◇―月下錬金―◇ episode01後編 


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1: キクロウ (2003/11/10 23:58:00)[sadaharu at enjoy.ne.jp]

◇―月下錬金―◇ 
episode 01 /新しい力




静寂に沈んだ校内から俺以外の声が聞こえた
それと同時に俺の心臓が叫ぶように跳ねる


―――――どくん


―――――どくん、どくん



「どこへ行く?罰当番はすんだのか?」

声をかけてきたのは、どうやら巳田先生のようだ
けど、なんか変

「はい、今おわりました」

「そうか、しかしそれはどうでもいい」

「え?」

「本来の用件はこっちだ」

ドサッ、巳田先生は突然俺の足元に何かを投げた
・・・・・これは俺のカバン、まちがえないキノコオバケのキーホルダーがついてるから


「俺のカバン、いたったいどこで?」

「裏山の廃工場」


腰をおろしてカバンを拾う
コツコツと先生が近付いてくる、そして俺の心臓はよりいっそう叫び上げる


パキパキパキパキ

顔を上げるとパキパキと卵の殻が剥がれ落ちるよう音が先生から聞こえる

「それは昨夜、私の食事を邪魔した輩が落とした物・・・・・・」


―――――どくん、どくん、どくん

―――――殺したい

―――――目の前のモノを殺したい


「2−B七夜志貴、キサマカー――――」


―――――ドクン ドクン

痛い!胸が痛い

―――――コロセ コロセ コロセ

頭が痛い 誰かが叫んでるように響いてくる


「なんだろ、心臓がすごい痛い」

体が熱い 焦げそうだ 目が熱い


「串刺しにしてころしたはずだが」

「―――――そっか、これも昨日の同じ夢なんだ、じゃなきゃ、俺、今生きているはずないし」


この現実を必死で否定する
目の前の人とは思えない人の格好をしたモノを否定する


「まあいい、それでは生きているのなら今度こそ」


心臓が一層跳ねる 頭に咆哮のように叫んでくる声が


「――――――確実に殺す!!!」


「!!!?」


巳田先生だったものは、機械で出来た巨大な大コブラに姿を変えた
銀色で何メートルもある現実離れした化け物

「う、わぁあああああああああああ!!!」

襲い掛かる銀の大蛇から逃げるように走り出す
これは夢だ、自分に言い聞かせるけど本能はそれを否定する

大きな口を開けて襲い掛かる


ズガァ!!!

「うわぁぁあぁぁあ!!」

銀の大蛇が俺めがけ食いかかった
それを咄嗟に避ける、大蛇は地面に突っ込む


「夢じゃない!夢なんかじゃなかった!!じゃあーーーーーー」

ヴィルルルル

こんなの時の電話?もしかしたら

全速力で逃げながら震える電話にでる

『三分で行く、それまでもたせろ』

「やっぱり・・・・!アレは何なんだ?キミは誰なんだ!?」

電話に出たのは女の声
何か知ってるんだろ絶対、だから知りたい


「オレはいったい、どうなっているんだ!!!?!」

!!  ガチィ!!

「うわぁ!!」

まずい、話すの夢中で何時の間にか銀の大蛇に追いつかれていた
後ろから襲い掛かってきたが、寒気を感じて咄嗟に回避できた
今のはあぶなかった!

『移動しながらでは話づらい、掻い摘むがいいか』

「ああ、それでもいい!」

携帯を耳にあてながら全速力で裏校庭に向かって逃げる
細い路地を通って少しでも時間稼ぎができればと思って

『いいか?アレの名称は”ホムンクルス”人に潜み人に化け人を食らう怪物だ』

「人を喰らう!!?」

『私はアレを追ってこの街に来た、そして昨夜、キミを巻き込んだ』

「巻き込んだって・・・・それでオレはいったい・・・」


シャアアアアアアアアアアア!!!

大蛇の咆哮が響い渡る
近くにもう居る


「やばい、追いつかれる!!」

『そうか、なら致し方ない。」


―――――”力”を使うコトを許可する戦え!!


「!?力?力ってなんだ?戦えって無理だ、あんな怪物とどうやって」

力を使えだって、それができてるなら昨日の内に終わってる
ポケットに手を入れてナイフを確認する・・・・・・ある
冷たい鉄の感触、これが有れば、でもアンナ化け物を殺せるか


『―――――まだ全てを思い出してはいないか』


思い出すって何をだ!
何もできないなら、

「逃げ切る!!」

『無理だ』

無理だって、そんなのやってみないと


『ヤツラはその存在を秘匿するため目撃者を決して放っておかない、ごこまでも追い詰めて確実にしまする』


ちくしょう!!
まずい、この先を曲がったところは行き止まりだった筈
無我夢中で逃げていたら自分で逃げ場を自分でなくした

「な・・・く・・・どこ」

!?声が聞こえたこの先から聞こえた
そして、角をまがるとそこには

―――巻き込まれたらもう、逃げ場はない

曲がり切るとそこには弓塚が

「びっくりしたぁ、どうしたの七夜君、恐い顔して」

「弓塚さん・・・・・・なんでここに」

「七夜くんがおそいから迎えに来たんだよ、早く帰ろう夕御飯ちゃんと取っておいたよ」

しまった!巻き込んだ!!
このままじゃ、弓塚まで危ない目に

シャァァァァア・・・・・・


直ぐ後ろから大蛇の咆哮が聞こえる
こうなったらもうヤルしかない
覚悟を決めよう

弓塚に背を向け眼鏡を取りナイフをポケットから取り出す
ズキリ、と頭痛がする、けど今はそんなの些細なこと

後ろから来ているだろう大蛇の方へ走りだす

ダッ!

「逃げろ!俺が何とか足留めする!その間に弓塚さんは早く!!」

「何?何のこと、ねぇどうしたの七――――」


ボゴォォォ

大地が盛り上がり

そして

ゴォオ!!

地面から鉄の口が突き出し弓塚さつきを飲み込んだ

「え?」

バタン

口は完全に閉まりゴクンと人間を一人をまるごと飲み込んだ
銀の大蛇は地面から全体を出し七夜志貴の後ろに現れた


「ゲップ、空腹のままこの携帯で動くのは少々こたえる」


大蛇は口を大きく開ける、奥から二つの光がのぞく
口の奥から、のりょのりょ、と、ろくろ首のように首の長い巳田の顔が現れた

「昨夜、喰い損ねた分の代わり、これで良し!!」


なんだよ、なんでだよ、なんで弓塚が!関係ないだろ弓塚は!!!
なのに何でだよ

「うぉおおおおおおおおお!!!」


なんで?疑問だけが頭を過ぎる
なんで弓塚が喰われた?誰のせいで弓塚が

――――――目の前の化け物が喰った
もう巳田という教師じゃない
――――――殺せるのに殺さなかった自分のせい
なぞるだけで壊せる線が見るのに、手段もあるのに
――――――今からでも間に合う
今から助け出せばいい

―――――――そうだ、刃をだせ

バチッ、と七ッ夜と刻まれた鉄の棒から刃を出す

―――――――“死”を視ろ

眼鏡は外してある、だから銀色の化け物の死を視る

―――――――コロセ コロセ

そうだ、化け物を殺せば弓塚は助け出せる


「――――――――」

先程までの叫びをあげていた時とは違い今は頭が冷たく心地いい


「ナイフでかかってくるか、愚かだ、そんな物で私は傷つけることは不可能」

化け物がほざく、耳障りだ
不可能だって?沢山見える線がお前の脆さを物語ってるのに
哀れだ

まずは尻尾を切ってやろう
ッシュッ!
呼び動作なしで疾走する

頭を高々を上げている蛇は先は縮ませよう

大木のように太い尻尾に走る線をナイフでなぞる

ザクッシュッ

「な!?」

ついでだ、尻尾を刺身にしてやる

漸 漸 漸 漸

ナイフを躍らせ銀色の大蛇の尻尾を駒切にする

「なにを!!?」

ゴゴゴドッ!!!

頭を支えられていた尻尾を殺されて頭が地面に落ちる
今は頭と少しの尻尾がついた、不細工な蛇となっている
ああ、案外これがつちのこ、かもな
これ以上は今は止めておこう、弓塚が中に居るからな
少し頭が痛いが、この大蛇の中にいる弓塚の線が見える
尻尾はあと4,5メートルといった所か

「な、なにをした!?!?なぜ錬金術によって造られた体が、そんなナイフなんかに!!!??」

ずいぶんと困惑してるようだな
だが、その問いに答える気はないぜ先生

「弓塚を返せ。出なければ殺す」

「図に乗るな!!!!」

!!今度は体から鋭い槍のような物を突き出してきた
数が多い、

「ッチ・・・・・」

腕を縦横無尽に振りナイフで鉄の槍の線をなおって殺す

カンッ ザシュッ ザシュッ

殺し切れず何本かは体を掠める
でも、致命傷じゃない
これならイケる

バッシュッ!!!!!!!

突然、硬い鉄の槍が靭な鞭となり俺を打ち飛ばす
そして、後ろにあった大木に打ち付けられる
その衝撃でナイフが飛んでいく

ドス!

ズルズルと幹に体を預けるように座り込む
血が流しながら途切れそうな意識を保ちながら怪物を視ている

「”錬金術”によって造られたこの体は”錬金術の力”以外はうけつけない、貴様のマグレも終わりだ」


錬金術の・・・・・・力?


『”力”を使うコトを許可する 戦え!』


ドクン!!!

さっきと違う心臓の痛み・・・・・・ああ、そうかオレは昨日















化け物に串刺しになった俺は確か誰かに屋上に運ばれた
そして


『聞こえる?、キミは死んだ、もう臓器は使い物にならない』

なにも答えることができなかった、今しにそうだったから

『事態を測らず力量を省みず、考えもなしに飛び込むからだ』

ああ、たしかにそのとおりだ

『――――・・・けれど、私を助けようとしたのだな・・・・・・』

うん、危ないと思ったから

『キミにすこし興味が湧いた』

”核鉄”
”錬金術”の粋をこの六角形に集めて精製された超常の合金――――――

『これは人間の精神の一番深い所―――本能に依ってさどうする』

『これを心臓の代用品として生存本能を揺り起こす。君はもう一度生きる力を手にする』

『そして同時にもう一つ別の力を手にする』


『それは人の闘争本能に依って作動する――――――闘う力』













ああ、思い出した。昨日の夜のことをすべてだ

ゆっくりと立ち上がる、すこし眩暈がするけど大丈夫だ


『その力こそが核鉄本来の用途・・・・持つ者が秘めたる戦う力を形に代える』


―――――唯一無二の武器の創造


なんで忘れてたんだろう、こんな大切なことを



「あきらめの悪い・・・・・お前の命は昨夜、既に尽きている筈なんだ、クラスメートと仲良く喰われろ」




掌握!
決意!
そして咆哮!!
その名称――――

「喰いたきゃ喰えよ、ただし、弓塚は返してもらう!」


―――――――武装錬金!!!





バクン!!

大蛇は一口で志貴を丸呑みにした
あっけなく

「世迷言に付き合う暇あない、貴様はもうおとなしく死んでいろ」






なにか聞こえた、だがどうでもいい
こいつは今、オレを飲み込んだ、ごつごつとした居心地の悪い腹の中に
暗くて臭くて吐き気がする蛇の中
もう迷うことは無い、もう躊躇する必要は無い
ここい居る必要は無い、弓塚はもうオレの腕の中にいる
だから手にあるコレでなぞればいい

光もない暗いこの腹の中でもハッキリとみえるツギハギ
黒よりも黒くオレには見えている、こいつの”死”が

さぁ出るぞ

手に持つソレを線にあわせて振るう
何も力はいらない重さも要らない勢いもいらない
バターを切るのと同じ様に
コロセばいい







「さぁて、後は昨夜の女子生――――――な、なんだ!!」

志貴を飲み込んですぐに大蛇はもがき始めた
ギシギシと音をたて壊れんばかり体を振り回しながら

「な、なんだ?これはいったい!?」



ザク ザク ザク ザク 漸!!


5つの閃光が大蛇のうちから放たれる
瞬間

ぎゃあああああ!!!


「弓塚とオレの命、返してもらうぞ!!」

ドオン!!

大蛇の腹を切り開き七夜志貴が弓塚さつきを抱えて飛び出してきた
その手には鋭く研ぎ澄まされた鋭利な虹色の小太刀が握られている
とても美しい虹色の鋭い刃に銀糸で作られた長い飾り紐のついた日本刀より少し短い小太刀


「武・・・・武装錬金・・!!!何故キサマ如きがソレをォォーーーーー!!!」


狂うように叫ぶ巳田が上空高く飛び出した志貴を串ざしいせんばかりに
また鋭い鋼の槍を繰り出す


「ッチ!」

「刀の武装錬金か、考えなしに飛び出す危ない性格の君そのままだな」

「え?」

――――武装錬金!!!


突如、志貴と巳田の間にはいってきた者は武装錬金を発動させた
四つの鋭い鎌を使い、いとも簡単に見たをバラバラに解体する
俊敏に動く太ももに備え付けられたロボットアームのような鎌

――――バルキリースカート



「処刑鎌の武装錬金・・・・・・・そうか・・・お前は錬・・・金の―――――」

巳田は最後まで言葉を言うことなく
塵となり消えていく

「コイツらの急所は額の章印よ、覚えておいて」

「君は・・・・」

「それから・・・・・・・・・着地には気をつけないと死ぬよ」

「な!は!高ぇけ!」


落下しながら話をするとは何者だこの女の人は
それよりもまずは着地だ
高いといってもこのくらいなら


ズシン!!


ふぅー、なんとか小太刀を無理やり巧く使って着地できた
これがなかったら骨折してたかな?

「そうだ、弓塚さん・・・・・・気を失ってるのか」

眼鏡を掛け直して
そおっと、起さないように弓塚をといらえず木の所に運んで寝かしておこう
後で起してあげないと風邪をひくから

でもその前に


「・・・・思い出したよ」

先程の女の人に振り向きながら話し出す
オレが思い出したことを

「昨晩、下校の途中でオバケ工に灯りを見つけて、行ってみたら君は巳田に喰われそうになっていて、思わず助けようと飛び出した」

「そうよ、でも喰われそうになった訳じゃなくて、無防備を装ってヤツを誘いだしてただけ」

「・・・・・・ウソ?」

「ホント」


つまオレは・・・・・・・・・・・・


「勘違いで死にかけたのか俺は・・・・・はぁー」

なんか、どっと疲れが出てきた


「でも、無事だったならそれでいいか、弓塚も無事みたいだし」

「ええ、今の君よりかずっと大丈夫よ、体に異常は全く無い」

「そうか、それを聞いて一安心したよ」

「・・・・不可思議なヤツだ、昨夜といい――・・・痛いのや恐いのは嫌だと言うくせして、人のコトとなると危険を全く省みない」

「誰かが傷つくのを見たくないからだよ、それが正しいと思ってやってるだけだよ」

「・・・勇猛果敢なのか、ただの考えなしなのか・・・・どちらにせよ、キミのコト少し気に入った」


なんだろうチョッと照れるな

「核鉄はもっと大事に扱え、コレは私のモノと近い心臓の役割も兼ねている、奪われたり壊されたりすでは君は本当に死ぬ」



―――――キミの新しい命だ





オレの新しい命・・・・・か、
でも待てよ、死んだって・・・・・・・・・でもオレはあの時――――――殺したはず
まあ、それは後でいいか


「――――――で、一つ聞いていい?」

「なんだ?」

「”錬金術”ってナニ?」

「・・・・辞書にだって載っているぞ、知らないのか?」

「さっぱり!」

「いいか、錬金術というのはなー―――――」


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