はじまり


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1: 隼人 (2003/08/27 02:22:00)


             【はじまり】


最後に納めたのは、月光に照らされる血をかぶって赤く染まったあの子…


































輝く満月の下、敵を迎え撃つ…

「明るい。あまり有利ではなさそうね…」

木々の間を渡りながら、隣を跳ぶ姉に声をかけた

「しかたないわ、降りかかる火の粉は払わないと」

苦笑混じりの答えが返ってくる

姉と私を含め7人の手勢を従え、登ってくる敵を叩く

「けれど、御館様も御館様ね…。」

恐らく、先ほどのやり取りが伝わったのか、ぼやき口調でいう

答えようと口を開きかけ、敵に近づきつつあることを思い口を閉ざす

銃器で武装した相手は、ある意味「混じり」よりたちが悪い

流れ弾・手榴弾...例え、直撃を避けても、私たちには致命的な攻撃

いくら超能力を持ったり暗殺術を磨き上げても、所詮は人間、鉛弾一つですべて終わってしまう

子供の頃、駆けめぐった森。最近では家から出られないことが多く、様子が変わっているかと思ったがそうでもないらしい

気配で分かる…。8人

「無理しないでね…。もし、何かあったら、私たちが御館様に殺されるわ」

笑いを含んだ小声で姉が言う

聞き流しながら、手近な味方に指示を出す

「あなた達は、右翼の4人を叩いて…」

声が伝わった4人の気配が離れていく

「姉さん…。前の4人、私たちで殺るわ」

木々の上の方を跳びながら、下を見下ろす。数の差は4:3で若干不利

けれど、こちらには地の利という大きなアドバンテージがある。罠の作動は新たな敵を呼びかねない

横一列に開いた敵の中央に、真上から突っ込む。

降下時に、手近な敵の頭を掴み着地と同時に地面に叩きつけ首をへし折った

ボギッ…という音ともに声も無く死んでゆく

そのまま、左方向にいる敵を始末すべく突っ込む…

二人目の首をあっさり切り飛ばし、返り血を浴びることなく、3人目を襲う

しかし、跳ね飛ばした首の落ちる音に気づいたのか、銃口がこちらを向く…

やむなく、小刀を投擲して黙らせる

獲物を回収し、残りの一人を始末した姉たちの元へ引き返す

「なかなか、調子いいじゃない。杞憂だったみたいね」

姉に、答えつつ、帰ってこない四人の元へ移動するべく木の上に跳躍した

唐突に、木が崩れる音が響く…

分かれた四人が作動させであろう方角へ向かって木々を渡る













 また、一つ叫び声があがり仲間がバラバラにされる

姉さんはとっくの昔に黙ってしまった

残ったのは、私一人…。結局、たどり着いたときには、四人は既に殺されていた

周りは一面、赤い血の海。ところどころに、何かの造形のごとく不揃いな死体が転がる

あがった息を整え、あごに垂れた汗をぬぐう…

もともと、病弱な身体と分かっていたけれど、今の調子は想像以上に悪かった

相手は、人間ではなく混血…

不意打ちを旨とし、技を鍛えてきたが、敵前に姿を晒しては、さして意味がない

ふと、脳裏に愛しい夫と子供の姿が浮かぶ…

さっき聞こえた、もう一つの遠い倒壊音。あの人が作動させたであろう戦いを思う

「大丈夫、あの人は一族でも有数の使い手、負けるわけがない…」

小さく、口にする

私も、ここで退く訳にはいかない…。覚悟は、とうの昔についていた

いずれ、こうなることは分かっていたのだから

手には、馴染んだ小刀−−「七つ夜」

心の裡で呟く

「ごめんなさい…志貴」

突進し、斬りつける

だが、致命傷には程遠かったらしい

「ふん、芸がない…」

逆に、相手の振るう腕に吹き飛ばされる…

やはり、「混じり」が相手では半端な攻撃はカスリ傷程度にしかならないか…

なんとか、受け身をとって立ち上がる

とはいえ、気力よりも体力の方が先に限界に達したらしい。体の動きが鈍くなる

そうそう、特殊な動きはできそうにない。すなわち、的になるということ…

最後の一撃のために、残った力を溜める。奴が距離を詰めてきた

不意に、仲間の気配を感じる。応援…?

相手が、振り向きそちらへ進んでいく。

木々の間から出てきたその姿を視界に納めたとき、思わず夢であって欲しいと願った

現れたのは、応援どころか、やっと自分の身を守れるかどうかの我が子

奴が、向かっていく。それを、ポカンと見上げている子供

「志貴は、絶対死なせない!!」

その一念で、体が前にでた。溜めた力以上に動ける。足の筋が悲鳴をあげて切れていくけれど、その痛みも気にならない

思わず、叫び声がでる

「志貴!!………………」










血しぶきが舞う。

振り下ろされた腕から、あの子を庇うことができた…

その安堵感だけで、自分の状況なんて気にならない…

その一瞬、最後にあの子を瞳に焼き付けようと目をむける

「志…貴……」











  これは、ある物語の始まりに立ち会ったある人物の話…















このたびは、作品をごらん頂き有り難うございました。
                                       


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