「あんたロリコンだろ?」
( ゜Д゜)ハァ?
いきなりのことに、俺は某巨大掲示板共通言語を使ってしまった。
とある酒場での珍事。
俺は飲み仲間の姐さんことスミレに、いきなり幼女趣味の宣告をいいわたされた。
しかも姐さんのハスキーボイスは、よく周りにとおるもんだから、
酒屋のおやじたちが、俺のことを触れてはならぬ目でみやがる、これまた居心地悪い。
「ちょっと待て。 そりゃどういう……」
「だってあんたってば、あのアルトちゃんに手ぇ出したじゃん。
前から鬼畜だとは思っていたけどさ、
あのヴラドの領域までいっちゃうと、さすがのあたしもひくぞ」
「ちがうわボケー!!」
テーブルをひっくり返して俺はきれた。
いい加減にしろ、そんな暴行だの陵辱だのを連想させる台詞を吐かれつづけたら、
この世に俺の居場所がなくなってしまう。
たしかにオフィシャル設定ではアルトルージュと恋人になる(?)のかもしれんが、
この話はただの二次創作に過ぎんだろうがー!って何言っているんだ俺は……。
しばらく俺は呼吸をととのえたあと、何事もないようにビールをあおる半魚女に、
自分がいかに正常な性癖の持ち主であるか、事細かに説明を開始する。
「いいか姐さん。
たしかに、俺がアルトと一線超えちまったのは認めるよ。
だがな、あれから向こうからは何の音沙汰もねえし、
あくまでほんとにまじで合意の上だったんだからな!」
「そうかそうか。
アルトちゃん何もいえなくなるくらい辛くて痛かったんだね、初めてなのに。
あんた獣だからさ、ベッドの上だと理性なんてかっ飛んで特大ホームランだったろ?」
「ちょっと待てやー!!」
俺は再びテーブルを持ち上げて投げ飛ばそうとした。
いや、だめだ。
この酔いどれ女のペースに乗せられるな。乗せられたら負けだ。
俺はテーブルを元通りの位置に直し、こぼれたビールを掃除すると正座になる。
攻める方向を変えよう。
「姐さん、俺はアルトには手を出したが、ロリコンじゃねえだろ」
俺は真剣、一切ギャグぬきの態度でのぞんだ。
「……あたまでも打ったのか? いい精神病棟なら紹介するぞ」
「俺は正常だ」
さすがに絶句してスミレ、ここまでは計算どおりだ。
「いいか姐さん、世の中には七十の爺と十歳の女が結婚した事例もある。
ましてやアルトルージュは実質何世紀も生きているんだぜ?
俺は実年齢100もいってねえ。
ロリコンてのは筋違いな上にお門違いなんじゃねえのか?」
どうだ。
久しぶりの理屈攻撃、これ以上はないだろ。
「……ふーん」
スミレは空になったグラスをみつめながら、考えにふけっているようだ。
よし、勝った。
これでこの話は終わりだ。余計な噂は広がるまえに禍根を絶つにかぎる。
「わかった。 あんたは見た目が若かったら手をだす種付けマシーンなんだね」
「首しめるぞクソアマー!!」
本日三回目の空中浮遊をみせたテーブルは。足とかが折れてそろそろ限界っぽい。
俺は体内の酸素を使いはたし疲れきっていた。
「かんちがいしないでよ。
あたしは別になにもロリコンが悪いっていってるわけじゃないぞ」
「まだいうかこのアマ……」
「ただ最近多くない?
魔法使いの爺さんはロリモードのアルクちゃんにハァハァしてたらしいし、
オーテンロッゼもアルトちゃん嫌いなふりして実は萌えてるわけだ。
シュトラウトも実はむっつりでアルトちゃん萌えだし、
いや、もうなんつうか、男どもは揃いも揃っていい趣味してるね〜」
スミレは散々いいたい放題、戦争でもふっかけてるとしかおもえない発言を繰り返す。
こめかみのあたりが痛くなってきた。
「姐さん帰るぞ」
「え〜? まだ全然あおってないじゃん。 付き合いわりいな〜」
「誰のせいだ、たく」
だって酒屋の親父とかが、あきらかに早く帰ってくれオーラを醸し出しているんだ。
俺は急いでコートを羽織り、領収書を手に取った。
紙面におどる金額がえらいことになっていた。この短時間で瓶十五本も開けたのか。
眠りこけているスミレにちょっと殺意がわいた。
俺はスミレを肩から担ぎ、居酒屋をあとにする。
暖房の効いていた店を一歩出ると、夜風が肌につきささる。
冬ももうすぐ寒さのピークをむかえているようだ。
「エンハウンス〜」
「なんだよ。 まだ咎めたりないのか?」
「女が体を許すってことはね、そいつに人生託したってことだぞ。
あんたはそれを受け入れた。
その意味、履き違えるんじゃないよ」
スミレはそれっきり、人の背中で寝息を立てはじめる。
俺は姐さんがのこした台詞に釈然としない思いをかかえながら、今夜の家路へと急いだ。