妹たちが朱鷺恵という女を居間に連れて行った後、
私とレンは志貴の部屋に残っていた。
妹たちの騒ぎはこの部屋まで聞こえてくる。
だけど私とレンは気にならない。
治療が終わった志貴が眼を覚ますのを待ち続けている。
志貴が眼を覚ます気配はない。
彼は一度寝入るとなかなか起きない。
まるで聖人の瞑想のように、静か過ぎるくらいに眠る。
私は彼のこの寝顔を見ると美しい、と思う。
だけどそれと同時に不安になる。
まるでもう眼を覚まさないのではないかと。
・・・どのくらい待ち続けただろう?
もうすぐ明け方だ。
レンはとうとう眠ってしまった。私もついウトウトしてしまう。
――――そこで誰かに髪を撫でれた。
・・・・まさか?
「やあ、お姫様。眠いのかい?」
私が待ち望んだ、彼の優しい笑顔がそこにあった。
「・・・じ・・・ぎぃ・・・」
視界が歪んでくる。
「泣いてるのか?」
彼が私の涙を指でやさしく拭いてくれる。
だけど突然彼は苦しみだす。―――――そうだ!志貴の眼鏡!!
急いで彼にかけてあげる。
「ありがとうアルクェイド」
微笑んでくれる。
「ぐすっ・・・・志貴、よかったぁ。
眼を覚ましてくれて・・・。
危なかったんだよぉ、本当に」
「ああ、そうみたいだな。どれくらい寝てた?」
「え〜と・・・あ、レン?」
いつのまにかレンが起きている。
「・・・・・え?まだ一日たってないの?だって―――――」
そこで彼が言いよどむ。
「どうしたの、志貴?」
「・・・なんでもない。てっきり昼ぐらいだと思ったからさ。
どうやら血が十分回ってないみたいだ」
なんだかひっかかる。なんでだろう?
「ねえ、ホントに大丈夫?まさか・・・」
「・・・いや、お前が考えているようなことはないと思う。
先生からもらった眼鏡が効力を失ったわけじゃない。
魔眼殺しはちゃんと働いているよ。たぶんまだ血が足りないのかな?」
その答えはどこかしっくりこなかったけど、たぶん志貴の言うことは間違ってない
『直死の魔眼』が発動したときのあのいやな感じがない。・・・うん、たぶん気のせいだ。
「・・・ゴメンな、アルクェイド」
「エ・・・し、志貴。なんで謝るの!?」
「だって、さ。お前とのデート・・・」
「・・・うんうん、気にしてない。そのことなら大丈夫だよ。だって・・・」
「だって?」
「志貴の部屋でこんなに長く志貴と一緒にいられたんだもん」
途端に彼の顔が赤くなる。
「あ。志貴、赤くなってる。カワイ〜」
「・・・うっさい」
そうして彼は私の顔に触れてくる。
私も意識して彼に顔を近づける。
いつものキス。
ディープではなく、ただ唇が触れ合うキス。
けど私はこの、優しいキスが好きだった。
本当はここから先をしたいけど、彼の体のことを考えると今はできない。
“今”は、ね。
それに今回のキスはいつものそれよりすごく暖かく感じる。
・・・・うん、今回はこれで満足しよう。
「・・・それじゃあ、私志貴が起きたことみんなに教えてくるね。
レン、ちょっと頼むわよ」
そうして私は部屋を出た。
・・・・アルクェイド様が部屋を出た後、この部屋は私とマスターだけになりました。
マスターが眼を覚ましてくれて本当によかった。
・・・・あのキスは余計でしたが。
マスターの体調は私とリンクしている限りいつでもわかります。
もうすぐマスターの体調は元に戻るでしょう。
そうすれば一緒に日向ぼっこができます。きっと頭とか喉とか撫でてくれます。そして夢の中では・・・・。
そうして『第31次マスターとのふれあいプラン』を私が立てているとマスターが頭を撫でてくれました。
すると―――――
「・・・レン、頼みがあるんだ」
マスターは私に頼みごとをしてきました。何かを私にさせるとき、
別に命令でもいいのに頼み事にするのがマスターらしいところです。
(何ですか、マス・・・)
そこで私はちょっと驚きました。真剣な表情で私を見つめていたからです。
そして、マスターの言ったことを聞いて私はさらに驚きました。
「―――――君の力で今から俺を“深く”眠らしてほしい」
「ふ・・・・・・ふふ・・・・・・・ふふふ・・・これは兄さんをオトすときに使えるわね。
・・・・・・ああ!そんな兄さん!汚いわ!そんなところを舐めるなんて!!」
「えへ、えへへ、志貴ちゃんと遊んで、志貴ちゃんとお医者さんごっこして、
志貴ちゃんと一緒にお風呂に入って、志貴ちゃんと・・・」
「私の脳内恋愛シミュレーションは完璧なはずなのにここでフラグが立たないなんてそんな不条
理なこと認知できないのであってそもそも・・・・」
「遠野君が法律上犯罪に問われないころ(中学生以下?)からあんなことを・・・・やはりさすがというかなんというか」
「あは、あはは、あははははははははは」
そのころ居間で集まっていた待機組は朱鷺恵を脅迫して志貴の初体験の模様を根掘り葉掘り聞いていた。
最初は嫌々ながら話していた朱鷺恵も、
後半は酒の入った秋葉たちに無理矢理飲まされたせいでヤケになったのかノリノリで話してしまった。
洗いざらい、懇切丁寧に、ジェスチャー付きで。
結果、シオンは分割高速思考のループに陥っていた
翡翠は昔の思い出と妄想とがごちゃ混ぜになっている。
琥珀は壊れたように笑っている。
シエルは顔を手で覆いながら赤らめており、
秋葉は現実と妄想を行ったりきたりしていた。(ちなみに宗玄はまだ燃え尽きたままである)
朱鷺恵の供述内容を一部要約すると
『世間に比べて“かなり”早いほうなのに初体験で既にすごいテクニシャン(死語)な』なのだそうだ。
皆酒が入っているせいか、彼の超絶倫人ぶりを聞いてテンションが上がりっぱなし、
その様子はどこぞの起源が覚醒したドラッグパーティ主催者も真っ青なものだった。
ジリリリリン、ジリリリン――――――
みんなが酔いつぶれたり話し疲れたりして眠っていたところでの電話のベル。
(う〜ん・・・・誰ですかぁ、こんな時間に・・・・ハイハイ、出ますから待っててくださいね〜)
琥珀が出る。
「はいはい、遠野でございますよ〜。
あ〜、久我峰様。何の御用ですか?こんな時間に」
酔いが抜けきっていないせいか(一応)目上の久我峰に若干タメ口だ。
久我峰斗波。
遠野一族の重鎮、久我峰家の現当主で、主に調査、情報収集を得意としている、
秋葉の身元引受人であり、
彼女が(未成年ながら)CEO(最高経営責任者)を務める遠野グループのCFO(最高財務責任者)でもある。
ちなみに彼の趣味、というか性癖のせいで遠野家の人間からは、反応はそれぞれながらあまり好まれていないが、
一族の中では志貴の身元引受人である有間文臣と同じく、
比較的遠野家当主の秋葉に協力的な人物である。
「はい、秋葉様なら・・・・少々お待ちください」
そしてソファーで眠る秋葉を起こす。
「秋葉さま、秋葉さま、起きてくださいまし」
「う〜ん・・・アン、兄さんそんな、切ない・・・」
「・・・秋葉さま、志貴さんが起きられていますよ」
「え!?ち、違うんです兄さん!!秋葉はそんな淫らな事望んで・・・・あら?」
「秋葉さま、久我峯様からお電話です」
「・・・謀ったわね、琥珀・・・まあいいです。それで誰からですって?」
「久我峰様からです。至急の用件とのことですが・・・」
「久我峰が?・・・・はい、私です。それでこの時間に何の用?
確か遠野グループと“先方”との具体的な提携案はまだ先・・・・・
・・・・・・・なんですって!!?」
秋葉の声が強ばる。
「状況は!?・・・・全滅!?
・・・・・・・そう、わかったわ。引き続き探索をお願い。
・・・ええ・・・わかっています。それが当主たるものの務めなのですから」
チン。
秋葉はため息をつきながら電話を切る。
振り返ると電話のベルと秋葉のただならぬ雰囲気で眼を覚ましたらしく、
朱鷺恵を除く全員が目を覚まし、秋葉を注視していた。
「おい、嬢ちゃん、いまの話まさか・・・」
「・・・・時南先生は“あれ”の関係者でしたね。
その通り、先生の考えている最悪の事態が起きました。
ですがご安心ください。
遠野家当主として“奴”は見逃すつもりはありません」
するとシオンが心配そうに尋ねてくる。
「秋葉、おそらく今の電話はかなり深刻な内容だと推察できます。教えてくれませんか。
私は・・・友人としてあなたの力になりたい」
「シオン・・・・そうね、おそらくこれは私一人の手には負えないかもしれない。
ありがとう、シオン。あなたの厚意、素直に受け取るわ。
・・・シエル先輩、あなたに協力していただきたいことがあります」
「なんでしょうか?」
「これはシオンや、先輩、
それに今はこの場にいないアルクェイドさんにもお願いしたいことなのです。
実は・・・・・遠野の血族の中のある人物が軟禁、いや封印状態から抜け出しました。
軋間紅摩という男です」
――――――それは混血の一族の中でもっとも『鬼』に近いもの。
――――――『鬼』、そのもの
――――――『紅赤主』
私はシオンと先輩に軋間紅摩のことを知る限りのことを話し始めた。
それは遠野という、混血の一族が生んだ闇―――――
かつて私の祖先が大いなる力を得るために人間とは相対する『鬼』と契りを結んだ。
結果、彼らは『力』を得、それぞれの時代を裏から操ってきた。
ところが、世代を重ねると血は薄まっていく。
そしてそれに合わせて『力』が衰え失っていく事は
何よりも血のつながりと『力』を重んじる遠野にとって一番恐ろしいことだった。
そこで遠野の重鎮たちは、広がった血筋を時間をかけて凝縮し、
かつて祖先が契りを結んだ『純粋な鬼』に近いものを作り出すことを極秘裏に始めた。
そして世代を越え、時代を越え、ついに念願のものが出来上がったとき・・・
―――――自分たちの作り上げたものが踏み入れてはいけない領域の産物だということに気づいた。
遠野の分家の一つ、
その行為を執り行っていた軋間家は、
その集大成として生み出されたばかりの彼の中に棲む『何か』を恐れられるあまり彼を隔離、軟禁した。
だがある日、その『何か』を恐れた者が彼を殺そうとした結果、
その時彼の中にいる存在が暴走し、彼一人で軋間家を滅ぼしてしまう。
それから数年間、
彼は厳重に監視、封印され、先代の遠野家当主にして私の父、遠野槙久が七夜を滅ぼしたとき以来、
封印が解かれることはなかった。
「―――――以上があの男、軋間紅摩に関して私の知っていることです」
私は語り終えると胸の奥から来る痛みに耐えるようにため息をついた。無理もない。
この話は遠野家の者、混血の者にとって逃れえない宿命を象徴する最たるものだった。
遠野家当主である私も遠野の中ではかなり『鬼』に近い。
だから私もまた、『紅赤主』になりうるのだ。
さらに私にとって兄さん、遠野志貴が血の繋がった家族をほとんど奴に皆殺しにされたこと、
結果、私の父が彼の本来の名『七夜志貴』を奪ったことを再確認させ、
同時に自分が本当の妹ではないと言う事実を突きつけるものだったからだ。
「・・・ごめんなさい、秋葉さん。この話をするのは辛かったでしょうに」
「お気遣いありがとうございます、先輩。ですが、これも遠野家当主の務め、覚悟はできています。」
するとシオンが私を諭すように話しかけてきた。
「秋葉。
私はあなたの友人のつもりです。
ですから頼ってください。
あなたは・・・・一人ではないのですから・・・」
「シオン様の言うとおりです。
秋葉様は無理しすぎだと思います。
私達は秋葉様の助けになるのでしたらなんでもいたします」
「翡翠ちゃん、『秋葉様と志貴様』でしょ?」
「ね、姉さん!?」
「まあ冗談はともかく。
秋葉さま、私たち二人はほかの皆さんと違って戦うことができません。
でもバックサポートくらいできるはずですよ。
という訳で他の方には無理をしていただきますね」
「フフ、言いますね。
・・・・秋葉さん、あなたはだけが危険になる必要がどこにあるのですか?
ですからいくらでも頼っちゃってください。
おそらくアルクェイドも手伝うでしょうし」
・・・驚いた。シオンや翡翠、琥珀ならともかくシエル先輩まで私の身を案じてくれている。
それも『遠野志貴の妹』ではなく、『遠野秋葉』のことを、だ。
この流れだとアルクェイドさんまで同じことを言ってきそうだ。
・・・・いけない。泣いてしまいそうだ。
「みんな、みなさん、本当にありがとう」
感謝の意をこめて頭を下げる。
・・・・涙をこらえているのを隠すことも兼ねていたけど。
フフ・・・みんな少し驚いているようだ。
頭を上げる。
「それではみなさんお願いします。それとこれが一番重要なことですが」
「わかっていますよ。
遠野君にはこの一件を内緒にしておかないと。
それでその軋間、でしたか?どう対処するおつもりなのですか?」
「・・・おそらくここにやってくると思います。
聞いた話によると、軋間はかつて七夜の者に傷を負わされたそうです」
「ということは志貴を目指してここに来る可能性がありますか。
だとすると迎撃するしかないですね。
しかしそれだと必ず志貴に気づかれてしまいますが?」
「それに関しては手を打っておきます。琥珀?」
「はい、志貴さんにこの新開発のお薬を嗅がせれば一発けーおーですよ」
「姉さん、大丈夫な物なのですか、その“魔薬”?」
「翡翠ちゃ〜ん(泣)
あのね、
私っていつもそんな『まじかるアンバー謹製レインボウ注射』とか
そういうものしか作らないわけじゃないのよ。
これは極力副作用のないように調合した“まとも”なものだから大丈夫」
「(つまりいつもは副作用があるってことじゃない!?)・・・だ、そうです。
後はアルクェイドさんにこの話を―――――」
「みんな〜、志貴が目を覚ましたよ〜!」
そのときタイミングよくアルクェイドさんが居間にやってきた。
彼女の知らせに一同嬉々として振り向く。
「「「「「本当ですか!!!?」」」」」
「うん、今レンが志貴をみてる・・・ウワ、酒クチャ〜イ」
「・・・あなたが兄さんを独り占めしていた間ずっと退屈だったもので。
これぐらい我慢してください」
「え〜。だって志貴と一緒にいていいって言ったの、妹だよ?」
「あなたは何度言えば・・・。まあ今はそんなことはどうでもよろしい。
アルクェイドさん、これは他の皆さんには既に伝えたことですが―――――」
そして私はアルクェイドさんに先ほど他に話した同じ内容を話す。
「・・・・フ〜ン。妹の家のことは知っていたけどそんな奴がいたなんてね。
要するに私のような『ガイアの代理人』に近い存在なのね。
でも私より“自然”寄りかもしれないから厄介かも」
「どういうことですか?」
「その『紅赤主』、だっけ?
そいつは真祖みたいに、あらかじめガイア的意思から直接生み出されたものではなくて、
真祖と同じく直接的に生み出された『鬼』って超越種とヒトとの混血の子孫が
世代を重ねることで薄まった血を無理やり近親交配させて一個の個体に凝縮させることで
その『鬼』を再現させようとした結果、生まれたものでしょう?
でも、
先の前者二つは世界がヒトに対抗して“ヒトを模して”造られたモノだから、
“それに合わせて調整された知性”があるのに対して、
そいつみたいにただ闇雲に『力』だけを追い求めれば、
何の調整もしていないヒトの知性が耐え切れるわけないじゃない。
小我というヒトの魂の知性が大我という肉体の知性に飲み込まれるってやつね。
それにただでさえ近親交配って生物の遺伝情報を不安定にさせるものなのに、
志貴みたいな『アラヤ的な根源』に通ずることのできる超能力者の家系ならともかく、
本来ならヒトとしての部分が不安定になるものだから尚更ね。」
・・・・私は彼女の分析を聞いて内心驚いていた。
この人は時々、いつもの能天気さとは無縁な、
おそろしく理知的で冷静な一面を見せる。
たしかに近親交配というものはその生物の特性を保つには適してはいるが、
生物として生きることが難しくなる、と聞いたことがある。
かつてこの国の『現人神』として崇められ、
その時代の権力の象徴として平安期までこの国の政治の中心だった天皇家は、
同じく政治の中枢にいて摂関家と呼ばれこの国の政治を操ってきた藤原家から、
その一族の女性を何代にもわたって受け入れた結果、
ひどいときには母親の妹を受け入れるという近親婚が続くようになり、
当時即位した者は健康面でも人格面でも脆弱になったという。
「あなたと同じ量を後先考えずに振るう力、ですか。
例えるなら安全装置を外した弾数無制限に使える核弾頭ですね」
「おそらく復元能力も私並みでしょうね。
本来なら志貴がいれば楽勝なんだけど、
・・・しかたないわね。この手段は使いたくなかったけど」
「真祖、まさか吸血衝動を抑えるために廻している力を―――――」
「ちがうわ。一度千年城に戻って私の中のキャパシティ全体を増やしてくるだけよ。
まだアインナッシュの果実の効果には余裕あるから私の中の力のバランスが崩れなければ
吸血衝動は余裕で抑えられるわ。
ただ単にその間志貴と離れたくないだけ」
・・・前言撤回。
やはりこの女は私の敵。
「嬢ちゃん、髪が赤くなっとるぞ」
・・・すっかり忘れていましたが、そういえばいましたね、時南先生。
――――――――彼女らの作戦会議は一時間におよんだ。
とりあえず、
・下手にうごかず軋間が来たら迎え撃つこと。
・力を蓄えるためにアルクェイドが一度千年城に帰ること。
・その間残りの者たちが志貴を守ること。
・奴が来たらアルクェイドは人外的瞬間移動ですぐ帰ってくること。
・彼女が帰ってくる間に秋葉、シエル、シオンが時間稼ぎをすること。
などが基本方針として決まった。
こうして彼女達は作戦会議を切り上げて志貴の部屋に向かうことにした。
「姉さん」
「なあに?翡翠ちゃん?」
「例の危ない薬取りに行かないのですか?」
「もう持ってきているわ」
嬉しそうに“どピンク”の液体の入ったビンを取り出す。
「ところで、翡翠ちゃん」
「何ですか、姉さん」
「何で最近の翡翠ちゃんの言動には毒があるの?
お姉ちゃんは悲しいわ」
「自分の胸に聞いてください」
そして当たり前ながら
この二人以外の全員が“心の内”で(表立ってやると後が怖い)頷き、
同時に『それ“まとも”な薬ってさっき言ってたじゃん!』とツッコんだ。
居間で軋間を迎え撃つ算段を練っていた一同は
ひとまず一度切り上げて志貴の部屋にやって来た。
志貴はレンと一緒に眠っているようだ。
「もう。レンってば、
志貴のこと頼んどいたのに一緒に寝てるなんて」
「あは〜、羨ましいですね〜。
そんなこと思わせる志貴さんにはおしおきですよ〜」
そういって琥珀は先ほど言っていた、
一応“まとも”な“どピンク”薬の入った“アンプル”を取り出して“注射針”で吸い上げた。
「姉さん、さっきは、“嗅がせる”と言っていた気が・・・・」
「琥珀!何故“ビン”入りからアンプルに変わっているのですか!?」
「“色”が一緒だから細かいことはどうでもいいじゃないですか〜☆。
さあ志貴さん、お薬の時間ですよ〜♪」
そういってナースウィッチ琥珀は注射器を彼の腕に突き刺そうとして・・・・
――――――――突如、あたり一面の空気が変わった。
「な、何なんですかこのデタラメなプレッシャーは!?
こんな!アルクェイド並の!!」
「ま、まさか・・・・」
「グ、間違いない。この握りつぶすような重圧。奴じゃ!」
ドン!!
バガン!!!!
轟音とともに部屋の壁が引き剥がされる
“砕かられた”のではなく、“引き剥がされた”のだ。
そしてかつて壁という物があったその場所に――――――――――
―――――――――― 一人の『鬼』が立っていた。