15、
カチッ!ボッ!
暗い森の中でゆらりとライターの火が揺れる。
「ふぅ〜・・・・・・・いつまでそこに隠れているつもりだ?」
タバコを一服吸うと後ろの闇から顔が出てきた。
「ばれていたか・・・・」
と70代くらいの年寄りが喋る。
「爺か・・・・」
視線を後ろにやり再び視線を戻す。
「ふん・・・まだまだ若者に負けんぞ?」
ニヤリと口を歪める
「ところで、お主が結界を張ったのか?」
「そうだ。」
相変わらず煙草を吸う。
「なるほど・・・・では死んでもらうぞ。」
「貴様の名前ぐらいだけは聞いてやろう。それが私に出来るこれから死に逝く者に対する手向けだ。」
「ふっ・・・よかろう、わしの名は焔鬼じゃ。」
「出ろ・・・」
焔鬼が言い終わる直前に鞄から黒猫を出す。
「ほう猫か・・・・」
焔鬼は少し感心したようだ。
「ならば・・・紅龍召喚!」
焔鬼の周りに何本かの火柱が上がった。火柱はやがて一本の巨大な火柱に変化する。
そしてその火柱から『龍』が出てきた。
その容姿は真紅の龍、炎の化身と見える龍は焔鬼の周りに漂う。
「東洋の神話の化け物か・・・・」
「お前さんの猫、一匹だけじゃあ話にならんのう・・・・そいつも出せ・・・」
焔鬼が橙子の懐に入っているモノを指す。
「いいだろう・・・・『解』・・・・」
橙子は懐から巻物を取り出し広げる。
だがその巻物は白紙である。しかし、橙子は一言、『唱えた』。
と、なにも画いていなかった巻物から白いナニかが飛び出した。
グルルルッ!
唸り声をあげながらソレは相手を睨む。それは殺意の眼
白銀と思わせる白い虎、それは神秘的な面持ちだ。
「龍と虎・・・・おもしろい。」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
双方が黙る
そして・・・・
「「行け。」」
どちらが先に言ったわけでもなくほぼ同時だと言えよう。
龍と虎に猫
2対1だが力量的には・・・
「互角か・・・・ならば・・・」
焔鬼が動いた。
速い、とても見た目が70代とは思えない動き
そしてその手には一本の紅い蛇刀が握られていた。
「ちっ!」
とっさに避ける。
そして蛇刀はそのまま木に突き刺さる。すると木が一瞬にして炎に包まれ炭と化した。
「なるほど、その蛇刀には炎の力があるのか・・・」
「外したか・・・じゃが・・・」
再び動いた。
しかし今度は焔鬼が5体に増え襲ってきた。
「ほう・・・やるな、だが本物は一つだ。」
とポケットからダガーを取り出し、その5体の焔鬼の内の一体に投げた。
カキーンとダガーが蛇刀に弾かれる。
「見破られたか・・・・」
動きが止まり他の4体の分身は消えた。
「その程度の術で私を惑わせられると思ったのか?」
「少し甘くみていたようだな、これならどうじゃ?」
蛇刀の形が長い剣に変わる。
先程の紅さと違う色、それは地獄の業火と思える色、罪人を灼熱の炎で焼く色
そして縦に一振り、それは単に空に向かって振っただけなのに・・・
途端に橙子の横の木が轟々と燃えた。
「!?」
「どうじゃ?」
「ふっ・・・おもしろい玩具だな?」
相手に焦りをみせたらこちらの負けだ。強気でいる事が勝利に繋がる。
「その玩具で貴様は死ぬのじゃぞ?」
――確かに今の攻撃がどうやってしたのかは私でも確認できなかった。しかし奴の攻撃は単純かもしれない。剣の射線上にいなければおそらくは大丈夫なはずだ。もしくは奴が私を視認できなければいいことだ。つまり隠れる事
「むっ・・・隠れたのか・・・じゃが、甘い!」
剣を徐に振り回す。
辺りは一面、灼熱の炎に包まれる。
「くそっ!」
燃える木の陰から橙子が飛び出す。
「そこじゃ!」
焔鬼は飛び出した橙子に剣を振るう
「ちっ!」
ポケットから蒼い宝石を投げつける。
宝石は砕け散り、焔鬼の攻撃を防いだ。
「どうした?守りだけじゃあ、わしには勝てんぞ?」
「はっ!」
再びポケットからダガーを取り出し投げた。
「ぐっ!やりおるな・・・・コレならどうだ。」
今度は命中、しかし焔鬼は怯まず攻撃をする。
「くっ!」
また宝石を投げる。これも同じく砕け散った。
そして橙子は森の奥に逃げる。
「なかなかやるのう・・・・だが、もう終わりじゃ」
「!」
「くらえ、束・撃・轟・火・滅・縛・・・炎舞封陣結界。」
すばやく手で印を組む。
そして橙子の周りに火柱が上がるが・・・
「くっ!・・・・なんてな・・」
火柱はすぐに消えてしまった。
「なんだと!術が?!」
何故、自分の術が失敗したのか解らない
「簡単な事だ。術を行使出来ないように少しばかり細工をしただけだ。」
「何をした!」
「気づかないか?この一帯の木々に札を貼っているのが?」
橙子は焔鬼に周りを見るように言う。
するとこの一帯の木に札が貼ってある。
「馬鹿な!わしと戦っている間にそんな真似が出来るはずが無い!」
確かに今の戦いの最中に木々に札を貼るのは不可能だ。
「誰も貴様と戦っている最中にしたとは一言も言っていないぞ?初めから仕掛けておいたのさ。」
「おのれ!罠に誘い込んだのか!女狐め!」
焔鬼が半狂乱になる。
「褒め言葉として受け取るよ。」
「だが、術が使えなくても直接攻撃すれば良い事だ!」
心を落ち着かせ最善の攻撃手段を出した。
そう、術が使えなくても直接的に攻撃をすればいい事だ、それに焔鬼の体術は橙子よりも上なのだから
「それもそうだが、できるのかな?」
怪しい程の余裕の表情
「何?」
焔鬼は顔を顰める。
とグシャと踏み潰される音がした。
「ば、馬鹿な・・・わしの紅龍が・・・・・」
音がした方を見ると紅い龍の顔は白い虎に踏み潰されていた。
「さてどうする?」
焔鬼は動かなくなった紅い龍に近づき手を触れる。
「記憶を見ているのか・・・」
傍目から見ればその行動は単に触れている様にしか見えないが実は自分の使い魔の記憶を見ているのだ。
それによって敵の能力、攻撃方法、弱点が分かる。
「・・・・・・・そうか、そう言う事だったのか・・・・貴様の使役の弱点、見破った!」
剣を二振り、一つは鞄に命中、もう一つは巻物に命中した。その二つを灰にした。
しかし猫は消えたが・・・・
「ほう、正解だ。しかしな・・・半分はハズレだ。」
白い虎は残ったままだ。
「なっ?!何故消えないのじゃ!」
「そいつは特別でな、ただ巻物を破壊しただけでは消えない。」
「ぐっ!」
剣を構えるが・・・
「・・・・・行け。」
白い虎は目にも見えない速さで走る。
白い影は焔鬼の目の前で来た。
「これで終わりか・・・・あっけないものじゃたな・・・・」
焔鬼は動けなかった。
それは絶対的な強者による恐怖
そして『鬼』は白い虎に抵抗もできずに『喰われた』。
「さて・・・・・素直に戻ってくれたら嬉しいのだが・・・・」
橙子は食事が終わった白い虎に話しかける。
『黙れ。人間如きが我に指図するではない。』
虎が喋る。
「面倒だな。」
頭を掻きながら考える。
『久々の下界だ。我は肉が喰いたい。トカゲと鬼では腹の足しにもならん。』
「そうだな・・・・今度、上等の神戸牛を数十頭喰わしてやるから戻ってくれないか?」
『肉だけじゃ体に悪い、マグロと野菜をt単位で付けろ、そうしたら戻ってやる。』
以外と健康を気にしている様だ。
「・・・・わかった。約束しよう。」
――幹也、給料はまた今度に延期だな・・・・
『うむ、もし破ったら貴様を喰い殺すぞ。では楽しみにしているからな・・・・・』
灰になった筈の巻物がいつの間にか元に戻り白い虎は巻物に吸い込まれる様に戻った。
「やれやれ、出費が掛かる使い魔だ。」
煙草に火を点け一服吸う
「これだから『白虎』は使いたくなかったのだが・・・・」
と向こうの森で光が発せられた。
「ふむ・・・派手にやっているな・・・」
橙子はその場に座り込む。
『白虎』、四聖獣の東を守護する獣
ただし、これは対愚妹用の決戦兵器の一つ、それは想像以上の力を有している。
だが欠点は出費が掛かる上に自分の体力を根こそぎ取られる厄介な代物だ。
はたしてこれが次に使用される事はあるのだろうか?
「あ〜、そうだ幹也の奴の所在を聞くのを忘れたな・・・・ま、別にいいか・・・死んだら死んだらでそれまでだな・・・それにあいつなら式が必ず助け出す筈だろう。」
などと他人が見れば自分の社員を気遣う様子も微塵にもない人でなしと思うが彼女は彼女なりに心配の様子だ。