◇―月下錬金―◇
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15歳の春
僕は6年間過ごした時南の家を出ることになった
別に追い出された、とか、家出なんて類じゃない
隣県の銀成市の高校に入学して寄宿舎に入るから
銀成学園高校
それが俺が入学する学校、何の因果か昔からの友達の乾有彦も同じ高校に進学した
ここまで来ると殺しても殺せない腐れ縁だと諦めている
6年間すごした部屋は今はスッカラカン、荷物はダンボールに詰めてある
ダンボールは10個くらいで済んだ、我ながら物の少なさに、ちょっと驚いた
衣服と文房具、本や小物、それくらいしか無いのだから当然といえば当然か
綺麗になった部屋で最後に残ったベットに見を委ねて目を瞑る
コンコン
誰かがドアをノックした
誰だろうこんな時間に・・・・てこの家には今は俺以外一人しかいないか
「志貴、少し鷲の部屋まで来い、お主に渡すものがある」
「わかったよ」
宗玄のじいさんはそう言い残し部屋を離れた
宗玄のじいさんは身寄りの無くなった俺を引き取って育ててくれた人でもあり
体の弱い俺の主治医でもある、闇医者でヤブ医者だが
ベットから起き上がり宗玄じいさんの部屋に向かう
この家は診療所も兼ねているせいかやけに広い
小さいころは同じ部屋が沢山あるから自分の部屋を間違えたこともあった
「入ります」
スゥー、と襖を開けて宗玄じいさんの部屋に入る
畳張りの純和風のいい部屋
中央に大きな立派な卓袱台がどっしりと置いていて、上座にじいさんがまたどっしりと腰を据えている
「まあ座れ」
「はい」
向かい合うように敷かれている座布団の上に座る
宗玄じいさんの顔を見ると何時の不真面目な表情ではなく何か重大なことでもあるかのように
真剣な顔をしている
「話ってなんですか?」
単刀直入に聞く
こう言う時は回りくどくしない方がいい
「うむ、おぬしに渡す物がある。これじゃ」
そう言い、宗玄じいさんは机の上に細長い木箱を置いた
俺は、差し出された木箱を受け取り、よく見てみる
桐で出来た立派な箱をしている
「開けてみていいですか?」
「ああもちろんじゃ、そうしてもらわな困るわい」
「そうですか・・・・・」
スゥー、と音を立てて蓋を取る
中には長細い黒い鉄の棒が一本入っている、ただ平たい布をグルグルと巻かれた何の変哲の無い十数センチくらいの鉄の棒
俺は、それを取り出し、箱を足元に置く
なんだろコレは?
「なんですかコレ?」
「覚えておらぬか?」
覚えているか?そんなの覚えていない・・・・・と思う
なんかコレは手に吸い付くように馴染む
まるで昔から使っている様な、体の一部のような感覚がある
ああ、俺はコレをしっている、俺の体はコレを覚えている
自然と指が棒にあったスイッチを押した
バチッ、と音を立てて黒い鉄の棒から刃が飛び出した
とても綺麗な刃、曇りも錆びも刃こぼれも無い白銀の刃
「使い方は覚えておったか、それは『七ッ夜』という短刀じゃ、ほれ柄の分部に名が彫ってあるじゃろ」
「え・・・・?」
言われた、下の方を見ると「七ッ夜」と刻まれている
七ッ夜・・・・・・・・・七夜志貴、関係有るのか?
「じいさん、これは一体、なにか俺に関係あるのか?」
「ああ、ソレはお主の父親がお前に渡した物じゃよ。本当の父親、七夜黄理がお主に託した唯一の形見じゃよ」
「俺の、父さんの・・・・・形見?」
「そうじゃ、渡す時期を見計らっておったのじゃが、お主がこの家から出て行くこの時がちょうどよいと思って渡した」
「――――――」
「・・・・・鷲からはそれだけじゃ、まったく年寄り一人置いて出て行くとは、なんて薄情な奴じゃ、お前といい朱鷺江といい」
「ふ・・・・・長休みには帰ってくるよ、それに昨日も俺に気分転換なんて組み手なんかやらす奴を年寄りなんて言わないよ」
「そうか・・・・・・志貴、お前の体は普通では死んでおる状態なのじゃぞ、それを努々忘れるでないぞ」
「はい、ありがとうございます宗玄じいさん」
色々な感謝の意味をこめて俺は頭を下げて礼をする
次の日、早めに家を出た
そして銀成市に向かった、俺が新しく生活する場所へ
七夜志貴の過去と未来が交じり合う処へ