今日まであった中間試験がやっと終わった。
内容は・・・まあ許容範囲らしい。
今朝、悪い夢か何かを見た気がしたので今日の試験に響くのじゃないかと不安だったが、杞憂だったようだ。
結果が悪いと秋葉に無期限の外出禁止令を出されそうなので
試験勉強を学校ではシエル先輩に、
屋敷ではシオンや琥珀さんに見てもらった。
さらに試験期間開始前に
「試験が終わったら必ずおまえとデートするからそれまで我慢してくれ」
と、駄々をこねるアルクェイドを説得したのが功を奏したのか、何とか外出禁止令は防げそうだ。
午前中に試験が終わって夕方からアルクェイドとデートする約束だったので、一度屋敷に帰って夕方からいつもの公園で待ち合わせする予定だった。
屋敷に戻ると秋葉とシオンが居間でお茶を飲んで待っていた。
「おかえりなさい、兄さん。今日で試験は終わったはずですよね?」
「うん、そうだけど」
「志貴、今日は琥珀が質のいいセイロンの葉を手に入れたのですが飲みませんか?」
「頂くよ、シオン。そういや翡翠と琥珀さんは?」
「二人は今買い出しに行っています。
兄さんは今日まで試験勉強でとっていた夜食のせいで食生活が乱れていたでしょう?今日は張り切ると琥珀が言っていました。」
「へえ、それは楽し・・・・・あ。」
しまった!今日はアルクェイドとの約束が・・・・。
「どうかしましたか、兄さん?」
「いや、そのぉ・・・・」
言葉を濁す俺を見て途端に秋葉の表情が不機嫌になる。
「・・・・兄さん。今から何かご予定でも?
まさかあのアーパー吸血女の所へ行くのですか!?
それともカレー先輩の所に!?」
イヤ、秋葉サン?髪ガ紅クナッテマスヨ。(汗)
するとこっちも不機嫌なのに何故か顔が真っ赤なシオンが、
「秋葉、志貴は真祖の姫君と出かけるようです。」
シオン。君はもうエーテライトを使わないって言ったじゃないか?(泣)
「・・・ふふ、あの泥棒猫。殺しときゃよかった。」
「あはー、どっかで聞いたことのあるセリフですねー。」
「志貴様、ひどいです。」
突然の声に振り向くと今にも泣きそうな、というかもう既に泣いている翡翠と、
どこか壊れたような微笑を浮かべた琥珀さんが立っていた。
・・・うう、もう人形としてではなく、『琥珀』という一人の人間として生きると誓ってくれたのに。
「それとこれは別ですよ☆恋する乙女の嫉妬は怖いのです。」
楽しそうですね、つーか、心が読めるのですか、琥珀さん?(死)
「・・・琥珀とのことはひとまず置いとくとして、
『お兄様』には遠野家の長男たる自覚を再確認させる必要があるようね。
翡翠、『お兄様』を地下にお連れして頂戴。」
「志貴様を監禁です。」
「秋葉、私もぜひその場に立ち会いたいのですが・・・。
・・・フフフ、まさか新しく考案した、エーテライトによる捕縛術を志貴で試す時がくるとは」
「あはー☆、縛られて怯えた志貴さんに新しいお薬のテストをするのは萌えますねー。」
四人が四人ともどこか悦に入った表情で凶悪なオーラをまといながら近づいてくる。
・・・そうだ、レン!レンはどこだ!?今この状況で味方はお前しか・・・
「レンちゃんならこの時間近所に出かけてますよ。きっと猫の会合でもあるんじゃないですか〜」
わずかな希望は完全に崩れ去った。
・・・ダメダダメダダメダ!!コノママデハ打タレル、喰ワレル、犯サレル〜!?
そう七夜の本能その他諸々の直感を感じ取った俺は壁なり床なり『殺して』逃げようと魔眼殺しの眼鏡を外して・・・・
―――――――目の前が真っ暗になった。
ガタッ
地面に膝がつく。
アレ・・・久々にきたのかな・・・
「兄さん?兄さん!!?」
「志貴!どうしたのですか!?」
「志貴様!!しっかりしてください!!!」
「―――翡翠ちゃん!!私の部屋から・・・」
「・・・・あ――みんなそんなに心配しなくてもただの・・貧・・・け・・」
・・・ちょっとパターンが違う感じがするけど、久々に重度の貧血に襲われて俺の意識は沈んでいく。
この眼が『直死の魔眼』となる原因となった8年前の事件。その時から続いてきた貧血。
それが以前夢の中で俺の死の象徴である『奴』を殺してから滅多に起きなくなっていたので、もうそんなに意識しなくとも大丈夫だと思っていた矢先の出来事。
ああ、こりゃあ一気に意識を持っていかれるな、と何処か他人事のように考えながら、俺の意識は完全に闇に沈んだ。
「今日はどこに連れてってくれるのかな♪」
少し赤みを帯びてきた秋空の下、純白の吸血姫アルクェイドは公園のベンチに腰掛けていた。
1週間ぶりに彼女が待ち焦がれる男、遠野志貴に会えるということで嬉しくて嬉しくてたまらないといった様子で落ち着きがない。
彼女は実はもう1時間も前からここにいる。約束の時間まであと2時間半、つまり計3時間半も待つことになる。
だがそれは退屈であっても苦にならない。
彼を待つことは楽しい。それに楽しいことは待ったほうがより楽しくなると彼女はわかっているからだ。
―――――――今日は志貴と映画に行った後、マンションに帰ったら彼に特製ラーメンを作ってもらって、その後はベッドで・・・・。
ウフフ・・・とつい、にやけてしまう。
気のせいか彼女の耳から猫の耳のようなものが生えているような気がした。
公園を往来していた人々がそれを見て早歩きしだしたような気がしたが気のせいだろう。
約束の時間まで1時間までを切ったとき、ふと知っている気配を感じた。
レンである。かつてはアルクェイドの、そして今は志貴の使い魔だ。
「あれー、レンどうしたの?・・・・猫の集会?あなたそんなものに出てたの?」
彼女は猫をベースにした使い魔なので人と猫の姿の両方を使い分けることができる。
(こくこく)
「ふ〜ん。・・・あ、今志貴を待ってるんだけど一緒に待ってみる?」
(・・・・こく)
「じゃあ、一緒に待とうね♪・・・あ、夜は邪魔しちゃ駄目だよ。今日は私が志貴を独り占めできるんだからね」
(・・・・むー)
「えへへ〜」
二人のほのぼのとした会話(念話?)は、端から見ると猫とそれに話しかける主人にしか見えなかった。
しかしその雰囲気も長くは続かなかった。
「―――――――妄想に浸るのはそこまでです、遠野君に付きまとうアーパー吸血鬼」
その声にパッと振り向く二人。
その視線の先には街灯のてっぺんで立つ誰かがいた。
夜の巡回の時に着るカソックを纏ったシエルだ。
「なんであなたがいるの、シエル?私、今日は志貴と朝まで色々忙しいからあっち行ってくんない」
「(ピクッ!)そ、それは聞き捨てなりませんね、アルクェイド。
あまり認めたくはないですが、
いくら遠野君の恋人が『現段階』であなただとしても、
遠野君が人外魔境に堕ちるのは見逃せません。
そうなる前に今日こそ決着を付けます!!」
そう言ってシエルはいつも通りどこからともなく対吸血鬼用概念武装『黒鍵』を大量にとりだしアルクェイドに投げつけた。
爆発音。
いつのまにか公園にいた人々が消えていた。どうやらシエルが何らかの結界を張っていたようだ。
いちおう志貴の使い魔であるレンがアルクェイドから離れているのを確認してから投げているので手加減は一切なし。
アルクェイドはそれらを素手で弾くと、面倒くさそうにシエルに言った.
「何すんのよシエル。何か今日のあなた機嫌悪くない?
もしかして志貴に振られたのかニャ?」
「そんなことありえません!!」
「でもヒステリックだニャ」
「そ、そんなことありません!
試験勉強中の図書室というシチュエーションの中、
二人っきりでいい雰囲気になっていたはずなのに遠野君がせまってくれなかったとか、
学校帰りに誘っても『試験勉強があるので』って断られたせいで、
せっかく一緒に食べ歩きするために用意しておいた『メシアンの揚げたてカレーパン引き換え整理券(予約制)』が無駄になったとか、
さらにどこかの誰かさんたちに『カレーを食べずにスパゲッティを食べる先輩は先輩じゃない』と言われたとか、
そんなことでイライラしてるわけないじゃないですかああーーー!!」
「・・・最後のはよくわからなかったけど、やっぱり機嫌悪かったのニャ。
そんなことだから『飛んで立ち去るシーンはどこぞのモビル○―ツみたい』とか言われるんだニャ〜。
や〜い、メカカレ〜、機動神父しえる〜」
「※♨〠〜〜〜!!!!」
「ニャハハ〜!」
怒りのあまり人間の域を越えた声が出るほどに切れたシエルは、一度に黒鍵を投げる数を3本から8本に増やして手当たり次第に投げてきた。
それに対してアルクェイドはそれを避けたり弾いたりするのに必死でもどこか楽し気だった。
そのころレンはこの一連の騒動を遠巻きに見てばかばかしく思っていた。
と同時に、彼女のマスター、遠野志貴が早く来ないかなあ、と思う。
彼女としては愛するマスターに早く来てもらって撫でて貰ったり、
一緒にケーキを食べたり、
夜は彼の夢の中で可愛がって貰ったりしてほしかった。
昨日は何故か彼が夢を見なかったせいで若干欲求不満である。
だから今夜は、現実の方は元マスターに譲るが、
夢の世界では・・・・・・イヤン、マスターそれ以上は(略)
(早くマスター来ないかな?)
彼女もまた志貴の事を待ち焦がれており、
とりあえず彼が来たら喉でも撫でてもらおうと思った次の瞬間―――――――
―――――――自分の、心の底から愛する主の意識が完全に途絶えたことを感知した。
(フフ、志貴を待つ間にシエルをからかうのも楽しいニャ〜。)
いつも志貴を待っている間、彼のことを想うのもいいが、
こうやってシエルと遊ぶのも悪くないな、と思っていた。
だがシエルもスタミナ切れしてきているようだし、
そろそろ志貴が公園に来るころなのでもうここら辺でやめようと判断したその矢先、
レンの念話が彼女の頭に入ってきた。
(何、レ・・・わ!ち。ちょっと落ち着いて話して・・・・え)
「ハア・・・ハア・・・
・・・まだ決着がついてま・・・ゼェ・・・・せんよ、アルクェイド。
・・・・・・て、ど、どうかしましたか!アルクェイド!?」
泣いていた。
「ひっく、グス・・・ジ、ジエルぅ。志貴が、志貴がぁ・・・・」
「落ち着きなさい!遠野君がどうかしたのですか!?」
「レンがね、・・・グスッ、志貴の意識をないって・・・呼びかけに反応しないし、深層意識にも・・・は、反応が・・ないって!!」
「!!・・・・至急遠野家へ行く必要があるようですね。
遠野くんなら大丈夫です。
あそこには感応能力や共有能力、アトラス最高峰の錬金術という能力を持つスペシャリスト達がいるのです。
万が一彼女らに手におえない事態でも私たちが行くまでは持ちこたえるはずですよ。
私の魔術に、少量ながら『あのとき』にあなたが飲ませたあなたの血、
これら全ての相乗効果で治せないものなどないはずです」
「でも・・・・でもぉ・・・・」
「いい加減にしなさい!!」
シエルの激昂。
それにアルクェイドは驚く。
「しっかりしなさい!あなたは自分が何なのかわかっているでしょう!
世界最高峰の精霊種にして真祖の姫君アルクェイド=ブリュンスタッド!!
あなたがしっかりしないと!!遠野君が助かる確率が減ってしまうし・・・しっかりしないと・・・遠野君が悲しみます」
・・・そうだ。今、私がしっかりしないとダメなんだ
志貴は私を幸せにしてくれると約束した。
だから私は幸せになる『義務』がある。
「シエル、ゴメンね。私が悪かった。私がしっかりしないといけないんだよね」
「・・・わかったようですね。では行きますか。遠野君のところへ」
「うん、急ごう!」
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(あとがき追記)
この話はアルクェイドGoodエンド後、琥珀エンド後、メルブラ後を想定しています。
後々らっきょとクロスオーバーさせる予定です。
ちなみに『どこかのだれか〜』のネタは某大手提示板を見ていただければ
わかると思います。
・・・・ごめんなさい。シエル先輩は大好きです(汗)