1、平穏は許されず M:遠坂凛


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1: Hyperion (2004/02/16 18:59:00)

それは、今から2年前の話。

…懐かしい光景をみている。
悟りきったような顔で、エプロンが妙に似合って
いつも人のことばかり考えている奴が、目を覚まして
私に笑みを向けている。
いや、ちょっと違うか。
笑っているというより、ひきつっている。
まるで、幽霊でも見たかのような顔だ。


それも当然だと思う。
なにしろ、こいつは私にもう逢えないと思っていただろうし
私もそう思っていた。



「遠坂、生きてたんだな。良かった」

そいつの本当に安堵した顔に、なんでこいつは
自分のことをまるで考えていないのか、とちょっとむかっと
きたけど、そうね…、と答えた。
私に顔を向けていた奴は、再び、ゆっくりと瞼を閉じた。

……だから、それだけ。
あの時、これから少しの間会えないと分かっていたけど、
用意していた文句のひとつも出てこないじゃない。
拾ってこられるまで、すごく心配してたこととか、
うつわを手に入れるのに苦労したこととか、
日本最大の霊地で、変わった人に逢ったこととか。
それも結局、何一ついえなかったのが
惜しいと言えば惜しかった。




「桜、さっきこいつ目を覚ましたわ」

「本当ですか!?姉さん」
水を変えに行っていた桜が戻ってきて
そいつの元に駆け寄る。

「ええ…でも、また眠っちゃったみたいね。
桜、そいつも目を覚ましたみたいだし、私今から遠坂邸に
いって直にイギリスに飛ぶわ。引き伸ばしてたけど、
そろそろ、協会やら教会の奴らが連行しにきそうだし」
はぁ、と溜息をついて桜に言う。
本当に困った。こいつのことを隠し通して
さらに、あの状況を説明しなければならないのだ。
一体どうなるのかも想像できない。

「頼んでおいたことお願いね、桜。
色々と後始末が残ってるけど、新しく派遣されたあの爺さんに任せておけば大丈夫だと思うから。」

なんて言いながらも、一応心配はしていた。
桜の体調のこととか、隣で怪しく口元を緩めている
眼鏡をかけた、使い魔のこととか。
こんなことを話しているうちに、やっと私自身が
安心したのか、ふと思ったのだ。


やっと。
長かった戦いが、終わったのだろうと。




……戦争が起きたのだ。
 国と国が戦う戦争ではなく、人と人とが戦う戦争。
 といっても、いがみ合っていたのは数人だけだ。
 それなら戦争なんてお題目は似合わないのだけれど、
その戦う人々がマスターであるなら話は別である。
 考え方の違う数人のマスター達はよくわからない理由で競
い始め、よくわからない方法で殺し合った。
 

そのうちの一人が、わたしの目の前にいる奴だった。
 だから、こいつも殺し、いつかは殺される立場にあった。
だけど、こいつは誰も殺そうとは思わなかった。
皆が幸せになることを望んで戦ったのだ。
予想外の事が判明するまで。
そして、最後には苦悩したゆえに
一人を守ることに決めたのだ。

それは、私だって反抗はした。
けれど、私も甘かったんだろう。
結局、最後に幕を閉じたのはこいつと、もうここにはいない、
一人の少女だったのだから。



「大丈夫です。姉さん。私、まだ整理はできていないけど、
色々考えてるんですから。
私に任せて、姉さんはやっつけてきちゃってください。」

大丈夫だろう、確かにまだ影響を大きいのだろうが
桜には彼女もついているし、何より、こいつが傍にいるし。

もう一度。
安らかに眠っているそいつの顔を眺めて、
私はその家を出た。




桜TrueEndエピローグへ。


陽射しが眩しい…昨日も夜遅くまで騒いでいたんだから、
もうちょっと寝かせてくれたっていいじゃない……。
それに、なんか、頭グラグラするし。
って、あれ?なんか誰かいる。
髪が長くて、紫色で。
眼鏡をかけてる、長身の美女……

「ラ、ライダー!?」

何故ライダーが私の寝室にいるのか。
加えて何故今朝はこんなにも気分が悪いのか。
もう、何がなんだかさっぱり分からない。
まさか、桜がやっぱり私に士郎を取られるんじゃないか、とでも思って
この刺客を放ったのか。

「ちょ、ちょっと。ライダー、なんでここにいるわけ!?」
はぁ…という擬音が似合うそぶりをライダーがみせる。

「どうしても何も、私はここにリンを送ってきたのですが。
まさか、全く覚えていないのですか?
確かに、昨夜タイガが出した酒はかなり強烈なものでしたが…」

あー、思い出した。
昨日、藤村先生に飲まされたあれ。
お酒だったのか、やられた…。
それ以降の記憶が見事に飛んでしまっている。

「……そっか。ライダーが話があるとか言ってたっけ。
ごめんさい…昨日の夜に話す約束だったわね。」

ライダーはこくり、と頷く。

「それで?どうしたの?あなたが私に相談だなんて。
あぁ…もしかしてあれ?血を吸わせろとか?それなら問題ないわ。
ちゃっちゃと済ませましょう。」

またもライダーは呆れる様子をみせる。

「私がそんなにも見境なしだとリンは思っているわけですか。
いえ、それならこちらにも手段はあります。」

まずい、今の一言。妙に殺気が篭っていた気がする。
下手したら一週間くらい石化させられるかも。

「いえ、それは今度にしましょう。ずばり、用件はこれです。」

ライダーが一つの封筒を私に手渡す。
封は開けられているようだった。

「すみません。封を開けるつもりはなかったのですが……
 ですが、開けていたのが私で良かった。
 もしサクラか士郎が開けていたならば、
 問答無用で破り捨てられていたでしょう。
一昨日、リンが帰ってくる前に、ここの掃除をしたのですが。
そのときに私がユウビンヤさんから受け取ったものです。」
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    世界魔術大会 招待状             遠坂凛 様 
           
           主催者:キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ






「作者の駄文」
初めまして〜。SS書き始めのHyperionと申します。
UNOBBSにて紹介頂き、既に書いてある分ですがここに投稿させていただきます。
文章力ないですがお許しを……
ちなみに、桜True後のSSとなっています。

                  


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