interlude 0-1 アルバイト


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1: Hyperion (2004/02/16 19:01:00)

interlude  アルバイト


埃は嫌い。手伝うと言ったからにはやらなければならないのだが
何の装備もなしについて来た私にできることはほとんど無かった。

「その髪に埃がついたら取れにくいだろ?ライダーは外で空気でも吸ってきてくれないか」

当然かのように使い魔である私に配慮をしている。
サーヴァント、もとい使い魔に情をかけるなど、魔術師がするべきことではない。
だが、この人にはそんなこと関係が無いのだろう。
しかしそう易々と受け入れられない。言い出したら聞かない、と分かっているのだが
私にとって彼は問題ではない。問題は、その隣で冷たい視線を送ってくるマスターである。
気に入らないのだろう。サクラが彼を好きだということも、
彼がサクラを大切だと思っていることも知っている身としては
ここは譲るわけにはいかない。

「いいえ、心配は無用です。いくら髪に埃が付こうと、
 私が手伝うといいだしたことですから。それに……」

口にしそうになって留まった。危ない…思っていたことがつい口に出かけた。
何だろう、と不思議そうに顔をしかめている。

「何でもありません。とにかく結構です。
それにあと少しで終わりではないですか、確かに私はあまり役に立っていないようですが、
いないよりは居たほうがましでしょう。さぁ、続けましょう。」

ピンポーン、言い終わったところで邪魔が入った。
だが、私にもこの作業は辛いものがある、これは邪魔というよりも助けと取るべきなのか。

「私がでましょう、それでいいですね?士郎」

答えを待たずに玄関に向かう。
しかし、この洋館には客はほとんどこないはずだ。
ここに長年住んでいた家主がそう言っているのだから
間違いは無いのだろう。

「はい、どんな御用件でしょうか。」

言いながらドアを開ける。
我ながら慣れたものだとは思う。
もうこの時代に留まって2年になるのだから、
これぐらいのことはできなければ、とサクラに教えてもらったのだ。
屋敷に住むからにはそれぐらいのことはしなければならないだろう。
最初は、タイガを真似ていた。何かおかしいと思っていたが、
それで士郎を出迎えた途端に、彼が凍りついたものだから、
サクラに正しいやり方を教えてもらったのだ。
いや、あれは私の魔眼よりも効果抜群のようだった。
今まではどんな風にしていたのかやってみて、と言われてやったときの
サクラの反応も彼に酷似していたし、それから叱られもした。
こんなこと、二度とやっちゃダメですからね!
と、きつく言われるほど酷かったようなので語らないことにする。

ドアを開けると、そこには士郎と同じ年ぐらいの青年が立っていた。

「郵便で〜す!お届けに参りましたー!」

青年はユウビンヤらしい。屋敷にも何度も来た事があるし、
さほど驚くこともなかった。
だが、今までこんなに愛想を振りまいているユウビンヤさんは
見たことが無い。髪の色も黒じゃないし、ピアスをしているし。
今、目の前にいる青年はなんだかうれしそうにこちらを観察している。

「ご苦労様です。ハンコを持ってきたほうがいいでしょうか?
サインでもよろしければ、それに越したことは無いのですが。」

「あ〜いいんすよ!ハンコなんて!どうせただの封筒だし、
まぁ、ほんとはサインもいらないんだけど。
俺自身があなたのサインが欲しいっすよ!
いや〜正解だったな〜、こんな立派な洋館に住んでいるのは
誰なんだろう、なんて思ってつい呼び鈴ならしちゃったんですよ。
偏屈な爺さんとかだったら嫌だな〜、なんて思いながら。
でも、お姉さんみたいな美人だったら大歓迎!
眼鏡の似合う子も大歓迎!
ほんと、今日はラッキーだなー。
あぁ、じゃあ、ここに名前と住所と電話番号を書いてくれます?」

「はい?」

もう、それしか返す言葉が見当たらない。
何なんだこいつは。
いきなり、初対面の人間に馴れ馴れしい言動。
さらに、名前と住所と電話番号ときたものだ。
これは何か、テレビでやっていたどっきり番組かなにかなのだろうか。
冷静になろう、ただやり過ごせばいいだけのことだ。

「いや、だからここに、名前と…」

「……封筒をおいてお引き取りください。私の記憶が正しければ、
そのような封筒にサインやハンコをする必要が無ければ、
このように、呼び鈴を鳴らす必要も無く、
そこにある四角い穴にそれを投下するだけでよいと思うのですが」

「いや〜きついな、お姉さん。
しょうがない、お姉さんみたいな美人にはそうそう会えるもんじゃないし、
まだしばらく、このバイト続けるつもりだし。
また今度近くにきたら顔だしますよ。はい、それじゃ封筒。
ありがとうございました〜!」

一体、なんだったのか。
以前に新都で絡まれたときのように、しつこいわけでは無かったし。
けれども、また来るなんて言っていたし。
怪しすぎる。これは中身を確認したほうがいいのではないだろうか?
他の魔術師からの差し金かもしれない。

封筒を開けようとする。
が、開かない、どうやら私の勘は当たったようだ。
これは何らかの魔術で、魔力を込めた開け方でなければ
開かないようになっているようだ。
少し指に魔力を込めて封を切る。


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