外に出ると雨夜はすでに待っていた。
「準備はいいか?」
「ああ。」
そういって右手でポケットから七つ夜を取り出す。
パチン、と音を立てて刃が飛び出す。
左手で眼鏡をはずすと視界にありとあらゆる物の死が見えた。
無論雨夜にも。
雨夜は俺が眼鏡をはずすのを見届けると、来ていた羽織を脱いだ。
そして羽織の中に隠していたのだろう、三節根を手にしていた。
「行くぞ。」
そう言い残して雨夜は残像だけ残して目の前から消えた。
咄嗟に右に飛んだ。
それと同時に居間までいたところに三節根が振り下ろされる。
「ほう、これをかわすか。 ならばこれはどうだ。」
そのまま雨夜は右手に持っていた三節根を左手に持ち替え体を捻ってそのままその勢いを利用して再び三節根を振り下ろしてくる。
今度はかわし切れない、そう考えたと同時に七つ夜を持ち上げる。
自分の首の前あたりに構えて振り下ろされた三節根を受け止める。
しかし受け止めたはずの三節根が自分の左わき腹にめり込んだ。
「ぐう。」
わき腹に激痛が走る。
何とか七つ夜をふって雨夜と距離を保とうとする。
しかし雨夜は視界にはいない。
―――くそ、何処だ?
そう思った瞬間反射的にかがんだ。
一瞬遅れて三節根が空を切った。
だがその直後腹に衝撃を喰らってそのまま吹っ飛んだ。
吹っ飛びながら八雲がこっちへ走ってくるのが見える。
なんとか体勢を立て直して迎え撃つ。
突然三節根が繋がって一本の棒になった。
そして目にも止まらぬ速さでそれを振るってくる。
しかし俺も目にも止まらぬ速さで七つ夜を振るい、それらを全て受け止める。
暫く均衡状態が続いたが、突然相手が消えた。
反射的に上に跳んだ。
下を見ると一本の棒となった三節根が今いたところに振り下ろされる。
―――一体どうやって移動したんだ? 奴の動きは見えていたのに。
上まで飛ぶと木を蹴ってその場から離れる。
着地するとすぐに気配を探る。
しかし何処にも気配を感じない。
再び体が勝手に反応して右に飛びのいた。
今度は上から八雲が降ってきた。
先ほどから突然あらぬところから現れているため、相手の動きがつかめない。
ともかく距離をとる。
木々を利用して巧みに相手の視界から消えるように移動する。
これだけ離れれば十分だ。
振り返るとすぐ目の前に相手がいた。
―――馬鹿な。 俺の方が早いのにどうやって着いてきたんだ?
実際志貴のほうが八雲よりも数倍早く動いている。
しかし八雲はいつも志貴の理解を超えたところから現れている。
これが何を意味するかまだ志貴は気付いていない。
「ふん。 俺の能力を見極めずに俺に勝つなど不可能だ。」
能力?
そうか、今までその力を使っていたのか。
しかし一体どんな力を使っていたのだろう?
瞬間移動か?
いや違う。
だが相手が特殊な力を使って移動しているというなら話は簡単だ。
普通はいないところに攻撃すればいいのだから。
「来いよ。 次は止めてやる。」
「面白い。 試してみるか。」
そう言い残して今度は残像さえ残さず八雲は視界から消えた。
右だ。
直感でそう判断した。
来るのが解っていればあとは簡単だ。
七つ夜を右に向けて無差別に振るった。
だがしかし、
「甘い。」
そう聞こえたかと思うと、突然木の影が起き上がり刃となって襲い掛かってきた。
とっさに影の死点を突く。
陰は何事もなかったかのように木の影に戻った。
だがその瞬間相手の三節根が鳩尾に入った。
「ぐぅ。」
―――ダメだ。まるでレベルが違いすぎる。俺じゃあ勝てない。
「七夜志貴。 これで終わりではあるまい。 さあ本気を出せ。 さもなくばお前はここで死ぬぞ。 そして遠野秋葉もな。」
秋葉? ・・・・・・・・・そうだ。
俺が勝たなきゃ秋葉を守れない。
勝たなきゃ。
―――勝つ?
八雲雨夜に勝たなきゃ。
―――あいつに勝ちたいのか?
勝たなきゃ秋葉を守れない。
―――勝つということは相手を屈服させることだ。
けど現状を打開する手は無い。
―――それは相手を殺さないという制約の元での話だろう?
そんなの当たり前だ。
だってこれは単なる力試しなんだから。
―――けど実力が無ければ結局守りたい物も守れないぞ。
ソレは嫌だ。
―――なら殺せ。
殺す?
―――そうだ。遠野秋葉を守りたいなら、邪魔な奴は全て殺せばいい。
どうやって?
―――そんなのは簡単だ。 ただ眼鏡を外して線を引けばいい。
でもそれはいけない事。
昔軽率に眼鏡を外しちゃいけないって教えてくれた人がいた。
―――でもそれが誰かは思い出せないだろう?
思い出せない。
―――なら問題無い。
殺せ。
殺せ殺せ殺せ。
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ
―――コ―――ロ―――セ―――
「どうした。 かかってこんのか? ならばこれで終わりだな。」
そういって八雲は走り出した。
さっきと同じ残像も残さず視界から消えようとする。
何たる無様。
同じことが二度も通用すると思っているのか?
何たる侮辱。
ならば思い知らせてやろう。
実力の差というものを。
つまらん。
よもや七夜の跡取りの実力がこの程度だったとは。
これでは両儀に勝つのは間違いなく無理だな。
その証拠に奴は全く動いていない。
ふん。
その程度ならば退魔組織に連れて行っても足手まといだな。
ならばいっそのこと、このまま暗夜に始末してもらうか?
いや、ダメだ。
雪之に知られたら間違いなくただではすまない。
仕方ない、連れて行くだけ連れて行くか。
まずは気絶してもらおうか。
ブン、そんな音がして先ほどと同じように三節根が志貴がたっていたところに振り下ろされた。
ただ先ほどと違うのは、そこには初めから誰も立っておらず、八雲はその時点で志貴を見失っていたということだった。
馬鹿な、何処に行った?
奴の動きは俺の動体視力を上回っているとでも言うのか?
さっきとは全く違う。
一体何処に・・・・・・
グゥ
志貴の蹴りが八雲を捉えていた。
一瞬のうちに志貴は体を左に向け左手を地に付きそのまま右足を蹴り上げていた。
八雲を蹴り飛ばしそのままいっ回転して左足で踏み切って追撃する。
一瞬で間合いをつめ七つ夜で三節根に走る死線をなぞった。
同時に三節根は音もなく真っ二つに割れた。
相手はあまりにも早すぎて何が起きているか理解していない。
そのまま左手で八雲の腹に掌手を喰らわす。
更に右足を曲げて腹にめり込んだままの左手を軸に体を回転させて、右足を伸ばして蹴り飛ばす。
普通の人間ならばこんな動きはできないが七夜の人間にとってはさも当たり前のようになっていた。
八雲は蹴り飛ばされて十メートルくらい先で倒れている。
「ぐっ、ば、馬鹿な。 先ほどとはまるで動きが違う。 これが七夜の力か。」
相手を甘く見すぎていた。
相手は仮にもあの黄理の息子だ。
隙を見せればこちらが負けるのは解っていた。
だが相手のあまりの戦闘力の低さに心のどこかで油断していた。
『この程度なら本気を出すまでもない。』
そう考えていた自分がいた。
全く何たる不覚。
報告で知っていたはずだ。
『七夜志貴は、普段遠野志貴として暮らしていますが、七夜の血が目覚めていないうちは大した戦闘力ではありません。ですが七夜の血が目覚めたなら話は別です。七夜の血が目覚めている時の彼はまるで先代、七夜黄理のようでした。』
くそっ。
俺としたことが。
このままでは終われない。
殺し合いになろうが関係ない。
例えどちらかが死のうとも。
退魔士たるもの強き者を前に逃げはしない。
行くぞ七夜。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ。」
そう叫びながら八雲が突っ込んでくる。
何たる無様。
自らの力が及ばぬことを認められず、我を忘れ突進とは。
もういい。
たくさんだ。
お前はもう飽きた。
ならば、その魂。
極彩と散り、毒々しく輝き誘蛾の役割を果たすがいい。
八雲と七夜の必殺の間合いが重なる瞬間二人の間にクナイが飛んできて二人を止めた。
あとがき
やっとアップ始めました。
このまま順調にアップしていきたいですが何分年末で色々忙しいのでどうなるか判りません。
正直年が明けてからにしようと思っていましたが暇がついたのでアップしました。
恐らく次は年明けになるでしょうが宜しくお願いします。