空の月8


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1: うり坊 (2004/02/04 22:04:00)

16、
両義式は暗闇の森をひたすら走る。
愛する人を探して
「どこなんだ・・・幹也・・・」
「・・・・獲物か」
ボソリと呟く声は人の耳では決して聞こえない程だがソレは式には聞こえた。
「そこ!」
式は橙子から拝借した投擲用のナイフを暗闇の中に投げた。
「おっと!危ない危ない。いきなり物騒だな?」
茂みの中から28,9歳前後の男が出てきた。
白髪、それが第一印象だ。
男の手には投げられたナイフを掴みそれを地面に投げ深々と突き刺さった
「だまれ!」
式が叫ぶ
「ふっ、さて俺の名は樹鬼だ。お前の名は?」
「死ぬ奴に名前なんて教えても意味がない!」
「なるほどな・・・」
くっくっくっと笑う
「貴様!幹也はどこにやった!」
「幹也?ああ・・・あの小僧か・・・俺が喰っちまったよ。」
樹鬼が言った。
『俺が喰っちまったよ』
式はキレた。
「お前!」
式は樹鬼との間合いを一瞬で詰る
手にはナイフ
アトは『線』をなぞるだけでいいのだから
「ぎゃははは!おもしろい!こい!!」
樹鬼はあえて式の攻撃を受けようとした。
それは式の能力を知らない者だからこその言葉
「死ね・・・・」
右肩の『線』をなぞる。
右肩は綺麗に切れ空中をくるくると回転している。
「ほう、『直死の魔眼』か・・・・だが・・・」
「!」
一回の攻撃で自分の能力を見切られたのは驚いたが奴の肩はもう無い。
能力が分かったぐらいで戦局はこちらが有利だ。

これが私の油断

奴は宙を舞っている右肩を掴みソレを無理やり傷口に付けた。
―馬鹿め!そんな事をしても無駄だ!
けど・・・
「なっ!?再生しただと!」
「残念だったな!俺にはその『眼』は通じない!」
奴は証明するかのように右手を動かす。
「くっ!」
式は樹鬼の体の無数の『線』なぞる。
分かれては引っ付き分かれては引っ付く
その繰り返し
「無駄無駄無駄!全然効かねえぞ!」
「これなら!」
ならば式は奴の死点を貫く
「ぐっ!まさかこの俺がこんなに簡単にやられる・・・・・筈がないだろう!」
樹鬼は死点を貫かれても活動を続けている。
「馬鹿な!」
「ひゃははははっ!じゃ今度はこちらの番だ!行け!木偶人形どもよ!」
樹鬼の周りの木々が蠢き人型の人形が造り出される。
その数、五体
それらの死線をなぞるが樹鬼同様に再生した。
「くっ!」
「切ってもすぐに再生するぞ!」
斬っても切っても再生するソレ
「あうっ!」
人形の一体に攻撃され本来の声が出てしまった。
「いい声を出すな。さあ!もっと聞かせてくれ!」
樹鬼が興奮する。
この先から私の意識は闇に消えた。

「・・・・・」
一体、どのぐらい気を失っていたのだろう・・・
人形達はもう居ない
代わりに私は木にぶら下げられている。
「おや?もう死んだのかい?つまらん。」
「まだ・・・・・」
声を絞る。
「おっ、まだ生きているな。」
「幹也を・・・助る・まで・・は・・・・」
肺に血が入るがそれでも喋る。
「じゃあ・・・あの世で会いな。」
ドスッ!
樹鬼の手から枝が伸びて・・・
「かはっ・・・・・・」
シンゾウに穴が開けた。
口から大量のチが出る。
息ができない。
目が霞む
もう終わりなの?私はまだしなければならない事があるのに・・・
「さて、どこから喰うとしようかな?」

気がついたらまたこの『場所』に来ていた。
深淵の闇に
―――まだ終われない・・・
『それが貴女の望み?』
―――力が・・・・欲しい・・・幹也を助けるための・・・力が・・・・・
『それが貴女の望み?』
―――ああ・・・・そうだ。たとえ・・神を敵に回しても勝てる力が・・・・・・・欲しい!
『わかったわ・・・目覚めなさい『式』・・・貴方がすべき事の為に・・・』

「あの光は・・・・」
樹鬼の視線の先には一筋の光が雲を切りながら空に昇っていく謎の光景がある。
「一体何が起こったんだ・・・」
スパン!
両腕が切れた。
式はナイフを持ちながら肩で息をする。
「・・・・まだ生きていやがったのか・・・」
―――ありえん・・・俺は確かに心臓を刺した筈だ。それにこいつ・・・先程とは何かが違う。挑発して探りを入れるか・・・
「はあっ!はあっ!はあっ!」
「どうした?もう体がふらふらだぞ?」
樹鬼の言う通りだ。
私の体はもうボロボロだ。あと何回、攻撃が出来るのか解らない。
「・・・・・・・」
――――集中しろ・・・あいつみたいに『視る』んだ。
「なにか喋ったらどうだ?そんな体で何が出来る?」
樹鬼は挑発するが式は黙ったままだ。
「・・・・・・・」
――――『視る』のは奴の死じゃない・・・・奴に流れ込む力を止めればいいんだ。
「おい!喋れよ!」
「・・・・・・」
――――『視えた』・・・・これが世界の死・・・・あいつ・・・こんな世界を『視て』いたんだ・・・・凄いな・・・まるで月世界だ。俺には重過ぎる・・・けど今なら奴に勝てる。
式には『視えた』この死の世界を・・・ツギハギだらけの脆い世界を・・・
「死ね!」
樹鬼が動く
けど式は樹鬼よりも早く動いた。
「・・・・・・そこだ。」
式は地面の死点を刺す
瞬時に世界は変わった。
「なっ!?き、貴様!何をした!」
樹鬼は立ち止まった。
世界からの供給が途切れた事に焦る。
「ただ殺しただけさ・・・この世界を・・・」
地面からナイフを引き抜き構える。
「おのれー!」
再び樹鬼は走る。
「邪魔だ・・・・」
横に一閃
樹鬼は胴と腰が分かれた。
「がっ!ば、馬鹿な・・・・この俺がこんな女に負けるはずがない・・・・」
「消えろ。」
今度は縦に一閃
樹鬼は十字に分かれて地面に落ちる直前に灰に消えた。

「傷・・・・深いな・・・・」
式は自分の体を見て思った。
「もう一度・・・・幹也の顔を見たかった・・・・」
私の大好きなあの人・・・
守りたい人に・・・
式は膝に力が入らなくなりその場に倒れた。

「・し・・き!式!」
――ああ・・誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。
私の大好きなあの人の声が聞こえる。
「幹也・・・?」
「よかった!心配したんだよ。」
「幹也・・・」
――生きていた・・・馬鹿・・・心配させて・・・
「どうしたの?」
幹也が尋ねる
「馬鹿。」
その言葉には嬉しさが込められている。
「いきなりそれはないだろ?」
「とりあえず、起こしてくれ。」
「駄目だよ。琥珀さん達が来るまでじっとしていないと。」
「けど・・・・」
「はいはい。今度聞いてあげるから。」
「いや・・・・恥ずかしいんだ・・・」
今の式は幹也に膝枕をされている状態
「そうかな?僕は嬉しいけど?」
率直な感想
「馬鹿!」
ゴスッ!

幹也曰く・・・この日、一番の怪我といえば式が僕の顔面に強力なパンチを入れた事だ。


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