そんな彼らの日常風景 #01


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1: 慣太郎 (2003/10/22 01:44:00)[kantaro_xxx at hotmail.com]

【#01/ アカい空と殺人訓練】




 夕焼け空が、赤く赤く、朱色に染まる。

 血のように赤い、アカイソラ。

 まるで、セカイが血を流したかのように、赤く染まる。

 ――もしそれが本当だったら、きっと今頃セカイは失血死してるだろう。

 そんなことを考え、思わず苦笑。

 他愛もない考えを振り払って、手にしたいくつかの研ぎ澄まされた鉄のカタマリを、一

見無造作に、その実慎重に放る。



 とたんっ。

 とたたたたんっ!



 木の幹にスプレーで描いた白い丸。その中心に、スローイングナイフが一連なりに音を

立てて突き刺さった。

 命中率だけなら、だいぶ前から百パーセント。けれど、その目標箇所への収束率は……

まだちょっと悪い。

「うーん、まだまだかな……?」

 投擲の場合、普通に斬りつけるのとは違って、『線』の攻撃ではなく『点』の攻撃しか

できない。

 数が増えても、どこまでいっても『点』は『点』だ。『面』にも『線』にもなりえない。

 ただ、『点』には『点』の利点があり、方法がある。

 特に、この俺――遠野志貴にとっては、格別の方法が。

 眼鏡を外して、レンズのない生の視線で目標にしていた木を『見る』。

 だけど――、

「動かない的でもこんなじゃあ、もっと練習しないと『点』には当てられそうもないなぁ」

 ぽりぽりと頭を掻いて呟く。この程度じゃ、お遊戯にもなれっこない。

 目標にしていた白丸は、直径十センチくらい。また、スローイングナイフはその中心か

ら半径三センチの円内に収束して命中している。

 それに対して、黒い『線』でひび割れたセカイの中、今俺の目が捉えている、ラクガキ

だらけの木で輝く『点』、それの大きさは、まさに『点』としか呼べないようなもの。

 ……実際なら、動く的を相手に、身体のどこかにあるそんな小さな『点』に当てなけれ

ばいけない。

 そうでなければ、役に立たないのだから。

 ――まあつまり、現状では起死回生の一撃になりうるかもしれないけれど、それほど期

待はできないレベルの『隠し札』でしかないわけだ、これが。



「精が出ますねぇ、遠野君」

「はは――まあ、自分が生き残る為だったら、ね」

 唐突に感じた気配と共に、後ろから聞こえる声。はむはむと何かを食べる音も聞こえる。

 声だけで……いや、気配だけでも誰かは分かる。俺にとって、大切なヒトの一人。

 今の遠野志貴を構成する、主たる要素でもある一人。

(ああ、臭いだけでも分かるかな?)

 鼻につく、香辛料の香り。

 嗅ぎ慣れたスパイシーなソレに、ついついそんなことを考える。

 自然と頬が緩む。

 眼鏡をかけ直して振り向き、ソコにいる人物が予想というか予定通りの人物であること

に、それでも安堵してしまう自分が可笑しかった。

「でもやっぱり、まだ上手くいかないみたいだ――シエル先輩ほどには」

 ソコに立っていたのは、やっぱりと言うか、シエル先輩(カレーパン装備)。

 ほふほふとまだ熱いカレーを溢さず口に入れながら、制服姿の先輩は苦笑して俺を見る。

「そりゃあ、私だってソレが専門ですし、ずっと訓練だってしましたしね……。そんなに

簡単に遠野君に追いつかれる訳にはいきませんよ」

 揚げたてカレーパンを頬張りながら、小首を傾げて苦笑する先輩。

 ――何か、カワイイ仕種だ。

 思わず見惚れてしまう。

「まあ、もっと本番で使えるくらいのレベルになるまでは、やっぱり切った張ったの方が

向いてるみたいだね」

「そうですねー、接近戦なら『点』だけじゃなくて『線』も狙えますしね」

 何より、遠野志貴の身体は、バケモノ相手に(『直死の魔眼』のお陰とはいえども)接

近戦を挑めるだけのスペックを多少なりとも持っているのだから。

「んー、頑張りやさんの遠野君には、知得留先生がお手本を見せてあげましょう♪」

 そう言って、もうカレーパンを食べきってしまったらしい先輩は、愛用の投擲剣――

『黒鍵』を三本取り出し、その手に構える。

 ……今、プリーツスカートの下から『黒鍵』を取り出していたように見えたけれど――

いやいや、きっと気のせいだろう。そう考えとけ。

「いきますよー♪」

 四次元に悩む俺をそっちのけにした先輩は、明るい掛け声と一緒に大きく腕を振りかぶ

って、第一球――、



 ずどんっ!!



 ……何で三本投げたのに、音が一つだけなんだ!?

 俺の投げたスローイングナイフを蹴散らし、折り砕いて、三本の『黒鍵』が小さな白丸

のど真ん中を深々と貫いている。

 剣先どころか、その半ばまでが、木の裏側から姿を見せていた。非常識なまでの威力。

 『鉄甲作用』とか言う、特殊な投擲法。純然たる体術の部類らしい。

 鍛えれば、勿論俺でも使えるとのことだ。

 ……一体どれだけの訓練を積めば、それだけのことができるのかはワカラナイが。

「こんな感じで投げられれば、遠野君ももれなく『弓二号』の異名と共に、『埋葬機関』

からスカウトが」

 うわネーミングセンス最悪だよ。

「お断りします」

「――ですよねー」

 間髪おかず、即効マッハで断る俺に、先輩は笑って「それが当然」といった態度で頷い

てくれた。

 その後、小声で「あんな変態陰険のいる場所に、遠野君を所属させるわけにはいきませ

んしねっ」とか言ってたのが、少しだけ気になったけれど。



「ところで、先輩」

「どうしました、遠野君」

 俺に向かって、得意げな顔を向ける先輩。

 満足感で満ち溢れている先輩に対して、俺はこれからあまりに過酷なことを告げなきゃ

いけない。

 それが、ココロ苦しい。

 けれど、言わなければ。それが遠野志貴に科せられた責任であり、義務だから――。

「……ちょっぴり、ヤリスギ」

 引きつった笑みを浮かべて、俺は的になっていた木を指さす。

「あ」

 俺の指の示す先に先輩は視線を向けて、そしてやっぱり引きつった笑みを浮かべた。

 だって、それ以外にどういう表情をすれば良かったんだろう?

 ――ソコには、先ほどの『黒鍵』に付帯した『火葬式典』の効果で、激しく燃える哀れ

な木の姿があった。



 ……結局その後、慌てて二人で火を消した。

 全て消える頃には、哀れな木はあえなくご臨終。

 この訓練自体、秋葉に見つかればウルサイので、遠野家の庭の中でもなるべく本邸から

離れた場所で訓練していたのだけれど、ソレが幸いだった。

 もし、こんなボヤ騒ぎが見つかったら、秋葉がウルサイどころか髪の毛を紅く染めて微

笑んできそうだ。

 後で、琥珀さんにお願いして、隠蔽工作を手伝ってもらおう。

 ……代わりにどんな『お願い』をされるかと思うと、ちょっぴりオソロシイ気もするけ

れど。





「ねー、先輩ー」

「何ですかー?」

 屋敷へと脚を向ける俺。それと、先輩。

 俺はともかく、先輩は遠野家の人間じゃないから、きっとまた秋葉と会ったら口論にな

ったりするんだろう。

 秋葉がこういった場合で先輩やアルクェイドに絡まなかったことはないし。

 それを仲裁することになる手間を考えて、少しだけゲンナリとする。

 思わず、何か有名な歌の歌詞を考えてしまう。

 そのまま歌詞の通りに空を見上げて、そしてまだ夜闇に溶け込む前の朱色が残っている

のを見て、ふと先の他愛もない考えを思い出す。

 ソレを、先輩に尋ねてみることにした。

「先輩、夕暮れって、何か血の色に似てると思わない?」

「あ、そうですねー」

 かくもセカイは傷だらけ、ですか。そんなある意味物騒なことを呟いて、ムムムと眉を

寄せる先輩。

 しばらく唸っていたかと思えば、何かを閃いたのだろう。手を打ち合わせて、面白げな

笑顔を見せる。

「……でもそうすると、傷だらけで万年貧血気味のセカイは、きっと誰かにレバーでも食

べさせてもらってるんでしょうかね」

 何と言っても、これだけ血を流しても、まだしぶとく生きてるんですから。

 先輩のトボケタ言葉が可笑しくて、そしてセカイがどこかのダレカに似ている気がして、

俺は思わず声を上げて笑ってしまったのだった。



【End.】



後書き:

はじめまして、慣太郎と申します。

普段はとらハとかでSSを書いたりしてるのですが、たまに月姫でもSSを書いてます。

今回投稿しましたこれも、暇な時分に「志貴の日常生活ってどんなだろ?」とか考えなが

ら書いてたものです。

今後、このシリーズで書くとすれば、やっぱり日常風景的な、どこかほのぼのしたものを

書くのではないかと思います。

よろしければ、今回のこれにつきまして、感想等頂けますと幸いです。それでは。


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