「で、どっちから行く気だ?」
「そうだな、 ・・・先にシエル先輩からだ。」
「何故?」
「そっちが近いから。」
「ほう。」
「とにかく急ごう。」
そういって俺は歩き出した。
後ろから八雲がついてくる。
「なあ。」
「あん?」
「一つ聞いてもいいか?」
「なんだ? 質問の内容にもよるぞ。」
「俺とやりあってた時、どうやって俺の視界から消えたんだ? 少なくとも動体視力ならアルクェイドでも目で追いきれるのに。 まあ本気を出されたら追いきれないけど。」
「フン。 普通自分の切り札って言うのはそう簡単に相手に見せなものだぜ? 下手に教えると死を意味するからな。」
「でも俺は見方だろ?」
「それもそうだな。 どこか適当な所わないか。」
言われて公園に下りる。
八雲は公園の中心まで歩いていくとこちらを振り返った。
「よく見てろよ。」
そういった瞬間突然八雲が消えた。
「なっ、ど、何処だ?」
「こっちだ。」
振り返るとそこには八雲が立っていた。
「どうやったんだ?」
「フン。 俺はな、影と同化できるのさ。」
「影と同化?」
「おうよ。 主に影から影への移動、影の中への退避、あとは相手を影の中に落とすって言うのもできるな。」
「つまりあの時あんたは影を利用して移動して立ってわけか。」
「おうよ、つまりどんだけお前の動体視力が良かろうが俺の姿を捉えるのは不可能ってこった。」
「他の七頭目もそういう特殊な力を持ってるのか?」
「ああ。 まあそれはおいおいわかるだろう。 それより急いだ方がいいんじゃないのか?」
「ああ、わかってる。」
ここからならしえる先輩の家はそう遠くない。
実際五・六分で目的地のついた。
ベルを鳴らして少し待つ。
はーい、と声が聞こえて足音が聞こえる。
「あら遠野君。 どうしたんですか? というより後ろの方は?」
「実は先輩に頼みがあってきたんだ。」
「まあ立ち話もなんですからあがってください。 そちらの方もどうぞ。」
「すまんな。 それでは失礼させていただこう。」
そういって八雲もあがってくる。
とりあえず居間に通されて、座って待っててくださいね、と言い残して先輩は台所の方に行ってしまった。
言われたとおり座って待つこと一・二分、三人分の紅茶を淹れて持ってきた。
「はいどうぞ。」
「どうも。」
「すまぬ。」
「さて、それで話というのは?」
「実は・・・・・・・・・」
一通り話し終えてシエル先輩は少し考えた後、
「わかりました。 他ならぬ遠野君の頼みですから。 ただ一つ聞いてもいいですか?」
「何、先輩?」
「遠野君は昨日夜で歩いていましたよね?」
「ええ。 アルクェイドと途中で会った後別々に行動してましたが。」
「その後遠野君は異形のものと戦いましたか?」
「ええ、何匹かとは。」
「それは何処でですか?」
「公園です。」
「公園だけですか?」
「ええ。」
「本当に、ですか?」
「うん。 間違いないよ。 それがどうかしたの?」
「ええ。 実は昨日私も遠野君と同じことをしていたのですが、途中でアルクェイドと合流した後何十匹かの異形の気配を感じたので二人で行ってみたら、明らかに直死の魔眼で解体された異形のものの肉塊があったんです。 私たちが気配を感じてそこにたどり着くまでにおよそ五秒、その間に異形のものたちを殺して私たちの視界から消えるという時点で既にそいつは只者ではありません。」
「なんだと。」
「何か心当たりでも?」
「ああ、大有りだ。 おそらく暗夜だ。 クソ、もうこの街に来てやがったのか。 そうなるともたもたしてらんないぜ。 相手がいつ来るとも限らん。 七夜、お前は屋敷にもどれ。 俺と代行者は真祖の姫君の元に行く。」
「な、ちょっと何を勝手に決めているんですか?」
「代行者。 非常に失礼を承知で言わせて貰うがお前の実力と七夜の実力では差がありすぎる。 俺がお前につかなければ釣り合いが取れん。 それに俺は真祖の姫君の居場所を知らん。」
「うっ・・・・・・。」
「先輩、頼むよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました。」
「ありがとう、先輩。 それじゃあ急ごう。 俺は行くね。」
「気を付けろよ。」
「ああ。 先輩、くれぐれもアルクェイドと揉め事を起こさないでね。」
「わかっています。 あのアーパーが何かしない限り私はないもしません。」
それって揉め事を起こすという意味か?
「それでは行くぞ。」
そういい残して俺たちは分かれた。
「一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「何で遠野君を屋敷に戻したんですか?」
「まずかったか?」
「いえ、そうではなくて、別にどちらでも良かったのではと思って。」
「何だそんなことか。 そりゃあ遠野秋葉にしてみれば俺らがいるより七夜がいたほうが安心できるってモンだろ?」
「まあ、そうですが。」
「で、真祖の姫君の住処というのはまだなのか?」
「ああ、あれです。」
指差した先にはアパートがあった。
アパートに入りエレベーターで六階に向かう。
エレベーターのドアが開き廊下に出る。
そして目的の部屋の前で足を止めた。
「ここです。」
「ほう、ここがか。」
しばらくしげしげと眺めていたが、
「どうした?」
「何がですか?」
「いつまでこうしているんだ?」
「私が話すんですか?」
「話は俺がしてやる。 だが今はまだ俺と真祖の姫君は無関係だ。 だからお前が間に入らねばならんのは当然だろう?」
「はぁ〜〜〜。」
しぶしぶといった様子で呼び鈴を鳴らす。
ピーンポーン
何の反応も無い。
もう一度押す。
ピーンポーン
また何の反応も無い。
また押す。
ピーンポーン
またまた何の反応も無い
またまた押す
ピーンポーン
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
繰り返すこと十分。
ようやく眠そうな声で、ハァ〜イ、と返事がした。
ガチャ
ドアが開いてアルクェイドが顔を出す。
「あなたは何回呼んだと思ってるんですか!」
「ん〜、なんだシエルか。 なんの用?」
「なんの用じゃありません! 呼んだらすぐに出なさい!」
「代行者。」
「なんですか!」
「普通は十分も呼び鈴を鳴らし続ける前に不在と考えるのが自然ではないのか?」
「シエル十分もこんなことやってたの?」
「ええ。 貴女が一人で出かける可能性は皆無なので不在ではないと考えていましたので。」
「なんでー?」
「貴女が出かけるとしたら遠野君と出かけるぐらいでしょう? 遠野君とは先ほど別れたばかりなのでそれはありえません。 だからです。」
「それで、私に何の用? それと後ろの人は誰?」
「話はかなり長くなるので出来れば部屋に上げて欲しいんですが。」
「いいよー。」
能天気にそんなことを言って招き入れた。
「で、結局なんの用なわけ?」
「代行者、俺から話そう。 そのほうが正確に伝わるだろうし。」
「判りました。」
「まず真祖の姫君よ、俺の名は八雲雨夜。 退魔機関のものだ。」
「へぇ、東洋にも埋葬機関みたいなものがあったんだ。」
「無論だ。 何度か手を組んで行動したこともある。」
「それで、その退魔機関の人間が私に何の用?」
「実は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「つまり、妹が狙われていて志貴が力を貸して欲しいって言ってきたわけね?」
「その通りだ。」
「いいわよ。 志貴の頼みだもの。 それでどうしたらいいの?」
「とりあえず遠野の屋敷へ。 全てはそれからだ。」
「判ったわ。 そうと決まれば膳は急げよ。 さっ、行くわよ。」
立ち上がろうとしたアルクェイドを八雲が呼び止めた。
「時に真祖の姫君よ、昨晩黒いコートの少年を見なかったか?」
「いえ、見てないわよ。 それが何?」
「うむ。 暗夜について解かっている事は黒いコートを着ているということだけなのだ。」
「なるほど。 黒いコートね。 ・・・・・・ともかく行きましょう。」
アルクェイドが立ち上がってそう言った。
そうしてアルクェイドのアパートを後にした。