大変なことになった。
俺を追っ手の死者から助けてくれた女が、自分を抱いて欲しいという。
包帯ぐるぐるまき状態の俺は、突然のことにベッドから身を起こしたまま、呆気にとられて情けないことに声もだせない。
女は、見た目14歳前後、黒いレースのセーターを羽織った人形みたいな女。
梟がやかましく泣き喚く夜、女はベッドの側に突っ立っていて、夜這いにやってきた、らしい。
困った。
断っておくが、俺は幼女趣味ではない。
絶対に。
まじで。
ほんとだってば。
しかし、こまったことに、俺の横で突っ立っている女は、おとぎの国から飛びだしたような絶世の美女なのだ。
床にまで届く長いナチュラルブロンドの髪に、白い磁器をおもわせる肌。つぶらでそのくせ大きな赤い瞳が、めちゃくちゃかわいい。
今すぐ押し倒した……いや、だから待て俺。
わざとらしく咳払いをして、俺は不測の事態の収拾にかかる。
「いや、おまえさんには、すごく、とっても、空前絶後に感謝している。
あのままだったら俺は死者の餌になってた。
だけど、今すぐ抱けっていわれても、その、ぶっちゃけ困るぞ。 お互いの気持ちもあるしな。
もっと自分を大事にしろよ」
俺は自分でも感心するほど、良心的で節度ある説得をした。
ギンギンな自分のあちらさんを抑えるのにホトホト苦労するが、だからといって、見た目中学生に近い少女に手をだすのは社会的にまずいとおもう。
「……あなたは、私がきらいなの?」
アルトルージュは目の端に涙をにじませて、肩をふるわせて尋ねてくる。
おいおい、反則だろ。
そんな特権行使の可愛すぎる仕草をされたら、俺の脳のシナプスは一本残らずショートして焼き切れちまう。
「お願い。 傲慢なのはわかってる。 それでも私、あなたに愛されたいの」
目をつぶり、アルトルージュは言葉を振りしぼる。
このとき俺の脳内で、部屋の隅っこに置いてある魔剣アヴェンジャー似の狐天使と狐悪魔の、壮絶な攻防戦がはじまった。
(やっちまえよ! こんなチャンス、二度と御目にかかれないぜ〜!)
(うむ。 僕ちんもまったくもって同意見!)
さいしょから攻防戦になっちゃいなかった。結局、俺は両方の意見を取り入れることにした。
もう、なんとでも言え。
彼女を受け入れることにした俺は、いきなり事におよぶのも面白くないので、少し意地悪をする。
「じゃあ、先に脱げよ」
「え?」
「当たり前だろ。 言い出しっぺはおまえさんなんだからな」
意地の悪い俺の要求に、アルトルージュのくりくりした丸い瞳は泳ぎ、指をもじもじさせて途端におろおろしはじめる。
自分でもなかなか鬼畜だとおもうが、余裕を失っている女の姿は見ていて楽しいものだ。
ましてやそれが、死徒の姫さまであればなおさらのこと。
アルトルージュは顔をまっかっかにして頷くと、たどたどしい手つきで服を脱ぎ始めた。
羽織るように着ていた黒いセーターが、はらりとカーペットに落ちる。
その下にはクリーム色のドレス。アルトルージュは肩をだすようにして脱いでいく。
窓から差し込んでくる月明かりに照らされて、真っ白い肌があらわになった。
雪のような透明度のたかい肌色に、俺の心臓はビート刻みをはやめ、血液が全部集まって破裂しそうになる。
恥らう少女の姿に、不覚にも、生唾を音が出るほど飲み込んでしまった。
純白の下着をつけるアルトルージュは、まぶしすぎるほど綺麗だった。
恥ずかしさが極限まで達しているのか、アルトルージュは小ぶりな胸を両手でかくしたまま動こうとしない。
「こいよ」
俺は手招きで、アルトルージュをベッドへ導いた。
向かい合うように、アルトルージュは俺の前でしゃがみこむ。
伏せ目がちで、ちょこんとお座りするアルトは、等身大のフランス人形。
こんな綺麗なものが、生きて鼓動を打っているのがまったくもって不可思議だ。
「あなたも、脱いで」
羞恥を押し殺してむけられる要求。確かに、女を先に脱がせておいて自分が服を着たままなのはイエローカードだ。
俺はTシャツを乱暴に脱ぎ、ジーパンに手をかける。
ええい、ままよ。
一気に自分の身ぐるみをはいで、俺は堂々と、真っ裸であぐらをかいて座り込んだ。
邪魔な包帯も、復元がすすんでいたのでとっぱらう。
互いに一糸纏わぬ姿になった。
しばらく、俺たちはみつめ合って硬直する。
想像どおりなら彼女はきっと初めてだろうし、いざこうなると俺も手を出しづらい。
アルトルージュの表情は、裸の俺をみたまま完全に固まってしまっている。
俺はこのフリーズ状態を解くべく、俯くアルトルージュを少し乱暴に抱き寄せた。
彼女は驚いた声をあげて、抱きしめた瞬間むずがって体を震わせる。
アルトルージュの体は、余裕で両腕を回せるくらい小さくて、彼女の滑らかな肌の感触が直に伝わってきた。
肌はとれたてのラ・フランスのようにすべすべしていて、肌をあわせて抱いているだけで、きかん坊がいきりたってくる。
「……エンハウンス」
しばらくして、振り絞るように彼女は俺の名を呼んだ。
彼女の肌の感触に夢中になっていた俺は、ふと我に帰る。
アルトルージュは、林檎のように真っ赤になった瞳で、俺の、あれを、じっとみつめていたのだ。
それに気がついた俺は、顔から火が出そうになった。
アルトルージュは消え入るようなか細い声で、呟いた。
「……触っても、いい?」
俺の目は、きっと漫画みたいに点になっていたとおもう。アルトルージュは俺のモノをみつめて、声がふるえていた。
未知との邂逅に怯えながらも、多少なりとも興味はあるようだ。
「おまえさん、意外と」
「いや! いわないで」
途端に彼女は首をふって目を閉じた。もう、恥ずかしさも限界をこえているのだろう。俺はいじわるするのをやめて、彼女の手を握った。
「あ……」
おびえる彼女の欲しがっていたところに、導いてやる。
アルトルージュの小さな手はひんやりと冷たく、触れられただけで気分が高揚する。彼女は困惑極ってか、握る手が小刻みに震えている。
「好きにしていいぞ」
アルトルージュは俺の言葉に少し安心したのか、微笑をうかべた。幼子的な背徳感も相まって、破滅的にかわいい。
アルトルージュの指は、俺の先端を恐る恐るつついたり、先端に軽く触れたりする。
はじめて玩具をもらった子供のような姿に、不謹慎だが笑いそうになった。
馴れない手つきでしごかれる感覚はかなり新鮮なもので、体の奥が高ぶっていく。
アルトルージュは馴れてきたのか、だんだんスピードをあげてきた。
う。
俺はもう夢中になって遊んでいる、彼女の手をとめた。
途中で遮られたアルトルージュはかなり不満なのか、頬を膨らませている
「……ここまでやらせておいて、案外だらしないのね」
む。
少しカチンときた。
自分から触れたいとぬかしておいて、その言い草はないだろ。
「だらしないかどうか、自分の口で試してみろよ」
言うがはやいか、俺はアルトルージュの頭を両手でつかむと、驚いた声をあげる彼女に構わず、可憐な口を強引に導いた。
ヌメッとした湿り気が、熱さとともに俺の分身を包み込んでくる。
息がままならない彼女に構うことなく、俺は無理やり彼女に口淫させる。
くぐもった声をあげ、苦しむ彼女には悪いとおもうが、ここで夜の主導権を渡すわけにもいかない。男の沽券にかかわる。
しゃぶらせるスピードを徐々に上げる。
アルトルージュの顔はますます苦悶の色を濃くし、塞がれている口からは声にならない喘ぎが、先端に響いてくる。
彼女の目尻にたまる涙が堰をきりそうで、これ以上続けるとこぼれてきそうなので、開放することにした。
抜いた瞬間、彼女の下唇と俺の先端とのあいだに、透きとおった糸ができる。
放出はしていないが、
しゃがみこむアルトルージュは、苦しそうに咳き込んで、口元を抑えている。
余程苦しいのか、飲み込めないものを飲み込もうと頑張っている。
その努力も空しく、耐え切れなかったアルトルージュは、大粒の涙をこぼしはじめた。
俺は自分の節操なしの行動に、さすがに後ろめたさを感じた。
このままにはしておけない。ベッドの隣においてあるティッシュペーパーを何枚かまとめてとる。
彼女の口の近くまでもっていき、ニガイもの(くどいようだが出してはいない)を吐き出させるように勧めた。
だが、アルトルージュはニガイものを口に留めるのが精一杯で、外に出す余裕すらなさそうだ。
しょうがないので、俺は自分の人差し指を、彼女の唇にそっと触れさせた。
そのまま指を口腔へすべり込ませ、ゆっくりとなかのニガイものを掻き出していく。
「ん……」
アルトルージュは目をつぶって、俺の行為を素直に受け入れた。
爪をたてずに、口の中を傷付けないようにしながら、苦い液体をかきだしてティッシュにとる。
しみこんだ唾液とニガイものの混じった液が、テッシュに透明なシミをつくった。
指を出し入れするたびに、アルトルージュの桜色の頬が飴玉をなめているようにぷくっと膨らんで、なかなかかわいい。
ニガイものは粗方とりおえ、用の終えたティッシュを丸めてゴミ箱に捨てた。
「……はぁ」
荒々しい呼吸で、ぺたんと座ったアルトは肩をふるわせている。双眸は完全に普段の凛々しさを失って、とけかかっている。
しばらくして、目に若干の力がもどったアルトは、ジト目で俺をにらみつけてきた。
「……ひどい」
「ハッ。 だらしなくはなかっただろ?」
つかの間の勝利にひたる俺に、アルトルージュは結構お冠のようだ。
窓の外は、月の明かりが雲に邪魔されて、
彼女の裸体をわずかに照らしていた光も遮られた。
「……いいな」
「どうした?」
「あなたは、自由ね」
アルトの不意な問い。
「自由っていうのも、あんがい不自由なものなんだぜ?」
「不自由にしばられた自由より、ずっといいわ」
雲は、風に流されて、再び淡い光が、彼女の顔をてらしだす。
姫でも、死徒でもない、ただ一人の少女の顔。
「不満があるわけじゃないのよ。
リィゾやフィナは、私に良くしてくれるわ。
今日、城をぬけだしてこれたのも、ブライミッツに頼みこんだおかげなの」
ああ、あのいけ好かない犬っころか。
ちなみにそのワン公は、そとに備え付けの小屋で就寝中だ。
「でも、時々たまらなくなるの。 なにか違うことがしたくなって、たまらない時があるの」
「金持ちの気まぐれか?」
「違う!」
皮肉っぽくいった俺に、アルトルージュは顔を真っ赤にしておこる。
「酔狂で、こんな、こんな恥ずかしいことできない……!」
声を荒げるアルトルージュを、俺はベッドに押し倒した。
「だったら、もう余計なことは考えるな」
声をあげそうになる彼女の肩を両手でおさえつけ、そっと体を重ねた。
火照ったアルトの体から、心音が直に伝わる。
大人と子供くらいの身長差があるから、頭を彼女と同じ位置につける。
恥じるアルトの金髪が、シルクの糸のように白いシーツにまかれた。
真っ白な肌に浮き出た鎖骨に、舌を這わせる。
「あ」
アルトの鎖骨を甘く噛み、ほとばしる快感を追ってなぞってやる。
「今ここにいるのは俺とおまえ。 それだけだろ?」
「あ、ふ」
皮膚の下にある硬い骨が、俺の舌でなぞられるたびに、アルトルージュは淫靡な嬌声をあげる。
香水のような甘い香りが鼻腔をくすぐり、脳髄が甘美でとけそうになる。
鎖骨をいじめていた舌をそのまま今度は耳朶へ持っていく。同時にお留守にしていた右手を彼女の頭に、左手は胸へ。
やわらかい耳のぷにぷにとした感触が、舌を介して伝わってくる。左手は、小ぶりな胸を外周から揉みしだき、桜色の先端を軽くつまんだ。
耳と胸を嬲られ、アルトルージュの喘ぎはますます熱をおびる。
「……私、胸ないから恥ずかし……あっ!」
二箇所を同時に攻められ、アルトルージュは小さい舌をだして軽く気をやっている。
口元からは抑えきれない唾液が筋をつくって枕をぬらし、頬に流れていたそれを、俺は舐めとった。
舐めとってあつめた唾液は、アルトにそのままお返しした。
舌をからめあう激しい接吻に移行した。お互いの歯茎をなめ貪るような激しいものになる。
音をたて、恥も外聞もなく、アルトは積極的に求めてきた。腕を俺の背中にまわし、きつく抱きしめて離れない。
キスをしているさなか、アルトの赤い瞳が揺らぎ、涙の量が増しているのが如実にわかった。
やめるつもりはない。気持ちよすぎる唇のやわらかさは、手放すには惜しい。
唇はそのまま、胸をいじっていた左手を、今度は下にもっていく。
下腹部へ左手をゆっくり滑らした。それに気付いたアルトは、唇を離す。
「……いや、そこ」
初めて触れられる、一度も誰にも触れられたことのない場所。
羞恥に駆られたアルトは足をきつく閉じて、侵入を阻止しようとする。
俺は再び、彼女の唇を力強くうばった。強張っていたアルトの体は、キスで徐々に弛緩していく。
その隙に、俺の指は目的の場所にたどりついた。
しっとりと濡れている花びらが、淫乱に咲き誇っていた。
中指をつかって軽く触れると、アルトは途端に目を見開いて反応する。口はふさがれているので、声は出せない。
花びらの中心に指をもぐりこませると、腰がピクピクと震え始めた。
「ん!」
指をうごかす。
柔らかい花弁は指を出し入れするたびに、あつい粘液がからみつき、そのたびにアルトの声にならない声が俺の口腔で響いた。
内側をこすられる快感に、アルトの顔が紅潮していく。楽しいので、舌をからませるキスと同時進行で愛撫をくりかえす。
段々はげしさを増す愛撫は、いやらしい音をたて、アルトを快感という奈落の底へおとしていく。
入っている指から伝わるのはこまかい襞の列。膨れたかわいらしい突起をいじると、汁はとめどなく溢れてくる。
耐え切れなくなったアルトは、唇をはなして喘ぐ。
「いや、だめぇ!」
「あーあ。 こんなに濡らしちゃって、いやらしいお姫様だな」
「……い、やぁ」
からかわれたアルトは、快感でゆるんでいる顔を両手でかくした。
それでも押し寄せる快楽の津波は、彼女の理性を確実に破壊していく。
白い太腿はこまかく揺れて、背中をつかむ彼女の振るえる手が、もう限界に達していることを暗示していた。
「……もう、やめて。 ……辛いの」
彼女を愛していた手をとめる。
中にいれていた指は関節まで液で濡れて、彼女が感じきっていた証拠だった。
アルトはよほど疲れたのか、胸を大きくふくらませて、吐くように息をしている。
抱擁は解かないまま、その淫らな様子を眺めることにした。
脱力しきって、無防備な女。
それは、死者たちを蟻のように、圧倒的な膂力で撃破する吸血姫ではない。
彼女の淫らな一面を自分が独占しているようで、なかなかいい気分だ。
だが、ここで終わりというわけにもいかない。俺のきかん坊が、いい加減もう限界だ。
彼女の上気した頬に手で触れる。アルトは俺の意図を理解したのか、呼吸を整えて無言で頷く。
「いいんだな。 もう後戻りはできないぞ」
「……うん。 愛して」
賽は投げられた。
自分の身をおこし、正常位の格好で落ち着く。彼女の太腿を両手でひらいた。
間近に目にする秘所は、嚥下してしまうぐらい綺麗な、ほんのり霞みがかった桜色をしていた。
割れ目のなかの突起は真っ赤に充血していて、俺の受け入れを待っている。
入り口に先端をあてがう。表情が強張るアルトに気を遣いながら、ゆっくりと、腰を沈めていった。
徐々に沈んでいく肉棒から、熱くてやわらかい壁が締め付けてくる。
「い、いたい……!」
奥にいくまでの抵抗はことのほか強い。アルトはこの間にも、目をきつく閉じ、歯を食いしばっている。
彼女の白魚のような手は、両方ともシーツをきつくにぎりしめ、裂かれるような破瓜の傷みに必死で耐えていた。
なるべくはやく、痛みから開放してやらないとまずい。
肉棒を戻すことなく、一定の速さで、一気に押し込んだ。
「あぁ!」
アルトの嬌声とともに、全部中にはいった。
花弁から、透明な液に混じった鮮血が、肉棒の襞をつたわって流れ出てきた。
彼女の震える背中に手をまわし、包み込むように抱擁する。
なめらかな白い肌の感触は、一つになった快感とあいまって、例えようもない情感が奥底からわきでてくる。
「動くぞ」
繋がったばかりで、泣いているアルトルージュの返事も待たず、俺は律動をはじめた。
「あ! うぁ!?」
いきなり動かされたので、アルトの意識は襲ってくる激しい波に、ついていくことができないようだ。
出し入れをするごとに、花弁が粘液とともにまとわりついて、肉棒をきつくこすられる。
この快感は、異常だ。
「あ! あ! エンハ……ウンス……ああっ!」
アルトの喘ぎのボリュームは、回を重ねるごとに高ぶっていった。
花びらの奥から染みでる液が潤滑剤の役割を果たし、アルトも腰を回すようにつかい始める。
はじめての快感を必死でうけとめているアルトの健気な姿に、否が応にも興奮する。
深く、アルトの奥にうちつける槌は、彼女の神経を鋭敏にさせている。
小ぶりな胸の中心にある乳首がたち、アルトは俺の動きにあわせて、体をしならせる。
弓のように反り返ったラインは、美術品をおもわせる美しさ。
「私……変、ん!……なにか、くるの……怖い……!」
「怖がるこたない。 そのままいっちまえ」
「やぁ……!」
アルトルージュに覆い被さって、荒い抽送をくりかえす。
根元までいれて、抜いた時にアルトは感極まったようにあえぐ。
抜く時のほうが感じるみたいだ。
ならば、
「ひゃっ!?」
繋がったままアルトルージュの上体を起こす。俺の両足はベッドに投げ出して、アルトを上にもっていき、そのまま抱いた。
対面座位の格好になる。アルトの身長は低いから、このほうが抱きしめてもしっくりとくる。
涙をにじませて、アルトは懇願するようにみつめてくる。
「エンハウンス……あっ、あたる、の……」
正常位とは違うところをこすられて、また違った淫悦にひたっているようだ。
アルトの腰をつかみ、あげる。
「あ!」
持ち上げたところで手を緩め、そのまま彼女の自重にまかせて沈めた。
「ああっ!!」
一際甲高い声をあげ、アルトは体をくねらせる。
互いに汗ばむ肌をすりあわせて、ベッドのスプリングのはずみがはやくなる。
繰り返し抽送され、つきあげる刺激に我慢できないのか、アルトは俺の左肩に歯を立てた。
血が、流れる。
少し痛いが、目を瞑って必死に耐えているアルトが愛らしいので、そのままにしておく。
「ん! んぅ!」
締め付けが一団と強くなり、一つになっている部分が痙攣しはじめる。
もう、限界か。
「だすぞ」
「……んぁ……あう……」
牙を突きたてたままでは返事できるわけもないだろうが、俺は肯定と受け取った。
アルトの奥に、深く突き上げるような一撃を放つ。刹那、頭が真っ白になった。
「あぁ、ああああああ!!」
黄金の髪を淫らに振り乱して、アルトルージュは達した。
彼女のなかを、俺の白い濁流が満たし、噛み付いている牙も、同時に細かく痙攣している。
背筋をつきぬける電撃のような快感がほとばしり、
股間はアルトの液で濡れて、花弁は俺のものをつかんではなさない。
赤い瞳から涙が溢れ、俺の肩を濡らす。
「あなたの……赤ちゃん……欲しい……」
脱力したアルトが、意識を手放すまえに呟いた願い。
繋がったまま昏倒したアルトを抱きかかえた俺は、やりきれない焦燥にかられてしまった。
生物的に強者である死徒同士が交配できる確率は、
限りなく、ゼロに近い。
目に、眩しい光が差し込んでくる。
気がつけば、もう太陽は昇っていた。
お日様は苦手だけど、私は素直に『おはよう』ということができた。
ベッドから身をおこすと、彼の姿はない。
一瞬不安になったけど、扉越しに彼の鼻歌が聞こえてきた。
良かった。
昨日の燃えるような逢瀬を思い出すと、私は急に恥ずかしくなって、枕に顔をうずめた。
好きな人と愛しあうのが、こんなに嬉しいことだったなんて知らなかった。
私の粘液でぬれていた部分は、激しい情交があったことがなかったように綺麗になっている。
彼が、寝ている間に私の体を拭いてくれたみたい。
雑把にみえるけど、優しい人。
窓から、トントンと音がする。
あ。
円らな黒い目をしたブライミッツ・マーダ―が両前足をかけて、じっとわたしをみていた。
気のせいか、じと目で睨まれているような気がする。
一晩中、外にほったらかしにしたから当たり前よね。
ごめんね。 あとで血液あげるから、許して。
私は目配せで魔犬にお詫びした。
「おーい」
彼が呼んでいる。
私はあわてて飛び起きると、脱ぎ捨てていた服に袖を通した。
甘い香りが立ち込めるキッチンでは、白いTシャツに赤いバンダナを頭に巻いている彼が、フライパンを振るっていた。
彼は、私に気がつく。
「おはようさん。
小腹空いたろ? お姫様のお口にあうかどうかわかんねえけどな」
彼が炒めていたのは、山小屋に貯蔵されていたジャガイモ。
ぶつ切りにして、オリーブオイルと一緒に加熱して、塩コショウで味付けしたシンプルな料理。
彼とテーブルに向かい合って、朝食をとる。
皿にもられたクリーム色の芋にフォークをつきさすと、スポンジのように抵抗なく突き通る。
口にほおばると、油で表面は香ばしくパリッとした食感、なかはホクホクしていて美味しい。
「俺は百姓だから、昔はいつもこんなもんばっかり食ってた。 ま、今もだけどな」
彼はそういうと、テーブルに肘をついて、ジャガイモを乱暴に口に放り込んだ。
フィナのつくる料理も美味しいけど、彼の料理も美味しい。
毎日こんなに美味しいもの食べられたらいいな。と私がいうと、彼は苦笑いでやめとけといった。
「貧乏なんて、望んでするもんじゃないぞ」
銀色でぼさぼさの髪をかきあげて、彼は笑う。私は彼の、ただ一人の女になりたいと心の底から願った。
彼が、私の前から姿を消したのは、それから二日たった朝のことだった。