◇―月下錬金―◇episode02(後編)


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1: キクロウ (2003/11/22 22:41:00)[sadaharu at enjoy.ne.jp]

◇―月下錬金―◇
episode02 /分岐の夜


ウォォォオオオオオ!!!!!
遠吠えのような声がオバケ工場から聞こえる
あそこで、さっきの女の子が戦ってる、あの小さな肩の女の子が。
ハァハァハァハァ、休むことなく酸素を吸い吐く
頭の端で、マラソン大会での記録が楽しみだなんて考える

「もう・ハァハァハァハァッウ、ハァハァ少し」

手を眼鏡にかける、あの時、先生は俺にこう言っていた
『志貴本人が判断した時だけメガネを外して、やっぱり志貴本人がよく考えて力を行使なさい。』
だから今、自分で決めて眼鏡を外します先生

眼鏡を外した途端、夜の風景に闇より黒い線が世界を覆う
同時に頭にズキリとした痛みが襲う
でも、大丈夫。倒れたりしない
手をポケットにいれ冷たい鉄の棒を握り出し一度見る
大丈夫、問題ない

オバケ工場に急ぐ、早く速く速く早く
近付くたびに心臓が
―――――どくん
大きく跳ねる
過剰の運動で悲鳴をあげているのとは違う

―――――どくん、どくん
巳田を見た時と同じ、異常な殺人衝動を帯びた叫び

―――――どくん、どくん、どくん

―――――ハヤク コロセ ハヤク コロセ

「ウル―――――サイ!!!!」

自分の中で叫ぶ声を振り払うように走る
もう少しもう少し

バチッと鉄の棒から刃を出す
目はオバケ工場の入り口から中を視る
オバケ工場の中には銀色の塊が見える、あれは巳田と同じ化け物
確証はないが理解できる
そして、その化け物に囲まれているのは、あの女の子
女の子は動けず襲い掛かる銀色の群から逃げることも迎撃することもしない
危ない!そう思った時
俺は―――――――

「うぉおおおおおおおおッ!!!!!」

咆哮をあげ

漸という音をたて

ギャアァァァアアアァア!!!!

鋼鉄の猿を切り殺していた
入り口から一番近くに居た化け物の肩から腰にかけて走る線を七ッ夜で一閃し殺した
殺された化け物はボロボロと灰になり消えた

「キミ!!!なぜ!?」

女の子が、なぜ来た、と咎めるように俺に向かい叫ぶ
俺はそれを聞き流し、目の前に群れる化け物に目をやる
同じような機械の猿と筋肉質の男、多分あの男も化け物だろう
化け物は全部で6体、足元に残骸があるからもっと沢山居たのだろう

七ッ夜を右手から左手に持ち替え、右手を胸に当てる
そして咆哮する

「武装錬金!!!!」

光を放ち俺の右手に柄が納まる、右手を振りソレを見る
日本刀よりやや短い鋭利な刃に二握り程の柄と銀色の飾り紐
鋭く煌く鈍い微かな七の色を持つ小太刀
まちがえなく俺だけの武装錬金

さっきまで息が上がっていたのに、もう呼吸は整っている
不思議と頭は冷えて思考が加速しる
心臓はずっと高鳴り頭の中ではコロセという叫び声がきこえる
体は今まで感じたことのない軽さと昂揚感を感じてる。今ならどんな動きでも出来そうな気分だ
もしかして空だって飛べそうな気分だ

「なんだ伏兵がいたか、そいつも喰え!!!!」

筋肉質の男の姿をした化け物が指示を出し、それに従い何体かの鋼鉄の猿が俺に襲い掛かる
すこし頭痛はするが、猿には線がハッキリ見え、線の源流のような点も見える
アレが死の源だろう
左手に七ッ夜、右手に小太刀の武装錬金を構え
少し重心を下げ、ギリギリまで敵を引き付けそして・・・・・・・・・

漸 漸 漸 漸 神速の深漸が演舞のように踊り死に刻まれる

落ちてくる鉄の塊の中心部に視える黒い点に、小太刀を挙げるだけ
力も勢いも俺には必要ない、あっちから死に落ちてくる
左からも両腕を無様にも挙げて襲い掛かる猿が二匹
重心を下げて左に片寄せて、線に七ッ夜を合わせて体を右側に引けば左腕は自然に線に沿って引く
それで、二匹の猿は真っ二つになり死ぬ
今度は正面と送れて斜め右からの2匹
クルリ、と小太刀を逆手に持ち替え、地面すれすれを疾走する
小太刀を前に構えたまま、正面の猿の足元から心臓部の点めがけて振り上げ刺す
そのまま、遅れてくる斜め右の一匹の右肩から左腰に走る線に、刺した小太刀を振り上げ振り落とす
点を刺された猿は直ぐに塵となり始め、もう一匹は綺麗に左上半身がずれ落ちて死んだ







私は夢でも見ているのか?
少女は自分が今見ている状況を信じ難いと思っている

さっき、友達と一緒にかえりなさいと言った少年が突然、咆哮をあげてこの戦場に現れた
そして、少年は現れると同時に一体のホムンクルスを只のナイフで殺した
信じられない、錬金術で造られたホムンクルスは同じ錬金術で創られた武装錬金でなければ斃せないはず
なのに、少年はいとも簡単に殺してしまった。例え雑魚のホムンクルスでも有り得ない
そして、今も襲い掛かったホムンクルス数体をナイフと小太刀の武装錬金で簡単に・・・・いや巧く殺した
息一つあげず静かで素早い殺害、残るものは淡い虹色の残光とホムンクルスの死骸だけ
死骸の上に立っている綺麗な蒼い眼をした少年は一体何者なのか
とにかく、この少年は強力で―――――――――危険







「これでラスト・・・・」

ザシュッ!!
ギャェェエェェェエ!!!!

最後の一体を殺し終えると、先程まで腕を組んで余裕に構えている筋肉質の男に近付く
男にも線と点がハッキリと見える、なら殺せる

「オマエも錬金の戦士か、ついでだ、オマエもその女と一緒に喰ってやる」

パリパリとメッキが剥がれ落ちるように皮膚が剥げ、中から鉄の体が現れ姿が変わる
3,4メートルくらいはあるだろうと思う巨大な猿
なるほど、猿を束ねるボス猿って訳か・・・・・・・・とんちが効いてる

ソレが大きく飛び上がり落ちるように俺に襲い掛かる
俺は大猿が飛び上がる次の瞬間にその場を駆け出し近くの柱を垂直に駆け上がる
ふつうなら垂直に上がることが出来ずに落ちるのに、俺は蜘蛛のように柱を登る
これは、誰に教わったんだろう
顔も覚えていない・・・・・・・・・・父に教わった気がする
『蜘蛛の如き動きと獣の如き速さ、それが七夜の基礎であり極意』
記憶がない里で誰かが教えてくれた気がするソレを今、実践する











不覚にも見惚れていた
ホムンクルスが飛び上がったと同時に少年が視界から消えた
遮断物に隠れた訳でもなく、ただ単純に認識できない速さで移動した。
次に姿を確認したときは柱を蜘蛛のように低い大勢で駆け上っていた
ホムンクルスも無様に目標もない処に落ちようとしていたが、その前にコトは終わった
少年が柱からホムンクルス目掛けて飛び出した、その時、小太刀の飾り紐が靭に伸びバネの様に柱を打ち勢いを加速させた
大猿のホムンクルスはソレに気付き両の腕で白刃取りのように捕まえて止めようとするが遅い
そして、咆哮とは違う冷たい力ある声が聞こえた



「あら?」

「―――――殺せ、俺の武装錬金」


大猿に走る線と言う線を小太刀の武装錬金で突き切る

漸 漸 漸 漸 漸 漸 漸 漸 漸

神速にも似た漸撃は微かな虹色の軌跡を残す
両の腕に首、胴体を十字に両足を縦に斬る
空中で体を捻りながら腕を振るい大猿を10のガラクタに解体した
ボロボロと分解しながら化け物だった物は落ちていく
俺も難なく着地してポケットに入れていた眼鏡を掛ける
視界は普通の線の無い世界に戻ると同時に疲れがどっと来て体の節々が痛みを訴えてくる

「ック、ちょっと無茶しすぎたかな?」

少し反省する点があるな、と心の中で囁く

「このボケ!!来るなと言っただろ!!!!」

痛みを堪えてハァハァと呼吸を整えようとしていると
少女が俺に近付いてきながら避難の言葉を浴びせる

「友達はどうした、まさか!」

「大丈夫、ちゃんと送ったよ。それから走って来たんだ、でもまだ元気一杯!」

「息が上がってるぞ――――――――――・・・・・・足元をよく見ろ」

「え?・・・・・・・・」

足元?女の子に言われた足元を良く見ると
沢山の白骨、原型を止めていないもの、破損してる物、粉々になってる物
沢山の人の骨がころがってる
思わず後ろに引いてしまった
「うゎ!!!!・・・・・・・・・・これって」

「言っただろう、ホムンクルスは人喰いだ。どうやらココはただのアジトじゃない、この場の敵は全滅させたが、
恐らくまだ街のどこかにこの人喰い共は潜んでる」

「・・・・・そんな、あんな化け物がまだ」

「思ったより悪い状態だ。今度こそキミは手を引け!!」

街にまだ化け物が沢山にいる、それなのに手を引け?
覚悟を決めてここに来た、戦う覚悟を決めてきた
手を引くコトなんてできない

「できないよ。だって弓塚や有彦達も危ない!それに俺は戦う力がある。それに――――もう痛い思いをするのは嫌だ」

「――――――痛い思いをするのが嫌なら手を引けば・・・・・」

「弓塚が巳田に喰われた時、すごく痛かった。あの時、俺には戦う力があった、
なのに弓塚を見殺しにしたんだって心が痛くて後悔した。俺は、正しいと思うから後悔したくないから戦う、それに・・・・」

「それに、なんだ?」

「それに、こいう厄介事には何時か巻き込まれるって覚悟してたし、これが始めてって訳じゃないから」

「・・・・私はキミのためを思って言ってるのだがな」

「ありがとう、でもゴメン。どうしても俺、このままジッとしていられない。化物退治、俺も手伝う」


・ ・・・昨夜とは違う、今度は全てを知った上で飛び込んできた。そして、更に危険を承知で飛び込もうとしてる
この少年は正しい戦士の資質を秘めている
どうせダメだと言っても一人で駆け回るだろう、それなら一緒に居た方がいくらか安全
それに、この少年の力の秘密がどうしても気になる

「駄目だといってもどうせ聞く気などないのだろう」

「うん。」

「ようしわかった!戦士見習いとしてコキ使ってやる!だたし目の前で死なれるのは二度とゴメンだ。
以後私の指示に絶対に従うこと、イイな!!」

「りょ、了解しました―――――で」

「今度はなんだ!!」


どうしたのだろか、少し怒ってらっしゃる御様子
でも、大事なことはちゃんと聞いておかないと

「キミの名前って何?」

「・・・・・・・・・すまん、言い忘れていた」

「あ、やっぱり」

「いいか、私の名前は津村 斗貴子(つむら ときこ)だ」

「斗貴子・・・さん?あ、俺の名前は・・・」

「七夜志貴・・・だろ?」

「え?何で知ってるの??」

「昨晩、誰が君を工場から寄宿舎の部屋に運んだと思う?名前を知らないと無理だろ」

ああ、なるほどね
確かに名前をしっていても可笑しくない、というか名前をしってないと無理だな
なんか変な気分だな

「私も一つ聞きたいことがある」

「なに?俺に答えられることなら何でも答えるけど」

「そうか、なら聞くが。君はどうやってナイフ一本でホムンクルスを倒した?」

「え?どうやってて・・・・・・・・・・・」

どうしようか、やっぱり話していたほうがいいよね
これから一緒に戦う仲間なんだから

「それは・・・・あ?」

視界が揺れる、頭が苦しい、眩暈がする
まずい、これは貧血の・・・前兆
このままだと倒れ・・・・る

「おい!大丈夫か?」

「あ、ありがとう」

もう少しで倒れるところを斗貴子さんに支えられ、そのままその場に座り込む
少し呼吸が荒いが直ぐに直りそうだ
長年、貧血と共存していると、どのくらいで直るかわかってくるものだ

「無理はよせ、キミは核鉄でやっと生きている状態だ。先にも言ったが核鉄を奪われたり破壊されると死ぬのだぞ」

「うん、でも多分大丈夫だと思う、核鉄がなくなっても多分死なないと思うだって・・・・うっ!!」

やばい、全力疾走で来たせいか、胸が痛い
それに眩暈も、普段運動なんてしないのに急に激しい運動をしたせいかな
宗玄じんさんも『いつ死んでも可笑しくない身体じゃ』なんていってたからな

「おい大丈夫か?」

「う、うん、なんとか、ハァハァハァハァ」

「説明は明日にしよう。このままだとキミは死んでしまいそうだ。立てるか?」

「・・・・ごめん無理っぽい」

「ホラ、肩を貸してやる」

斗貴子さんの手をかり立ち上がり、肩を借りてオバケ工場を後にする
なんか助けに着たのに結局最後には助けられて家路につくなんて
ちょっとカッコ悪いな
でも、万年貧血君の俺にそんなことはいってられない

結局、寄宿舎の門まで斗貴子さんの肩を借りて帰った・・・・・・・・・因みにその道中に互いの携帯電話の番号を交換した。


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