12、
「ふぅ〜いい湯だった。」
浴衣を羽織った幹也がまだホコホコと体から湯気を立てながら出てきた。
「あれ?どうしたんだの、レンちゃん?」
「・・・・・・・」
と幹也はすぐそこでイスに座っているレンに喋りかけた。
「ああ・・・志貴君を待っているんだ。」
コクコクと頷く。
「志貴君ならもうちょっとで出ると思うよ。」
「・・・・・・・」
「あっ、そうだ、式もそろそろ出るかな?」
コクン
「そう・・・じゃあ、一緒に待とうか?」
コク
「・・・・・!」
その時、背後か気配を感じて振り向いた。
「あれ?たしかに気配を感じたはずなんだけど・・・」
そこには誰もいなかった・・・・だが
ゴスッ!
バタッ
「!?」
ドスッ!
ドサッ
・
・
・
「ふう~気持ちよかった! あれ?なんだろうこの紙は・・・・・・・」
志貴が壁に刺さっている紙を見た。
「どうしたんだ。」
と後ろから式も声が聞こえてきた。
「式さん!すぐアルクェイド達を呼んでください!」
「分かった!」
式はただらぬ事を察したのか急いでアルクェイド達の元に行った。
・
・
「どうしたの志貴?」
アルクェイドが尋ねる。
「この紙を見てくれ・・・・・」
志貴は一枚の紙を差し出す。
「え〜と『汝らの仲間を預かりたまる。返して欲しければ明日の夜、月が真上に昇るころに湖の辺に来たれし、さもなければ人質の命は無い。』」
「仲間・・・・はっ!レンちゃんと幹也さんは!!」
「くそっ!」
バッとその場から離れようとしたら・・・
「待て、式!」
「止めるな!橙子!」
「今、お前が行ってもやられるだけだ。」
「くっ・・・・・」
悔しそうに唇を噛む
「それよりも今は、策を考えるべきだ。」
「たしかに・・・」
「それと、そろそろ来る頃だと思っていたからな・・・」
「けど、橙子・・・鬼に相手でこんな刃物がきくのか?」
「心配無用だ・・・今から調達する。」
「どうやって?」
「電話でだ。」
・
・
プルルルルッ
「はい〜もしもし、レストラン『ミドル、キック』です。」
電話に出たのは、金髪碧眼の女性だ。
『もしもし、私だ。』
「あら〜その声は橙子ちゃんじゃない〜久しぶり〜どうしたの?まさか告白!?」
――何度も聞いてもなんとも間の伸びた声だ。
『違う!!よく聞け碧、今から言う物こちらに送ってくれ!』
「もう〜酷い!で、なにを送って欲しいの?」
『古い刀を二本とドラゴンの手袋に強力な概念武装とそれとお前に預けたアレを送れ!』
「アレって!?そんなに大変なのそっちは?」
『そうだ、明日の夕方までには送れ!』
「それで〜場所は?」
『○○県の北部に在る旅館だ、今は結界を張っているがなんとしても送ってくれ!』
「分かったわ〜たぶん間に合うはずだから。」
『じゃあ、切るぞ。』
「あっ!料金は〜?」
『ツケだ。』
「また〜、ちゃんと払ってよ〜」
『そのうち、払う。』
「約束よ〜もし払えないのなら〜〜体で・い・い・わ・よ?」
『頼んだぞ!』
橙子は最後のセリフを聞かないようにして電話を切った。
ガチャ!ツー、ツー、ツー
「さてと、明日の夕方までか・・・明後日までお店はお休みね。」
碧という名の女性は店を閉める準備に取り掛かった。
・
・
「どうでした?」
秋葉が尋ねる。
「明日の夕方に武器が届くはずだ。」
「あっ!」
「どうしたの、志貴?」
「有彦と大輔さんはどうするのですか?」
「それなら、強力な睡眠薬でも飲ませて、部屋に結界を貼れば大丈夫だ。」
「そうですね。」
「では、作戦を立てましょう。」
「はい」
そして、時間だけが刻々と流れていった。
13、どたたたたっ!
「大変です!橙子師!」
突然、鮮花が橙子達いる部屋のドアを開けた。
「もう少し静かに開けれないのか?」
何時ものの物腰で聞く。
「すみません・・・」
鮮花は少しシュンとなる
「それで用件は?」
「旅館の人が数人消えたようです・・・・」
「メシか・・・」
「ちょうどいい、荷物が届いたぞ。」
「本当ですか!?」
「そうだ、ほら、式と遠野君にはこの刀だ。それと鮮花にはこの手袋、シオンはコレを・・・」
「なんですかコレは?」
と渡された銃の弾についてシオンが尋ねる
「んっ?それか・・・私が作った特製の弾だ。神槍に匹敵する程の威力がある。」
「なるほど・・・・これなら・・・」
シオンが薄っすらと笑う
「けっこういい物だな・・・」
式が刀を鞘から引き抜き感想を漏らす。
「あとお前さん達の武器はどうするんだ?」
残りの三人に尋ねる
「私は自分のがありますので。」
「私も要りません。むしろ邪魔なだけです。」
「私は別に要らないから。」
「そうか、そろそろ時間だ・・・行くぞ。」
「秋葉はここにいてくれ。」
「兄さん!!なんでですか!」
「もしかしたらここが襲撃を受けるかもしれない。だから秋葉に琥珀さんと翡翠を守って欲しいんだ。」
「・・・わかりました・・・ちゃんと帰ってきてください。」
「ああ・・・約束するよ。」
優しく頭を撫でる。
「鮮花、お前も残っておけ。」
「はい・・・橙子さん・・・・・」
少し残念そうに返事をする
・
・
・
・
湖の辺に六人の人影が見える。
「そろそろ時間です・・・」
ヒュ・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・上!!」
研ぎ澄まされた感覚で注意を促しその場から全員が跳躍して離れる。
ヒュン!
ズン!
一瞬なにが起こったのか解らなかったが、すぐに解った・・・・つい、先程いた場所に巨大な棒・・・いや違う・・・剣が刺さっていた。
小規模だがそこにはクレーターができている。
「くっ!先手を取られたか・・全員散れ!!」
「はい」
「わかりました。」
・
・
・
・
同時刻、旅館の部屋にて
「なんですか、今の音!?」
「どうやら始まったようですね。」
「気をつけないといけませんね・・・・秋葉さん、後ろ!」
秋葉の後ろの障子にゆらりと影が映る。
ヒュン・・・・
スパーン!
障子が一瞬で細切れになる。
「くっ!!」
「大丈夫ですか!?秋葉さん!!」
「ええ、なんとか・・・少しかすった程度です。」
「ほう・・・・女、よくかわしたな。」
「これが、鬼!?まるで人間じゃあないですか!?」
驚くの無理も無い・・・その姿は想像していたのと違う・・・町にいそうな普通の20代後半ぐらいの男だったのだから・・・顔はすこし痩せ細っている、肉体は少し筋肉質だ。
しかし目の色が違う、深い真紅の瞳まるで血の色
「貴方・・・ただの鬼じゃあないですね?」
秋葉は鬼についてはある程度の知識はあったが純血の鬼で人の姿をした鬼など希な事だ。
たいていの鬼はどこか人と離れた特徴的なものがある。1000年前の鬼等は角や皮膚の色、主に体型などに特徴がある。
遠野家は『魔』の血が流れているが純血の鬼と比べれば薄い。
遠野より血が濃い軋間も同じと言えよう。
そのため遠野や軋間などは本来の鬼と比べれば人間の姿が当たり前なのである。
「その通りだ。」
ニヤリと口元を歪める。
「何者ですか?」
「我の名は鋼鬼、貴様らに死を与えし者なり。」
「鮮花さん・・・・琥珀たちを安全な所までお願いします。」
「はい!」
その場から走り去った。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
どちらも動けない状態だ・・・
「いくぞ!! 召・来・鋼・変・化!!」
なにやら素早く手で印を組むとたちまち鬼が光に包まれた。
「なっ!?」
「はっははは!!どうだ、この鋼の体は?」
鋼鬼はかんだかい声で笑う。
その姿は先ほどの姿とは別で全身は甲冑みたいな姿で覆われ、顔には妖しく光り輝く鋼の般若の面が着けられている。
「ならば!こちらも」
檻髪の発動・・・略奪の能力を持つ『魔』の力
「檻髪か・・・・なるほど、おもしろい!!」
「くらえっ!!」
「・・・・・・・・」
鋼鬼は避けることもせずに檻髪が五体に巻きつく。
「巻きついた!このまま決めます!!」
だが・・・
「なんだ、つまらん・・・この程度か・・・」
「なっ・・・・キャッ!!!」
まったく分からなかった・・・檻髪は確かに巻きついたはずなのに鬼は何事も無い様子でそのうえ、檻髪を素手で掴み秋葉の体ごと投げた。
「今度はこちらから行くぞ!!」
ひゅん・・・
「消えた!?」
鬼は一瞬のうちに消えた。
ドスッ!
と秋葉の体が横に吹き飛ぶ。
ミシッ!
わき腹から嫌な音がする・・・
「かはっ!?」
ゴスッ
今度は背中・・・
「くっ!!」
『どうした?攻撃をしないと死んじまうぞ?』
「そこっ!」
バッと後ろを向き素早く檻髪を発動
ひゅんひゅん パシッ
「ぐおっ!」
鋼鬼の右腕に檻髪が集中する。
略奪が通用しないのなら拘束として使うまで
「捕まえました。下手に動けば腕が千切ります。」
「おのれ!!!」
ヒュン
ズシャ・・・・
「なっ!?」
驚くことに自ら自分の腕を手刀で切り落とした。
「このアマめ!!もう、お遊びは終わりだ!死ねぇぇぇ!!!」
怒り狂った鋼鬼は秋葉を目掛けて左腕を槍のように突き出して突進する。
「くっ!」
避けられない・・・
鋼鬼が腕を切り落とした事により力の反作用により後ろに倒れてしまう。
ドンッ!
辺りに銃声が響く。
鋼鬼は秋葉の目の前で横に吹き飛ぶ。
「大丈夫ですか!?秋葉さん!」
鮮花が駆け寄ってくる。その後ろではシオンがバレルレプリカから硝煙がでていた。
「気をつけてください!」
シオンがもう一度、銃を構える。
「ぐっ・・・・おのれ・・・小娘どもめ!」
吹き飛ばされた鋼鬼が起き上がる。
「そんな!無傷!?」
シオンが驚く、鬼の体には先ほど撃ったはずの弾の傷が無い。
「甘く見るな!」
鬼は再び体勢を整え三人に襲い掛かる。
「壁よ・邪悪な者から・我等を・守れ!」
と鮮花が橙子から貰ったルーンの石を掲げ詠唱する。
鋼鬼は見えない壁に阻まれ襲うことが出来ない。
「おのれ!だがこの程度の法術なぞ、すぐに破ってみせる!」
「たしかに・・・この程度の結界では時間の問題です。」
「奴の体は鋼・・・・攻撃が通じない・・・」
「シオン、後何発の弾が残っている?」
「橙子さんから貰った特製弾が後8発と通常弾が9発です。しかし通常弾は奴の体には効きません。」
「・・・・・・・・いちかばちかの賭けにでましょう!」
「賭け?」
「はい、ですから・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「なるほど・・・・それなら少なくとも勝てる可能性があります。」
「何をゴチャゴチャ喋っている!もう終わりだ!」
鋼鬼は今にも結界を破りそうだ。
「今です!!」
秋葉が叫ぶと同時に鮮花が結界を解く。
「何!?」
鋼鬼はなにかを悟り、すばやくその場から離れようとしたその時・・・
「くらえ!!」
ドン!
シオンが鋼鬼を撃つ。
「無駄なことを・・・」
鋼鬼はあえて避けようとせずに自ら弾を受けた。
ドン!ドン! ピシッ!
シオンは続いて撃つ。
「馬鹿め・・・いくらやろうが無意味だ。」
鬼はシオンの方に向いて歩き始めた。
ドン!ドン!ドン!ドン! ピシッ!ミチッ!
さらに撃つ。
「んっ!?」
その時、自分の体から不快な音が聞こえてくる。
ドン!
ビシッ!
シオンは橙子から貰った弾は全て撃ち尽くした。
「馬鹿な!?俺の鋼の体にヒビが!?」
鋼鬼は始めて自分の体に異変に気がついた。
だが、時すでに遅し・・・・
シオンが撃った弾の全ては同じ箇所に目掛けて命中させた。
それはシオンだからこそ出来た芸当だ。
エーテライトから一級の拳銃使いの情報を貰い訓練して出来た。
「はあー!」
鮮花が素早くヒビが入っている箇所に強烈な一撃を決めた。
ゴスッ!!
バキャ!
「ぐはっ!?」
自慢の鋼がパラパラと落ちる。
「くらえ!!」
続いて秋葉の檻髪がギロチンの刃の様になり鋼鬼に向かう。
ドスッ!
勢いで木に刺さりゾブリと音を立て、腰と胴が分かれた。
「あっ・・・・そんな・・・馬・鹿な・・・こん・な所で・・・ゴフッ!!」
上半身と下半身が分かれてもまだ生きている、しかし口から吐き出され血の量は死を意味していた。
「残念ですがもう終わりです。」
冷徹な目で鋼鬼を見据える。
「ギッ・・・ギギギギッ!コのまマでは・・・終わラさな・・・イぞ・・・・・」
ずるりと上半身だけが動いた。
そのまま檻髪を伝い、秋葉に向かう。
「くっ!」
深く刺さった檻髪は木から抜けず振り払うことが出来ない。
さらに檻髪で攻撃してもかわされる。
「秋葉さん避けて!!」
「ギギ・・・貴・さまダけ・・で・モ道ズれ・・・ダ!!!」
鮮花が叫ぶが鋼鬼はもう秋葉の目の前まで来た。
ドンッ!
「あっ・・・・?」
あっけない声を出しながら鬼は地面に落ちる。
「・・・・・シオン!?」
秋葉はシオンの方を振り向く。
「よかった。鬼に覆われていた鋼は剥がれましたから通常弾でも効きました。」
「ありがとう、シオン・・・・・」
ドサッ!
「秋葉さん!?」
鮮花は急いで秋葉に近づき触ろうとした時・・・・
「待ってください!私が見ます。・・・・・・・・・・・・・・・もしかしたらあばら骨が数本、折れて内臓を傷つけているかも知れません。急いで琥珀たちを!」
「はい!」
鮮花は急いで琥珀を呼びに行った。
「はい、コレで大丈夫です。明日にでも回復しますでしょう。」
琥珀は安心させるかのようにシオン達に告げる。
「よかった。」
鮮花がほっと安心する。
「しかし私たち三人でも手こずるような相手を志貴達は大丈夫でしょうか?」
「おそらく大丈夫でしょう・・・・」
「そう信じるしかありません・・・・」
たしかに・・・今の彼女達に信じるしかないのだから・・・・・・