続・3Pはいかが?


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1: sasahara (2004/02/17 04:44:00)

続・3Pはいかが?
 注:士郎のキャラが完全に壊れてます。セイバーもちょっと。

「で、何か言い残しておきたいことはある? 遺言くらい聞いてあげるわよ」
 なんて物騒なことを口に上らせながら、俺ににじり寄ってくる遠坂。その右手の魔術刻印がこれ以上はないってくらい光って自己主張しているのは気のせい……とは思えない。
 ゴッド、俺何か悪いことしましたか?
 心の中でつぶやいたつもりが、ついつい口に出ていたらしい。目の前の遠坂が、よくもそんなこと言えたわね、と、その端整な顔をひきつらせていた。
 どうやら、それが暴発寸前の遠坂にとって最後のトリガーになったらしい。短い呪文詠唱の後、遠坂の右手から迸る閃光を脳裏に焼き付けつつ、あ、こんなこと昔にもあったな、でも、あのときは避けられたけど、今度は避けられそうもないや、なんて俺は思っていた。


「うぅ、苦しいよぉ」
「……」
「熱いよぉ、気持ち悪いよぉ、吐き気がとまらないよぉ」
「……」
「頭痛いよぉ、ガンガンするよぉ」
「……」
「死にそうだよぉ、死んじゃうよぉ」
「……」
「きっと俺はこのまま震えて凍えて死んでしまうんだ」
「……」
「ああ、衛宮士郎ここに死す、無実の罪を赤い悪魔に責められて」
 無言のまま、冷たいおしぼりをビチャッと顔に当てられた。あ、遠坂、おしぼりは普通額に当てるものだ、間違っても口をふさぐためのものではない。ちょっと、ていうか、かなり苦しい。看病する人間が病人にとどめを刺してどうする。ここは大学病院か。
「全くそれだけ寝言がほざければ十分よ……それによくも言えたものね、『無実の罪』だなんて!」
 激昂する遠坂。目の前でガオーッと怒りを露にする遠坂はちょっとコミカルだ。
「……ちょっと誘惑に負けただけじゃないか」
「……『ちょっと』!?」
 なぜか俺は踏んではいけない地雷をあえて踏むような性格に出来ているらしい。ヤバッと思った瞬間は遅かった。
「それがヤルこと最後までヤッたヤツの台詞かーーーーーー!!!! この浮気者ッーーーーーーーーー!!!!」
 胸倉つかまえられて、ブンブン振り回された俺は、そのまま窓を打ち破って庭に放り捨てられた。
 最後に耳に聞こえてきた遠坂の呟きは、
「大丈夫よ、窓なら直しておいてあげるから」
 という、ありがたくも何ともない申し出だった。


 そう、俺こと衛宮士郎は、誘惑に負けた。負けも負け、大負けだ。
 でも、でも、でも。
 仕方がないじゃないか。
 あのセイバーに、
「シロウ、私は剣だけではなく殿方の喜ばせ方にも多少の心得はあるのですよ。」
 なんて、耳元で囁かれたら、誰が抵抗できるっていうんだ。尤も抵抗する気なんかこれっぽっちもなかったけど。

「少しは抵抗しなさい!!」
「別にかまいませんが」
「わたしがかまうのよ!」

その夜にこっそりセイバーの布団に忍び込んだ俺の若い激情を一体誰が責められよう。その証拠に、俺の心の中のオヤジ切嗣は、そんな俺に向かってにっこりと親指を突き立てていた。うん、俺って、親孝行。

「何頷いているのよ」
「いや、全くその通り、と」

それにフェミニストな切嗣はよく言っていた、「女の子は泣かせないコト、後で損するからね」と。ま、別の意味では随分泣かせちゃったけどね、ってオヤジだなあ、俺も。

「はい、たっぷりと泣かされました、じゃないわよ、セイバーっ!!!」
「何か?」

 そんで、実際にセイバーはどうだったか、つーと、そりゃあ、もう……スゴかった。

「何、頬赤らめているのよ」
「いや、シロウもすごかった……」
「……あとで覚えてなさいよ」

 どれくらいスゴかったか、というと、具体的にはアンナことやコンナことまでしちゃったりして……。遠坂が絶対してくれないようなことをしてくれちゃったり、絶対させてくれないようなことまでさせてくれちゃったり……。喩えて言うと、それはフランスはパリの三ツ星レストランフランス料理フルコース。もうデザートまで美味しく頂きました。

「あんた一体何したのよ」
「……知りたいですか?」
「いや、いい」
「そうですか? 何なら凛にもレクチャーしてあげますが」
「その勝ち誇った顔がムカツクわね」

 それで、堪能してもうおなか一杯です、これ以上は食べられませんてな感じのところで、恍惚の後にスヤスヤと寝入ったセイバーの顔をニヤニヤにやけながら眺めて腕枕なんぞをしてあげつつ、オイラもボチボチ寝ようかなという至福の瞬間に、ヤツは現れた。
 そう、赤い悪魔。レッド・デビル。
 戦いは熾烈を極めた……と言いたいところだが、敵軍の攻撃は圧倒的なのに対して、我らが防衛守備隊は相変わらずスヤスヤ眠ってたりなんかして。それは最早闘いと飛べるような代物ではなく、一方的な殲滅戦だった。

「シロウ、すまない。貴方の剣になるといった誓いを守れなかった」
「……あんた最後まで全然目を覚まさなかったじゃない」
「凛、それはわたしのせいではない。シロウがスゴかったから……」
「とことんむかつくわね」

 そして、俺は浮気者の烙印とともに遠坂のガンド撃ちを見事にくらい、激しい頭痛に高熱を発症し今に至る、と。ああ、無情、レ・ミゼラブル!!

「……放っておけば、このバカ、ペラペラ勝手なことをしゃべってッ!!! もう一回ガンド撃ちしてやろうかしら」
「凛、まだシロウに手を出すつもりなら、この剣が黙っていません」

 ん? …なんか、さっきから横でブツブツ喋っている声が二つ聞こえるのは気のせいだろうか。しかも、馴染みのある、よく聞く声だ。俺は心の中で独り言を言っているだけのはずなんだけど……。
 状況を認識するとともに、サーッと音を立てて、血の気が引いた。わかってはいても、脳みそが現実を認識することを拒否する。

「あー、俺口に出してしゃべってた?」

 それでもありったけの勇気を振り絞って、返答が返ってこないことをお願いだからと祈りつつ、布団の横に聞いてみたりする。冷や汗はダラダラと額を流れ、手は脂汗でベットリだ。
 そうすると、

「ええ、これ以上はないってくらいハッキリとね」

 という澄んだ声が聞こえてきた。
うん、この声は間違えようもない、遠坂姐さんの声だ。わざわざ目を開けてみなくても俺にはわかる。静かに煮えたぎる激怒に姐さんは頬をピクピクと痙攣させているに違いない。臨界点は近い。
 おそるおそる、こっそり目を開けてみると、遠坂の顔はこれ以上はないくらいのアップで迫ってきた。顔を赤らめる間もない(もともと熱で赤いのだけど)。遠坂はニッコリ笑って「目は覚めたかな?」なんてNHK教育のお姉さんみたいな口調で聞いてくる。

「うーん、僕ちゃん、まだ夢の中ー」

 なんて、自爆行為と知りつつ幼児口調で喋ってみる。

「そう、じゃ、もっと深い眠りの中へ叩き込んであげましょうかしらね、……安らかになるように」

 今の遠坂が言うと、シャレになってない。大体そういう台詞を黙って人の首を締めながら言うものではない。ええ、私もシャレのつもりはないわよ!?
 決してガンドによる高熱だけのせいでなく、今まさにそこにある危機に意識が薄れていく。自己防衛機能か、まともな理性が吹っ飛んでいく。
 独り言をついつい喋っちゃう俺のクセも何とかしないとヤバイなぁ、てなのん気なことを考えつつも、間断なく続いていた頭痛と高熱と吐き気のせいで頭が弱っていたせいもあるのだろう。最後によせばいいのに、俺のもう一つの悪いクセが出た。
 踏まなければいい地雷をあえて踏んでしまうというクセ。

「……それじゃあ、みんなで一緒に眠るってのは、どーでしょーか? さあ、カモナ、ベイベー。」

 みしみしと首に感じていた圧力が消えたのに、ホッとしたのも束の間。取り戻した視界に飛び込んできたのは、ブツブツと物騒な呪文を唱える遠坂さんの姿だった。
 あ、マイ・ハニー。その呪文詠唱は、もはやガンドではないね。ちょっとした大魔術っぽい。なんで胸から宝石を取り出すのかな? え? そう、お望みなら永遠に眠らせてあげるわ!?
 ところで、あー、セイバー、その、……顔を赤らめたまま服をヌギヌギして俺の布団にもぐりこんでこようとするのは嬉しいんだが、その前に目の前の物騒な人をどうにかしてくれないだろうか?
 今度はもうちょっと優しくしてくださいね? いや、そういうことでなく。
 大丈夫です、私に魔術は効きません、って、セイバー、お前確信犯だろッ!!!

「そうこの期に及んで、まだ見せつける気なのね。浮気もそこまでいけば、いい度胸よ、士郎あなたのことは忘れない」
 という、少年漫画の敵役のような魔女遠坂の最後通告。
 いえ、凛、シロウの行為は浮気ではありません、なぜならシロウは私に本気なのですから、というセイバーの声。
 もちろん、私も、と自分で言っておいて照れたのか、顔をポッと赤らめるセイバーの顔は、相変わらずこの世のものと思えないくらい可愛くていじらしくて、目の前のことが嘘みたい。……あー、本当に嘘だといいなぁ。

「死ね。豚のような悲鳴をあげろ」

 もはや臨界点はとっくに超えていたのだろう。そんなどっかの吸血鬼みたいな遠坂の台詞を聞きながら、俺の身体は迸る閃光に呑まれていくのだった。

 あたかも『燃えろプロ野球』におけるホーナーのホームランの如く、場外へと気持ちよくすっ飛んでいく中、衛宮士郎は、やはり最後に負け惜しみの言葉を叫ばずにはいられない。喉から迸った痛惜の一言がドップラー効果もたっぷりにあたりにこだまする。

「セイバールートでは、遠坂の方がノリノリだったじゃんかーーーぁぁぁぁーーーーーぁぁぁーーー」

 星になった士郎に、どこかで一成が合掌。曰く、衆生の煩悩は救い難し。


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