――――――――――彼は此処の管理人だった。
遠い昔、あの月の下の純白の花畑で“彼女”に出会ってから――――――――――。
此処は世界で最も月に近い場所。千年城ブリュンスタッド城。
かつて、此処には真祖と呼ばれた偉大で、しかし重大な欠点を持つ精霊種が住んでいた。
そして彼らが不本意ながら崇めざるを得なかった月の王の下、彼らは繁栄した。
だが、彼らは一人を残して滅びてしまう。
彼らが直接的に滅びたのは800年前、
彼らの同族にして彼らの最高傑作、
真祖の姫君アルクェイド=ブリュンスタッドの暴走によるものだと言われている。
・・・・・しかし、間接的ながら彼らが滅びた要因を作った者がいるという説もある。
その根拠が彼、真祖たちにとっては神に等しい存在だった月の王、『朱い月』を滅ぼした男、
―――――“宝石の老人”、魔道元帥ゼルレッチである。
【 Eternal Oath 第7話 】
―――――――――今日は客人が一人来る以外はこれといった予定は無かったはずだった。
しかし私がこれから訪れるであろう客人のために客間用の厨房でお茶の用意をしていると、
“アレ”が突然帰ってきた。
てっきりここに戻ってくるのはもっと先だと思っていたが。
「爺やただいま〜―――――って何してるの?あ、イイ匂〜い☆」
そしてアレがひょっこりと儂の背中からスコーンを盛った器を覗き込み、
焼きたてのそれをこれまたできたての野苺のジャムを付けてつまみ食いする。
「んぐんぐ・・・・ウン!おいし〜〜♪
やっぱり爺やのスコーンには野苺のジャムが――――――ニャギャ?!」
問答無用でアレを杖で殴打する。
「イタ〜イ!?ニャにするのよ爺や!!?」
「・・・行儀のできとらんお前が悪い、アルクェイド。
せっかく“儂”が客人のために焼いた茶菓子をつまみ食いするとは。
それでもお前はお姫様なのかの?」
「む〜、いいじゃない。
どうせ私、今すぐ眠るから、次起きたときに湿ったスコーンなんて食べたくないわよ」
「ほう、ということは遠野君に愛想を付かされたということか?」
「何でそうなるのよ?私と志貴は今でもラブラブですよ〜だ」
そうしてアレはさらにむくれる。
・・・・最近のアレの行動には本当に驚かされる。
―――――そもそもアレとは不思議な縁だった。
かつて私は朱い月と呼ばれる、月から来た男と“些細な”理由で戦い、滅ぼしてしまった。
元々、奴のことは嫌いではあったが、『彼』とのことで多少の付き合いがあったので、
最初はその“些細な”理由から文句を言うだけのつもりだったのが、
つい、お互いムキになってやりあってしまい、結果奴は滅んてしまった。
・・・・端から見ると私が一方的に悪いように見えるのだが、
まあ奴のほうも死ぬ直前、自分が復活するための小細工をし、尚且つ私を噛んで死徒に変えたのだから、
私一人が悪いわけではない。
それからしばらくの間、私は残された真祖たちの監視のためにこの城を幾度も訪れた。
―――――連中は朱い月以上にいやな連中だった。
連中は自らの雛形であり、王でもあった奴のことが気に入らなかった。
そして全てというわけではなかったが、連中はヒトというものを見下し、
奴が仕組んだ呪い、吸血衝動を抑えるための血袋としてしか見ていなかった。
それは奴が滅びてからも変わらず、
それどころか、奴が表向きはいなくなった喜びからタガを外し、魔王と化す者が以前よりも増えた。
元々人に対する抑止力として生み出されたとはいえ、監視し続ける私としては眼に余るものであり、
だからこそ私にとって奴らは監視対象以下であっても以上の者ではなかったため、
魔王と化した者を片っ端から滅ぼしていった。
―――――私は疲れていた。
―――――だが800年前、私はアレに出会った。
私はある日、
最高の“素材”として、“兵器”として生み出された、
新しい真祖の後見人に就いて欲しいという要請を丁重に断るためここにやって来た。
そして私はアレと出会い、
―――――――――あまりにも哀れで、
―――――――――あまりにも儚くて、
―――――――――そして何よりも――――――――――美しい。
そう思ってしまった。
―――――後にその件を旧友である『魔城』に話したところ、
父性愛だのロリコンだの言われてからかわれてしまった。
・・・・父性愛という言葉には否定し切れなかったが。
そして私は先の要請を受け入れ、要請を出した真祖たちがいなくなっても彼女を見守ってきた。
しかしこの800年、アレはただ使命をこなすだけの生を送り、
さらに、“蛇”との一件でアレはさらに哀れな存在となってしまっていた。
だが去年の冬、
アレが私に対して初めて手紙というものを送ってきた。
その中身は何の他愛の無い近況報告、
しかしそれまでのアレを知る私にとっては信じられないものであり、
『親愛なる爺や』
冒頭だけで私は感動のあまり泣きそうになってしまった。
そして、手紙の文末、
『私、今幸せだよ』
という言葉と、同梱されていた写真に写っていた太陽のような笑顔のアレとアレに抱きつかれて苦笑する一人の少年。
誰が見ても、その少年がアレを蛇”の呪縛から解き放ち、アレの心まで救ってくれたのだとすぐわかった。
―――――彼と一度話してみたいものだ。
その少年に感謝の気持ちと共に興味が湧いた私は、アレに悟られないよう接触した。
―――――その時はまだ、彼が何らかの能力を持っており、
それ以上にアレを内面から変えるほどの“何か”を持っているとしか予測していなかった。
しかし彼の力について、『眼』のことについて彼自身から聞かされた時、私は心底驚く。
たしかに彼の持つのが“世間”では伝説の『直死の魔眼』だということは驚くに値するものだ。
しかし私には単に彼が『直死の魔眼』を持っているということが問題なのではない。
私にとって問題なのは―――――――――――――――。
「――――爺や、どうしたの?ぼ〜っとして?」
・・・おっといかん。
「・・・何、お前のように気楽な身分ではないからの。
これでも儂はこの世にいる五人の魔法使いが一人、
魔道元帥ゼルレッチじゃぞ」。
「といっても今や協会の相談役に落ちぶれてるけどね〜」
「うるさいわい。
・・・で、実際何で帰ってきた?
向こうで何かあったのか?
確か今眠るとかどうとか・・・」
「うん、実はね――――――――」
・・・アレの話は実に興味深かった。
例え混血のものとはいえ、まさかアレと単純な力比べで勝つ人間が居るとは。
「・・・・で爺や。
正直な話、今から三日間休眠して力を蓄えるとして私、そいつに勝てると思う?」
「・・・う〜む。
実際その男を見てみないとわからんが、
おそらく・・・・50:50じゃないかの?」
真祖、それも最強のアレがその紅赤主とやらに勝利する確率が50%。
それが私の見解だった。
今のアレはアインナッシュの果実の効果があるとはいえ、
完璧に吸血衝動を制御しているとは言い切れなかった。
ゆえに“蛇”に噛まされる前ほどの力を出すことはアレにとって衝動のタガが外れることを意味しており、
例えこれからの三日間で蓄えたとはいえ、おそらく無意識のうちで力を出すことにためらいが出るだろう。
さらに相手の固有能力の有無がわからないのだから勝利する確率は50が妥当な線だろう。
「―――――そう。
つまり今この時間ももったいないということね。
じゃあ急いで寝なきゃ」
そういってアレは踵を返して玉座の間に向かう。
しかし、『この時間ももったいない』とはひどいものだ。
爺やは悲しいぞ。
「・・・・では三日後じゃな。
―――――おやすみ。アルクェイド」
少しがっかりしながら挨拶をする。
するとアレは振り返り、
「うん、おやすみ爺や」
笑顔でそう言った。
イカン、先程との反動で不覚にも私は胸が詰まる。
――――――――――感動で。
そうしてアレは眠りに付いた。
それからしばらくして、先程の感動の余韻が残っている私は城の中庭にやってきた。
―――――“客人”を出迎えるために。
庭園に一陣の風が吹く。
その風は集約し、向こうの景色が見えなくなるほどに渦巻く。
私はその風が収まるのを待ち続ける。
そして風の勢いがゆっくりと緩やかになり、その中から人影が現れた。
そしてその風が収まったとき―――――
「あら、何かうれしそうですね?」
彼女が尋ねる。
「・・・・何よりもまず挨拶をすべきではないかね?」
これは照れ隠しだな、と思いつつ、私は彼女のマナーに関して注意する。
「それもそうですね。では改めて―――――お久しぶりです。ゼルレッチ老」
「うむ、久しぶりじゃな。―――――青子」
そうして私は青の魔法使い、蒼崎青子と再会した。
「・・・・しかし、あなたぐらいですよ?
私のことを名前で呼ぶのは」
「ナニ、孫のような年の小娘相手にいちいち称号で呼ぶ気など起きん」
それから我々は客間でお茶を飲み、雑談を楽しんでいた。
青子は私にとって協会の中では数少ない友人の一人だ。
ここ最近彼女の仕事の関係であまり会っていなかったが、時々ここにやって来ては私とお茶を飲みに来てくれる。
「しかしそれなら私だって言うことがありますよ。
あなたは御自分の一人称を人によっては使い分けてますよね?
いつも時計塔や大英博物館の人間に対しては『私』と言うくせに、
真祖のお姫様や黒の姫君、それに私に対してだけ爺言葉で話すでしょう?」
「フン、『魔城』と同じことを言うのじゃな、お前は。
まあ、奴はお前の姉の師匠みたいなものじゃから、
その弟子の妹がひねくれるのもしょうがなかろうて」
「あら、姉さんの事はともかくあの方が何かおっしゃったのですか?」
「ほっとけい」
そういう他愛のない話を小一時間ほどした後、
彼女はアレのことに気が付いた。
「あら・・・・お姫様が帰っていらしたのですか?」
「・・・・今頃気が付くとは相変わらず鈍感じゃのお」
すると青子は少しむくれて反論する。
「あのですね、あなたの“創造”と“再生”を使って造りだした“宝石”による結界、
それを見破れというのが無理な話ですよ?
でも、何でお姫様帰って来ているのですか?・・・・・志貴と何かあったのかしら?」
そう言って彼女は私を見つめてくる。
『教えろ』と眼が言っている。
「・・・・・・フウ、おぬしには隠せんのう。
実はな――――――――――――」
そして私は彼女の大切な生徒の身に何があったのか簡単に話す。
「・・・・事情はわかりました。
ハア、あの子は相変わらず厄介事と縁があるわね」
そう言って彼女は帰り支度をする。
「・・・もう行くのかね?」
「ええ、とりあえず今ある仕事をとっとと片付けてから、休暇を取らせていただきます」
「―――――うむ。アレの話によれば後三日あるそうじゃから、あせらず休暇を取りたまえ」
「はい――――――――それではご馳走様でした、ゼルレッチ老」
「うむ、また来るのを楽しみにしとるよ」
そうして青子はコツコツとブーツの音を立てながらベランダに向かい、
――――― 一陣の風と共に姿を消した。
――――― 一人になった後、私は再び遠野志貴という少年のことを思い出していた。
・・・以前私が彼に会って、彼と今のアレとの事を色々と話し合った際、
強くなってきた彼の“眼”のこととアレの吸血衝動を抑える方法について彼に聞かれた。
当初私は、魔眼については彼の魔眼殺しを強化してやることで解決させてやるつもりだったが、
アレの吸血衝動については何も言わないで置くつもりだった。
しかし何故か彼は、私が何かを隠しているということに気が付いて食い下がってきたため、
仕方なしに私は腑海林のこと、そこに成る“実”のことを話し、
結果白状してしまった責任を取って、魔眼殺しの強化作業の間に代用となる魔眼殺しの包帯を“創”ってやった。
しかし、まさか彼がその間に腑海林を滅ぼしに行くとは思いもせず、
当然のことながら私は、無事帰ってきた彼を殴りつけた。
もし彼がこれで死んでいればアレは自分を責め立てる。
アレのためにしたことでアレが壊れる。
それだけは許せなかったからだ。
―――――――――しかし違った。違ったのだ。
彼は自らの先が短いということを意識しており、
アレとの時間を少しでも長く過ごすためにこんな真似をしたとわかってしまった。
・・・・・私は謝罪し、彼にアレを託して帰ってきた。
――――――――――とある確信を胸に秘めて。
――――――――――彼の“眼”が『彼』の領域にまで達しようとしていることを。
(――――――――――彼は似すぎている。『彼』に。)
「・・・これがあなたの望みなのか?」
――――― 一人呟き、想いをはせる。
かつて“私達“が師と仰ぎ、
自らの力でこの世界から忘却された男のことを―――――。
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・
昨日、遠野志貴は倒れた。
原因は不明。
しかし倒れた本人にとってこの一連の出来事は、何か意味があると思われた。
何故ならその彼、遠野志貴は意識を回復させた後、
自分に何かが起きていると悟ってしまったからだ。
彼がその時わかってしまったことは二つ。
――――― 一つは、すっかり忘れていた、
倒れる前日に見た不可思議な、でも何かを暗示させる夢をその時に思い出したこと。
―――――もう一つが、意識を回復させると視界に入ってきた、
自分にとって唯一人愛する女性がいつもと違って見えたこと。
特に後者が納得できなかった。何故なら―――――
―――――夜の彼女の“死”がはっきり見えたのに、
―――――何故か魔眼殺しの効果は正常に働いていたから。
・・・・彼等は今、お互いの目の前にいる男、否、自分自身を凝視していた。
―――――遠野志貴は七夜志貴を。
―――――七夜志貴は遠野志貴を。
そしてこの光景はかつて遠野志貴が見た悪夢の世界の一つ、影絵の町の再現であり、
遠野志貴にとって相手は忌むべき自分自身、そのもののはずだった。
しかし―――――――――
「・・・・・お前、誰?」
彼は意識せずそう言った。
確かに自分の目の前にいるのは自分の悪夢そのものにして内包する殺人衝動の具現した存在、
姿、形、声、そして気配までが以前感じ取ったものと同じものだった。
しかし、彼はつい口に出してしまった。
そう、まるでうっかり口を滑らしたかのように―――――。
「・・・・貴様、俺を侮辱するつもりか?」
七夜志貴は今にも、・・・・殺す!と言いたげな、絶対零度の口調で遠野志貴に問う。
すると遠野志貴はつい、
「いやゴメン」
と言ってしまい、すぐ慌てる。
「何で俺が誤らなくちゃいけないんだ!!?」
「フン、人を侮辱すれば謝罪するのが人の礼節というもの。当然だ。」
「グッ!・・・・自分自身とはいえ相変わらずムカつく野郎だな。
・・・・でもおかしいなあ?俺、お前のこと、七夜志貴ってわかるのに、何でそんなこと口走ったんだ?」
さらに妙なことに、今の彼にはあの時に当たり一面を充満していた殺気を感じ取ることができなかった。
・・・・・おかしい、確かおかしすぎる。
そう彼が思った途端、
「・・・・プッ、クククク・・・・」
なんと、七夜志貴が笑い出した。
「ハハハハハハハハ!!!」
「な!!?お前!?何がおかしい!!?」
咄嗟の出来事に遠野志貴は反応しきれない。
すると七夜志貴はゆっくりと笑い、というよりも爆笑を抑え、
「ハハハ・・・ハ・・・ハア・・・・いや、スマンスマン。貴様の反応が楽しくてな」
驚くべきことに謝罪した。。
「オ、おおおおおおままえお前!?」
当然の事ながら遠野志貴は突然ありえない出来事に舌が回らない。
まあ、彼としては信じられない光景であり、
『こんなの俺の七夜じゃない(違)』
な気分だったからだ。
・・・しばらくして相手が落ち着いたのを確認すると七夜志貴は遠野志貴に話しかけた。
「とりあえず俺のことは七夜でいい。で、俺は貴様を志貴と呼ぶとしよう。
でないといちいちフルネームで呼ぶのは気分が悪いし、何より何処かのSS作家の腱鞘炎予防のためだ」
そう言われると志貴は、最後のそれは何だ、との突っ込みをこらえつつ、
目下重要な疑問を七夜にぶつけた。
「お前は何なんだ?
たしか俺にとっての悪夢としての七夜志貴は、
あいつの、軋間紅摩の幻影、つまり俺にとっての“死”の象徴に殺されたはずだ。
レンもあれ以来、今のお前のように自我を持つほどの奴は見ていないって言うぞ?」
「ふむ、確かに現実世界でのタタリの例を除けば、
悪夢としての七夜は、あの夢魔のおかげであそこまで成長することはありえない。
・・・ではこちらからも質問しよう。貴様はこの俺が何だと思う?」
「おい、俺の質問の・・・・」
「何だと思う?」
七夜の言葉に志貴は押される。
それは迫力とか殺気とかが篭ったモノではない。
しかし志貴にとってはどこか逆らいがたい何かがあった。
「・・・・わからない。
でも、この間の夢に出てきた昔の俺とお前が同じだということはなんとなくわかる」
「正解だ。何だ、わかってるじゃないか」
「・・・おい、俺はお前が何者かと聞いているんだぞ?」
志貴は七夜を睨む。
「ああ、別に言っても構わんのだがね。しかし言ったところで理解できまい。
まあ、物は試しに聴いてみろ。
――――『私』は&%☆♪@―――――だ
・・・・ほらな?」
七夜が自分の名前らしきものを言う。
しかし、肝心要の名前の部分が何かの雑音のようにしか聞こえず、結局『彼』の名前だけがわからない。
(・・・・・・あの時と同じか、クソッ!!)
志貴は悔しがる。
彼は今回自分が倒れたこと、そして夜のアルクェイドの“死”が見えたこと、
それなのにゼルレッチに強化してもらったとはいえ、
何故か魔眼殺しが正常に働いていることの糸口を探すために此処までやってきた。
・・・以前アルクェイドは自分に夜の真祖には“死”というものがないと言った。
そして、彼女の保護者であるゼルレッチは彼の魔眼殺しを強化してくれた際、
もしそのようなことになれば、魔眼殺しに意味はないと言った。
―――――――――つまり、矛盾するのだ。
おそらく奴の名前に意味がある、そう思い、レンに無理をさせてしまってまでここまで来たのだが・・・・。
七夜は言った。
「貴様は『私』の名前に意味があると思っていたようだが、それは少し違う」
「・・・・どういう意味だ?」
「あくまで『私』の名は指標に過ぎん。
貴様がある程度霊質が向上すれば『私』の名も認識できるようになる」
七夜は、いや七夜の姿をした『何か』は一本の棒を志貴の足元に放り投げる。
「・・・・これは!?」
それは彼が持つ守り刀、そしてもう名も顔も忘れてしまった母の形見だった。
「それでひとまず自意識を統合しろ。
少なくともアレらは今は人格として独立していないから、
それを持って此処から出れば自動的に統合されるはずだ」
「アレら?おまえはどうするんだ?」
そう、その言い方だとまるで人事のように聞こえるのだ。
「・・・・あくまでこの俺は『私』が貴様に認識しやすいようにするために七夜志貴の残骸を被っているにすぎない」
・・・・残骸?
「これは貴様にも理解できるはずだ。
以前貴様がかつて繋がっていたミハイル=ロア=バルダムヨォンの残骸を被って、
アルクェイド=ブリュンスタッドの意識にアクセスしただろう?アレと同じだ、この姿は。
・・・・さあ、とっととそこの出口から出て、さっさと起きろ。
そうすればこの残骸も一緒に統合される」
そう言って七夜が指差すとそこにはかつて志貴が此処に来る際に開けたドアがあった。
「・・・・わかったよ。とっとと行けばいいんだろ?
・・・・ったく、次会ったら絶対お前の招待を暴くからな!」
志貴はドアに向かう。
「・・・フッ。まあ、努力しろ。
貴様が生きている間ならいつまでも待ってやる。
・・・・もっとも、次は違う姿で会うことになるだろうがな」
そしてドアノブに手を掛け、回し―――――、
「・・・へえ、違う姿ねえ・・・・・・って、アレ?」
―――――たが開かなかった。
「どうした?」
七夜が尋ねる。
「イヤ、ドアノブに何か―――――っうわ!!?何だこれ!!?」
突如、ドアノブからゲル上の何かがブジュブジュと湧いて出てきた。
「むっ・・・・何だ?やけに明るい緑色をしているな?・・・・って、どうした?顔が青いぞ?」
「・・・・違う、これは、この色は・・・・」
そのゲル状の何かを見た志貴は震えていた。
何故ならその正体が何なのか、わかってしまったから。
その色は世間一般には“蛍光グリーン”といわれるもの。
その色に志貴は見覚えがありすぎた。
そして――――――――――、
「何しやがったーーーーーー!!!!?琥珀さーーーーん!!!!!?」
――――――――影絵の街に響く、絶叫。