この物語は週刊少年ジャンプで連載中の「武装錬金」との
クロスオーバーの作品です。そのことを予めご了承の上お読みください
〜a Prologue〜
此処は何もない、此処は底がない
光も音のない海の中をただ浮かんでる
何も飾ることなく自分という人型が沈んでいく
果てはない、いや初めから堕ちてなんかいなかった
光がないわけじゃない、闇もない、
ここは―――――何もないから
何もないから、何も見えない、堕ちていくという意味さえない
無という言葉さえ、おそらくありえない
それを知って僕はわかった
『僕は―――――死んだ』
◇
気がつくと病院のベットにいた。
カーテンがゆらゆらとゆれている。
外はともていい天気で、乾いた風が、夏の終わりをつげていた。
僕の周りには誰もいない
小さな部屋の中に僕一人だけポツンといる
「ここ・・・・・・どこ」
ポツリと囁く声、誰も聞いてくれない
暫くして誰かが入ってきた
「はじめまして七夜志貴くん。回復おめでとう」
初めて見るおじさんは、そう言って握手を求めてきた
にこやかな笑顔と、四角いメガネがとても似合っている。
清潔そうな白い服も、このおじさんにはぴったりだった。
「志貴くん。先生の言っている事がわかるかい?」
「・・・・・いえ、僕はどうして病院なんかにいるんですか?」
「覚えてないんだね。君は交通事故に遭ったんだ。胸にガラスの破片が刺さってね、とても助かるような怪我じゃなかったんだよ」
白いおじさんはニコニコとした笑顔のまま、なにか、お医者さんらしくない事を言う
――――――ひどく。
気分が、悪くなった。
「・・・・・眠いです。眠っていいですか」
「ああ、そうしなさい、今は身体の回復につとめるのがいい」
お医者さんは笑顔のままだ。
はっきりいって、とても見ていられない
「先生、一つ聞いていいですか」
「何かな、志貴くん」
「どうして、そんなに体じゅうラクガキなんかしてるんですか。この部屋もところどころヒビだらけで、いまにも崩れちゃいそうですけど」
お医者さんはのんお一瞬だけ笑顔を崩したけど、すづにまたニコニコした笑顔に戻った
「そんなもの、どこにもないよ」
なんで、たくさんあるのに、なんでそんなこと言うのかわからない
「有るよ、沢山書いてあるよ、部屋中に沢山ラクガキが書いてあるよ」
僕は少し声を大きくして言った
たくさん有るのに、人にも壁にも椅子にも
「・・・・・わかった。この話はまた今度にしよう」
お医者さんは笑顔のままで冷たくコツコツと歩いて
部屋から出て行った
ぼくはまた一人になった
この線はなんなのか、子供の僕にでもなんとなくわかった
ためしたことはないけど、アレはきっとツギハギなんだ
手術をして傷口を縫ったあとのところみたいに、とてももろくなっているとおもう。
――――ああ、今まで知らなかった。
セカイはこんなにもツギハギだらけで、ともて壊れやすいトコロだったなんて。
みんなには見えない。
だから平気。
でも僕には見えている。
こわくて、こわくて、歩けない。
まるで、僕だけがおかしくなってしまったみたいだ。
だからだろうか。
病室にはいたくない。
ラクガキだらけのトコロにいたくない。
だからココから逃げ出して、誰もいない遠い場所に行くことにした。
でも胸の傷が痛くて、少ししか走れなかった
気が付けば。
自分がいるのは街の外れにある野原で、ちっとも遠い場所なんていけなかった。
「・・・・・ごほっ」
胸が痛くて、すごく悲しくて、地面にしゃがみこんでせきこんだ。
ごほっ、ごほっ
誰もいない。
夏の終わりの、草むらの海のなか。
このまま、消えてしまいそうだった
けれど、その前に
「君、そんなところでしゃがんでると危ないわよ」
後ろから、女の人の声がした。
「え・・・・・・・?」
「え、じゃないでしょ。君、ただでさえちっこいんだから草むらの中でうずくまってると見えないのよね。
気をつけないさい、あやうく蹴り飛ばされるところだったんだから」
ふけげんそうに女の人は僕を指差した。
・・・・・ちょっと、あたまにきた。
僕はこれでも遊び友達の中では、そう背が低いほうではないとおもう
「けりとばされるって、誰に?」
「ばかね、そんなの決まってるじゃない。ここにいるのは私と君だけなんだから、私以外に誰がいるっていうの?」
女の人は腕を組んで、自身たっぷりに言った
「ま、ここで会ったのも何かの縁だし、少し話し相手になってくれない?私は蒼崎青子、君は?」
まるで昔からの友達のような気軽さで、女の人は手を差し伸べてきた。
断る理由もないから、僕は七夜志貴と自分の名前をいって、
女の人の冷たい手のひらを握り返した。
女の人とのおしゃべりは、とても楽しかった
この女の人は僕の言う事を『子供だから』といって無視しない
ちゃんと一人の友達として、僕の話を聞いてくれた。
色々なことを話した。
女の人の話は楽しかった
いろいろな国での話を聞いたり、お姉さんがいてよく喧嘩しているとか
旧い家で行儀作法にうるさくて変わった家だとか
沢山話してくれた
でも、僕は・・・・・・・わからなかった
僕は自分の昔のことが思い出せない
自分が七夜志貴と言うことはわかるけど確証がもてない
「ああ、もうこんな時間。悪いわね志貴。私、ちょっと用事があるからお話はここまでにしましょう」
女の人は立ち去っていく。
・・・・また、僕は一人になるのかと思うと、寂しかった。
「じゃあまた明日、ここで待ってるからね、君もちゃんと病室に帰ってきちんと医者の言いつけを守るんだぞ」
「あ――――――」
女の人は、まるでそれが当たり前だ、というように去っていった。
「・・・・・また、明日」
また明日、今日みたいに話ができる。
すごくうれしい。
事故から目覚めて、初めて、人間らしい感情が戻ってきた
そうして、午後になると野原に行くのが日課になった。
女の人は青子って呼ぶとおこる。
自分の名前が嫌いなんだそうだ
僕は考えたあげく、なんとなく偉そうな人だから『先生』と呼ぶことにした。
先生はなんでも真面目に聞いてくれるし話してくれる
・・・・・事故のせいで暗くなっていた僕は、少しずつ、先生のおかげで明るくなってきたと思う
あんなに怖かったラクガキのコトも、先生と話しているとあまり恐くは感じなくなってきた
先生といると楽しい。
「ねぇ先生。僕こんなコトができるよ」
ちょっと驚かせたくて、病院から持ち出した果物ナイフを使って
野原に生えている木を切った。
あのラクガキみたいな線を始めてなぞった。
根元から綺麗に切断した。
「すごいでしょ、ラクガキが見えてるところなら、どこだって簡単に切れるんだよ。こんなの他の誰にもできないよね」
「志貴―――――!!」
ぱん、と頬を叩かれた
「先・・・・・・生?」
「―――――君は今、とても軽率なことをしたわ」
先生はすごく真剣な目をして見詰めてくる。
理由はわからなかったけど。
僕は、いま自分がした事が、とてもいけないコトなんだって思い知った。
厳しい先生の顔と叩かれた頬の痛みで
とても、とても悲しい気持ちになった
「・・・・・ごめん、なさい」
気がつくと、泣いていた
「――――――志貴」
ふわり、とした感覚
「―――――謝る必要はないわ。たしかに志貴は怒られるような事をしたけど、それは決して志貴が悪いってわけじゃないんだから」
先生はしゃがみこんで僕を抱きしめていた
「でもね、志貴。今誰かが君を叱っておかないと、きっと取り返しのつかないことになる。
だから私は謝らない、そのかわり、志貴は私のことを嫌ってもいいわ」
「・・・・ううん。先生のこと嫌いじゃないよ」
「――――そう。本当に、よかった。・・・・・私が君に出会ったのは一つの縁だったみたい」
先生はそうして、僕が見ているラクガキについて聞いてきた。
この目に見えている黒い線のことを話すと、先生はいっそう強く
抱きしめる腕の力をこめた。
「志貴、君が見えているのは本来視えてはいけないものよ。『モノ』にはね、壊れやすい箇所というものがあるの。
いつか壊れるわたしたちは、壊れるが故に完全じゃない。
君の目は、そういった『モノ』の末路・・・・言い代えれば未来を視てしまっているんでしょう」
「・・・・・未来を・・・・みてる、の?」
「そうよ。死が視えてしまっている。―――それ以上のことは知らなくていい。
もし君がそいう流れに沿ってしまう時がくるなら、必然としてそれなりの理屈を知ることになるでしょうから」
「・・・・先生。よくわからないよ」
「ええ、わかっちゃダメよ。ただ一つだけ知っておいてほしいのは、決してその線をいたずらに切ってはいけないというとこ。
―――君の目は、『モノ』の命を軽くしすぎてしまうから」
「――――うん。先生の言うならしない。それに、なんだか胸がいたいんだ。・・・・ごめんね先生。
もう、二度とあなたことはしないから」
「・・・・・よかった。志貴、今の気持ちを絶対に忘れないで。そうしていれば、君はかならず幸せになれるんだから」
そうして、先生は僕からはなれた。
「でも先生。このラクガキが見えていると不安なんだ。だって、この線をひけばそこが切れちゃうんでしょ?
なら、僕のまわりはいつバラバラになっておかしくないじゃないか」
「そうね。その問題は私がなんとかするわ。――――どうやらそれが、私がここにきた理由のようだし」
はあ、とため息をついてから、先生はニコリと笑った。
「志貴、明日は君にとっておきのプレゼントをあげる。私が君を以前の普通の生活にもどしてあげるわ」
次の日
ちょうど先生と出会ってから7日目の草原で、先生は大きなトランクを片手にさげてやってきた
「はい。これをかけていれば妙なラクガキは見えなくなるわよ」
先生がくれたものはメガネだった
何の変哲のない普通のメガネ
「ぼく、目は悪くないよ」
「いいからかけなさい。別に度は入ってないんだから」
先生は強引にメガネを僕にかけさせた
とたん―――――
「うわあ!すごい、すごいよ先生!ラクガキがちっとも見えない!」
「あったりまえよ。わざわざ姉貴の所の魔眼殺しを奪ってまで作った蒼崎青子渾身の逸品なんだから。
粗末にあつかったらただじゃおかないからね、志貴」
「うん、大事にする!けど先生ってすごいね!あれだけイヤだった線がみんな嘘みたいに消えちゃって、なんだか魔法みたいだ、コレ!」
「それも当然。だって私、魔法使いだもん」
得意げににんまりと笑って、先生はトランクを地面に置いた
「でもね志貴、その線は消えたわけじゃないわ、ただ見えなくしているだけ。そのメガネを外せば、線はまた見えてしまう」
「――――そ、そうなの?」
「ええ。そればっかりはもう治しようがないコトよ。志貴、君はその目となんとか折り合いをつけて生きていくしかないの」
「・・・・・やだ。こんな恐い目、いらない。またあの線を切っちゃったら、先生との約束が守れなくなる」
「ああ、もう二度と線をひかないっていうアレか。ばかね、あんな約束気軽に破っていいわよ」
「・・・・そうなの?だって、すごくいけないコトだって言ったじゃないか」
「ええ、いけない事よ。けどそれは君個人の力なのよ、志貴。だからそれを使おうとするのも君の自由なの。
君以外の他の誰も、志貴を責める事ができないわ。君は個人が保有する能力の中でも、ひどく特異な能力を持ってしまった。
けど、それが君に有るという事は、なにかしらの意味が有るという事なの。かみさまは何の意味もなく力を分けない。
君の未来にはその力が必要となる時があるからこそ、その直死の眼があるとも言える。
だから、志貴の全てを否定するわけにはいかないわ」
先生はしゃがんで、僕の視線と同じ高さの視線をする。
「でもね、だからこそ忘れないで。志貴、君はとてもまっすぐな心をしてる。いまの君があるかぎり、
その目は決して間違った結果は生まれないでしょう。聖人になれ、なんて事は言わない。君は君が正しいと思う大人になればいい。
いけないっていう事を素直に受け止められて、ごめんなさいと言える君なら、十年後にはきっと素敵な男の子になってるわ」
そう言って。
先生は立ち上がると、トランクに手を伸ばした。
「あ、でもよっぽごの事がない限りメガネは外しちゃだめだからね。特別な力は特別な力を呼ぶのもなの。
志貴本人が判断した時だけメガネを外して、やっぱり志貴本人がよく考えて力を行使なさい。
その力自体は決して悪いものじゃない。結果をいいものにするか悪いものにするかは、あくまでも志貴、君の判断しだいなんだから」
トランクが持ち上がる。
―――――――先生は何も言わないけど。
僕は、先生とお別れになるんだとわかってしまった。
「――――無理だよ先生、僕だけじゃわからない。ほんとは先生に会うまで恐くてたまらなかったんだ。
先生がいなくちゃ、こんなメガネがあったてだめに決まってるじゃないか・・・・!」
「志貴、心にもない事は言わない事。自分自身も騙せないような嘘は、聞いている方を不快にさせるわ」
先生は不機嫌そうに眉を八の字にして、ぴん、と僕の額を指ではじいた
「――――自分でもわかってるでしょ?君はもう大丈夫だって。ならそんなつまらないコトをいって、
せっかく掴んだ自分を捨てていいわけないわ」
先生はくるり、と背を向けた
「それじゃあお別れね。志貴、どんな人間だって人生っていうのは落とし穴だらけなのよ。
君は人よりそれをなんとかできる力があるんだから、もっとシャンとしなさい」
先生は行ってしまう
とても悲しかったけど、僕はシャンとして見送る事にした。
「――――うん。さようなら、先生」
「よし、上出来よ志貴。その意気でいつまでも元気でいなさい。いい?ピンチの時はまず落ち着いて、その後によくものを考えるコト。
大丈夫、君なら一人でもちゃんとやっていけるから」
先生はうれしそうに笑う
ざあ、と風が吹いた
草むらが一斉に揺らぐ
先生の姿はもうなかった。
「・・・・・・ばいばい、先生」
言って、もう会えないんだな、と実感できた
残ったものはたくさんの言葉と、この不思議なメガネだけ
たった七日だけの時間だったけれど、なにより大事なコトを教えてくれた。
ぼんやりと佇んでたら、目に涙がたまった。
―――――ああ、なんてバカなんだろう
僕はさよならばっかりで
ありがとうの一言も、あの人に伝えていなかった
先生と別れて2日後
藍染の和服の作業服を着た白髪交じりのお爺さんがやって来た
目が鋭くて恐い印象をもった
「お主が七夜志貴か」
「・・・・・うん、おじいさん誰?」
「鷲は時南宗玄、お主の親父の友達じゃよ、お前を迎えに来た」
「僕のお父さんの友達?それに迎えに来たって。僕、どこに行くの?」
「お主の家族は事故で死んでしまった。じゃから鷲がお主を引き取る。よいな志貴」
「・・・・・・・うん」
突然の来訪者は、これまた突然と僕を引き取るといってきた
断るなんてできない
僕の家族はもう居ない、ないんて言われたら断ることなんてできない
「明日、お主は退院することになっておる。その時にまた迎えにくる」
「・・・・はい」
そう言い残してお爺さんは帰っていった
僕のお父さんと名乗る人は僕を引き取るといった
身寄りがなくなってしまったのであればソレは喜ばしいこと
それに
「僕のお父さん・・・・・・・なんでだろ、思い出せない」
僕の昔のことを教えてくれるかもしれない
次の日にお爺さんが迎えに来て僕は退院した
こうして七夜志貴の9歳の夏は終わった、沢山のモノを得て何を失ったか判らない夏が
あとがき
始めまして、駄作執筆家キクロウです
勢いではじめてしまいました。すみません
原作がとても好きで月姫とのクロスしたいなーと思い書いちゃいました
不定期に更新していきますが、どうぞ最後までお読みください