Eternal Oath  〜第5話〜


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1: 牙鉄 (2003/11/20 00:06:00)




――――――今この部屋では一人の男と、この屋敷の住人とその関係者達とが対峙していた

男の方の名は軋間紅摩。

彼は部屋の中向きにかつて壁があった床の端に立っていた。

それに対し、彼に対峙している者はこの招かれざる客に何もできなかった。

彼女達が感じとったことは唯一つ。



―――――――――恐怖。



・・・今、シエルとシオン、
そして若い頃は悪名高い暗殺者として活躍したという宗玄以外は
まるで目の前に襲い掛かってくる津波を眺める様にただ呆けている。

否、この三人でも反射的に各々の武器を取り出そうとして掴むところまでは出来ても、使用することは出来なかった。

特にシエルは、人間でありながら人外蠢く闇の世界で有数の戦闘のプロフェッショナルであるはずだ。

例え自分より強い相手だと感じ取っても何らかの反応が出来るはずである。

それでもそこから動くことができなかったのだ。

この男は志貴を狙いに来たのだ。

この男を止めなくては彼が殺されてしまう。

わかっている。わかってはいるのだ。

しかし・・・・動けない。

体が動いてくれない。



・・・・・・これでこの男を遮るものはいなかった。



―――――――――――――――― 一人を除いて。



凄まじい速度で白い影が紅魔に襲い掛かる。

アルクェイドだ。

彼女は地を這う様に彼に迫って正面から襲い掛かり・・・・・



――――――――――突如、彼の後ろから現れた。

眼にも留まらぬスピードで前から襲い掛かる様に見せかけ、
眼にも“映らぬ”スピードで後ろから襲い掛かる。

単純なフェイント、しかしアルクェイドの人ではありえないスピードから
ほとんど物理法則を無視した、音速を超えるスピードに移行する一連の動作は
どのようなモノでも反応しきれない。

闇の世界の頂点の一つ、死徒二十七祖の10位までなら確実に致命傷を奪えるだろう。

―――――――狙うは奴の首と頭。これで奴の首の付け根から上は細切れになる。

(殺った!)

アルクェイドは勿論、人外的動体視力でかろうじてその様を捉えた三人もそう思った。




しかし――――――――――――




「な!?」



それはありえない光景だった。



アルクェイドが放ったのは、アインナッシュの実の効果によって吸血衝動の影響があまり無いため本気に近い力で出せる、
手加減は一切無しの必殺の一撃。



――――――――しかし、この一撃でコマ切れになるはずだった紅魔の首から上は無傷。

何と彼はアルクェイドの腕を、
マッハ二桁に届く速度とその速度から発生するミサイル並みの破壊力が込められていた腕を、自らの手を交差させるように掴んでいた。

そしてありえないこの事実に不覚にも一瞬呆けてしまった彼女が自らの失態に気づいて咄嗟に、掴まれた腕を引き抜こうとした時・・・。

彼女の体が一回転して飛んだ。

「キャ!?・・・・ァァァ!!」

一瞬にして彼女の体が屋敷の外、その端まで飛んでいく。
距離にして200m。
彼女の体が激突した結果粉砕された塀が宙に舞う。

それに対し紅摩の体は外を向いて立っているだけ。

いったい何が起きたのか?

その理由がわかったのはシエルと宗玄の二人だけだった。

紅魔は彼女の腕を掴んでいた手を頭の上から引き抜くようにして前に引き、
交差していた腕を元に戻しながら自らの体を捻ることによって回転を加えた変則的な投げをしたのだ。

彼にしてみれば攻撃してきたアルクェイドを投げただけ。

しかしその動きは見る者が見れば合気道やその源流の古武術などに見られる“四方投げ”を変則的なものにしたものだった。

それを見て宗玄は驚愕し、同時に悟ってしまった。

―――――――紅摩がかつて七夜の里を滅ぼした頃より“戦う”ということが洗練されているということに。

紅魔はその半生を拘禁や封印といった、外部の情報から遮断されて過ごしてきた。
ゆえに彼の攻撃方法はただ殴る、蹴るなど単純な攻撃しか出来ないはずであり、“投げ”に関しても常人の行う“技”ではなく、ただ相手を放り投げるだけのものだった。
しかし“その状況で最も効率的な攻撃方法”を本能で感じ取り、行動に移ったとすれば今の“技”も納得できる。
ただでさえ前回の封印の直前に発覚した、七夜の里の虐殺後に発現したという“能力”だけで十分すぎる驚異なのに、
今のような本能からくる卓越した戦闘センスが加われば手のつけようが無いではないか!



・・・紅摩が部屋の方に振り返り、一歩進む。

途端、彼のプレッシャーで動けなかった者全員が動き出す。

先ほどまで動けなかった彼女たちだったが、何故か今は動けた。

おそらくアルクェイドが紅摩に仕掛けたおかげで彼の発する威圧がある程度彼女のほうに向いたためだろう。

先ほどの三人に秋葉を加えた四人が紅摩を取り囲む。

シエルは黒鍵を、宗玄は飛針を持てるだけ持ち、

シオンはブラックバレルレプリカを突きつける。

秋葉は髪を真っ赤にしていつでも固有略奪能力『檻髪』を発動できるように相手を睨む。

また、琥珀と翡翠の二人は紅摩の進行方向に立ちはだかって眠っている志貴とレンを庇った。





・・・・しかしそれでも紅摩の足は一歩、また一歩と進んでいく。

それに合わせて他の者も後退する。

そしてついに志貴のベッドまで痕数歩のところまで来たとき、紅摩と対峙していたもの全員が死を覚悟した、




そのとき――――――――




「・・・・・・・・早い」

紅摩が初めて口を開いた。

全員驚く。

確かこの男はヒトとしての部分が“鬼”の血に飲まれて理性など残っていなかったはずではなかったか?

「まだ早い」

紅摩の口がまた開く。
間違いない。この男にはまだヒトとしての部分が残っている!
しかし、それよりも・・・・・

「軋間、おぬし小僧を殺しに来たのではなかったのか?
 『まだ早い』とは一体どういうことじゃ!?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

紅摩は口を閉ざす。

と同時に重苦しい空気の濃度が上がる。

しかし、最初の息の詰まるようなあそこまでの重圧は感じられない。

・・・もう既に紅摩の後ろでは朝日が昇りかけている。

長すぎる沈黙に耐え切れず、秋葉がつい怒鳴るような口調で紅摩に問う。

「どういうことですか軋間紅摩!?
 あなたは何しにここへきたのですか!!?」

「・・・・・・・・・・・・」

「答えなさい!!!」

するとどうしたことか、彼は踵を返して立ち去ろうとする。

「!・・・待ちなさい!!」

「・・・・・当主よ」

振り向く。

「な、何!?」

「三日」

「え?」

「あと三日、待ってやる。
それまでに七夜黄理の倅が起きなければ・・・・」

瞬間、先ほど以上の威圧感。

「――――――お前たちごと、その男を潰す」

またもや全員硬直。

「だから・・・・・俺を失望させるな」

――――――その言葉を残して“鬼”は朝日の中に消えた。








・・・紅摩が去ったあと、シエルとシオンは先ほど外に投げ飛ばされたアルクェイドを助けに行った。

いつもならあのような目に遭ってもすぐに立ち直って即反撃に移るアルクェイドだが、
先ほどの攻撃に(彼女にとって)意外と威力があったらしく、
また彼女が投げ飛ばされた時はほぼ日の出の時刻だったこともあり、立ち直るのに時間がかかったという。

そして他の者はいまだ眠っている志貴を壁が一面分剥がれて風通しが良くなった彼の部屋から客室の一つに移動させた。

また、志貴と一緒に眠っているレンがいつもの癖か、深く眠らせていたらしく、彼女も一緒に連れて行くことにした。

ちなみに先ほどのやり取りの中で彼が起きなかったため、
先の出来事に彼を巻き込まずに済んで良かったのでレンに感謝しようと思ったが、
志貴の体の上で気持ちよさそうに眠る様がヒジョ〜〜〜に羨ましかったので、素直にレンに感謝できなかったのはご愛嬌。

だが、事態はさらに一転する。

それは志貴を客室に移してからの出来事だった。

「・・・・・う、うあああああ!!」

客室に着いてからしばらくしてレンが呻きながら飛び起きた。

その顔には苦悶の表情が浮かび、その様子に一同は驚いた。

「れ、レンちゃん?!大丈夫ですか!?」

翡翠が駆け寄り、
息も絶え絶えのレンを抱きかかえ、彼女の呼吸を整えさせる。

その様は誰から見ても尋常ではないことがわかる。

・・・そういえばあのプレッシャーの中、志貴だけでなく、レンまで起きなかった。

彼をただ眠らせるだけで彼女があんな状況に気づかないほど寝入ることなどありえない。



――――――――“ただ眠らせるだけ”ならば。



「・・・レン、あなた何していたの?
あなたほどの使い魔が志貴を眠らせただけで周囲の状況に気が付かないほど意識を集中させる必要は無いはずよ」。

「そういえばそうですね・・・・。
 レン、あなたは何か術を志貴に行使していましたね?
 それもあなたが本気になるほどのものを」

レンはうつむく。答えたくないようだ。
しかし――――――

(・・・・マスターに頼まれたの)

その場にいた全員の頭に声が響く。レンの全周波数対応タイプの念話だ。

しかしその声はいつも以上に弱弱しい。

それどころか今にも泣き出しそうな顔だ。

――――――まるで何かの痛みに耐えるように。

「頼まれたとは何じゃ、お嬢ちゃん。
 小僧があえて眠ろうとしたのか?」

宗玄が尋ねる。

(マスターが自分の夢の中で確かめたいことがあるって。
 だからマスターを・・・・マスターの心の一番深いところまで案内したの。)

「「な!!!?」」

そのセリフを聞いてシエルとシオンはその意味を理解した。

「レンちゃん!あなたなんてことを!
 そんなことをすれば下手すると意識が一生戻りませんよ!」

レンの体が震える。

「落ち着きなさい、代行者。
レン、夢魔であるあなたにその危険性がわからないはずは無い。
 あなたは反対したはずです。
 それなのにあなたは術を行使した。
 考えられることはただ一つ。
・・・志貴に正式な命令をされましたね?」

途端、

(ゴメン、ナサイ・・)

レンは泣き出した。

愛するマスターを止められなかった自分を責めて。

何度もゴメンナサイ、ゴメンナサイと繰り返した。

そんなレンを翡翠が優しく抱きこむ。

「レンちゃん。志貴様には何か事情があったのでしょう。
 その事情が何であれ、志貴様が自ら望んだことであなたが悲しめば志貴様も悲しみます。
 だから自分を責めないで」

そうして翡翠はレンを抱き続けた。





――――――泣き止むまで。







・・・レンが落ち着くと、彼女たちは志貴の深層心理で何があったのかを聞き出した。

しかし、レンは『よくわからない』と首を横に振った。

(でも、マスターがマスターの深層心理に入ろうとしたところは覚えてる。
 それから・・・・・)






「・・・・レン、ここはどこだい?」

「・・・・マスターの心の一番奥。その一歩手前」

今、彼らの背後には草原が広がっており、遠くには彼らが慣れ親しんだ町が見える。

そして目の前には暗く、蒼い色のした壁が立ちはだかっている。

いや、それは壁というよりも水面、夜の海面のようだった。

そしてその壁には扉があった。

それは遠野の屋敷にもある様な木製の、普通の扉だった。



―――――――――ドアノブ以外は。



ここは夢の世界。遠野志貴の心象風景。

夢の世界とは言うものの、結局のところその人間の心象風景を反映して観測しやすくしたものであり、
俗に言う精神世界そのものである。

つまり、その人間が経験した事、欲求した等に反映され、構築されるのだ。

だからこそ今年の初夏に志貴が見た夢の世界も、学校や遠野の屋敷、三咲町繁華街、そして七夜の森で構成されていた。

・・・しかし彼が言うにはその“ドアノブ”は見たこともなく、だからといって忘れているから思い出せないというわけでもないらしい。



―――――――――そしてそのドアノブには彼等が見たことも無い文字が埋め尽くしていた。



そのドアノブを見てレンはひどい不安感を覚えた。

志貴はソレを回すために近づく。

それを見てレンは彼を止めようとする

「やめよう、マスター。いやな予感がするの」

しかし――――――――

「駄目だ」

即答。
そういって志貴がドアノブに手を掛けた瞬間―――――――――



―――――――光がドアの隙間から溢れ出した。

―――――――レンの視界を光が浸食していく。

―――――――光は志貴を飲み込んでいく。

「マスター?!マスタ――――――!!!!」


・・・・そうして志貴の夢の世界におけるレンの意識は途切れた。






・・・・話し終えてしばらくした後、泣き疲れたせいか、翡翠の胸の中でレンは眠ってしまった。
そんな彼女を翡翠は客室にあるもう片方のベッドに寝かしづける。

しかし問題がさらに増えてしまった。
何故、志貴が自ら望んで精神世界に入ったのか?
そしてレンの忠告を無視してまで深層心理に入ったのか?
そして二人が見たという奇妙なドアノブが付いた扉は何なのか?

しかし、それ以上の問題、三日後の軋摩紅摩の襲来があったので、この件は保留せざるをえない。

そしてその対策のために各自行動に移らなくてはならなかった。

「じゃあ、私はお城に戻るわ。三日後に帰ってくるから、それまで志貴をお願いね。」

そう言ってアルクェイドはどっこいしょとオッサンぽく立ち上がる。

するとそれに合わせてシエルも立ち上がる。

「それでは私はあなたの転送移動に付き合いましょう」

「何で?私一人でも戻れるよ」

「確かにその通りでしょうが、あなたが使う転送移動は転送速度に関しては一瞬でも、
転送の際に分解、圧縮された霊子を解凍、再構築する時間は結構かかるでしょう?
だから圧縮率と解凍速度を上げる魔術であなたをサポートします」

「へえ、シエルがここまで手伝ってくれるのって珍しいね」

「・・・・あなたは軋摩紅摩に対する切り札ですからね。
 とっとと元のねぐらに飛んで帰って充電してきなさい」

「む〜〜〜。ヒトを電動こうもりみたいに言わないでよー」

アルクェイドは愚痴りながら歩き出す。

「ほら!キビキビ歩く!!
『time is money』!!
 カレー程ではないにしろ、時間はお金より貴重なのですよ!」

シエルらしいセリフを言いながら彼女はアルクェイドをせっつく。

そうしてシエルとアルクェイドは千年城へ転送の準備のために屋敷の庭に出ていった。



そして、遠野家居残り組は具体的な戦術を模索し始めた。、
しかし、その前に志貴が起きてくることだけは避けなくてはならない。

・・・本来このようなことが起きれば、彼が戦うことに不本意ながらも彼に手を貸すといった形で彼を守ることが出来る。

しかし今回は違う。昨日死に掛けるほどの貧血を起こしたばかりなのだ。

そのような状態で彼が戦うのは無謀すぎる。

そこで――――――――――――

「お注射ですよ〜」

今、琥珀の手には蛍光グリーンの薬剤の入った注射器と空のアンプルが握られている。

「琥珀、さっきはピンク色・・・・・まあいいでしょう。で、それの効能は?」

「ハイ。この擬似昏睡維持薬『ガランドゥS』は投与された量によって決められた期間、相手を眠らせるという優れものです。
 ちなみに志貴さんの生体データは採集済みですからこの量でジャスト五日間眠らせることが可能です」

「・・・一週間も?
 そんなに眠り続けて志貴様は大丈夫なの、姉さん?」

「大丈夫よ、翡翠ちゃん。こまめに体の関節を動かしてやれば起きたときの影響も最低限で済むはずよ。それに――――――」

そう言って翡翠の傍によると小さな声でささやく。

(その間志貴さんの下の世話を逐一出来るじゃない。それはもうナニからナニまで・・・)

それはまさに(割烹着の)悪魔のささやき。

本来ならそのような悪魔の声に耳を貸さない翡翠だが・・・・

(・・・・姉さんを、グッジョブです)

親指を立てて同意した。

(でしょう?という訳で志貴さんを二人で元気にしちゃいましょう)

これで完璧。
琥珀は勝利(?)を確信した。

しかし――――――――

「「翡翠、琥珀」」




背後からの声。




――――――二人は凍りつく。




「二人で何の相談をしていたのかしら(ですか)?
 詳しく聞かせてくれない(くれませんか)?」

秋葉とシオンが素敵な笑顔(鼻血付き)で微笑んでいた。

「「いえ、あの、そのですね」」

「・・・ああ、皆まで言わなくていいのよ。
 つまり兄さんが動けないのをいいことにイロイロな世話をするということなのね」

「確かに先刻の志貴に対する拷問が不発に終わった今、その代わりの穴埋めができますね。
 それに志貴が眠っている間に我々が彼を守っているわけですから、その代価をもらうことは何も間違っていません。
まさに等価交換。正しいことなのです」

・・・いつのまにか二人はエーテライトを琥珀の頭に取り付けていた。

「な!!?御二方、こんなことやっていいと思っているのですか!?
 人権侵害ですよ!プライバシーの侵害ですよ!!」

「あなたの口からプライバシーの侵害なんて聞きたくありません!!
 さあ、答えはどうなの!?」

琥珀に迫る秋葉、
・・・・しかし返答次第も何も彼女が望むことは一つしかなく、琥珀が生き残るにはその答えしかない。

「うぅ・・・わかりましたよ。だったら一緒に「駄目です」・・・・え?」

琥珀のセリフを誰かが遮った。

なんと翡翠である。

「・・・どういうことなのかしら翡翠?」

秋葉が翡翠を睨む。
しかし翡翠はそれを正面から受け止めた。

「・・・その妥協案には私は承服しかねます。
 私は志貴様付きのメイドです。
そして主の世話をするのはメイドの義務であると同時に“特権”でもあります。
ですからこの件には例え秋葉さまでも立ち入ることは出来ません」

「ひ、翡翠!発言を撤回してください!秋葉を起こらせたいのですか!?」

そのセリフに顔面が真っ青になったシオンが忠告する。

しかし時既に遅し。
秋葉の目は据わっている。

「へえ、珍しく歯向かうのね。でもね、これは命令なのよ。
 雇用主から使用人に対する、ね」

同時に秋葉の髪が赤くなりだす。

しかし、それに対して、

「“職場の権利”というものをご存知ですか、秋葉さま?」

翡翠の目と腕がクルクルクルクル回りだす。

(ヒ、翡翠ちゃんが洗脳探偵モードになっている。これじゃ秋葉さまも一筋縄では行かないわ)

二人の間にはある種の殺気が飛び交っている。

いつもの翡翠なら秋葉の髪が赤くなるほど彼女を怒らせることは無い。

しかし、今回は何故か違った。

精神の昂りが抑えられないのである。

どうやら彼女の主も同じ状態らしい。

本来こんなことをやっていてはいけないのだが、お互い引くわけには行かない。

もはや、紅赤主一歩手前の当主と洗脳探偵の対決は避けられないものだった。



―――――――ところがこの対決は先程からいなかった人物によって中断される。

「・・・・何やっているのですか、皆さん?」

全員がその声に反応して入り口を見ると、何故か全身がボロボロのシエルが呆れながら立っていた。


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