初めての冬休み〜雪の日1〜


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1: 混沌DAI (2003/08/05 00:14:00)[daiching19 at msn.com]

その日は夢から始まった。
暗い眩い空。
同じような周りの景色。
ただひとつ、
月だけは眠りから覚めたようにこちらを見つめていた。
その中で飛び交う人影。
騒がしい喧騒。
まるでパレードのよう。
それでも笑ってる人は一人もいない。
みんな悲しみと絶望に包まれていた。
パレードが終わって。
みんな静かになって。
僕が最後に見たのは、
片目を瞑った大きな鬼だった。

志貴「・・・!!」
いやな感覚に襲われて目を覚ます。
こんな朝を迎えたのはかつてシキとつながっていた頃以来だ。
背中が冷たい。ずいぶん汗をかいているようだ。
今は冬休み。
体は季節相当に冷えているが頭の中は熱を持っていた。
夢――
どこかで見た景色。
かつて見た景色?
何も分からなかった。
ただ――悲しいと思った。
何故かすらも分からない感情に支配されているようだ。
ひどく気分が悪い――
そこへ、いつもながらの救いの手が差し出されたようだ。
毎朝聞く控えめなノックの音。
その後にやはり控えめに、ゆっくりとドアが開き、翡翠が入ってくる。
翡翠「おはようございます。・・・もうお目覚めでいらしたんですね」
志貴「ああ、なんだか変な夢を見たせいかな。目が覚めたみたいだ」
翡翠「―少し汗をおかきになっているようですが飲み物を持ってまいりましょうか?」
志貴「ああ、大丈夫。そんなに心配することじゃないんだ。・・・でもありがとう翡翠。前もそうだったけどいやな夢を見ても翡翠の声を聞くといつもどおり
    の気分になれるんだ。感謝してるよ」
そういうと翡翠は少し顔を赤らめて、
翡翠「・・・はい、お役に立てて嬉しいです」
前の事件――ロアとの戦いから一ヶ月以上たった。
アルクェイドはロアが完全に消滅したのですることがないらしく、暇を見てはこの家に来たり、通学路で待ち伏せたりしてる。
先輩はまだ仕事があるようで生き残った死者を毎夜探しては滅ぼしている。あと半年ぐらいはかかるらしい。
秋葉もとりあえず人を襲ったりはしなくなった。俺の命を半分奪っていたロア―シキが死んだおかげで俺は普通の体になり、俺に命を半分分け与えていた秋葉も元通りになり、遠野の血を抑えられるようになったらしい。
琥珀さんももう前みたいな作り物の人生――「翡翠」を演じることはなくなった。
翡翠は相変わらずまじめだが、琥珀さんとも仲良くやっている。
こんな生活もだんだん慣れてきて、今では前以上に楽しいと思う。
いつもの冬休みは、有間の方にいたころは有彦の家に転がり込んでいたんだが・・・。
今年はやっぱり八年ぶりなんだからこの家で過ごすことにした。
・・・まあ例え俺がいやだといっても秋葉の逆鱗に触れるだけだし。
明日はクリスマスか・・・。
志貴「翡翠、秋葉たちは居間にいるのかな」
翡翠「はい、朝食を済ませておくつろぎになっています」
志貴「そっか、じゃあ翡翠もいっててくれ。みんなで明日のクリスマスのことでも話し合おう」
翡翠「――はい。それでは失礼します」
出て行くときの翡翠の顔は子供のころ俺と遊んでいたころに似ていて――本当に幸せそうに見えた。

手早く着替えて一階に降りて三人と合流する。
志貴「ハイ、ぐっもーにん、アキハ」
秋葉「ぶっ――――」
微妙なイントネーションと輝くような笑顔でくつろいでいる秋葉に挨拶をする。
当の秋葉はいきなりのショックで咳き込んでいる。
秋葉「ごほっ!ごほ!兄さん!朝からふざけるのはやめてください、しかも人が美味しい紅茶をいただいているときに!」
志貴「ふざけてなんかないぞ。朝の挨拶は大事なコミュニケーションだろ?」
秋葉「兄さんはコミュニケーションのやり方に問題があるんです。ちゃんと日本人らしい挨拶をしたらどうですっ」
突然の不意打ちにお嬢様はいたくご立腹の様子だ。
見かねて琥珀さんがなだめにかかる。
琥珀「まあ、いいじゃないですか。志貴さんも秋葉様と仲良くしたいんですよ」
秋葉「う――・・・まあそれは嬉しいんだけどもう少し普通にしてほしいんです」
急にしおらしくなる秋葉。こいつも感情がころころ変わっていぢめるには最高の妹だ。
秋葉「兄さん。何かおっしゃいましたか?」
志貴「いえ、何も?」
危ない危ない・・・。こういうときの秋葉は鋭いからな。
志貴「おほん。とりあえず飯食ってくる。その後は暇だろ?秋葉は」
秋葉「ええ、明日のことを話すんでしょう?時間はちゃんとあけてあります」
志貴「さすがわが妹。じゃあぱっぱと食ってくるから」
言って食堂へと移る。
四人で迎える初めての冬休み。
それは俺達の最初の大きな、大事な思い出の時間にしたかった。
秋葉も、翡翠も、琥珀さんも――みんな俺を待っていた。
おれは昔のことを半分以上忘れていたが、それでも待っていてくれた。
だから、四人でずっと過ごせる時間を最高のものにしたかった。
まずはクリスマスのパーティーをして、次は正月。三が日の後は旅行に行くことも決まってる。
楽しい冬休みになりそうだ。


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