少女は無言でその「敵」を見据えていた。
まだまだ子供といえる年の少女は、しかし明らかに年齢にそぐわぬ、強固な意志を目にともしていた。
(足場は問題ない)
さもありなん。少女の真名はアルトリア。この時代にサーヴァントと呼ばれる使い魔として、戦う為に呼び出されたまごう事無き「英雄」であるのだから。
(体力も十分)
生前一度たりとも敗れず、数多くいる英雄達の中でも「騎士王」と呼ばれる最高位の剣の英霊。
(だが…)
サーヴァントの役割のひとつ、セイバーとして呼び出されて以来、彼女はどんな敵であろうと、けして怯まず戦い続けた。そんな彼女が…
「くっ……!!」
(勝てるか…?)
目の前の「敵」にだけは恐れを抱いていた。勝てる気がしない。彼女を生かし続けてきた直感も動いてはくれない。直感さえ頼りにならないこの状況から、しかし逃げるわけにはいかなかった。
(勝機は少ない…)
勝たなければいけない。「敵」はどこにでもいるような平凡ともいえる学生の姿をしている。だが、彼女が勝たなければいけないのはその「敵」を操っている「悪魔」なのだ。
(だが零ではない……!!!)
始まりの合図が鳴るとともに、彼女はその「敵」を倒すべく行動を開始した。
FateSS 「昼の死闘?」
「ふっ……!」
気合とともに放たれた一撃を、「敵」は簡単にさばく。それはわかっていたことだ。
かまわず二撃目、三撃目を放つ。これまたたやすくかわされた。
(やはり私より強い……)
こちらの手を読まれてる。そうとわかっていても、何度も何度も攻撃を繰り出す。
下段から上段。空中からの一撃。防御を崩すための大振りな一撃。
知りうる限りの攻撃を繰り出す。そして…
「どういうつもりですか……!」
…その全てがかわされた。上下に揺さぶるフェイントも、防御ごと弾き飛ばすための一撃も。全てガードされるか、かわされるかして、「敵」のダメージはほぼゼロといっていい。
そんなことはいい。想像していたことだ。…けして、当たってほしくなかった、最悪の想像だとしても。そんなことよりも…
「なぜ、攻撃してこない・・・・・・!!」
…そう。「敵」は一度も攻撃してこなかった。大振りな一撃を撃ったときでさえ、後退してかわすだけで反撃してこようとはしなかった。
相手にさえされていない。その事実は、実際の刃以上にセイバーの誇りを傷つけていく。
と。
「ふーん、なんだ、攻撃してほしいの?」
「悪魔」の声。
「じゃ、してあげる」
「!!?」
声と同時に、「敵」が動いた。
一気に間合いをつめ攻撃を仕掛けてくる。それを迎撃しようとセイバーも動く。
先ほどの攻防を逆にしたような光景。しかし違うのは。
「ぐ…ぁ……っ!」
防御側が、なすすべ無く打たれているということ。
必死に防御しようとするセイバーを嘲笑うかのように次々に攻撃がヒットしてくる。
上段を守れば下段を。下段を守れば空中から。反撃しようと動いた瞬間、出鼻を挫かれ、なすすべも無く打たれていく。
必死になって後退し、「敵」の攻撃から逃れた時には、既に半分以上の体力が削ぎ取られた後だった。
「ちょうど10秒。ラッシュを受けた気分はどう?」
心底楽しそうな「悪魔」の声。それで知れた。逃れたのではなく、逃げさせてもらったのだということが。おまえなどいつでも殺せる、といわんばかりのその声に。
セイバーは、「騎士王」とまで呼ばれた戦士は覚悟を決めた。
「……」
無言のまま距離をとり、遠距離からの攻撃を撃つ。当然のように「敵」はその攻撃を防ぎ、こちらとの距離をゼロにしようと迫ってくる。
その相手に向かって再び攻撃を放ち・・・
「・・・・・・え?」
相手がそれを防御しているうちに、再び距離をとった。
「悪魔」の当惑の声など無視して、遠距離からの攻撃を続けていく。
「ち、ちょっとセイバー!?」
「敵」に遠距離攻撃をできる技は無い。このまま遠距離戦に徹すれば、おそらく勝てる。いままでそれをしなかったのは、彼女のプライドが許さなかったからだ。
「卑怯よセイバー!!騎士のプライドはどうしたの!!!」
「捨てました」
「なっ!!」
だがもういい。後でこの決断を悔やむことになるかもしれないが、今は勝利を優先する!!
一瞬棒立ちになった「敵」にこちらの攻撃が当たる。それを見据えながら・・・
「私は・・・・・・負ける訳にはいかないのですっ!!」
心からの声で言い切った。
「・・・なるほど。プライドより勝利をとった訳ね?」
こちらの声を聞き、覚悟の程を読み取ったのか、「悪魔」は逆に冷静さを取り戻したようだ。
こちらの攻撃を防ぎながら声を投げかけてくる。
「でもいいのかしら?この戦い方じゃ、時間がかかるよ?それだけの猶予は無いと思うけど?」
「心配は無用です」
「悪魔」の声を聞き流しながら「敵」を見る。あと少しで相手を一撃で殺せる程度の体力まで削ることができる。
そして・・・
「これで終わりです!!」
「敵」が空中へと飛び上がった瞬間、セイバーは勝負に出た。
空中にいる「敵」に技を撃ちながら着地地点と思われる位置にむかって走り込む!
相手が技を食らうならそれでよし、ガードしてもその後の着地ぎりぎりでの一撃で十分倒せる!
「私の・・・・・・勝ちです!!」
勝利を確信したその声に。
「残念」
「悪魔」の笑いを含んだ一言が応えた。
「え?」
気が付いた時にはもう手遅れだった。急に落ちる方向と速度を変えた「敵」が、中空でこちらの一撃をかわし、目の前に下りてくる。
「まっ・・・・・・!!」
戦場において、一度たりとも吐いた事の無い言葉がセイバーの口から漏れるより早く。「敵」は少女を惨殺した。
『吾は面影糸を巣と張る蜘蛛。ようこそこの素晴らしき惨殺空間へ』
「2nd Player WIN!!」
画面の中のキャラの決め台詞を、勝者への階段から一瞬で蹴り落とされた少女は呆然と聞いていた。
そんなセイバーの硬直を
「わーい、私の勝ち!ということで、このケーキは私のものなのだ〜」
などと、やたらとはしゃぐ「悪魔」の声が打ち破った。
「ま、待ちなさい、イリヤスフィール!!」
慌てて振り向き、彼女のマスターが作ったケーキを頬張ろうとしているだろう、銀色の小悪魔に制止の声をかける。
「うん、おいしー」
が、どうやら無駄だったようで、セイバーが見たのはケーキの半分を食べて至福の表情を浮かべている少女の姿だった。
一瞬、ぐらっと視界が揺れる。それを何とか耐え、セイバーはイリヤに食って掛かった。
「ま、待てといっているでしょう、イリヤスフィール!その三つ目は私のものです!!返しなさい!!!」
「え〜、これは私のだよ。勝負に勝った方がケーキをもらう。言い出したのはセイバーでしょ?」
「うっ・・・!そ、それはそうですが・・・」
・・・・・・発端はこの家の主、衛宮士郎がケーキを作るのに凝りはじめたことだった。甘いのは好きだけど太るのは嫌、でもいっぱい食べたい、という少女達の要望に応えて作り上げられた三口サイズのケーキが振舞われたのが昨日の夜。平日なので、家で留守番をしていたセイバーとイリヤが3つだけ残っていたケーキを発見したのが、昼食の弁当(士郎と桜の合作)を食べ終え、デザートを探していた時だった。
ここで素直に一個と半分ずつ食べて置けばよかったものを、食べ物にはうるさい騎士王さまは勝負して2:1に分けようと言い出したのだ。それに対して銀髪の小悪魔はある条件をつけた。すなわち・・・
「格闘ゲームでの三本勝負、勝った数だけケーキを食べる。セイバーも頷いたじゃない」
「くっ・・・!し、しかしイリヤスフィール!三つも食べると飽きが来るのではありませんか!?それにあまり多く食べると太ってしまいますよ!!ですから残りはどうか私に・・・・・・!!!」
自分の方が分が悪いとはわかっているため、既に半分しか残っていないケーキをなんとか譲ってもらおうと必死になって頭を働かせる元国王陛下。彼女の伝説を信じる人たちが見れば卒倒ものだろう。
「うーん、たしかに普通のなら三つも食べれば飽きが来ちゃうのよね。体重も気になるし」
「そうでしょう、そうでしょう。ですから・・・」
パッと明るくなるセイバーの顔。それに向かってにっこりと微笑み返しながら。
「でもシロウの作ってくれたものは別だよ」
銀髪の小悪魔は残りのケーキを一口でたいらげた。
「ああああああああああぁあああああぁああああぁあああああああぁああああああ!!!!!!!」
びし、っと固まるセイバーさん。そんな彼女に向かって
「やっぱりシロウの作ってくれたものは美味しいね。ご馳走様!」
止めの一言。
パタッと、セイバーは前のめりに倒れこんで動かなくなった。
「じゃ、これからライガのところに行ってくるから。夕飯には帰ってくるってシロウにいっておいてね」
パタパタとイリヤの気配が消えていくのを感じながら。セイバーの意識は闇に溶けていった。
この後。帰ってきた士郎が倒れているセイバーを見つけて大慌てしたり、起きるなり泣き始めたセイバーを宥めてるうち、あまりの可愛さにビーストモードになった士郎くんが赤い悪魔と虎と黒い影によって殲滅されたり、セイバーがイリヤへの復讐を企てたりと色々事件があったのだが・・・それはまた、別の話である。
初めまして、大仏といいます。突発的に思いついたので投稿させてもらいました。
どのルートの後とか、そーいうことは言っちゃめーです。
途中のゲームについても聞いちゃめーです。持ってませんし。
ちなみにこのゲーム機はイリヤが持ち込んだという設定です。
あ、それと突発なので続きませんので。ではまたネタがあったら会いましょう