「雪之様、少々宜しいでしょうか?」
「何?」
「実はアルクェイド様が東洋式の退魔術を学びたいというので少々時間の都合を作って頂きたいのですが。」
「東洋式の退魔術? どうして?」
「はい、今日の見回りで魔を相手にして少々てこずっていたようですので、それが理由だと思います。」
「ふ〜ん、いいわよ。」
「あ、あの〜。 ちょっと宜しいですか?」
「?」
振り返るとそこにはシエルが立っていた。
「なんでしょうか?」
「はい。 あのアーパーに東洋式の退魔術を教えるならついでに私にも教えてもらえませんか?」
「 ? 雪之様、如何致しましょう。」
「それは私が決めることじゃないわ。 貴方が決めなさい。」
「私は何の問題もないので構いませんが。」
「本当ですか。 それじゃあお願いできますか?」
「はい。 畏まりました。」
「ありがとうございます。」
「いえ、お気になさらないで下さい。」
「それで特訓はいつから?」
「今からですが、それで宜しいですか?」
「えっ、今からですか?」
「難でしたら時間をずらしても構いませんが?」
「いえ、問題ありません。 それで何処でやるんですか?」
「庭をお借りしようかと思っているのですが。」
「解りました。 それじゃあ先に入ってますね。」
「解りました。 では準備ができ次第そちらに向かいますので。」
そう言って草薙は小走りに消えていった。
「一つ聞いてもいいかしら?」
「なんですか?」
「もし教会からの指令が私たちと敵対する内容だったら貴女はどうするの?」
「もちろんこちら側につきます。」
「いいの? 教会は貴女が所属する所でしょう? 貴女は上司に逆らうの?」
「ええ。 元々私が教会に入った目的は達成しましたので。 それに向こうだって不死の私には用があっても、そうでなくなった私は用済みですから。」
「そう・・・・・・・・・・・・・・・。 悲しいものね。」
「ええ、まったく。 ・・・・・・そろそろ行きますね、それじゃあ失礼します。」
「ええ、頑張ってね。」
そうして雪之は去って行くシエルの姿を見送った。
「それでは準備はよろしいですか?」
「ええ。」
「いつでもいいわよ。」
「では始めましょうか。」
そう言って草薙は立てておいたわら人形に近づいていった。
「いいですか。 まず東洋の魔は西洋の魔と違って核というものを持っています。 西洋の魔は体を消し飛ばせば倒せますが東洋の魔はこの核というのを射抜かなければなりません。 もし射抜ければ一撃で殺すことができるのですが、できなければ融変と呼ばれる変体を起こし余計にややこしくなります。 もし融変したら西洋の魔のようにそれごと吹き飛ばさなければなりません。 ここまではよろしいですか?」
「ええ、はい。」
「うん。」
「では続けます。 東洋の魔にとってこの核と呼ばれる物は人間で言う心臓のような物です。 これがなければ東洋の魔は存在できません。 ですから我々はこれを確実に撃つ訓練を受けてきました。 本来ならこれを習得するのにはニ、三年はかかりますが貴女方なら数日で十分そうです。」
「それってどういう意味?」
「資質があるということです。」
「ふ〜ん。」
「あのぅ、具体的にはどうやってその核を見つければいいんですか?」
「そうですね、こればかりは口伝できません。 あえて言うならその物の不自然な部分とでもいいましょうか。」
「不自然な部分?」
「ええ、元々核というのはこの自然界には存在しなかった物です。 それを魔術で生み出した物ですから何かしらの気配は感じることができます。 ですからこれは経験がモノをいいます。」
「つまりは教えられることは基礎中の基礎で後は訓練しろってこと?」
「残念ながらそうなります。 ですが大抵の位置は決まっています。」
「どこどこ?」
「大抵はこの付近です。」
そう言って立ててあったわら人形の胸の中心辺りを指差した。
「ふ〜ん。 つまりその辺の違和感を感じ取れってことね?」
「はい。 私がお教えできることは少ないですがこの程度です。 力になれなくてすいません。」
「いえいえ、そんなことありませんよ。 これだけでも十分です。 ありがとうございます。」
「そう言っていただけると助かります。 では今晩にでも試してみてください。」
「そうさせていただきます。」
「二つつ聞いてもいい?」
「はい。 私に答えられることでしたら。」
「どうして西洋の魔には核がないのに東洋の魔には核があるの?」
「私も詳しいことは知りませんが何でも起源が異なるからだと聞いたことがあります。」
「起源が異なる?」
「はい、そこから先は私も・・・。」
「ふ〜ん、起源が異なるかぁ。 まっ、いっか。 それともう一つ。 さっき魔術で生み出したものって言ったわよね? それって本人が作り出してるの?」
「必ずしもそうとは言い切れません。 自分で自分用のを作るものもいれば、使い魔に埋め込む為に作り出すものもいます。」
「ふ〜ん。 なんか複雑ね。」
「ええ。」
「ま、いっか。 そろそろもどりましょうか。」
「賛成ですね、もうおなかペコペコですから。」
「では戻りましょうか。」
そうしてその場を後にした。