とりあえずは朝食を速やかに平らげて居間に戻る。
秋葉「ずいぶん早かったですね。ゆっくり食べてもよろしかったのに」
志貴「まあみんなをあまり待たせたくないからさ。それで明日のことなんだが――」
琥珀「やっぱりクリスマスなんだからどっかーん!と行きたいですよね!」
琥珀さんは相変わらずこういうパーティーごとが好きみたいだ。
志貴「とすると・・・あの歓迎パーティーみたいになるのか・・・?」
以前俺がここに来たばかりのころにもパーティーをしたことがあった。
あれを最初に言い出したのも琥珀さんだったんだよな。
秋葉「そうですね。でも今度は私たちだけでなくほかの人も呼ぶことにしましょうか。私の友達も何人か呼びたいですし・・・」
志貴「そうだな、俺も有彦達を呼ぼうかな。そういえば去年まではどんなことをしてたんだ?」
翡翠「――昨年まではご親戚の方々が滞在しておりましたので、一種の社交パーティーのようなものでした」
志貴「ああ、そういえばそうだったっけ。まあせっかくのパーティーに親戚なんか呼ぶことはないよな。身内だけでやろうぜ」
秋葉「当然ですね。あんな人たちとクリスマスなんて二度とごめんです。今年は楽しくなりそうですね」
秋葉は本当に楽しいそうというか期待に満ちた目をしている。
秋葉も親戚たちとは気が合わないといってたからあくまでうわべだけのものだったんだろう。
でも今年からは違う。
本当に俺たちがやりたいパーティーを本当に気が合う仲間内でやればいいんだ。
それはどんなことよりも楽しくて、過ぎ去っても幸せしか残らない時間だ。
志貴「でもそうなると家の中で出来るかな。思い切って外でやるか?」
琥珀「あ、それもいいですね!庭におっきなクリスマスツリーを立てて、外食パーティーみたいにするんです」
秋葉「面白そうね、明日は晴れそうだから屋外でやった方がクリスマスらしいかもね」
志貴「でもクリスマスツリーなんてすぐに手に入るのか?」
翡翠「その点はお任せください。すぐにでも手配いたします」
秋葉「料理の方は琥珀一人で出来る?十人以上は集まるけど・・・」
琥珀「そうですねー。ケーキなんかはツリーと一緒に注文して・・・。後は何とかできそうです」
志貴「まあ・・・こういうときは琥珀さんに頼るしかないからね」
そういった瞬間に秋葉は気まずそうに視線をそらし、翡翠は申し訳なさそうに下を向いてしまった。
志貴「あ、そうだ。先輩にも手伝ってもらえばいいんじゃないかな、料理」
秋葉「だめですっ!」
ガバッ!という勢いで秋葉が怒鳴り込んでくる。
秋葉「あんなわけの分からない人に我が家の敷居をまたがせるわけにはいきませんっ」
相変わらず秋葉は先輩を毛嫌いしている。
はじめてあったときから相性は最悪の二人だったが、時間がたつに連れてだんだんさらに険悪になってきているような・・・。
志貴「でも、パーティーは大勢でやった方がいいだろ?アルクェイドとか先輩も呼ばないと・・・」
秋葉「なんでそんな人たちを呼ばなくてはならないんですか。大体吸血鬼がクリスマスだなんて非常識です」
??「なによー、妹ったら考えがふるーい」
突如、聞きなれたような声が響いてくる。
だが、周りには俺達以外誰もいない。
秋葉「今の声・・・出てらっしゃい!化け猫!」
??「大体吸血鬼ならそっちの方が上手だにゃ。私は一回だけど妹は何十回とすってるにゃー」
姿は現さず、相手の痛いところを的確につく。
こんなまねが出来るのは白いお姫様しかいないだろう。
琥珀「猫さんがしゃべってますねー」
どんなときだろうと琥珀さんはマイペースで微妙にずれてる。
翡翠もいい加減なれたのかいつもの表情を崩さない。
ただ一人、秋葉だけはわなわなと肩を震わせている。
・・・っていうか髪を赤くするのだけは勘弁してほしい。
秋葉「うふふふ・・・ねこさ〜ん、出ておいで・・・?」
秋葉はすでに遠野の血に引き込まれているようだ。
志貴「あ、秋葉・・・。少し落ち着こう。アルクェイドもいい加減出て来いって」
秋葉をなだめながらアルクェイドに呼びかける。
すると、ソファーの裏側からひょっこりと金髪、赤目の吸血姫が出てきた。
アルク「妹は怒りっぽいね。血ばっかり飲んでるから血の気が多くなってるんじゃない?」
アルクは髪が赤くなってる秋葉を気にもせずにさらに挑発を繰り返す。
見れば秋葉の顔はゆがんだ笑みを見せていて今にも崩壊しそうだ。
琥珀「秋葉様、ここは少し冷静になってくださいな。明日のことを決めなきゃいけないんですから」
琥珀さんの呼びかけでやっと冷静になってくれたようだ。
志貴「アルクも秋葉にからむなよ。明日のパーティーに呼んでやらないぞ、そんなだと」
そういうとアルクェイドもしゅんとなって、
アルク「それはやだな・・・大人しくする」
志貴「うんうん、秋葉もいいだろ?」
秋葉「・・・まあアルクェイドさんもシエル先輩も兄さんを助けてくださった方ですし・・・。仕方ありませんね」
とりあえずは承諾をいただいたところで話を進める。
志貴「じゃあ料理は先輩と琥珀さんに任せて・・・。時間は夕方ぐらいからがいいかな」
琥珀「そうですね。やっぱり日が沈んでからがいいと思います」
志貴「うん、じゃあそういうことで。後は何かあるかな」
アルク「はいはい!明日私の誕生日なんだよ!」
突然アルクがはねたように元気よく手を上げて、驚きの事実を口にする。
志貴「誕生日って・・・なんで吸血鬼の誕生日がクリスマスなんだ・・・?」
そういうとアルクはむっとした顔で、
アルク「そんなの知らないわよ。私も少し気に食わないけど、志貴がお祝いしてくれるなら嬉しいんだけどね」
まあ・・・俺以外はこいつの誕生日を祝ったりしないだろう。
先輩だったら、
シエル「吸血鬼の誕生日がクリスマスだなんて・・・!許せません!」
なんていいそうだ。
なんか今の想像はやけにリアルに浮かんできたな。
なんか、先輩の幻影まで見えてきた・・・。
って・・・これはもしかすると・・・
シエル「やはりあなたは殺しておかないといけませんね。あらゆる面であなたは私をいらだたせます」
あわわ・・・なんで先輩まで不法侵入してるんだ!?いつもはドアから来るのに・・・。
しかもすでに戦闘モード。
アルク「それはこっちのセリフよ。せっかくのパーティーにあなたなんかいたら台無しだわ。大体あなたには仕事があるんでしょ?そっちを優先しなさい
よ。教会の神父さん?」
シエル「そんなことあなたには関係ありません。あなたという毒に遠野君を侵されるわけにはいきませんから」
二人とも殺気バチバチ、決戦状態だ。
やっぱりアルクと先輩と秋葉は相容れないのかなぁ・・・。
と、そこに割ってはいる救世主がいた。
琥珀「まあまあ、お二人とも落ち着いて。アルクェイドさんもさっき志貴さんが言われたこと、忘れちゃったんですか?」
アルク「う・・・」
みるみるうちに大人しくなるアルクェイド。
やっぱりあいつもパーティーには来たいらしい。
琥珀「シエルさんも、ケンカすると志貴さんに嫌われちゃいますよ。クリスマスぐらいは仲良くしましょう!」
琥珀さんの輝くような笑顔に先輩も気がふっとゆるくなる。
シエル「・・・そうですね。せっかくの日にケンカなんて馬鹿馬鹿しいですよね。とりあえずクリスマスが終わるまでは停戦としましょうか」
アルク「そうね。楽しいこと、台無しにしたくないから」
秋葉「私も同感ですね。年に一度なんですから」
どうやら三人とも明日が終わるまでは仲良くしてくれるということで合意したようだ。
でもおれとしてはずっと仲良くしてもらいたいんだが、それは不可能だと分かってるので妄想だけにしておく。
秋葉「それじゃあ私は友達に電話してきますね、シエル先輩とアルクェイドさんも今日は早めに帰って明日に備えておいてはいかがかしら?」
やはり明日が楽しみなんだろう、秋葉は上機嫌だった。
それは他のみんなも同じなようで、いつもまじめな翡翠ですらどこか楽しみな顔をしている。
シエル「そうですね、クリスマスだからそれなりの服装でくるとしましょうか」
琥珀「そうですね。男はタキシードで女はドレス。これがパーティーの王道ですよね!」
琥珀さんはずっとハイなままだった。
アルク「ドレスか・・・。なんか昔を思い出すちゃうな。でもあのころと違って今はずっと楽しいけどね」
アルクェイドは真祖の姫だったんだからきっと城にいたころはドレスを着てたんだろう。
ちょっと想像してみると、やはりドレスを着たアルクェイドは(しゃべらなければ)どこかの国の姫そのものじゃないだろうか。
う・・・いかんいかん、心臓がばくばくいいそうだ。
あ、でも・・・。
志貴「おれ、タキシードなんてないんだけど」
翡翠「はい、ですから持ち合わせのない方はこちらで用意させていただきます。志貴様の分は当然として、お友達のものも用意させていただきます」
うーん、こういうところはさすがに金持ち、やることが違うなあ・・・。
アルク「私は一応自分で買うから、昔着てたのは持ってきてないし」
シエル「私もお金には困ってませんから、自分で用意できます」
やっぱり規格外の人たちだよな・・・。
アルクェイドは自称金持ちだし、先輩も多分仕事で不自由しないように金はもらってるんだろう。
まあうちも相当な金持ちなんだけどな。
志貴「じゃあ今日はこれで解散、おれも有彦辺りに声かけておくかな・・・」
シエル「あ、乾君はいませんよ。旅行に行ってしまったみたいです」
志貴「ええっ?ったくあいつも暇さえあれば遊びまわってるんだな・・・。じゃあ他には・・・」
アルク「そういえばレンはどうしたの?志貴」
アルクェイドが思い出したように聞いてくる。
志貴「あいつならたぶん庭じゃないかな。寝てるか散歩でもしてるんじゃないか」
レン――元々はアルクェイドが預かっていた夢魔だ。
弱っていて、もう少しで死にかけていたのだが、おれと契約を結んだことでおれから力を供給して――今は元気にしている。
アルク「ふーん、そっか。元気ならあの子も誘ったら?来るかわかんないけど」
レンをパーティーに、か――
志貴「そうだな、それもいいかもしれない」
あいつは、あいつも楽しいことを知らないで生きてきたんだ。アルクェイドと同じで――
だから、楽しませてやりたい。
楽しいことってのは毎日作れるって教えてやりたい。
琥珀「あ、そうだ。シエルさん、よろしければ明日昼ごろから料理を作るので手伝っていただけませんか?他に人手がいないんです」
シエル「ええ、かまいませんよ。腕によりをかけちゃいます」
シエル先輩も楽しそうだ。この人もお祭り好きなとこがあるからなぁ・・・。
・・・とりあえずカレーなんか作らないかどうかが不安だが。
シエル「じゃあ私はこれで。また明日会いましょう」
アルク「じゃあ私も帰るね。ドレス用意しなくちゃ」
そういって毎度お騒がせの二人組みは帰っていった。
志貴「でもそうなるともう誘う奴がいないな・・・。そういえば二人もドレス着ちゃったりするの?」
琥珀「もちろんですっ。こんなこともあろうかと、すでに用意してあるんです」
翡翠「え――いつの間に作ったの?姉さん・・・」
今の言葉は翡翠には以外だったらしく、顔をしかめている。
琥珀「ちゃーんと冬休みに入る前に仕立てておいたの。サイズは翡翠ちゃんも私も同じだからね。デザインは違うからあとで二人で着てみようね」
翡翠「・・・私はこのままで――」
そこまで翡翠が行った瞬間。まるで戦闘時のアルクェイドのようなスピードで琥珀さんがそれをさえぎった。
琥珀「だめです!それじゃ盛り上がらないんだから!みんなおしゃれしてるのに翡翠ちゃんだけいつもどおりじゃつまらないでしょ?」
なんかいつもより真剣だ。仕事をしてるときでもこんなに真剣になってる琥珀さんは見たことがない。
その剣幕にさすがの翡翠もたじたじになって――ついに折れた。
翡翠「――わかりました。じゃあドレスを見に行きましょう。志貴様、あとでタキシードは部屋にお持ちしますね」
琥珀「はい、じゃあ志貴さんはお部屋でくつろいでてくださいねー」
二人はさっそうと消えていった。
さて、おれはおれでレンを探すという仕事がある。
といっても俺とあいつはつながってるから、どこにいるかは大体分かる。
にしてもいまだに使い魔と主人なんていう実感がいまいちわかない。
っていうかだんだん俺って人間じゃなくなってるような・・・(体の一部もネロの使い魔で補ってるし・・・)
まあそんなことは綺麗さっぱり忘れてレンがいる中庭に足を運ぶ。
まだ日がさしている午前中はレンを見つけやすい。
あいつは黒猫だから夜だとまったく分からないのだ。
と、そんなことを考えているうちに丸まっているレンを見つける。
志貴「レン、おきてるか?」
穏やかに声をかけて、寝ているらしいレンを起こす。
レンはゆっくり目を開けて俺の姿を認めたとたん、人の姿になる。
でもまだ眠たいのかぽーっとして目をこすっている。
志貴「レン、明日何の日か知ってるか?」
レン「・・・・・・?」
わからない、といった風な顔だ。
おそらくこいつが分からないのはクリスマスじゃなくて今日の日にちなんじゃないだろうか?
冬だということは分かっているだろうが何月の何日ということは分かってないんだろう。
志貴「明日はな、クリスマスだぞ。知ってるだろ?クリスマス」
レン「・・・・・・?」
とりあえずクリスマスは分かったが、今度は俺が何を言いたいか分からないらしい。
こいつもやっぱり知識でしかクリスマスというものを知らないんだろう。
志貴「クリスマスにはパーティーをするんだ。仲間内みんなで集まって。だからお前も参加させてやろうと思って誘いに来たんだ」
レン「・・・・・」
レンは目をぱちくりさせている。
だがすぐに嬉しそうな雰囲気でうなずいた。
それは、俺の使い魔だからとかそんな理由じゃなく――
ただ自分が、その輪の中に入りたくて。
そんな顔だった。
志貴「じゃあこれから街に行こう。ドレスをな、着て参加するんだ。だからそのためのドレスを仕立てに行こう」
こいつはいつも黒い魔女っ子みたいな服を着てるが、さすがにこれでパーティーに出るのはきびしい。
年に一度なんだからおしゃれをさせてみたいと思ったりした。
レン「・・・・」
レンはドレスと聞いてまた驚いているようだ。
そりゃあ元が猫なんだから仕方ないだろう。
志貴「レンならドレスも似合うぞ、きっと。秋葉に話してくるから門のところで待っててくれ」
そう言い残して急ぎ足で屋敷に向かう。
今には秋葉の姿はなかったのでおそらく部屋だろう。
こんこん、とノックをしようとした時、中から話し声が聞こえた。
おそらく電話で友達を誘っているんだろう。
電話が終わるまでしばらくドアの外で待ってみる。
・・・しばらくして話し終わったようなので、今度こそノックをする。
秋葉「はい?」
志貴「おれだけど、ちょっといいかな」
秋葉「あ、兄さん。どうぞ入ってください」
許可をもらったところでドアを開けてお邪魔する。
秋葉「あの、もしかして待ってらっしゃったんですか」
志貴「ああ、話し中だったみたいだからさ。でもそんなに待ってないから」
秋葉「そうですか、すみませんでした。ちょうど明日の誘いをしてたところだったので――それで、どうしたんですか?」
志貴「うん、実はレンにもドレスを用意してやろうと思ってさ。だから当主様に金銭面でのお願いをな」
レンのことは秋葉たちにも話してある。
普通の人間なら使い魔だのという話は信じないだろうが、秋葉も翡翠も琥珀さんもそういった手の話は慣れているので、少し驚きながらも疑うことはしなかった。
秋葉は文句を言うかと思ったが、アルクェイドや先輩のように自分の邪魔にはならないと考えたのか。まあいいでしょう、と快く納得してくれた。
秋葉「そうでしたか、確かに彼女がいつも着ている服では都合が悪いですからね。お金は琥珀が管理してますから、ちょっと待ってくださいね。今呼び
ますから」
そう言って内線で琥珀さんを呼び出す。
しばらくしてノックの音、と同時に琥珀さんが入ってくる。
琥珀「何でしょうか?あれ、志貴さんもいらしたんですか」
秋葉「ええ、兄さんがレンのドレスを買うお金がほしいというので呼んだの」
琥珀「あ、それはいい考えですね。じゃあ私も一緒にいったほうがいいですね」
志貴「うん、お願いします。・・・そういえば秋葉はドレスなんて持ってるのか?」
秋葉「ええ、翡翠が言ってたでしょう?昨年までもパーティーはあったって。そのときのものがありますから」
志貴「あ、そっか。じゃあ準備万端なんだな。・・・じゃあおれもぱぱっとすましてくるかな」
琥珀「ええ、いきましょう。志貴さん」
秋葉「あ、琥珀。ついでにパーティーの飾りつけの道具もお願いできる?クラッカーなんかもいりそうだし・・・」
琥珀「はい、じゃあそれも買ってきますね。あとシャンパンなんかもいりますよね?」
秋葉「そうね、他にもなにかあったら注文しておいて」
琥珀「はい、それではいきましょうか」