【はじまり】
最後に納めたのは、月光に照らされる血をかぶって赤く染まったあの子…
輝く満月の下、敵を迎え撃つ…
「明るい。あまり有利ではなさそうね…」
木々の間を渡りながら、隣を跳ぶ姉に声をかけた
「しかたないわ、降りかかる火の粉は払わないと」
苦笑混じりの答えが返ってくる
姉と私を含め7人の手勢を従え、登ってくる敵を叩く
「けれど、御館様も御館様ね…。」
恐らく、先ほどのやり取りが伝わったのか、ぼやき口調でいう
答えようと口を開きかけ、敵に近づきつつあることを思い口を閉ざす
銃器で武装した相手は、ある意味「混じり」よりたちが悪い
流れ弾・手榴弾...例え、直撃を避けても、私たちには致命的な攻撃
いくら超能力を持ったり暗殺術を磨き上げても、所詮は人間、鉛弾一つですべて終わってしまう
子供の頃、駆けめぐった森。最近では家から出られないことが多く、様子が変わっているかと思ったがそうでもないらしい
気配で分かる…。8人
「無理しないでね…。もし、何かあったら、私たちが御館様に殺されるわ」
笑いを含んだ小声で姉が言う
聞き流しながら、手近な味方に指示を出す
「あなた達は、右翼の4人を叩いて…」
声が伝わった4人の気配が離れていく
「姉さん…。前の4人、私たちで殺るわ」
木々の上の方を跳びながら、下を見下ろす。数の差は4:3で若干不利
けれど、こちらには地の利という大きなアドバンテージがある。罠の作動は新たな敵を呼びかねない
横一列に開いた敵の中央に、真上から突っ込む。
降下時に、手近な敵の頭を掴み着地と同時に地面に叩きつけ首をへし折った
ボギッ…という音ともに声も無く死んでゆく
そのまま、左方向にいる敵を始末すべく突っ込む…
二人目の首をあっさり切り飛ばし、返り血を浴びることなく、3人目を襲う
しかし、跳ね飛ばした首の落ちる音に気づいたのか、銃口がこちらを向く…
やむなく、小刀を投擲して黙らせる
獲物を回収し、残りの一人を始末した姉たちの元へ引き返す
「なかなか、調子いいじゃない。杞憂だったみたいね」
姉に、答えつつ、帰ってこない四人の元へ移動するべく木の上に跳躍した
唐突に、木が崩れる音が響く…
分かれた四人が作動させであろう方角へ向かって木々を渡る
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また、一つ叫び声があがり仲間がバラバラにされる
姉さんはとっくの昔に黙ってしまった
残ったのは、私一人…。結局、たどり着いたときには、四人は既に殺されていた
周りは一面、赤い血の海。ところどころに、何かの造形のごとく不揃いな死体が転がる
あがった息を整え、あごに垂れた汗をぬぐう…
もともと、病弱な身体と分かっていたけれど、今の調子は想像以上に悪かった
相手は、人間ではなく混血…
不意打ちを旨とし、技を鍛えてきたが、敵前に姿を晒しては、さして意味がない
ふと、脳裏に愛しい夫と子供の姿が浮かぶ…
さっき聞こえた、もう一つの遠い倒壊音。あの人が作動させたであろう戦いを思う
「大丈夫、あの人は一族でも有数の使い手、負けるわけがない…」
小さく、口にする
私も、ここで退く訳にはいかない…。覚悟は、とうの昔についていた
いずれ、こうなることは分かっていたのだから
手には、馴染んだ小刀−−「七つ夜」
心の裡で呟く
「ごめんなさい…志貴」
突進し、斬りつける
だが、致命傷には程遠かったらしい
「ふん、芸がない…」
逆に、相手の振るう腕に吹き飛ばされる…
やはり、「混じり」が相手では半端な攻撃はカスリ傷程度にしかならないか…
なんとか、受け身をとって立ち上がる
とはいえ、気力よりも体力の方が先に限界に達したらしい。体の動きが鈍くなる
そうそう、特殊な動きはできそうにない。すなわち、的になるということ…
最後の一撃のために、残った力を溜める。奴が距離を詰めてきた
不意に、仲間の気配を感じる。応援…?
相手が、振り向きそちらへ進んでいく。
木々の間から出てきたその姿を視界に納めたとき、思わず夢であって欲しいと願った
現れたのは、応援どころか、やっと自分の身を守れるかどうかの我が子
奴が、向かっていく。それを、ポカンと見上げている子供
「志貴は、絶対死なせない!!」
その一念で、体が前にでた。溜めた力以上に動ける。足の筋が悲鳴をあげて切れていくけれど、その痛みも気にならない
思わず、叫び声がでる
「志貴!!………………」
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血しぶきが舞う。
振り下ろされた腕から、あの子を庇うことができた…
その安堵感だけで、自分の状況なんて気にならない…
その一瞬、最後にあの子を瞳に焼き付けようと目をむける
「志…貴……」
これは、ある物語の始まりに立ち会ったある人物の話…
このたびは、作品をごらん頂き有り難うございました。