いぬみみせいばー


メッセージ一覧

1: てぃし (2004/02/16 13:59:00)

「おはよう。シロウ」
「あ、うん。おはよう、もうすぐ朝御飯できるから、ちょっと待ってて」
「はい、楽しみです」
「あ、それでさ、学校の……」
俺は、振り返って固まった。
信じられない現象が、目の前にあった。
朝の光、味噌汁の匂い、切っていた沢庵、小鳥の声、その全てが遠く感じた。
「セ、セイバー……?」
「はい、どうしたのですか、シロウ」
「い、いや、その、何か違和感とか、ないか」
「? いえ、特に有りませんが」
セイバーは不思議そうな顔をしていた。自分の変化に気がついてないようだった。
でも、おかしい。
気がつかない方がおかしいのだ。
「それよりも、シロウ、朝食はまだなのですか?
 その、できれば早くしてくれた方がありがたいのですが」
申し訳なさそうに照れながら。口をちょっと尖らせ、身体を上下に揺らせ尋ねてくる。
もう5分もすれば、お腹の音だって聞えるだろう。
普段でさえその威力は半端じゃなく、
思わず「いくらでも御飯つくってやるさー!」と叫びたくなるのだが、
「セイバー」
「はい」
その、反則だ。
だって、
「なんで、犬耳が……?」
ぴょこぴょこと、セイバーの真面目な顔に、犬耳が付いてるんだから。
あ、尻尾も揺れてる。


Fate/stay night ss

いぬみみせいばー

てぃし


「え」
どうやら本気で気がついていなかったようだ。
かなり焦りながら、
頭に手をやったり、自分の尻尾を見ようとぐるぐる回ったりしていた。
やば、かわいい。
「セ、セイバー……?」
「シロウ、これは、その、どうしたのでしょう」
涙目になりながら、聞いてきた。
犬耳もペッタリと伏せている、尻尾もしゅんとしてた。
その破壊力は、どんな宝具だって目じゃなかった。
いや、ある意味、ゲイ・ボルグ?
心臓どころか魂まで貫かれて、その上、滅却し尽くされたけど。
俺はふらふらと近づきながら言った。
「だ、大丈夫……」
「え」
「ダイジョウブだから、ね」
「あの、シロウ? 何か目が恐いのですが」
「と、とりあえず、こっち来て」
「は、はい」
おずおず、なんて言葉が似合う風情で、セイバーは近づいてきた。
耳は伏せられたまま、尻尾は不安そうに揺れている。
もはや我慢できず、俺はセイバーを抱きしめた。
「!!」
耳と尻尾がビンっと伸び上がった。
「セイバー! かわいいぞ!!」
「え……」
「あー! もう、撫でるぞ、いいな!?」
「ちょ、あの……」
抱きしめたまま、俺はセイバーを撫でつづけた。
犬耳は、やっぱり、実体があるみたいだ。きちんと撫でても触感がある。
きれいな金髪に血の通った柔らかい耳。
俺は気が済むまで撫でつづけた。
垂直に立っていた尻尾は、だんだん下がってゆき。
やがて、遠慮がちに揺れだした。
俺の手の移動に合わせて動いていた。
嫌がってはいないのかな?
「んー、この髪型に、犬耳ってのは、合わないな。セイバー、ちょっとほどくよ?」
「え、あ」
答えを聞く前に、俺はセイバーの髪をほどき出した。
意外と面倒なんだよな、この髪型。
ふわっと、髪が空中に広がる瞬間、とてもいい匂いが広がった。
その髪が落ち着き終わった後には、上目使いで見上げてくる。
完膚なきまでに完璧な、『犬耳セイバー』がいた。
俺は吹き出ようとする鼻血を押さえながら、感想を言った。
「うん、さっきのも凛々しくていいけど、今はこっちの方が似合ってるよ」
「そ、そうですか」
ぱたぱた。
「うん、なんだか、かわいいよ」
「あ、う?」
ちょこんと乗った三角の犬耳が、下ろした髪とよく似合う。
「このままウチで飼いたいな」
「な、なにを」
俺はセイバーの咽を撫でた。
「ん」
少し嫌がった顔をしてるけど、本気で嫌がってはいないようだ。
尻尾もいままでで一番揺れている。
真っ赤になって震えながら、でも、尻尾をぱたぱたさせてるセイバー。
やばい。
可愛すぎる。
く、首輪とかつけたらどうなるんだろう?
そして、そのまま散歩とかしたら?
俺の脳裏に、危険な妄想が広がった。
「ちょ、シロウ!」
誤魔化すように、セイバーを撫でた。
某動物王国のムツ・五郎さんをまねて、こう両手でわしゃわしゃと。
「や、止めてください! これでは本当に犬扱いではないですか!」
「でも、セイバーの尻尾、凄い動いてるよ?」
もう、ぱたぱた、どころではなく。ばたばたばた、という勢いだ。
セイバーは、真っ赤になって俯いた。
ごにょごにょと何やら弁明してる。
「セイバーは、かわいいな」
「な!」
「うん、このまま、ウチで飼われる気ない?」
「な、ななな、シ、シロウはこのような格好で、私が気味悪くないのですか!?」
「なんでさ、すごく、かわいいよ。それより、本当に俺に飼われない?」
「え」
「ちなみに、特典としては、いつもの食事に一品プラス」
「えっ!」
「更に、おやつも付けちゃおう」
「ほ、本当ですか、シロウ!?」
「もちろん、嘘なんて言わないよ。
 あと、外で飼うなんて真似はしないからね、セイバーは室内犬だ」
「それは」
「もっと言えば間違ったくらいの愛犬家だから、一緒の布団にも入れちゃう」
「な! そんな、それではリンに」
「ん、でも、今のセイバーは犬でしょ? だったら問題ないよ。
 セイバー体温高そうだし、抱いて眠るとあったかそうだ」
「え、あ……」
「どう?」
「あ、その、えと…」
「セイバー。セイバーは俺の剣であり盾なんだろ?」
「は、はい。魔力供給のマスターとしてはリンですが、剣はシロウに捧げました」
「なら、俺のものってことだろ、ただ、遠慮なくこうやって」
「あ」
「撫でるか撫でないか、くらいの違いじゃない?」
「……」
「ね、だから」
「は、」
はい、とセイバーが頷くよりも先に、
「なにか面白いことになってるわね、衛宮士郎君?」
ぴきん、と。世界が凍った。
視界がモノクロになる。
体温が急激に下がった。背後で急激に膨れ上がる魔力が半端な俺でもよく分かる。
恐る恐る、後ろを見た。
セイバーが震えながら抱きついているので、首だけで。
そこには遠坂凛という名前の、絶対の死を約束した微笑みがいた。
なんせ、見た瞬間思ったくらいだ。あ、俺って死ぬ、と。
朝の弱さなんて微塵も感じさせない、とても血色のよい顔立ちだった。
青筋が額に浮き出てるのが見えるくらい。
「あ、と、遠坂、おはよう」
「おはよう、士郎。気持ちのいい朝ね」
「そ、そうだな」
「思わず、浮気者の誰かさんに、ガント撃ちをしたくなるくらい♪」
「……」
胸には俯いて、顔の見えないセイバー。
後ろには、絶対零度を振り撒くあかいあくま。
ぴんち。
だいぴんち。
「と、遠坂、いつから居た? 人が悪いな不意打ちなんて」
「あら、私はちゃんとおはようの挨拶したわよ。
 二人は夢中で気が付かなかったみたいだけどね」
笑顔のまま、左手の袖をまくった。
当然のように魔術刻印が煌々と光っていた。
やばい。
過去の校舎の一件が思い出された。
殺意はあの時以上。
「他に言い残すことは無い?」
「いや、というか、これは」
「往生際が悪いわよ、衛宮君?」
「ま、待て!」
遠坂の目が、すっと細まった。
笑顔も消える。
「さよなら」
真っ黒な、弾丸じみた速度の魔力塊が迫った。
しかも、一つじゃない。数えるのも面倒臭いほどの弾幕だ。
正気か!?
「くっ」
このままでは避けれない、いや、仮に避けられても、セイバーに当たる。
それは『正義の味方』がしていいことではない。
浮気はいいのかー、というオヤジの言葉が響いた気がするが、そんなの無視だ。
『トレース・オン』
言葉で発していては間に合わない。
投影しても、剣を握って振るうなんて時間はない。
全身を灼ききるような魔力のうねりを意志の力で捻じ曲げ、
ほとんどの工程をすっ飛ばして、精髄も無く投影したのは、
「なっ!?」
一本の剣、というには無骨すぎる。巨大な岩の塊だった。
畳も机もめり込ませながら、人の手には余る巨石が出現した。
魔力隗はその表面に弾かれる。
耳障りな音をたてて跳弾した。部屋の中はもう目茶苦茶だ。粉塵で前も見えない。
「どうだ! バーサーカーの岩剣だ!」
煙から目を守り、セイバーを胸に押し付けながら叫んだ。
これなら大抵の攻撃を防げる。
そして、遠坂のガント撃ちは、せいぜい銃弾程度の威力。
仮にも英霊の武器である岩剣は、防御壁として充分だ。
けれど、
「甘い!」
岩剣を迂廻し、横合いから遠坂が突っ込んで来た。
煙幕じみた粉塵を利用しての移動、
左手には、もちろん、魔力を注ぎ込まれた刻印だ。
「やべっ!」
完全にふいを突かれた。動くことも魔力回路の起動もできない。
極悪なまでの魔力のガントが、
「あれ?」
来なかった。
魔力塊は完全に遮断されていた。
目の前には、俺を守るようにして立っている。
「(犬耳)セイバー!?」
「……シロウは、私が守ります」
「セイバー? 面白い冗談ね、マスターに楯突くなんて」
あ、遠坂の口もとが引きつってる。
「それとなに、その頭の飾りは、それで士郎を騙したの」
「それは心外です、リン。私はこのようなことの原因に心当たりはない。
 そう言うリンこそ、私の現状に何か覚えはありませんか」
「なによ、そんなわけ……」
途中まで言ってから、遠坂は、自分の口もとを片手で覆った。
あの表情は、明かに、「あ、やべ」という顔だ。
「遠坂? 心当たりがあるのか」
「そ、そんなわけないじゃない! ただ」
「ただ?」
「昨日、交通事故にあった犬がいて、それを近くの公園に埋葬してあげたから」
「あ、まさか」
「そう、その魂魄が私を通して、セイバーに入っちゃったのかなって」
「あー、それは」
なんて言うか、完全な不可抗力だ。
「そうですか、ですが、それも今となっては関係ありません」
「セイバー!?」
なぜだろう、今すぐセイバーの口を塞がなければいけない予感がするのは。
「私は、誓いました。シロウの犬になることを」
「ちょっと、セイバー! いま、発音がおかしくなかった!?」
あはは、何故だろう。セイバーのいつもの台詞、
「貴方の剣になる」って言葉が別の意味に聞えたよ。
「いいえ、おかしくありません。これは他ならぬ、シロウからの提案ですし」
「ちょ、士郎!!??」
「そういうわけで、リン。申し訳ないのですが、
 貴女は、この家に害悪を運ぶ存在です、今すぐお引取りを」
「なによ! 私は士郎の彼女なのよ!?
 セイバーにそんなことを言う権利はないわ!!」
「関係ありません。
 彼氏彼女といえば、別れるときは別れますが、愛犬が別れるときは死別だけです」
なんて、スッゴイ冷たい視線で、遠坂を見る騎士王さま。
あかいあくまは、むっきー、てな感じで怒り心頭だ。
どうでもいいが、セイバー。何時の間に、俺の犬になることを納得したんだろう。
「……どうしても引く気はないってわけ」
「当然です、リンこそ早くお帰りください」
「へぇー」
「ふふ」
二人の視線で大気に火花が散った。
そして、第一回・彼女と愛犬、どっちが偉いか大会が開始された。
どっちにしても、俺に明日はなさそうだ。


―――――あとがき

ども、てぃしです。
妙なもの書いてしまいました。
実質、制作時間2時間強。
初期発想は、「セイバーって犬耳、似合いそう」。これだけ。
キリっとした姿で己のマスターを守る姿は、どこか忠犬を思わせます。
ビジュアル的には狐耳・尻尾もいいかなあ、とは思うんですが。
あと、もっと、萌えに徹しられたら良かったのですが、できませんでした。
反省。
次は、ねこみみ遠坂で!(ウソ)


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