにイケナイ趣味ができたら困るもん!」
などと本気で抗議しやがった。藤ねえ、俺を何だと思ってるんだ・・・。
そうして結局イリヤは藤ねえの所に居候する事になった。
正直、最初は藤ねえの所・・・というか、藤村組でイリヤがちゃんとやっていけるのか不安だったりもしたのだが、どうやら心配は無用だったらしい。今ではすっかり藤村組にも馴染み、家族同然のような関係だ。そして、藤ねえと同じ様にウチへ来ては毎日朝食と夕食を取っている。

「ああ、イリヤか・・・。おはよう。」
「ええ、おはよう。シロウ、魔術の訓練もいいけど土蔵の中で眠るのはよくない事よ。
さくらには注意されないの?」
そう言えば、桜に土蔵で寝るのを注意された事はないな。諦めてるのか、あえて何も注意しないのか。どちらにしろ俺が土蔵で寝るのを止めさせるのは簡単な事じゃないって分かってるんだろうな・・・って自分で言ってどうする。ん、そういえば・・・
「珍しいな、桜じゃなくてイリヤが起こしに来るなんて。」
大抵、俺が土蔵で寝てしまった時に起こしに来るのは桜なんだけど。
俺がそういうとイリヤはむ〜、という表情をし、
「シロウ、私が起こしに来るのが珍しいのはさくらのせいよ。私がシロウを起こすって何度言っても、さくらが先にシロウを起こしちゃうんだから。」
そう言い、イリヤはふぅ、とため息をつき、
「さくらとしては『シロウを起こす』っていうのは他人には譲れない事みたいね。この前、嘘をついてまでさくらより先にシロウを起こした時なんかさくらとは思えないほどの怒りっぷりだったわ。」
そう語るイリヤ。しかし、それはどこか楽しそうに見えた。
ん、でも、すると、アレなのか。俺は今日、イリヤに起こされたのだから、この後、桜はとんでもなく怒るのだろうか・・・。
俺がそんな事を考えてるとイリヤは
「まぁ、今日は純粋にさくらより早くシロウを起こしに来たのだから起こられる筋合いはないんだけどね。」
そうか、よかった。本気で怒った桜を少し見たい気もするが、やはり、見ないに越した事はないだろうと俺の理性が告げていた。
「さて、私がシロウを起こせた事だし、朝食にしよう、シロウ。」
「ああ、分かったよ。」
そう言い、先に土蔵の入り口から出ようとしていたイリヤを追いかけた。
「そうだ・・・。シロウ、朝食と一緒にお弁当を作ってもらえない?」
「ああ、構わないけど。イリヤ、今日、どこかに出掛けるのか?」
なんの気はなしに、ごく自然に。
いつも俺とイリヤが、兄と妹が話すように問いかけた。
前を歩いていたイリヤの足が止まる。自然と俺も足を止めた。
僅かの間を置き、イリヤはゆっくりと此方へ振り向いた。
瞬間、目を見開いた。
そこに居るのはイリヤだ。確かにイリヤだった。
この半年間、一緒に同じ時間を過ごしてきたイリヤだった。
だけど、彼女がその顔に浮かべている表情は、あの聖杯戦争の最中でしか見せなかったモノだった。
瞬間、思考が停止する。
何故、今、イリヤがそんな表情を見せるのか。
何故、今、ここでイリヤがそんな表情を見せるのか。
何故、今、ここで俺の前でイリヤがそんな表情を見せるのか。
何故、何故何故、何故何故何故。何故、何故、何故・・・。

なぜ?

そんな事、分かりきっている。
この半年の間イリヤがその顔を見せた事が無かったなんてのは嘘だ。
ほんの数回だが俺は見てきた筈だ。イリヤがその表情を見せたのを知っている筈だ。
そう俺は知っている。イリヤがその表情を見せる時は・・・。
イリヤが口を開いた。

  「キリツグの墓参りに行こうと思っているの。シロウも来る?」


親父に関する事に決まっているじゃないか!!



                             続きます(^^;

あとがき
初めまして、ターパンという者です。人生初のSS書き&投稿になります。
・・・と言っても作品が完結してませんが(汗
次回は墓参りに行きます(そりゃそうだ)。
とりあえず、ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。
続きは早めに投稿させて頂けたらな〜と思ってます。


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