夜の一族


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1: ぐまー (2004/02/17 23:00:00)[moonprincess_type_moon at yahoo.co.jp]




その日はとてもいい天気だった。
空は雲一つなく晴れ渡り、かと言って体が蒸すほど熱くもない。
そんないい天気の中二人の少女が道を歩いている。
一人は髪を腰まで伸ばしていて、優しい目つきでとても穏やかな表情をしている。
そしてもう一人も腰まで神を伸ばしていているが、先の少女とは対照的に少々きつい目つきをしている。
先の少女の名は浅上藤乃。
礼園女学院というお嬢様学校の二年生だ。
そして後の少女の名は黒桐鮮花。
同じく礼園女学院の二年生で、浅上藤乃とは友人という関係だ。
そもそも礼園女学院というのは全寮制の女子校で本来なら外出許可も滅多に出ないが、鮮花と藤乃の親は礼園女学院に多額の融資をしているので蔑ろに出来ないのだ。
そういった理由でこの二人は他の生徒よりも外出許可が取りやすかった。
そして今日は久々に街に出ようと鮮花に誘われて街に出てきたのだ。

「藤乃、そろそろお昼にしよっか。」

「ええ、どうします?」

「そうね、そこら辺で何か適当に「んだとこのガキっ!」」

突然の誰かの叫び声によって鮮花の言葉は全部は聞こえなかった。
声の方を見てみると反対側の歩道に五、六人のいかにもチンピラといった感じの男が一人の少年を取り囲んでいた。
思わずその少年に見入ってしまった。
歳は自分より一つか二つ下、身長は私より少し小さいくらいか。
そして服装はなんとも時代錯誤な格好で、式と同じく着物ときていた。
何より目を引いたのは盲目なのだろう、手には杖のような物を持っていることだった。
だが少年は多勢に囲まれているのに全く怯えてるようには見えなかった。
むしろこのまま放って置いたら殴りかからんばかりの勢いに見えた。

「藤乃、ちょっとここで待ってて。」

「? どうして? ・・・・・・・・・まさか」

「そのまさかよ。 私ああいうの見ているだけで腹が立ってくるの。 自分一人では何も出来ないくせに大勢でたった一人に詰め寄ってあたかも自分の方が強いって思い込んでる奴は。」

「鮮花、でも危ないよ。」

「大丈夫よ、あの程度の奴らなら式に比べたら赤子も同然よ。」

それもそうである。
確かに式と比べたらあの程度の連中など取るに足らないだろう。
でも・・・・・・。

「でも鮮花、校外で問題を起こしたらどうなるかわかるでしょう?」

「藤乃、私は学校の規則を破るよりああいうのを見逃す方が良くないことだと思うの。 だから私は私の思うようにやるわ。」

どうやら説得は無駄のようである。
まあ私もあの子のことが気になるから仕方ないか。

「わかったわ。 でも一人よりは二人のほうがいいでしょう?」

「馬鹿な事言わないで。 藤乃、貴女これから私が何するかわかってるの?」

「ええ。 あの人たちを追っ払うんでしょう?」

「・・・・・・まあそうだけど、貴女には無理でしょう? だいだい藤乃は喧嘩なんてしたことあるの?」

「ないわよ。」

今の間はなんだろう?
ひょっとして追っ払うんじゃなくて動けなくするんじゃ?
考えていたら恐くなったので考えるのを止めた。

「ならなおのこと「鮮花。」」

「な、何?」

「私も鮮花と一緒よ。 私もああいうのは見逃したくないの。」

「・・・・・・・・・ふぅ、わかったわ。 でも自分のみは自分で守ってよ?」

「わかってるわ。」

「じゃあ行きましょう。」

そう言って私と鮮花は道路を斜め横断した。
本来なら斜め横断などしたらシスターが黙っちゃいないのだろうがまあ細かいことは今は気にしないでおこう。

「大体テメェの方からぶつかっておいてなんだその言い草は。」

「ですから、何度も言っているでしょう? 道の真ん中に立ち止まられたら歩行の邪魔だと。」

「あんだとコラ。」

「待ちなさい。」

襟首を摑んで今にも殴りかかりそうになっていたのを鮮花が呼び止めた。

「なんだ、てめぇらは?」

周りにいた取り巻きらしきのが四、五人こちらに興味を持ったのか取り囲むように詰め寄ってきた。

「アンタたち恥ずかしくないの? 目の見えない子を相手に大勢で取り囲んで。」

流石は鮮花だ。
このくらいでは怯むどころか勢いづいている。

「五月蠅ぇ! 女はすっこんでろ。 これは俺たちとこのガキの問題だ。」

「そうでもないのよ。 はっきり言ってアンタたち見たいのに道のど真ん中にいられたら目障りなのよ。」

それは少し言い過ぎだと思う。
そう思ったときにはもう遅かった。

「んだとこら。 女の分際でこの俺様に逆らおうってのか?」

「別に、逆らうも何もただ邪魔だから邪魔って言っただけよ。」

「てめぇ、俺が誰か知ってて物言ってんだろうな。」

「アンタみたいな暇人知ってるわけないでしょう? そんなの知るだけ無駄だし。」

「てめぇ、それなりの覚悟は出来てんだろうな?」

「まさかあんた達女相手に全員で来る気? 別に私はそれでも構わないけど。」

「くっ、舐めやがって。」

そう言って一人が鮮花に殴りかかる。
ドスン、という音がして、悲鳴が聞こえた。
だがそれは鮮花のものではなくさっきの男が地面でのた打ち回っていた。

「口ほどにもない。」

「女! 図に乗ってんじゃねぇぞ。」

そう言って今度は二人係で鮮花に迫る。
だが鮮花はそれに臆した様子もなくそれを迎え撃つ。
一人目が殴りかかってきて、その腕をつかんで背負い投げの要領でもう一人のほうに投げ飛ばす。
見事なまでにヒットして電柱に激突した。
なんだか見ていて気持ちのいいものだった。

「どうしたの? もう終わり?」

いつの間にこんなことを覚えたんだろう?
そう思わずにはいられなかった。
だがそれを聞く勇気はない。
なんてことを考えていたら突然後ろから羽交い絞めにされた。

「おおっと、お遊びはここまでだ。 大事なお友達とこのガキがどうなってもいいってぇなら別だがな。」

「何処までも腐ってるのね、あんた達。 全く救いようが無いわね。 まあ救う気なんてさらさらないけど。」

「五月蠅ぇ、てめぇ自分の立場が解ってんのか! いくらお前でも二人同時には助けられねぇぞ?」

「そうね。」

「さぁて、おとなしく言うこと聞いてもらおうか。」

「鮮花私に構わないでその子を助けて。」

「な、なに言ってやがんだコイツ。」

一瞬ひるんだ隙に鮮花が一歩で少年を抑えていた男の前まで行きみぞおちに掌手を叩き込んでいた。

「ぐぉ。」

少年を抑えていた男はそういって倒れこんだ。
だがもう一人の男がこっちに来ていた。

「おおっとそこまでだ。」

「くっ。」

「譲ちゃん。 確かに自分を犠牲にしてガキを助けるってのはいい案だったがおめぇはどうすんだ? あ? そこまで考えてなかったか? ぎゃははははははははははは。 詰めがあめぇぜ穣ちゃん。」

「藤乃、自分で何とかなりそう?」

「ええ。 大丈夫よ。」

「ああ。 何言ってやがんだ。 この状況が解らねぇのか?」

「わかってるわよ。」

「ふん、いいやわかってねぇな。」

そうッた瞬間いつの間にか鮮花の後ろに先ほど投げ飛ばされた男が金属バットを振り上げていた。

「鮮花、後ろ。」

「くっ。」

間に合わない。
いや、自分の“力”を使えばまだ間に合う。
だが流石にこんな人目のつく場所で使うわけにもいかない。
八方塞かと思ったそのとき信じられない光景が目に飛び込んできた。
頭から血を流した鮮花の姿があったわけでもなく、運良くバットが外れたわけでもなかった。
目の前にあったのは先程の少年がバットを手の甲で受け止めている光景だった。

「なっ。」

不意に鮮花がそんな声をあげた。

「こんなものがなければ勝てない?」

今まで黙っていたその子が口を開いた。
男は怯えた様子で後ずさりしている。
だがその子は先ほどの鮮花よりも早い踏み込みで男の目前まで行き左手を腹に叩き込んだ。

「がぁ。」

そのままその男は崩れ落ちた。
私を拘束していた男ももはやなにがなんだか解らないといった風でただ呆然としている。
その隙にその子は振り返りざまにこれまた先ほどと同等の速さで踏み込んで私を拘束していた男の腹に蹴りを入れた。

「あ、ぐぅ。」

後ろの男はそんな声を上げて倒れこんだ。
だが、

「動くんじゃねぇ。 こいつがどうなってもいいのか?」

みれば残る一人が鮮花を後ろから押さえ込んでいる。
ああ、アレは自殺行為だ。

「いいか、てめぇら、俺・・・」

全て言い切る前に鮮花が動いていた。
腕を押さえ込まれたまま相手を投げ飛ばした。
その男はこれまた気持ちよく飛んで行き地面に落ちた。

「がぁ、ぐぉ。」

景気良く背中を撃ちつけたその男は地面をのた打ち回っていた。

「ふん、これに懲りたら次からは気をつけることね。」

そういって鮮花はこっちに歩いてきた。

「藤乃、大丈夫?」

「ええ。 私は大丈夫よ。 それよりあの子は。」

「ああ、そうだった。」

が、しかしその場に先ほどの少年の姿はなかった。
辺りを見回すといつの間にやら十メートルくらい先を歩いている。

「ちょっと、待って。」

私が呼び止めるとその子はこちらを振り向いて止まった。

「はい、なんでしょう?」

「何でしょうじゃないでしょう。」

「ああ、これは失礼しました。 先ほど助けていただきましたね。 どうもありがとうございます。」

「そうじゃなくて。」

「? でしたら何のことでしょうか? 思い当たる節がないんですが。」

「貴方さっき金属バット素手で受けたでしょ? そのことを言ってるのよ。」

「ああ、アレですか。 大した事ありませんので気になさらないで下さい。」

「気になさらないで下さいって、気になるに決まってるでしょう? それとも無傷だとでも言いたいの?」

「多少痛みますが大したことはありません。」

「多少痛むって、あの勢いで振り下ろされたバットを素手で受け止めてそれだけですむ訳ないでしょ。」

「指が動くから問題無いでしょう。」

「ちょっと見せて。」

「どうぞ。」

返事を待たずに鮮花は手を取って観察し始める。

「ちょっと、手が青くなってるじゃない!」

「気にしないでください、いつものことですから。」

「いつものことってそんなの放っておけるわけないでしょ!」

「いえ、これくらい自分で手当てできますので。 それに怪我の原因も自分の責任ですし。」

「でも・・・」

と、話は平行線を辿ろうとした時。

「あれ、鮮花に藤乃ちゃんじゃないか。」

後ろの声に振り向くと黒桐幹也が立っていた。


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